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3 動き出す時間と何か。
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視線を向けるとまるで知り合いです、という顔をしてこちらを見ている萩原さん。
「あの、私の名前・・・・。」
「間違ってないよね?」
「・・・・はい。」
聞きたいのはそういうことじゃなくて、何故というところは答えてもらえないようだ。
「相川さんは若い子が好きだったのか・・・・。」
萩原さんがつぶやいた。誰が?何?分からない。
「で、相川さんはどの子がタイプなの?」
萩原さんがまたまた私の視線を追うように外を向く。
ああ、すぐ横に顔があるっぽい。今、横を向いたらきっと気絶する、いや絶対悶死。
とりあえず誤解を解こう。
「別に・・・ただ楽しそうだなって見てただけで・・・・違います。」
しばらくの沈黙。
「そうなんだ。良かった。」
顔が離れた気がする。声が遠ざかり危険な気配もなくなる。
ほっ。ゆっくり呼吸を再開しよう。
「随分長い事見てた気がしたからね。もしかしてって思った。」
「え?」
「だって20分くらいはいるよね。ここ。」
萩原さんが私の席を指して言う。
ずっと置きっぱなしだった携帯を見ると、確かに小一時間は経っていた。
けどそうとは言えない。
「確かにそれ位は・・・・・。猫舌で・・・・。」
そんなこと初耳です、私は猫舌?とっさの言い訳。
「なるほど。」
萩原さんが私のコーヒーを持ちあげる。
そして私を見る。
「もう飲み頃じゃない?」
ううぅ。
「はい、そうです・・・ね。」
実際1時間もたって熱いコーヒーはすっかりぬるくなっている。
猫舌中の猫舌みたいです、私。なんだか勧められたように手にして一口飲む。
隣からくぐもった声が聞こえる。ゆっくりとコーヒーを置いて隣を確かめる。
萩原さんが下を向いたまま・・・・笑ってる?そう見えるけど。
いつもクールな感じなのに。
ちょっとぼんやりして見てると顔を上げてその表情が見えた。
嬉しそうな、もしくは楽しそうな顔をしている?
すくなくともクールな感じはない。
「今日は金曜日だけど、待ち合わせ?」
「違います。少しぼんやりして帰ろっかなと思っただけで。」
少しね・・・。小さく聞こえた。
「じゃあ、ご飯行こう。」
萩原さんが立ち上がってこっちを見る。
へ?なぜ?私?誘われたの?2人で?
私の困惑をよそに萩原さんが私のコーヒーを持って歩き出す。
両手にコーヒーを持って脇に鞄を持つ後ろ姿に見とれる。
かっこいい・・・。
いや、そんな場合じゃなくて。
私は自分の荷物を持ってその後についていく。
思わぬ人からの突然の誘い。
静かに妄想世界に浸っていた1時間が急展開を見せた。
もしかして窓の外を見て私は寝ていて、これは夢?よくある夢落ち?
あ~夢でもいい、うれしくて、楽しそうで、幸せだもん。
お店の外で急に立ち止まった萩原さんの背中にぶつかる。
「キャ、すみません。」
ちょっと痛い。
寝ていたとしても目が覚めたと思う、痛みもあったからやっぱり現実らしい?
「相川さん、何か食べたいものは?」
「・・・お任せしてもいいですか?」
突然すぎて何も思い浮かばない。
いろんな機能はもう混乱を極めて停止した状態。心臓だけがやたらと急いで動いてる。
「了解。ちょっと待ってね。」
片手でスマホをいじりながら電話を始めた萩原さん。
そりゃあ、たとえ猫舌の猫でも犬のように大人しく待ちます。
いつまでも待ちます。
ちょっと離れてぼんやりと電話を持って話す萩原さんを見る。本当にリアル?
会社の人が駅に行く道からは一本入り込んだ場所で。
周囲は大分薄暗くなっているから気づかれなさそう。
それでもちょっと周囲に視線をやる。
南田さんが隣にいるべきだし、どっきりカメラとかいう場合もある・・・一般人にはないか?
この組み合わせ、誰も信じない。
自分もまだ半信半疑、というよりもより限りなく『疑』に近いくらい。
電話を終えたらしい萩原さんが振り返る。
「あ、最寄り駅、どこかな?」
私が答えると萩原さんが少しホッとしたみたいに表情を緩める。
「じゃあ途中下車になるけど。」
「はい、大丈夫です。」近づいて答える。
軽く私の背中を押すようにして誘い、歩き始めた萩原さん。
私は少し遅れるようにして斜め後ろを歩く。視線は萩原さんの手に。
さっき背中に当てられた手。
同じ改札口から後ろについて同じ電車に乗る。
しばらくすると車内が混んできた。
体を小さくして立つ私をさりげなく空いたスペースに立たせてくれる。
視線は萩原さんの胸あたりで。さっきからドキドキがまた激しくなっている。
何でこんなことになったんだろう?
比較的大きな駅で手を引かれるようにして降りる。
どうして・・・・。
「あの、私の名前・・・・。」
「間違ってないよね?」
「・・・・はい。」
聞きたいのはそういうことじゃなくて、何故というところは答えてもらえないようだ。
「相川さんは若い子が好きだったのか・・・・。」
萩原さんがつぶやいた。誰が?何?分からない。
「で、相川さんはどの子がタイプなの?」
萩原さんがまたまた私の視線を追うように外を向く。
ああ、すぐ横に顔があるっぽい。今、横を向いたらきっと気絶する、いや絶対悶死。
とりあえず誤解を解こう。
「別に・・・ただ楽しそうだなって見てただけで・・・・違います。」
しばらくの沈黙。
「そうなんだ。良かった。」
顔が離れた気がする。声が遠ざかり危険な気配もなくなる。
ほっ。ゆっくり呼吸を再開しよう。
「随分長い事見てた気がしたからね。もしかしてって思った。」
「え?」
「だって20分くらいはいるよね。ここ。」
萩原さんが私の席を指して言う。
ずっと置きっぱなしだった携帯を見ると、確かに小一時間は経っていた。
けどそうとは言えない。
「確かにそれ位は・・・・・。猫舌で・・・・。」
そんなこと初耳です、私は猫舌?とっさの言い訳。
「なるほど。」
萩原さんが私のコーヒーを持ちあげる。
そして私を見る。
「もう飲み頃じゃない?」
ううぅ。
「はい、そうです・・・ね。」
実際1時間もたって熱いコーヒーはすっかりぬるくなっている。
猫舌中の猫舌みたいです、私。なんだか勧められたように手にして一口飲む。
隣からくぐもった声が聞こえる。ゆっくりとコーヒーを置いて隣を確かめる。
萩原さんが下を向いたまま・・・・笑ってる?そう見えるけど。
いつもクールな感じなのに。
ちょっとぼんやりして見てると顔を上げてその表情が見えた。
嬉しそうな、もしくは楽しそうな顔をしている?
すくなくともクールな感じはない。
「今日は金曜日だけど、待ち合わせ?」
「違います。少しぼんやりして帰ろっかなと思っただけで。」
少しね・・・。小さく聞こえた。
「じゃあ、ご飯行こう。」
萩原さんが立ち上がってこっちを見る。
へ?なぜ?私?誘われたの?2人で?
私の困惑をよそに萩原さんが私のコーヒーを持って歩き出す。
両手にコーヒーを持って脇に鞄を持つ後ろ姿に見とれる。
かっこいい・・・。
いや、そんな場合じゃなくて。
私は自分の荷物を持ってその後についていく。
思わぬ人からの突然の誘い。
静かに妄想世界に浸っていた1時間が急展開を見せた。
もしかして窓の外を見て私は寝ていて、これは夢?よくある夢落ち?
あ~夢でもいい、うれしくて、楽しそうで、幸せだもん。
お店の外で急に立ち止まった萩原さんの背中にぶつかる。
「キャ、すみません。」
ちょっと痛い。
寝ていたとしても目が覚めたと思う、痛みもあったからやっぱり現実らしい?
「相川さん、何か食べたいものは?」
「・・・お任せしてもいいですか?」
突然すぎて何も思い浮かばない。
いろんな機能はもう混乱を極めて停止した状態。心臓だけがやたらと急いで動いてる。
「了解。ちょっと待ってね。」
片手でスマホをいじりながら電話を始めた萩原さん。
そりゃあ、たとえ猫舌の猫でも犬のように大人しく待ちます。
いつまでも待ちます。
ちょっと離れてぼんやりと電話を持って話す萩原さんを見る。本当にリアル?
会社の人が駅に行く道からは一本入り込んだ場所で。
周囲は大分薄暗くなっているから気づかれなさそう。
それでもちょっと周囲に視線をやる。
南田さんが隣にいるべきだし、どっきりカメラとかいう場合もある・・・一般人にはないか?
この組み合わせ、誰も信じない。
自分もまだ半信半疑、というよりもより限りなく『疑』に近いくらい。
電話を終えたらしい萩原さんが振り返る。
「あ、最寄り駅、どこかな?」
私が答えると萩原さんが少しホッとしたみたいに表情を緩める。
「じゃあ途中下車になるけど。」
「はい、大丈夫です。」近づいて答える。
軽く私の背中を押すようにして誘い、歩き始めた萩原さん。
私は少し遅れるようにして斜め後ろを歩く。視線は萩原さんの手に。
さっき背中に当てられた手。
同じ改札口から後ろについて同じ電車に乗る。
しばらくすると車内が混んできた。
体を小さくして立つ私をさりげなく空いたスペースに立たせてくれる。
視線は萩原さんの胸あたりで。さっきからドキドキがまた激しくなっている。
何でこんなことになったんだろう?
比較的大きな駅で手を引かれるようにして降りる。
どうして・・・・。
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