狙撃の名手と気高い貴婦人

Rachel

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15. 報酬

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 イグナーツは息せききって、先ほどまで作業していた表門にやってきた。辺りはもうすっかり暗くなっており、空には星が見えている。
 イグナーツは作業場の隅に置いてあったランプに火を灯し、きょろきょろとかざして周りを見回した。先ほどここを去った時と同じ修復中の壁と煉瓦が積み重なっているだけで、人はいない。
 イグナーツは早くなっている鼓動を感じながら、今度はさやさやと風に撫でられている草原の向こうを見据えた。駐屯地にはあちこちにランプがつるされているが、少し離れた草原には、馬車や人の姿どころか灯りも見えない。
 まだ来ていないのか。道中何かあったのか。それともランクル少佐にからかわれたか。こんなところまであの人が来るだろうか。


 そのときだ。
 食堂の向かいに建つ隊舎の前に誰かが一人、立っているのが見えた。貴婦人の後ろ姿だ。
 イグナーツが思わず「ビアンカさんっ……!?」と声を漏らすと、その人物がくるりとこちらを振り向いた。
 灯りを背景にしているためはっきりとは見えなかったが、確信したイグナーツはもう駆け出していた。
 彼はビアンカ嬢のもとに駆け寄ると躊躇いなくたちまち腕の中に収めてしまい、ぎゅっと抱きしめた。
 例のごとく、ふわっと彼女からいつもの花の香りが鼻をかすめたが、今のイグナーツにはそれさえひどく恋しく思えた。

 しばらくその状態のままだったが、ビアンカ嬢が「イグナーツ様、ずっとお会いしたかったです」とくぐもった小さな声を出したとき、イグナーツははっと我に返った。

「もも、申し訳ありませんっ!」

 イグナーツはがばっと彼女から離れると、膝と頭を同時にガンッと地面に下ろした。

「きょ、許可なく無礼な真似を……そ、その、俺、ずっと……いや、その、申し訳ありません!」

「謝らないでくださいまし」

 ビアンカ嬢が彼のすぐ目の前にしゃがみこんで言った。

「どうか顔をあげて、良く見せてください、イグナーツ様。お願い」

 イグナーツはどうしようと思いながら言われるままに彼女の方を見てーーあっと驚きの声を漏らした。彼女の目には涙があふれていたのだ。
 ビアンカ嬢は涙も拭わないまま言った。

「ほんとうに……ほんとうにご無事でよかった。怪我をしたと聞いたときは気が遠くなりました。ずっと、ずっと心配しておりましたのよ」

 声を震わせながら言うビアンカ嬢に、イグナーツは申し訳ない気持ちでいっぱいになった。会わない方がいいのではと一瞬思ったあのときの自分を殴りたい。
 彼女の顔を見ていられず、イグナーツは再び頭を下げた。

「ご心配をおかけしてすみません。お知らせした通り、怪我はすぐに治りました。でも、その、俺、て、手紙の返事が来ないので、あなたに愛想をつかされたのかなって……でも、まさかこんなところまで来てくれるなんて」

「イグナーツ様ったら」

 ビアンカ嬢はふっと笑みを浮かべた。

「私が愛想を尽かすなんてできないということはご承知でしょう……でもこちらこそごめんなさい、こちらに来る準備に手間取ってお返事を書けませんでした。あなたからのお手紙をいただいた上にユルゲン様からもお話を聞いて、いてもたってもいられなかったのです。一刻も早くお会いしたくて……非常識にもこんな時間にここまで来てしまいました」

 ビアンカ嬢が泣きながら笑っているのを見て、イグナーツはぎゅっと心臓を掴まれたような感覚になった。
「手紙が届いたのなら」とイグナーツは言った。

「俺の身勝手な考えを読んだはずです、あなたに会えないって思っていたって。それに内容も業務報告書みたいだったと思います。上官からも友人からも、あなたのことをもっと思いやれって叱られました。俺、馬鹿だし、文章の才能もないし、おまけに無知だから、ビアンカ嬢に気の利いたことも書けなくて……」

 イグナーツは困ったように視線を下に向けてぶつぶつ話していたが、ふいにビアンカ嬢の顔が近づいてきたかと思うと、一瞬口を塞がれた。
 彼女の顔が離れたとき、イグナーツはビアンカ嬢にキスされたと理解してかあっと赤面した。「え……今、え……?」と呟きながら口をぱくぱくとさせる。

 ビアンカ嬢は「突然申し訳ありません」と照れたようにツンとしたような表情で言った。

「でも私、イグナーツ様の悪口は聞きたくありませんの。それに最後にはちゃんと私に会いたいと書いてくれましたでしょう。あのお手紙、宝物なんですのよ」

 そう言うとすっと立ち上がり、「イグナーツ様」と呼んだ。

「……は、はは、はい」

「それに先ほど私のことをビアンカさんと呼んでくれましたでしょう」

イグナーツは目をぱちくりさせて「へ?」と言ったが、すぐに思い返すと赤い顔を両手で覆った。

「……う、嘘だろ、う、うわ、も、ほんとすいませ……」

 イグナーツが頭を抱えてうずくまったのに、ビアンカ嬢は「いいんですの、私は嬉しかったんですから。どうか今後もそう呼んでくださいな」と小さく笑った。
 笑いごとではない。彼女は確かに結婚を約束した仲ではある。ではあるが、元貴族令嬢ならば、俺がしたことはすべて無作法極まりないことのはずだ。
 イグナーツはため息をついていたが、ビアンカ嬢は「さあさあ」と言った。

「イグナーツ様、どうかお立ちになって、教えてくださいな。さっきの建物は隊舎だったのかしら……ここは表門でしたか。こちらで壁の修復作業をされているということでしょうか」

 ビアンカ嬢が近くにつるされたランプで照らされている辺りを見回しながら尋ねると、イグナーツは「そそ、そうです」と慌てて立ち上がりながらも、まだ彼女の顔をまともに見ることができずに恥ずかしげに距離をおき、顔を逸らして言った。

「もうじき完成かなと思います……あ、修復が終わったら俺もすぐに帝都に帰る予定です」

「そうですか。皆さんご一緒に帰られますの?」

 ビアンカ嬢の問いに、イグナーツは頷こうとして動きを止めた。さっき食堂で聞いたことを思い出したのだ。

「いいえ、ランクル少佐は……こちらに残ることになりました。ご自分で志願されて」

「まあ」

 ビアンカ嬢は目を丸くさせた。

「あの方が帝都にいらっしゃらないなんて、中央の軍部は大丈夫なのですか」

 ビアンカ嬢の言い方に、イグナーツは小さく笑った。

「俺もそう思いました。でも、少佐が決めたことですし、残る必要があるとおっしゃっておられたので、俺には何とも……」

 ビアンカ嬢は、俯いたイグナーツをじっと見つめて言った。

「イグナーツ様は? 残留されたいのではないですか」

「え?」

「ランクル少佐はこちらに残るのでしょう。それならイグナーツ様もそうすれば良いではありませんか。できませんの?」

「え……いや、だって俺は」

 イグナーツは頭に手をやりながら下を向いた。

 ビアンカ嬢は今帝都のリッツ邸で暮らしている。それならば、帝都で暮らした方がいいに決まっている。結婚したばかりで別々に暮らすことになるのは嫌だった。できれば毎日彼女のいる家に帰って一緒に時を過ごしたいと思っていた。
 しかし、イグナーツにそんなことは言えるはずもなく、ただ言葉を濁して「俺は帝都に帰るんです」とだけ言った。
 ビアンカ嬢はそれに対して何か言おうとしたが、ちょうどそのとき国境の向こう側からさあっと風が吹いた。同時にビアンカ嬢がぶるっと身を震わせたのがイグナーツの目に映る。
 いけない、長い時間外にいたせいで身体を冷やしてしまったのかもしれないぞ。イグナーツは慌てて「あ、あの」と片手で上着を脱ぎながら言った。

「よ、夜だから寒いですよね。こ、これ、よかったら……」

 ビアンカ嬢は顔を上げると「まあ」と声を漏らしてから、上着を受け取った。

「ありがとうございます。でも、先ほどのように抱きしめてくださっていた方がよほど温かいんですのに」

「そ、それはっ、ご、ご勘弁ください……!」

 イグナーツは慌てたように再び一歩下がって彼女と距離をとる。その様子にビアンカ嬢はふふっと笑うと「冗談ですわ。そんなに警戒なさらないで」と言って、受け取った上着を羽織った。

「まあ温かいこと。まるで先ほどのようにイグナーツ様に抱きしめられているみたい」

 “先ほどのように”って繰り返さなくてもいいのに。イグナーツは顔が熱くなるのを感じながら咳払いして言った。

「ところで、ビ、ビア、ビアン、カ……ささ、さんはどのようにしてこちらにいらっしゃったのですか。馬車が見当たりませんが」

 ビアンカ嬢は、イグナーツが自分の名前の呼び方を変えてくれたことに気づいて、嬉しそうに微笑んでから答えた。

「私がここで降ろしてほしいと頼みましたの。万が一イグナーツ様がこちらで作業していたらと思って……馬車は本部か厩舎の方に行ったと思います」

 イグナーツは「そうでしたか」と頷いた後に、おやと首を傾げた。

「リッツ夫人とご一緒かと思いましたが、まさかお一人でこちらまで……?」

「いいえ」

 ビアンカ嬢は首を振った。

「ドロテア様は帝都での準備があるとのことで今回は一緒ではありませんの。でも、代わりに快く同伴を申し出てくれた友人がおりましたのよ。イグナーツ様もご存じのエルネスタですわ」

「エ、エルネスタ……!?」

 イグナーツは顔をひきつらせた。

「ええ、彼女は私のわがままに付き合ってくださったのです。駐屯地の本部を訪ねると言っていましたから、きっと今はそこにいると思います……あの、彼女が何かありまして?」

 イグナーツのこわばった顔を見てビアンカ嬢が不思議そうな表情を浮かべた。
 イグナーツは下を向くと「い、いえ」と首を振った。

「な、何も……彼女に何かあるわけじゃなくて、お、俺がその、ちょっと……に、苦手で」

「苦手?」

「あの、本人には言わないでください」

 ビアンカ嬢が目を丸くさせた後にくすりと笑った。

「ふふ、ご安心ください。エルネスタはあなたに朗報をもたらすために同行してくれましたのよ。さあ、私たちも参りましょう……本部まで連れていってくださいませんか」

 ビアンカ嬢が右手を差し出したのに、イグナーツは数秒ぽかんと眺めていたが、はっとして「は、はいっ」と言って彼女の手に自分の腕を寄せる。ビアンカ嬢が腕を絡めてくるとイグナーツは自分の背筋が伸びるのを感じた。




 二人はそのまま隊舎と食堂を通り過ぎると、本部のある建物へ向かった。
 外は誰も歩いていなかったが、建物内に入るとやはり隊員や将校たちの姿が行き交っていた。
 書類提出だの煉瓦が足りないだのと隊員たちが話しているところへ、廊下にイグナーツが一人の女性を伴って現れると、皆一斉に口を閉ざし、目を丸くさせて二人を見送った。

「なあ、おい……!」

「まさか、あいつが」

 ぼそぼそと驚く声が聞こえる。貴婦人を前にさすがに陰口は聞こえなかったが、彼らの視線は針で刺すようであった。
 不釣り合いだと思われてるんだろうな。イグナーツは隊員たちがこちらを見ていると感じるたびに下を向きそうになったが、隣からビアンカ嬢が「イグナーツ様」と呼びかけながら微笑んでくれたので、なんとかその場をやり過ごし、階段を上がって本部まで辿り着いた。



 ゲルント駐屯地の奪還後、リッツ大佐たちが帝都に戻ったのと入れ替わりにこの国境付近のゲルント駐屯地の担当者として任命を受けたのは、ラルフ・エンゲルマン大佐という人物であった。
 イグナーツは、この将校の顔を毎日の朝礼の際に見かけていたが、面と向かって話をするのは今日が初めてになる。エンゲルマン大佐は声が地の底から湧き出るように低いため迫力を感じるが、生真面目で堅物そうだというのがイグナーツから見た印象だ。情報通のデニスからも悪い評判は聞かなかった。



 イグナーツはビアンカ嬢と本部の前で顔を見合わせると、腕を解いてから扉を叩いた。やはりいつも通りの低い声で「入れ」と聞こえた。イグナーツは思い切って扉を開けーー顔をひきつらせた。

 扉の向こうには、大きな机を前にエンゲルマン大佐が厳めしい表情で座っていた。ここまではイグナーツの予想通りだったが、入って扉のすぐ横にはエルネスタが腰に手を当てて、こちらを見定めるかのような視線を送っていたのである。
「げっ」と声を上げなかった自分に拍手を送りたいとイグナーツは思った。軍の将校の部屋にいるというのになんでそんなに尊大な態度なんだ。
 そう思いながらもイグナーツは「エンゲルマン大佐」と言ってピッと敬礼した。

「やっと来たわね」

 エンゲルマン大佐が口を開く前にエルネスタが言った。

「いいからぼさっとしてないでさっさとこっちまで来なさい、ほらビアンカも……エンゲルマン大佐、これが今話したビアンカ・リッツよ」

 この堅物エンゲルマン大佐を相手によくそんな気やすい態度がとれるな、エルネスタのやつ。そう思いながらもイグナーツは言われるままに部屋に入って敬礼し、ビアンカもそれにしたがって小さくお辞儀した。
 エルネスタが言った。

「ビアンカ、たった今彼から今晩ここに泊まれる部屋を提供してもらえるって言ってもらえたわ。おいはぎに怯えながら暗闇の中馬車に乗ることはなさそうよ」

 彼女がこのゲルント駐屯地に泊まる? イグナーツは目を見開いて思わずエンゲルマン大佐を見た横で、ビアンカ嬢は「ありがとうございます」と頭を下げた。

「ご厚意に感謝いたします……ですが、ほんとうでしょうか。もしやこちらのエルネスタが強引に取り付けたのではないのでしょうか」

 エルネスタは「まあビアンカったら、失礼しちゃう」と眉を上げた横で、エンゲルマン大佐が「お前がそんな態度だからだろう」とエルネスタに言ってから、令嬢の方を見た。

「ビアンカ・リッツ嬢、このエルネスタが来る前にユルゲンから電報が来ていたし、ランクル少佐からも話を伺っていた。このようなむさくるしいところではあるが、部屋は確保しているので安心してほしい」

 エンゲルマン大佐の声は低く凄みのあるものであったが、ビアンカ嬢は怯むことなくむしろ笑みを浮かべて「ご親切に、ありがとうございます」と言った。

「押しかけてしまって申し訳ありません、お世話になります……あなたもありがとう、エルネスタ」

「いいのよ、あたしは大したことはしてないわ。それより、ねえイグナーツ。いいかげんにそのまぬけ面はやめなさい」

 突然自分に視線が向けられ、ぽかんと口を開けていたイグナーツは慌てて口を閉じ、背筋を伸ばした。

「あたしはあんたにいい知らせを持ってきたのよ。でもその前に大佐からの話を聞いた方がいいかもね」

 エンゲルマン大佐は「いいだろう」と頷くと、イグナーツの方をじろりと見た。

「トット准尉、よく聞け。少し前に皇帝陛下の命令がくだった。中央の軍部から今回の出動に関わった隊員たちの報酬が決定したというものだ。お前の分もだぞ」

 俺の報酬。イグナーツは少し緊張した顔になった。
 エンゲルマン大佐は続けた。

「前にも話があった通り、今回の出動は公にするのを防ぐために昇級はない。その代わりに功労者には十分報いるようにと陛下から直々に数人が名指しで給金があてがわれた。壁の修復代は後日支払われるが、ひとまずお前には400万クロンだ」

「えっ? よ、よんひゃく……!?」

 イグナーツは耳を疑った。今までの給料とは比較にならない桁だ。前は多くても5万クロンだったのに!

「な、なにかの間違いでは? 貴族でもないのにそんな金額、ありえません」

「昇級がないとこの額になるんだ、覚えておけ。陛下の命令でもあるし、第一お前は敵将を仕留めた、これくらい当たり前だ」

 “敵将を仕留めた”と言われ、イグナーツはぐっと口を結んだ。
 確かにジーク族のあの大柄な男を撃ったのは自分だ。だがあの見張り台から撃つことができたのは、ランクル少佐の的確な指示とリール二等兵の導きがあったからだ。それに、裏門で怪我を負いながら戦っていた者たちも立派な功労者であるし、中には犠牲になった命もある。自分が活躍できたのは、彼らが道筋を作ってくれたからなのだ。

 苦い表情を浮かべているイグナーツの思いを読んだかのように、エンゲルマン大佐は「案ずるな」と言った。

「お前以外の連中にもそれ相応の給金が渡される。陛下とてそれがわからぬ人ではない。国境をここで食い止めることができたのは大きいんだぞ。まずはお前が400万クロンだ、堂々と受け取るがいい」

 エンゲルマン大佐の声はやはり凄みのあるものであったが、労わるような色を宿していた。イグナーツは少しの間俯いていたが、無表情の顔をあげると小さな声で「はい」と頷いた。

「そこで、よ!」

 エルネスタが突然割り込むように声を上げた。

「うちの娼館、あんたの給金からいつも決められた返済額を引いてたでしょう。今回の給料で124万クロンの支払いを全部引けば、あんたの借金は全部チャラになるのよ。いい知らせってのはそれ」

 イグナーツは目を丸くさせた。

「あっそうか、確かに400万クロンから全額返済できる……!」

「そう。あたしはその分を引いていいか本人に確認するために来たってわけ。もちろんそうするでしょ? 借金してる身で嫌とは言わせないわよ。同意の証拠に、この返済書にサインしてちょうだい……大佐、机借りるわよ」

 さあさあと急かされ、イグナーツは戸惑いながら不安そうな視線をよこすと、エンゲルマン大佐は大丈夫だというように頷いてくれた。どきどきしながら上官の机を借りてペンを取る。

 イグナーツが名前を書き入れると、エルネスタは返済書をじっくり眺めてから「はい、これで借金はなくなったわね」と言った。

「あとで勝手に引き出させてもらうから。それでーー残りの276万クロンで田舎に家を建てるなりなんなり好きになさい。軍をやめることだってできるわ。どうするの? どこに住むわけ?」

「え……、いやあの、俺は……」

 イグナーツが口ごもると、エルネスタは「なによ、さっさと言いなさいよ」とぐいっと眉をしかめた。はっきり言わないと彼女は決まってこういう表情を浮かべる。
 しかしエンゲルマン大佐が「そう急かすな」と制してくれた。

「こいつはたった今受け取る金額を聞かされたんだ。すぐに考えられるわけがないだろう……トット准尉、ひとまず今夜は部屋に戻っていいぞ。ビアンカ・リッツ嬢はエルネスタと一緒に私が部屋に案内する」

 上官の言葉にイグナーツはほっとして敬礼をし、ビアンカ嬢にお辞儀してから部屋を出ていこうとしてーー足を止めた。

「あ、の、すいません」

 イグナーツは振り返って言った。

「ビアンカ・リッツさんと、その……少し話をしても良いでしょうか。相談したいことがあります」





 エンゲルマン大佐の指定した部屋まで彼女を送り届けると大佐と約束して、イグナーツはビアンカ嬢とともに誰もいないホールの方へと向かった。食堂から離れているからそこなら誰かに聞かれる様子もないだろうと大佐が提案してくれたのだ。

 ホールは毎日の朝礼の際に隊員たちがずらりと並ぶ場所であるが、今はがらんとしていて、イグナーツが持っているランプだけが煌々と光っていた。

「ごめんなさい」

 ホールに着いてすぐにビアンカ嬢が謝ったので、イグナーツは「えっ」と驚いて彼女の方を見た。

「な、なんであなたが謝るんですか」

「あなたの知らないところで物事が進んで……不快に思われたでしょう。ユルゲン様からイグナーツ様の借財をすべて返済するようはからってくれないかと頼まれましたの。それで私の方からエルネスタにお話ししまして、このようなことになりました……勝手なことをして申し訳ありません」

 イグナーツは「ああ、リッツ大佐が言い出したことだったんですか」と納得したように頷いた。

「妙に軍部からの指示が行き渡っているなと思ったんですよ。あの人も俺のことを気にしてくれているから……不快になど思っていません。むしろ俺の、私的なことだったのに、わざわざ動いてくださってありがとうございました」

 イグナーツは礼を述べたが、ランプの光に照らされているビアンカ嬢の顔は、まだ申し訳なさそうな表情をしたままだった。
 ビアンカ嬢は「あの」と続けた。

「もう今後、イグナーツ様の知らないところで勝手なことはしないと誓います。ユルゲン様やエルネスタから何かを言われたとしても、必ずあなたに相談するようにいたしますわ。ほんとうです、ですから」

 ビアンカ嬢は胸の前で両手を組んで言った。

「ですから、お願いです。私との結婚を取りやめないでくださいませんか」

「は……?」

 イグナーツは懇願するように言った彼女の言葉に目を瞬かせた。

「え、取りやめる? 俺が?」

 聞き違いかと思ったが、ビアンカ嬢は真面目な顔で続けた。

「エルネスタから言われましたの、イグナーツ様があれだけの金額を手にしたら逃げてしまうかもしれない、そういう軍人を何人も見てきたと。それで私……」

 余計なことを。イグナーツは片手で額を覆った。
 ビアンカ嬢は続けた。

「確かに私も社交界に出入りしていた時、戦争で活躍した方が大金を受け取り商人になった方を見かけたことがありますの。貴族の称号を得る方も。もしもそうなったら、イグナーツ様は貴族の地位にいる女性を娶りたいと思うのではと……」

「ビアンカ、さん」

 イグナーツは彼女の言葉を遮った。これはきちんと伝えなければならない。
 ランプを足元に置くと真っ直ぐ彼女の方を向いて目を合わせた。が、やはり緊張してしまって声が震えそうになったので、咳ばらいでごまかしてから次のように言った。

「こほん。い、いいですか、俺はそんな薄情な男じゃありません。あなたと結婚すると決めたからには、何があろうと結婚させていただきます。あなた以外に結婚なんて全く考えてませんよ。第一に俺は商人なんて柄じゃないし、貴族の称号なんかとんでもない。エルネスタの言うことは真に受けないでください。その、それに……」

 イグナーツは一瞬目を逸らしたが、すぐに彼女の方を見た。

「実は俺、あの給金は辞退しようと思ってるんです」

「え?」

 ビアンカ嬢が驚きの声を漏らした。イグナーツは続けた。

「今回の出動はいろいろ思うことがあって……できればそのお金は、命を落とした隊員の家族に回したいと思っているんです。俺が生きているのは彼らのおかげですから。皇帝からももちろんその家族に配慮があるんでしょうけど、俺は……やっぱり受け取れない」

 イグナーツの脳裏には、あの見張り台から双眼鏡で覗いた悲惨な光景が蘇っていた。与えられた役割とはいえ、自分は別の場所から傍観していた。それなのにあんな高額な大金を受け取れるわけがない。

 イグナーツはビアンカ嬢にふっと微笑んで「とは言っても」と続けた。

「エルネスタのおかげで借金の返済額は払ってしまいましたけどね。ただその、あの給金を受け取らないとなると、やっぱり俺とあなたが、けけ、結婚して、二人で住む家をすぐには建てられないから……その、だからあなたに相談しようと思ってこうして時間を作っていただきました」

 ビアンカ嬢はイグナーツの話を黙って聞いていた。しかし、やがて「なんて……なんてこと」と言うと俯いてしまった。心なしか肩も震えている。
 俺にお金を受け取る意思がないと知ってがっかりしたのだろうか。いや、彼女は貴族の地位を捨てている。身分やお金に執着のある人ではない。
 もしかしたら俺に家を建てる気がない、一緒に住む気がないと思われてしまったのかな。そう思ったイグナーツは慌てて「ええと」と続けた。

「でも、あの、もちろん軍には所属し続けるので給料はあります! だ、だから、いつかは家を建てられると……」

 しかしイグナーツの言葉は、ビアンカ嬢の耳には届いていないようだった。彼女は自分の顔を両手で覆うとそのまま「いつもです」とくぐもった声で言った。

「いつもそうなのですわ……初めてお会いした時からずっとそう。イグナーツ様は一言では言い表せない複雑な考えをお持ちですの。そしてその慎み深く徳の高いお心を知ると、私はいつも自分が狭量だと思い知り、泣きたいほどに恥ずかしくなるのです」

 複雑な考えって、俺はほぼ直感で動いてるのに。慎み深く徳の高いってどういう意味だろう、遠慮してるってことかな。
 イグナーツは背中がむずむずするのを感じながら「いや、俺はそんな別に……」と言いかけたが、ビアンカ嬢は「とりわけ今回のことです」と遮った。
 ビアンカ嬢は両手を下ろしてまっすぐにイグナーツの方を向いた。

「真実を申し上げますわ。今回の報酬額がこれほどまでに大きな額になったのは、私が皇帝陛下に進言したからなのです。活躍しているあなたに十分報いるようにしてほしいと申し上げましたの。あなたが喜ぶと思って」

 こ、皇帝に……! イグナーツは驚いたが妙に納得した。
 先ほどエンゲルマン大佐から聞いた報酬が桁違いな金額だと思ったのは間違っていなかった。
 貴族層の軍人が受け取るほどの額になったのは、彼女が皇帝にわざわざそう言ったからだったのか。イグナーツは目を細めた。
 ビアンカ嬢は俯きながら言った。

「私が浅はかでした。自分の地位を利用して、イグナーツ様のお心を引きつけようとしたのです。イグナーツ様ご自身の深いお心を知ろうともせず、さらに自分が捨てられるのではと恐れ、保身に走るなど……がっかりなさいましたでしょう? 少しでもイグナーツ様に気に入られようとしたからこうなるのです。社交界で生きてきた女の正体なんて、所詮こんなものですわ」

 ビアンカ嬢がしょんぼりと床を見つめてそう言ったのに、イグナーツは内心どうしようと焦った。
 もちろんがっかりなんてするわけがなかった。彼女は俺に借金があること、そして平民だからと俺の給金が少ないことに力を尽くそうとしてくれたのだ。自分の気持ちが揺らがないことをちゃんと伝えなければならない。

 イグナーツは何と言って彼女の言葉を否定しようか迷った。しばらく思考をこらした後、ぐっと拳を握って「ビアンカさん」と呼びかけた。
 彼女が顔を上げると、イグナーツは小さく笑みを浮かべて言った。

「少し……少し、俺の話を聞いてくれますか」

「イグナーツ様の……お話?」

 ビアンカ嬢は戸惑った表情を浮かべたが、すぐにこくりと頷いてくれたのでイグナーツは「ええと」と話し始めた。

「その……前にもお話しした通り、俺の母親は高級娼婦でした。そのせいで昔から”ラミア”の子だと非難されましてね、白い目で見られてきたんです。俺は母親がその職業に就いていたことも嫌だったし、それを理由に他人から理不尽にばかにされるのも嫌でした。歳を重ねると、そう言われるのがもう当たり前になっていて、自分が耐えなければならないんだと思っていました」

 イグナーツは下を向いて首の後ろをかいてから「でも」と続けた。

「でも、ある晩舞踏会で、一人の貴婦人が“ラミア”の子と噂していた令嬢たちを叱っているところを見かけたんです。その指摘はまっすぐで、堂々としていて、的確で……俺のことではないのに、まるで俺自身を正当な理由で弁護してくれているように思えました。荒んでいた心が救われて、気がついたら俺はその人からずっと目が離せなくなっていた……ビアンカさん、俺はあのときから、あなたが俺の存在を知らなかったときから、俺はもうずっとあなたにほ、惚れてるんです」

 ビアンカ嬢が目を丸くさせてイグナーツを見た。イグナーツは少し恥ずかしくなって目を逸らしたが続けた。

「あの夜からしばらく経ちましたが、俺はずっとあなたを好きなままですよ。さっきの話を聞いてもがっかりなんてするわけがないですし……それに、たとえばもしエルネスタに俺がお金を返すと言ったら、彼女は絶対にばかにする。でもあなたはそうじゃない。俺の意志を尊重してくれるでしょう。それだけで十分なんです。今回のことだって俺のために動いてくれたんです、惚れ込む以外ありえませんよ」

 イグナーツは思い切ってビアンカ嬢の目をまっすぐに見た。ランプのせいか、彼女の顔が赤くなっているように見える。そう思った彼自身の顔は、火が出そうなほどに熱くなっていた。
 イグナーツは「えへんえへん」と二回咳ばらいをして話を続けた。

「今回の大金は返そうと思っていると言いましたが、あなたと結婚させていただきますから、その必要経費は抜こうと思っています。だからさっき相談したいと言ったんです、家を建てたりするのって相当な資金が要りますし、元々貴族であるあなたが暮らしやすい造りの方が良いって……」

と、イグナーツがここまで言った時、ビアンカ嬢の顔が近づいてきたかと思うとあっという間に唇が重ねられた。

「……!?」

 イグナーツが驚きで目を見開いたときには、ビアンカ嬢の赤面した顔はもう離れていた。しかし例のごとく花のような香りは鼻にしっかりと残っていた。

「突然ごめんなさい」

 ビアンカ嬢が顔を伏せ、鼻をすすりながら言った。

「とても、とても嬉しかったんです……どうかお許しください」

 イグナーツは香りに頭をぼうっとさせながらも「え……えええ、だだ、大丈夫、です」と答えた。
 ビアンカ嬢は顔を上げると「イグナーツ様」と言った。

「家の経費なんですが……不躾ですが私に全額持たせてくださいませんか。今回の給金の残りはイグナーツ様のご希望通り陛下にお返しください」

「へ…………は、全額!? いや、そんな……!」

 我に返ったように戸惑った声を上げたイグナーツに、ビアンカ嬢はきっぱりとした言い方で「いいえ、どうかそうさせてくださいまし」と言った。

「私は侯爵家で育ちましたからね、とってもわがままですの。ですから好きなように家を建てたいのです。そうなるとイグナーツ様のお金ではとても足りませんのよ。どうしてもご不満がおありなら、毎月のイグナーツ様のお給金から少しずつ差し引かせてもらえばいいわ。いいでしょう? とにかく今は家の資金のことはどうか私にお任せください」

 こちらを見つめてくるビアンカ嬢の眼光は鋭い。イグナーツも押しの強さに負けて、結局「わ、わかりました」と言わざるを得なかった。わがままだから、だなんて。彼女はイグナーツが辞退したいと思っていることをあくまで尊重してくれているのだ。
 イグナーツは言った。

「ありがとうございます。もちろん必ず俺の給料から差し引かせてもらいますが……俺には気を使わずにどうかビアンカさんが好きなようにしてください。その、リッツ大佐と一緒に住むのは遠慮したいですけど……俺はあなたと住むことができるならどんな家でもかまいません。あ、でも大きすぎるのは困りますから、ほどほどに」

 イグナーツの希望を聞くと、ビアンカ嬢は嬉しそうに「ほどほどに、わかりました。約束しましたからね」とどこか意味ありげに微笑んだ。

 


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