Bravo!

Rachel

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28. バイオリンの工房

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 エドガーからの返事を待っている間、テオとマルグレーテは、この町で穏やかに平和に暮らしていた。
 マリア・クラウゼンはおおらかな性格で、テオとマルグレーテはすぐに気さくな彼女と打ち解けた。テオが無愛想でもマリアは気を悪くすることはなく、彼が演奏すればマルグレーテと共に歓声を上げて称賛した。
 しかし、クラウゼン邸にやってくる町の子ども達はそうではなかった。

 パン屋の男が言った通り、マリア・クラウゼンは、週に一度町の子ども達を自分の屋敷に集めて、音楽の基礎や歌を教えていた。

「もし本気でやりたいと思う子がいたら、推薦してあげられるでしょう? 引退した私にできることは、大勢の人にたくさんのチャンスを作ることだと思って」

 理由を尋ねたマルグレーテとテオに、マリアはそう答えて微笑んだ。

「よかったら見にいらっしゃい。マルグレーテはきっと向いているし、テオも、人に教えるのが楽しいって思うかもしれないわ」

 言われた通り、一階の小さなホールを覗いてみると、そこには大きなピアノと、文字を書ける黒板があった。ホールの真ん中ではマリアが子ども達に囲まれて楽しそうにしている。笑い声やマリアを慕う子ども達の声が聞こえた。

「マリアさんは叔父様と同じことをしようと思っているのかもしれないわね」

 マルグレーテがそう呟いたのに、テオはちらと振り向いた。

「大勢の人にチャンスをって、叔父様がいつも言っていたことだもの……無意識かもしれないけど」

 テオは無言のままで子ども達に囲まれたマリアを見た。
 確かにエドガーはいつもそんなようなことを言っていた。音楽愛好家だからなどと言っていたが、解散寸前だったあのアラベラ達の楽団が、彼のおかげで持ち直すことができたことをよく覚えている。自分に対してもそうだ、彼のおかげでテオはシュタンマイアーと知り合えたし、劇場の舞台にも立つという経験ができた。
 そういうチャンスを、マリアはこの無名の子ども達に与えているということだろうか、その技術があるから。
 ……俺が子どもにバイオリンを教える? テオは一瞬だけ想像しようとして眉をしかめ、首を振った。想像したくもない。

 その時、マリアの周りにいた子どものうち一人の少年が、ホールの入り口にいるマルグレーテとテオの存在に気づいた。

「だれだ、おまえら!」

 少年が高い声を上げると、子ども達がわらわらと駆け寄ってきたので、隠れていたマルグレーテとテオはホールに姿を現した。
 マリアは微笑みながら二人を紹介した。

「ふふ、今私の家に住んでもらってるマルグレーテとテオよ」

「こんにちは。授業の邪魔をしてごめんなさいね。ただ見ていただけなの」

 マルグレーテが申し訳なさそうに言った横で、テオは無表情のまま子ども達を見つめるだけだったが、中から一人の少年が声を上げた。

「あれえ! おまえ、ひろばでバイオリンひいてたやつ」

 そう言われて、テオは肩をぎくりとさせた。



 マルグレーテとテオは、クレモナの町に住み始めてから二人で何度か散歩に出かけた。そのついでに広場でテオがバイオリンを弾くこともあったのだが、思ったより多くの人が集まった。
 きっとその中に、この少年もいたのだろう。



「え、このおにいちゃん、バイオリンひけるの」

「ひいてひいて!」

「いいでしょ、ねえ」

 少年の言葉に、次々と子ども達の声が続き、テオは嫌そうに顔をしかめたが、子ども達はあっという間にテオを取り囲んでしまった。彼らはひたすらにテオの袖を引っ張ったり彼の手や腕に触れようとしてくる。
 マルグレーテはその様子ににやっと笑うと、すっとその場を抜けて二階に上がった。テオの部屋へ入るとバイオリンのケースを抱える。テオはいつだってこれが必要ね。

 マルグレーテが再びホールに戻ると、テオは子ども達にこう言っていた。

「……いいか、たやすく弾いてもらえるなんて思うなよ。俺はバイオリンを弾いて、飯を食ってるんだ。音楽は確かに簡単に作れるが、聞くにはそれなりの対価がいる」

 なんだか難しいことを言っている。マルグレーテは、口を開けて青年を見上げている子ども達の顔にふふっと笑みを浮かべた。
 テオは続けた。

「バイオリンは弾いてやってもいいが、そのかわりお前達は俺に何かをくれなきゃならない。音楽で食っていくっていうのはそういうことだ」

 テオなりの音楽教育だったらしい。子ども達はぽかんとしたままだったが、ある少女が言った。

「あたしたち、うたえるわ。そのうたをきいてよ」

 少女がそう言ったのに、子ども達は同調した。

「そうだよ!」

「おれたちだってマリア先生に教えてもらったからうまいんだぜ」

「うたおううたおう」

「そしたら、バイオリンきかせてよね」

「先生、ピアノひいて!」

 子ども達はすぐにきちんと2列に並ぶと「ご、ろく、しち、はち」と言う合図で合唱を始めた。
 マリアの弾くピアノの伴奏もついてくる。おそらく北イタリアの民謡だろう。マルグレーテは聞き覚えがあった。確かこれはミラノからクレマに向かっていた時の馬車で、乗客が歌っていた曲だわ。
 よく練習しているのか、彼らの息はぴったり合っていた。マリアが整えたのであろう美しい調和のさなかに、時々リズムや音程の外れた音が入り混じって聞こえたが、それがとても微笑ましく、マルグレーテは自然と笑顔になった。テオの方は腰に手を当てて、無表情でそれを聞いていた。

 合唱が終わると、マルグレーテは「素敵よ!」と拍手と歓声を送ったが、テオは表情を変えずに言った。

「まだまだだな。俺のバイオリンを聞きたかったら、もっと上手になれ」

 そう言うと、テオは踵を返して部屋に戻ろうとした。

「「えぇーーっ!」」

 すかさず子ども達は青年に駆け寄って、テオの行き先を塞ぐとぶうぶう文句を言った。

「なんだよ、ケチ!」

「ひいてくれたっていいじゃんか」

「一生けんめいうたったのに」

 テオは眉を寄せて子ども達を避けようとしたが、わらわらと集まる彼らは決して道を開けようとはしない。しまいにはこんなことまで言い出した。

「ほんとはバイオリン、へたなんじゃないの」

「そうだそうだ」

「大したことないからひかないんだ」

 言われてテオはむっとした表情を浮かべた。彼のプライドに触ったようだ。マルグレーテは再びふふっと笑うと、テオに歩み寄り持ってきた楽器ケースを差し出した。

「弾いてあげて。さっきの歌、素晴らしかったじゃない。あなたも七つの時は、ジプシー仲間の素晴らしいバイオリンを聞いて育ったのでしょう」

 テオは口をへの字に曲げてマルグレーテを見た。慈愛のこもったような優しい目をしている。なんだよそんな顔して。テオは急に彼女が教会に佇む聖像のように見えたような気がした。
 テオはため息を吐いた。ジプシー達のことを言われては断れない。「わかったよ」と小さく呟くように言うと、テオはケースを受け取った。途端に子ども達から喜びの声が上がった。
 ケースを開け、楽器を取り出すと調弦し始める。

「あれ、ねえねえ、なにやってるの」

「まだひかないの」

「おれ、みたことある、これやらないとちゃんと音が出ないんだぜ」

「へえ、すごおい」

 周りでわあわあと騒がれながら調弦を終えたテオは再びため息を吐いたが、すぐに真面目な表情に戻ると、楽器を顎に挟み弓を構えた。

 流れ出した音楽は、先ほど子ども達が歌っていた民謡だった。その音色は子ども達がはっとするほど美しく、マリアも目を細めてじっと聴いた。マルグレーテがうっとりするような飾りも付け足されている。これは……ただの民謡が合唱曲になったのも素晴らしかったけど、テオが弾くと、まるで変奏した楽譜がその場で生み出されていくようだわ。
 しかしマルグレーテから見て、テオの表情はいつもの無表情というよりは、今日はどこかもどかしげに見えた。

 演奏を終えると、子ども達は奇声に似た歓声を上げた。「すごいすごい!」やら「かっこいいー!」と褒め称えるものであったが、テオはあまり嬉しそうではなかった。

「はいはーい、みんな! そろそろお家に帰る時間ですよ。次回はまたいつもの時間で、さっき配った楽譜を……」

 マリアが騒いでいた子ども達の注目を集めて話し出すと、テオはようやく彼らから解放された。その途端に彼はバイオリンを持ったまま、下に置いてあるケースを拾い、すぐにホールを出ていってしまったので、マルグレーテは慌てて後を追いかけた。


 テオは自室に戻ると、ケースをテーブルに置き、すぐにバイオリンを弾き始めた。先ほどの民謡だ。自分で編み出した低音から高音になる飾りを、何度も何度も弾き直している。表情は苦悶に満ちているので、一目で弾きにくいのだとマルグレーテにもわかったが、話しかけることはなく、ただただ部屋の隅に佇んで彼を見守った。
 テオはしばらくそのフレーズを弾き続けていたが、やがて息を吐くと疲労したようにゆっくり楽器を下ろした。そして、マルグレーテが部屋の隅でこちらを見つめているのに気づいた。

「……さっきの演奏、どう思った」

 テオが珍しく感想を尋ねてきたので、マルグレーテは少し目を丸くしてから答えた。

「とっても良かったわよ。見事な即興で、みんな目を丸くしていたもの。飾りは私の好みに合わせてくれていたでしょう? 気に入ったわ」

 マルグレーテの言葉に、テオは苛立っていたような表情をふっと和らげた。

「わかってくれたのか」

「もちろんよ! 思わずうっとりしちゃった……でも、あなたはなんだか、弾きにくそうにしていたわね」

 テオは苦笑いを浮かべ、椅子にどっかり座った。

「低音から一気に上がる時になめらかにいかない。前からそうなんだ。いくら練習してもテンポが少し遅れる……それが嫌なんだ」

 弦に手を触れながらテオはしかめ面の表情を浮かべた。
 マルグレーテは少し考えてから言った。

「いくら練習してもってことは、楽器の限界じゃないかしら。良いバイオリンなら弾けるのかも」

 テオは肩をすくめた。

「さあな。これ以外の楽器は、シュタンマイアー先生のしか知らない」

「そうよねえ」

 マルグレーテは再び考えこんだが、突然思いついたように「そうだわっ!」と笑みを浮かべると、テオに駆け寄った。

「工房よ、テオ! ミラノの劇場オーナーが言っていたじゃない、この町にはバイオリンの工房があるって。行ってみましょう、良いバイオリンがあるかもしれないわ」

 マルグレーテの言葉に、テオは嫌そうに眉をしかめた。

「工房……?」





 昼下がりの午後、マルグレーテとテオは、一軒のバイオリン工房の前にやってきていた。
 扉を開けると、ベルがカランカランと鳴った。入った途端に、木を削ったような匂いがふわあっとマルグレーテとテオを包み込む。
 工房の中は薄暗く、作りかけや完成品のバイオリンが、壁やら柱やらにズラリと並んでかけられていた。

「まあ、こんなにたくさんのバイオリン、初めて見たわ!」

 マルグレーテは嬉しそうに声を上げた。無理やり連れてこられたテオは口を尖らせていたが、店内の様子に少し驚き、明らかに興味を抱いている目をしていた。
 その時、奥の暗がりでガタガタと音がしたかと思うと、物陰から人が現れた。

「あれ、いらっしゃい」

 店内の明るい方へやってきたその人物は、マルグレーテやテオと同じか、あるいはやや年嵩の若い男だった。彼は物腰柔らかにへらっと笑った。

「お客さんかな? 良いバイオリンがあるよ」

 何も答えないテオの代わりに、マルグレーテがにこやかに言った。

「こんにちは。彼がバイオリニストなの。どんなものがあるか見せていただけるかしら」

 そう言ったマルグレーテに、テオは眉をしかめて「マルグレーテ」と不満げに言ったが、彼女は「いいじゃない、見せてもらうだけよ。無理に買うつもりはないわ」と涼しい顔で肩をすくめた。
 それを聞いて、工房の男は笑い声を上げた。

「もちろんだ。バイオリンに慣れているんなら……そうだな、お客さんの気を引くために、ちょっと珍しいものを見せよう。これ、どうかな」

 青年は時計の下にかけているニスの塗られたバイオリンを手に取ると、テオの方へ差し出した。
 テオは不機嫌そうな顔を浮かべていたが、目の前にあまり見ないデザインの楽器を差し出され、弾いてみたいという気持ちが勝ち、結局受け取った。
 なるほど、手触りも良いし軽さもちょうどいい。それに……確かにこれは、この辺りじゃ見かけない代物だな。
 テオは興味深そうにふうんと手に持ったバイオリンを眺めると、弦を調節して、顎に楽器を挟み、弓を構えた。

 美しい音が流れる。いくつか音を出すと、テオは珍しく陽気な曲を奏で始めた。マルグレーテの聞いたことのない、どこかの国の民謡らしい曲だ。テオは相変わらずにこりともしなかったが、情熱的な、それでいて快活で速いスピードのメロディーを軽やかに弾いてみせた。
 すごい、すごいわ、彼はこんな曲も弾けるのね!
 曲が終わると、マルグレーテは興奮したように頬を染めて、大きな拍手を送った。

「ブラボー! とっても楽しい音楽だわ! 初めて聞いたけど、北方の曲?」

 テオは頷いた。

「アイルランドだ。前に一度、連中と共演したことがある。このバイオリンの音が、連中の音と似てたから弾いてみた。けど……俺の楽器より高音が出しづらい」

 テオはそう言って、バイオリンを工房の男に返した。
 青年は、テオの演奏を聴いてからずっと目を見張らせたままだったが、楽器を差し出されたのに気づくと、それを受け取った。

「……君、すごいな。技術もだけど、知識も豊富じゃないか。確かにその楽器は、向こうの国で言うフィドルをモデルにしたものだ」

 やっぱりな。テオは壁にかけられた他のバイオリンを眺めた。

「こんなにいろんなモデルがあるってことは……あんた、あちこち旅してたのか?」

 テオの言葉に、マルグレーテが「えっ」と驚いたように男を見ると、彼は最初の時のようにへらっと笑った。

「そうさ。ただ、僕は君のようにあんまりうまく弾けない。だけどバイオリンの構造はよく分かってるから、修理をしてあちこちを回ってたよ」

「まあ、そうだったのね……なぜこの町に?」

 マルグレーテが尋ねると、青年は少し恥ずかしそうに頭をかいた。

「その……ここは昔、バイオリンが製作されたことで有名な地でね、その知名度の高いところだったら客も来るかなって思って……」

 テオは眉を寄せた。

「こんな田舎より、都会に出た方が客は多いはずだ。ミラノに行けばいい。修理屋を求めてる演奏家だらけだ」

「そ、それは、だめなんだ」

 青年は焦ったように首を振ると、迷った顔で言葉を選びながら言った。

「その、と、都会はあんまり得意じゃなくって……。人が大勢いるところは、そう、そのほ、発作が起きるんだ……」

「……あんた、難儀だな」

 テオの同情的な言葉に、男は再びへらっと笑った。

「ま、まあね。だからここに来た。ここならそんなに賑やかじゃないし、弦楽器奏者しか来ないだろうって思ってさ……ねえ、それより今度はこれ! これを弾いてみてくれよ。僕の自信作だ」

 男は机の上に置いてある質の良さそうなバイオリンを手に取って、テオに差し出した。ニスがピカピカ光っている。

「これならさっきより弾きやすいはずだ。君が好きなように弾いてみてくれ」

 熱心にそう言われて、テオは無言でそれを受け取り、弦を確かめる。それから再び二、三音出して、曲を弾き始めた。

 今度はマルグレーテも知っている、ウィーンの演奏会で聞いたことのある短調の曲だったが、今までよりもずっと柔らかさを感じる音だった。尖った針のような鋭い音が、とても繊細に聞こえた。
 テオは、そのバイオリンと非常に良い相性のようだった。先ほどよりずっと弾きやすそうにしており、即興の飾りが豪華だった。低音から高音までを、テンポのズレもなく弾いている。

 弾き終わってもテオは楽器を構えたままで、いくつかの音を出しながら言った。

「すごいな、なんでこんなに音が出しやすいんだ……この音からこの音に飛ぶ時がこんなにスムーズにいくなんて……何が違う」

 テオの呟きに、男は得意そうな表情で手を組みながら答えた。

「弦と弓の相性を考えてある。それに本体自体の厚みと空洞、それぞれの板の厚みも研究してあるんだ。もちろん素材にもこだわってる」

「……」

 テオは一瞬感心したような顔つきで男を見てから、すぐにバイオリンに視線を戻した。そうして再び音をいくつか出して、やっと楽器を下ろすと、職人の手元に返した。

「……良い楽器だ。きっと高く売れる」

 テオがそう言ったのに、マルグレーテはすかさず身を乗り出して、青年に「ねえそれ、おいくらかしら」と尋ねた。テオは再び「マルグレーテ」と諌めるような声で言ったが、マルグレーテは「いいじゃない、聞くだけよ」と例の涼しい顔で答える。
 男はそれにまた笑い声を上げて言った。

「お気に召してくれたようで嬉しいよ。そうだな……このバイオリンは君と相性がばっちりらしいから、ぜひ譲ろう。お金はなしでね……その代わり、バイオリンのうまい君にぜひ頼みがある。ちょっと話せないか?」

 テオとマルグレーテは驚いて顔を見合わせた。





 工房の男は、二人を奥の客間に案内してくれた。客間と言っても、ニスの剥がれたような古ぼけた机と、大きさも色も形もそれぞれ違う椅子が並んで置いてあるだけだ。そして工房と同じような、木を削った匂いが漂っていた。
 男は「こんなものしかなくて」と恥ずかしそうにひびの入ったカップを二つ用意して、コーヒーを入れてくれた。

「自己紹介をさせてくれ。僕はカルロ、カルロ・バラティエ。二年前からここで工房をやってる」

 マルグレーテはコーヒーを一口飲んでから、彼の名前におやと思った。

「もしかして、フランス出身?」

 マルグレーテの言葉に、カルロは笑みを浮かべた。

「そうだよ。ほんとうならシャルル・バラティエ。でもカルロでいい。お嬢さんは? 君もイタリア人じゃないだろう」

「ええ、私はマルグレーテ。ウィーン出身よ」

「俺はテオだ。今はこの町に留まってるけど、ずっと旅をして生きてる」

 マルグレーテに続いてテオがそう言うと、カルロは「えっそうなの」と少しがっかりした表情になった。

「なんだ、ずっとこの町にいるわけじゃないのか……あとどれくらいで、どこへ向かうのか決まってる?」

 急に踏み込んだ質問に、テオは不快そうに眉を寄せた。

「決まってない。あんたに関係ないだろ」

 カルロはすまなそうに「ごめんごめん」と言った。

「もしこの辺りに住んでるんなら、工房の宣伝として、町で弾いてもらおうかと思ったんだ。君はものすごく高度な技術を持ってるから、絶対に人を惹きつけるだろ。呼び込みになると思って……」

 マルグレーテはふふっと笑って言った。

「だめよ、カルロ。テオのバイオリンの力はすごいのよ。呼び込みどころか大勢の客が押し寄せてしまうから、あなたは発作を起こしてしまうわよ」

「え? 発作?」

 カルロは訝しげな表情を浮かべた。マルグレーテが「あら」と目を瞬かせた。

「だってさっき、人が大勢いると発作が出るって……」

 マルグレーテの言葉に、カルロははっと思い出したようで、ごまかすように声を上げた。

「……あ、ああっ! ほ、発作ね! そ、そうか、それは……困るなあ」

 歯切れの悪い返事に、マルグレーテは首を傾げただけだったが、テオはすっと目を細めた。

「あんた、仕事を持ちかける話をしてるのに、嘘つくなよ……興ざめだ、帰る」

「「えっ!?」」

 カルロとマルグレーテが同時に驚きの声をあげた。
 テオはもう終わりだというように、すっくと立ち上がった。

「嘘を並べる人間に用はない。行くぞ、マルグレーテ」

「え、ちょ、ちょっと、テオ!」

 立ち上がったマルグレーテが呼び止める声も虚しく、テオは客間から工房の出口の方へと行ってしまった。
 マルグレーテは「もう、テオったら……!」と不満げな声を漏らしてから、カルロに向き直った。

「ごめんなさいね。きっとまた伺います、あのバイオリン、他の誰にも売らないでおいてくれたら嬉しいのだけど……コーヒーごちそうさま!」

 マルグレーテは、眉尻を下げて申し訳なさそうにしているカルロにそう言うと、慌ててテオの後を追いかけた。




 テオは、工房を出たすぐ目の前のかしの木の下で、マルグレーテを待ってくれていた。

「ちょっと、テオ! 一体どうしたっていうのよ!」

 テオはマルグレーテが建物から出てきたのを確認すると、無表情で答えながら歩き出す。

「どうしたもこうしたもあるか。急にずけずけと俺のことを聞いてきたかと思ったら、騙そうとしてたんだぞ。なにが発作だ。関わってられるか」

 憤慨した様子のテオに、マルグレーテは目を丸くしたが、すぐにテオの隣に駆け寄った。だがテオの歩きは速く、なかなか追いつけない。

「でも……私が言っても説得力はないけど……あの人は悪い人には見えなかったわ。バイオリン製作の腕だってすごかったじゃない」

「悪い人間じゃなくても、技術があっても、嘘つきと関わるとろくなことがない。願いをきいてほしいんなら、正々堂々、自分の正体を明かすのが常識だ」

 テオが突き放すようにそう言ったので、マルグレーテはむっと口をへの字に曲げて、ずんずん前を歩くテオの手を取ると、無理やり自分の方へ振り向かせた。
 珍しく強引に引き止める彼女に、テオは驚いたように立ち止まった。

「ねえ、テオ」

マルグレーテは言った。

「それなら私も嘘つきよ。私だって彼にさっき、シュミットだって名乗らなかったわ。元伯爵令嬢だってことを言わなかった。旅の道中でもそう。仲良しのキアラにも言っていないわ。なぜだと思う?」

 テオはぎゅっと口を結んだだけで答えない。マルグレーテは続けた。

「伯爵令嬢であると知られると危険だからよ。もし本名を名乗っていたら、帝国の憲兵の耳に入ってウィーンに送り返されたかもしれないわ……誰にだって、人には言えない事情があるの。人を傷つける嘘は私だって嫌いよ、でも正々堂々と生きていたら私は……」

 マルグレーテはわかってほしいというようにテオを見上げた。テオはその目を無表情で見下ろしていたが、やがて眉尻を下げるとふっと目を逸らした。

「……悪かった。君を嘘つき呼ばわりするつもりはなかった」

 そう言ったテオの顔からは怒りが消えていたので、マルグレーテはほっとした。

「工房にはまた機会があれば行ってみましょう。ちゃんと話してくれるかもしれないわ」

 テオは少し考えていたが、「そうだな」と頷いた。





 夕食を終え、メイドのロゼッタがお皿を全部片付けてしまった後、マルグレーテは工房でのことをマリア・クラウゼンに話した。
 彼女は頬杖をつきながらそれをきいていたが、「フランス出身って言ったわね……」と少し考えてから自信たっぷりに言った。

「わかったわ、彼はパリの音楽院の学生だったのよ」

「パリの……音楽院?」

 マルグレーテが問い返すと、マリアは深く頷いた。

「ええ。あそこじゃ演奏以外にも、弦楽器の製作を勉強できるの。彼もそこで勉強していたんだわ。きっとそうよ」

「弦楽器の製作を勉強……? そんないいとこに行ってたのか」

 テオが鼻をならしたのに、マリアは意味ありげに微笑んだ。

「そんなに“いいとこ”でもないと思うわ。私も通ったことはないからよく知らないけど、学校には生まれだとか階層だとか、そういう区分もあるんでしょうよ。エリートもいれば、貧しい家庭に生まれてやっと入学できるっていう人間だっているはずよ」

 マルグレーテは目を細めた。確かに、そんな環境では居心地が良いとは言えないわね。
 マリアは想像しながら言った。

「きっとそれが嫌になって抜け出したのよ。でも学院に入れられるくらい親の期待を背負っていたんだから、まっすぐ家にも帰れなくって、それで旅をしたんだわ」

 マリアの話は十分に考えられるとマルグレーテは頷いた。そうだとしたら、今父親から逃れている自分と、カルロは似たような立場なのではないか。

 マリアは肩をすくめた。

「まあ推測で話をしていても仕方ないわ。彼とはまた改めてちゃんと話をするのでしょう。彼の話はここまでにして……ねえ、あなた達、演奏会は好きだったわね?」

 話が急に変わり、マルグレーテとテオはきょとんとした顔になった。

「ええ……もちろん。ウィーンでも演奏会はよく行ったわ」

「実は明日の夜、この町の劇場でオペラの公演があるのだけど、その招待券をもらっているの。一緒に行かない? ボックス席だから三人座れるわ」

 マリアがそう言ったのに、マルグレーテの顔には、みるみるうちに満面の笑みが広がった。

「まあ嬉しいっ! オペラをボックス席でみるなんて、もう一生ないと思っていたの!」

 マルグレーテは頬に手を当てて、感激した様子だった。もう貴族の身分は捨てた身なのだ。お金だって今は減っていくばかりで、劇場に出向くことはもう夢の話だと思っていた。
 しかしその一方で、テオはあまり関心がなさそうにしていた。

「……ボックス席でみようと、桟敷席でみようと、音楽なんだからどこでも一緒だろ。俺はもう劇場には興味ない」

 マルグレーテは「えっ」と悲鳴のような声を上げてからテオに懇願するように言った。

「ねえテオ、お願い! 一緒に行きましょう、一緒に来てくれたら、私の持っているドレスも首飾りも全部お金に換えて、あなたにあの工房のバイオリンを買ってあげるから! ね、お願いよ」

「い、いや……そんな、だって、俺は別にオペラなんか……」

 テオは肩をすくめて、テーブルの向かいの必死なマルグレーテを見た。オペラをボックス席でみることがそんなに大事なことなんだろうか。別に俺抜きでも行けばいいのに。

「オペラなんか、ですって?」

と、その時、マリアの方から怒りの声が響いた。片眉を上げた鋭い目を向けられ、テオは心の中でしまったと思った。

「言ってくれるじゃないの。なあに、歌よりも楽器の方が優れてるとでも言うのかしら?」

 微笑んで言うマリアの目は笑っていなかった。マルグレーテはそれを見て肩をびくりとさせた。この笑い方、ベルタお姉様が怒った時と似ているわ。
 テオもその静かな怒りを感じ取ったのか、「ええと」と言った後、弁解がましく言った。

「そんなつもりは……その、マルグレーテだって行きたい時に行きたい人間と行けばいいって思ったから、その、俺は別に関係ないかなって……」

 しかし、マリアは笑みを浮かべたままテオをまっすぐにじっと見つめた。先ほどよりもっと鋭い目になっている。それからすぐにマルグレーテに次のように言った。

「……ねえマルグレーテ。ほんとうに申し訳ないんだけど、少し席を外してくれるかしら。私は彼と話があるの」

「え……」

 そう言ったのはテオだったが、マリアは戸惑いの表情を浮かべたマルグレーテに優しげな笑みを向けて言った。

「大丈夫よ、とって食ったりしないから。私たちも、すぐに二階へ上がるわ」

 マリアの言い方は諭すようで、やはり長姉に似ているとマルグレーテは思った。「え、ええ、わかったわ……おやすみなさい」と言うと、マルグレーテは席を立ち、食堂を出て、二階へ上がっていった。
 その後ろ姿を見届けると、マリアはテオに顔を戻した。もう笑顔はすっかり消え去っていた。普段にこにこしている人間が無表情になると、こんなに迫力があるのかとテオは心の中で呟いた。

「さて、テオ」

 マリアは厳しい声で言った。

「私も人に説教するのが好きなわけじゃないけどーーでも言わせてもらうわ。あなた、自分がどれだけ恵まれているのか、わかっているの?」

「……恵まれてる?」

 テオはマリアの問いの意味がわからず、眉を寄せた。初めて言われた言葉だ。自分はいつも“恵まれていない”方の人間だ。
 マリアは言った。

「生まれのことを言っているんじゃないわ……マルグレーテのことよ」

 マルグレーテ? テオはきょとんとした表情になった。マリアは厳しい口調のまま言った。

「あの子にどれだけ愛されているのかわかってる? 確かに話を聞く限り、彼女にはあなたを傷つけてしまったという負い目があるかもしれない。でもそれだけの理由で、故郷から離れた外国まで一人の男を探して、追いかけてくるなんてこと、普通はできないわ。貴族として生まれ育ったのに、自分の愛する家族と二度と会えないことも、生活が一変することも、全部覚悟して、あなたのそばにいようと一生懸命。マルグレーテがどんな思いをしてここまで来たか、わかってるの?」

 テオはぎゅっと口を結んだ。それはもちろん、忘れてはならないことだ。

「そんなことは……わかってる」

 テオは口を尖らせて言ったが、マリアは首を振った。

「いいえ、あなたがわかっているのはほんの少しよ。余計なことを言っているのかもしれないけど、マルグレーテみたいな存在は、ほんとうに貴重なんだから。今までで、あなたの音楽を好きになって、理解してくれた女性なんている? あなたの性分も心も、彼女ほどわかっていて、励ましてくれる人なんて、きっとどこにもいないわ。それが……どれだけ奇跡に近いことなのか、もっとよく考えるべきよ……」

 マリアは、最後の方は少ししょんぼりしたように言った。
 テオは、マリアの言葉にすねたように口を尖らせたままだったが、確かに彼女の言う通りだなと思っていた。しかし、それよりもマリアの言い方が気になった。俺に説教していると言ったが、自分に言い聞かせてるみたいじゃないか。

「マリアもそう思ったのか」

 テオの言葉に、マリアははっとした表情を浮かべたが、苦笑いをして頷いた。

「……私は後の祭りだったのよ。後になってから気づいたの……ちょ、ちょっとまって。私の話をするつもりはないわ! あなたとマルグレーテの話よ」

 テオは首を振った。

「聞かせてくれ。後悔したんだろ」

 静かにそう言ったテオに、マリアは「うーん」と頭をかいてから、少し俯いて話し始めた。

「……私がウィーンを離れてから、たくさんの人に求婚されたって話はしたでしょう。ミラノ以外の劇場でもあちこちの国に行って、たくさんの人に出会ったわ。みんな、私の歌を絶賛してくれた。私よりも私の歌を愛してくれている感じだった」

 マリアは顔を上げたが、テオから目を逸らして遠くを見た。

「みんなをエドガーと比べるつもりはなかったのよ、私は歌と共に生きていたし、私には歌がすべてだったから。それに、彼みたいな人間にはまた出会えると思っていたの、どこかに彼の代わりになる人がいるだろうって。でも……どんなに素敵な人と出会っても、エドガーほど私自身を見てくれる人はいなかった。彼のような存在は奇跡だった……自分はその奇跡をふいにしたんだって、それだけはほんとうに後悔してもしきれない」

 マリアはテオに視線を戻した。

「あなたには後悔してほしくないのよ、テオ。頭ではわかっていると思うわ。でも、自分の心から愛する人が自分を愛してくれてるなんて、ほんとうに奇跡なんだから」

 ここまで言うと、マリアは肩をすくめて笑みを浮かべた。

「説教がましくなってごめんなさい、でも、くれぐれもマルグレーテを大事にしてほしいの。これは……きっとあの子の父親が言うことなんでしょうけど。彼女は自分のお父様と会うつもりはもうないみたいだし、エドガーはきっとこんなことは言わないだろうから」

 テオはわずかに目を細めた。こんな風に諭されるように話をされるのは久しぶりだった。ずっと前に一緒に旅をしていた旅芸人は、教育に似た人生論をよく話していたが、一人で旅をするようになってからは誰もいなかった。
 マルグレーテもそうだが、そういう話をしてくれる存在も当たり前ではないのだと、テオは思った。

「肝に銘じるよ……ありがとう、マリア」

 マリアはテオがそう言ったのに、眉尻を下げた。

「いいえ、急にごめんなさいね……オペラを彼女と隣り合って一緒にみることが、どれだけ素晴らしいことなのかわかってほしかっただけなの……行ってくれるでしょう?」

 マリアの言葉に、テオは「もちろん行くよ」と笑みを浮かべて頷いた。










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