クールな見かけに惹かれましたが、何か間違いましたか?

羽月☆

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4 楽しかった夜は。

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もったいなくて振り払えない手をそのままにして商店街へ進む。
降りたことのない駅の景色に少しキョロキョロしてしまう。
そうしないと全身の血が手に集まり貧血で倒れます。

萩原さんの最寄り駅なんだろうか、まっすぐに目的のお店に向かっていく萩原さん。
決して速足ではないのでパンプスを履いた私でもついていくのはつらくない。

「来たことないかな、この辺り?」

「はい。初めて降りました。萩原さんの家の近くなんですか?」

「・・・いや、違うよ。」

そんな会話をどうにか続けると目当てのお店に着いたらしく、萩原さんが立ち止まる。
小さな一軒家レストランと思ったら2階もあった。
細い階段を上がり2階へ。相変わらず手はつながれていた。
ドアを開ける背中に続く。手がさらりと外れた。
急に離されて涼しくなった手が少し寂しい。

予約していた席に通される。
テーブル席がさりげなく仕切りられて半分個室の様。
そんなに大きくないお店なのに、テーブルは広めにスペースがとられていて半円の机に横並びで座る形になる。
またしてもドキドキポイント。
向かい合って食事するのも緊張するけど・・・これも距離感が難しい。
視線と距離。どちらも私には扱いずらいもので。
いつも会話が弾まなくて気まずい思いをするのに。
もし今日もそうだったらきっとガッカリされてしまう。
せっかく誘ってくれたのに・・・・。

萩原さんに促されて奥に座る。

「ジャケットはどうする?」

そう聞かれて大丈夫ですと私は首を振る。
萩原さんがジャケットを脱ぎハンガーにかけて隣に座る。
ネクタイを少し緩めて袖のボタンを外して腕まくりをする。
なんだか気合が・・・・、肉にかぶりつきます?

さり気なく、少し奥に詰めて距離をとった。かなり壁にくっついてるような私。
左利きだったらもう絶対食事が出来ないくらいに。
萩原さんが気がついてフッと笑われた気がした。気のせい?何も言われないし。
せめて二人の間にバッグをと思ったのに置く場所がテーブルの下にあって、萩原さんに動かされた。

「ありがとうございます。」

とりあえずお礼を言った。

落ち着いたころにお店の人がオーダーを取りに来た。
渡されたメニューの説明を受けてうなずく萩原さん。

「僕が決めていい?」

「はい、お願いします。」

さらさらとオーダーを終える。

「お酒は飲めるかな?」

「はい、普通くらいだと思います。」

残されたお酒のメニューリストを開いて見せられる。
カクテルの値段も少しお高め。
でもきれいな装丁のメニュー表に綺麗に書かれたどのお酒もおいしそうで。
少しさっぱりしたカクテルを頼む。

先におしゃれなフルートグラスのお酒が届いた。
小さな泡が上に向かってのぼる。きれい・・・。
そう思ったのが言葉に出たみたいでそうだねって言葉が返された。

つい斜めを見ると思った以上に近いところで視線がぶつかる。
思わず赤面して体を引いてしまう。
また緊張してきた。

「急に誘ってごめんね。」

「いえ、特に・・・週末なのに時間ありすぎて困るくらいですし。」

向かい合えずに前を向いて答える。
こういう時にとてもうれしいですとか言えたら可愛いんだろうなあ。
『特に』とか何?我ながら悲しい。
恋愛ポテンシャルの低さ以前にコミュ障問題じゃない。
萩原さんこそいいんですか、週末なのに・・・なんて軽く聞けるくらいだったら会話も弾むのに。
相変わらず静かな2人。

「じゃあ、思い切って誘って良かった。」萩原さんが言う。

「あの・・・せっかく誘っていただいても私・・・あんまりお喋りとか上手じゃなくて・・・。」

「気が合うね、僕もそうだから。とりあえず乾杯しよっか。」

呆れられる前に自分から言ってしまおうと思って言った弱点も軽く流される。
グラスを掲げられたので軽く合わせる。
多分、生涯一の幸せな瞬間に乾杯。
そのまま口にしたカクテルは本当においしくて。
緊張でのどが渇いてて半分くらい一気に飲んでしまった。

「好き嫌いなかった?」

「はい、普通のものはひと通り大丈夫です。」

「ん?普通じゃないものって?」

「昆虫類とか、内臓オンリーてんこ盛りとか。」

「なるほど。あとは猫舌ね。」

せっかく視線を合わせないようにしてるのに、わざわざ顔を覗き込むように話しかけられた。

「猫舌?」

「あれっ、違った?」

あっ・・・・。
意地悪な笑顔を見せられた。今のはわざと?
きまり悪くうつむいた頭を2回ポンポンってされる。
なに?これは。
まるでカップルみたいな・・・・。

「あ、料理が来たよ。」

注文した料理が運ばれてきた。
コース料理だけど大きなお皿に盛られて二人でとりわけるみたい。
チーズや野菜、お魚を使ったコールドディッシュがポツポツと盛られている。

「直接食べちゃおう。」

お皿に取らずにそのまま一口サイズの山を端から口にしていく。
お店の人に丁寧に説明されたけど、緊張もあってほとんど頭に入れる余裕がない。
それでもおいしくて。

「萩原さん、おいしいです。」

「そうだね。相川さんがそう言ってくれて良かった。」

「よく来るお店なんですか?」

「初めてだよ。」

お酒を飲みながら一山づつ口にして感想を言い合う。それで何とか会話がつながっている。

「お酒、次は?」

「萩原さんのおいしそうですよね?」

「そうだね、試してみる?」

料理のお皿を下げてもらうときにお酒の注文をお願いする。

「萩原さん、お酒強いですか?」

「まあまあだね。変な酔い方もしたことないからね」

「相川さんも頼もしいね。明日休みだしじゃんじゃん飲んでみる?」

「危険です、おいしくてついつい飲みすぎちゃいそうです。」

「大丈夫だよ、心配しなくても帰りはタクシーで送るから。」

「そんな、大丈夫です。自分で帰れます。」

いいタイミングで運ばれてくる料理はどれもおいしい。
心配した会話もそんな風に続いて緊張も少しほぐれてきたけど、萩原さん楽しんでくれてるのかなと考えるとまた不安になる。

「どうかした?」

私の不安を素早く読み取ったのか肩に手を置かれて萩原さんが聞いてきた。

「いいえ。美味しい週末だなあって思って。」

「そうだね。僕も楽しいよ。」

楽しい?その一言に思わず斜め上を見上げた。
こちらを見下ろしていた萩原さんが何?っていう風に首を倒す。
表情はゆるく、会社で見るよりずっと優しそうで。
決して気を遣って言ってくれてる風にも見えない。

「どうしたの?」

「うれしくて。楽しいってサラリと言ってくれたその言葉がうれしくて。」

「僕は、そう思ってるけど・・・・。どうかした?」

「そんなこと、あんまり言われたことがないから・・・ありがとうございます。きっと萩原さんのおかげです。初対面の人でも話ができる人なんですね。うらやましいです。」

そう、萩原さんが雰囲気を作ってくれるのが上手なんだと思う。
ほとんど知らない人なのに緊張を超えて少しリラックスして一緒にいれるなんて。
何度会っても緊張が先に立ちなかなか落ち着けない人ばかりだった。
ポツポツとそんなことを話した。

「昔お付き合いした人にははっきり『合わないね』って言われました。」

最後にはそんなことも話してしまっていた。
そんな痛い話までして・・・・お酒飲みすぎたかな・・・・。
脳内の奥で反省してる自分を意識する。
話しやすいって・・・・愚痴まで言ってどうするのよ。きっと呆れられる。

「そんなにそいつが好きだった?そんなに合わせたいって思える奴だった?自分らしさを出せずに相手の望むように振舞ってでも横に並んでいたかったの?」

萩原さんが少し硬い声で問い詰めるように聞いてきた。

「すみません。こんな話・・・忘れてください。」本当に愚痴です。

「忘れるのは僕じゃないよ。相川さんじゃないの?昔の彼氏の一言を引きずってるなんてもったいないよ、時間の無駄だよ。僕は今の時間はすごく貴重だと思ってるし、楽しいし。誘ってよかったと思ってるよ。『合わない』とも全然思ってない。むしろ・・・」

スッと涙が自分の手のひらに落ちた。
何に対する涙なのか自分でももう分からない。

それに気がついて言葉を止めた萩原さんが肩に手をおいて少し体を引き寄せるようにしてくれた。

「じゃあ、今日で忘れればいい。そんな言葉にとらわれるのは最後にすればいい。」

更にグッと体を引き寄せられて、その手でうつむいた私の頭を撫でてくれる。
呆れられたと思ったのにそれも違うみたい。
大きな手がゆっくりと暖かさをくれる。
少しもたれるようにして涙が止まるのを待つ。
萩原さんの肩を借りて涙を止める。

ふと我に返って恥ずかしくなって思わず体を起こすように離す。

「すみません。本当に、・・・・友達のように甘えてしまいました。」

「大丈夫だよ。すっきりしたかな?」

頭に置かれていたままの手がまたポンポンと私の上で跳ねる。
元気づけるようなその手をうれしく感じる。
何か自分の中の固くて冷たい塊がゆっくり溶け出して体から流れていったみたいに。
恥ずかしさを紛らわすようにグラスのお酒に口をつける。
空になったグラスを置くと、すかさずメニュー表を差し出されれる。

「料理もさっきので終わったし、そろそろ最後かな?」

最後は少し甘めのカクテルを頼んだ。
料理のお皿を片付けられてテーブルに明るい色のカクテルが置かれる。
このあと少し時間をおいてデザートがあるらしい。

「本当にすべて美味しかったです。」

「そうだね。デザートも楽しみだね。」

「はい。」

うれしくて萩原さんを見上げると顔に手を置かれた。

「ちょっと泣かせてしまった跡が・・・」

サラリと目の下を触られた。
恥ずかしくてうつむいて考えた。
決して濃くはないけどアイメイクが崩れてひどい顔かも。
恥ずかしい。

「すみません。少しおトイレに行ってきてもいいですか?」

うつ向いたまま化粧ポーチを手にしたら察してくれたらしい。
一度席を立ってもらい席を離れる。
まったく気にしてなかったけどお酒が結構足下に来てるみたいで、ふらりとよろめいて萩原さんに支えられる。

「大丈夫?飲みすぎた?」

「重ね重ねすみません。油断してただけです。大丈夫です。」

歩くのには問題ない。できるだけしっかりとした姿勢でトイレに向かう。
鏡には満足そうな表情の自分。すっごく素敵な時間だった。
目じりのお化粧もそれほど崩れてる訳ではなかった。
涙の跡も分からないくらい。
軽く整えて席に戻る。足下は大丈夫だけど少し眠い。
今日はいい夢を見れそう。思わず笑顔になる。
私が帰ってくるのに気がついた萩原さんが席を立つ。

「大丈夫そうだね。」

「はい。」元気な声が出た。笑顔も。

テーブルにはデザートが置かれていた。

「わあ、やっぱり美味しそうです。お待たせしました。」

席に座らずに立ったまま視線を萩原さんに向ける。
座ってる時より距離もあって視線も合わせられる。
今更にこの席はなかなかの密着度がある。
それでも又奥に座り横並びになる。
頼んでいた紅茶もいい香りがする。

「そんなにうれしそうな顔をされると僕もうれしいよ。」

「はい、とても・・・おいしそうです。」

小さなデザートが数種類、きれいに盛られて大きな白いお皿に美しくもおいしそうな絵を描いている。
思わずため息が出る。
アイスから少しづつ崩して食べる。
良かった、待たせてる間に溶けたら残念だもん。大丈夫。美味しい。
隣で同じように萩原さんも食べ始めた。

「萩原さん、甘いものも好きですか?」

「まあ、一人で食べることはないけどね。」

「じゃあ、デート限定ですか?」

「・・・・ん・・・・・そうかな。」

なにか一息吸い込みながら答える萩原さん。
私はもうマイペースにデザートに向き合っていた。
笑って泣いてまた笑って。いつもよりたくさん喋って叱られて慰められて励まされて、いろんな感情が過ぎ去って何だかすっきり気分の私。
でも単に飲みすぎだったのかもしれない。
紅茶を飲んでこれ以上ないくらい心が満たされたころ、少しずつ瞼が重くなってきた。

「眠そうだね。」

「はい、ちょっとお腹いっぱいになって。」

電車で帰るつもりだったのに・・・・。
お店の人に呼んでもらったタクシーに乗り込んで、又つながれた手から萩原さんの温かさを感じ、いつの間にかゆっくりと落ちていった。

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