クールな見かけに惹かれましたが、何か間違いましたか?

羽月☆

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18 テレパシーの正確さに感動する ~萩原~

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ベッドわきに立ち、横になってる彼女を見下ろす。

「琴、いい加減に琴の独り言に慣れたほうがいいかなあ?まるっと全部聞こえてるよ。」

「キエッ・・・。」

独り言を聞かれたことに対する悲鳴か、自分の全裸を目の前にした悲鳴か。
目をぎゅっと閉じ、手で口をふさいでるから両方か。
さっきから目の前に立ってるのに無反応だとは思ったけど。
独り言の時はいろんな感覚が遮断されるらしい。
だからカフェでもあんなに長い時間ボケッとできるんだろう。

「疲れたけどすっきりしたなあ。琴お風呂に入ろう。」

伸びをして、その手で彼女のタオルケット剥いでやった。
マルッっと音がするくらいに体が丸まった。

「嫌です、どうぞお先に。後で入ります。一人で入れます。」

必死にタオルケットを引き寄せてかぶろうとする彼女。
まあそう言うだろうけど。

「体が痛いだろうからほぐしてあげるよ。おいでおいで。」

ブルブルと首を振る彼女。
ベッドに顎をのせて視線を合わせる。

「欲しい時は欲しいって言うことって言ったじゃん、たいていのことは努力するって言ったじゃん。」

「それを言ったのは萩原さんです。」

「残念、覚えてたか。だませるかと思ったのに。」

「体が痛くて動けなくて声も出なくて知恵熱も出て・・・。月曜日会社休む?」

ボケッと考える彼女。
きっと半分しか想像できないだろう。半分は言ってみただけだし。

「本当に、ほらっ。電気を消して暗くすれば平気平気?」

手を差し出すと見つめながらもゆっくりと手を出してきた。
慣れない猫を手なずけるのように、優しく優しく。
手を握ったら引っ張り上げ立たせる。

「大丈夫?痛くない?」

「うぅぅぅぅ。」

お腹に手を当てる琴。

「ほらちゃんと今のうちにほぐしてた方がいいから。」

方法は任せてほしいけどね。

お湯をためる間に髪の毛を洗い合う。
本当は体も洗いたいけど、今後の為に今日は控えめに。
先に湯船に入って彼女を呼ぶ。

「あっち向いててください。」

「はいはい。」

一緒に入ると抱きかかえるように座らせる。

「どこが一番つらい。脚?」

「背中と腰と脚です。」

さすがに本当に辛そうで手を出す気も失せた。

「お風呂から出たらマッサージしてあげる。いたずらは封印して大人しく温まろうね。」

グルッと彼女が向き直り睨む。

「ごめんね、琴のためだよ。またの機会に、こうご期待あれ。」

『やっぱり・・・・何か仕掛けてくるつもりだったんだ・・・。優しく手を引いてくれたからもしかしてって思ったけど、嬉しそうに歩くから何かあると思ってた・・・。』

「琴、独り言を言ったかな?なにか聞こえたような聞こえなかったような。」

「聞こえるようにはっきり言いました。」

「どうもベッドでかわいい声を聞きすぎて耳が満足して業務終了したみたいだ。誰のかわいい声聞いたんだっけかなあ?思い出せ思い出せ・・・・。一生懸命おねだりされたのに・・・・」

彼女の両手が耳をふさぐ。
彼女の両手をつかんで耳から離す。

「赤ずきんちゃんとおばあさん。」

何のこと?っていう顔をした彼女。

「どうしておばあさんの耳はそんなに大きいの?それはね・・・・赤ずきんちゃんのかわいいあの声をちゃぁ~んとぅぅぅぅ・・・。」

手を払われ、すかさず両手で口を塞がれた。
筋肉痛をものともせずに素早い動き。いいリハビリにもなる。

「もういいです。やめてください。」

「せっかく楽しい童話の時間だったのに。」

「『クールな営業部萩原』が台無しです。」

「いいよ。琴の前だけ別人説で。」

チロリとこちらをうかがう彼女。

「本当に今まで普通に生きてこられたんですか?」

「そんな普通とか普通じゃないとかって。仲良くなればこんなじゃれ合いしてるカップルはいるって。」

「・・・やっぱり今までの彼女の前でもキャラ崩壊してたんですね。」

「う~ん、それがまったく。いつでもクールに振舞えた。今回が絶賛変調中。」

「本当に?」

「やきもちがおいしそうに焦げ目がついて焼けてるなあ。食べごろですか?」

「・・・変態・・・。」

胸に這わせた手を払いながら言われた。

「おばあさんの手はどうしてそんなに大きいの?それはね・・・赤ずきんちゃんをたくさん気もぉぉぉぉぐぅ。」

めげずに胸におこうとした手を払われて、ついでに顔をグーで殴られた。痛い。

「琴~、何で殴るの~。」

「すみません、すみません。」

必死に殴った部分をさする彼女。
手を押さえてキスをした。

「隙あり!」

「ぎゃー。」いきなり叫ぶ彼女。

「もうさっきから、からかってばっかりで・・・・。心が落ち着かないです。」

「そう?楽しいじゃない。」

本当に自分でもなんだか分からないけど。変な調子の自分が馴染んできている。

「でも冷静に見たらただのバカップルです。」自分で言ってる。

「いいじゃん。あ、外じゃあダメだよ。あくまでも・・・」

「『クールな営業部萩原』ですね。はいはい。」

もはや漫才レベルのかけあいじゃないか?

「やっぱり会社じゃ知らんぷりですか?」

そうだった。話し合わないと。

「琴はどうしたい?一緒にお昼食べたり・・・他はあんまり接点ないけど。休憩室で待ち合わせとか?」

「・・・・・今はいいです。しばらく隠したいです。誰にも言いません。南田さんにも内緒でお願いします。」

「いいよ。でも、理由聞いていい?」

「言いたくありません。」

「ふ~、大体わかるって。『人の気持ちなんて先が見えないから不安!』ってことでしょ?」

「変な物真似いりません。」

ごまかすように言う彼女。でも表情が当たってると言ってる。

「当たってるでしょ?ごまかし無しで。」

「・・・はい。」しょんぼりとする彼女の肩に触れる。

お湯が冷めてしまった。体が冷えてしまう。

「もう出ようか。」

軽くシャワーで流してタオルを巻いて外に出る。

先に出て寝室の換気をする。
後ろから来た彼女が下着を拾い集めてバスルームにダッシュする。
忘れられたTシャツとパンツ。
拾ってバスルームの前に立つ。そろそろ気がついたかな?
ゆっくり扉が開いて・・・。驚いたような、なんとも間の抜けた顔をする。
勝手に真っ赤になり怒り自分の手から取り上げるようにしてまた扉が閉められた。
う~ん、ありがとうの言葉があってもいいよな。
ちょっと甘やかしてる気がする。

『笑顔と心遣い』
バイト先のあの店に連れて行ってオーナーに色紙をもらって来ようか。
腕組みして考える。
背後の扉が開き彼女が出てくる。

「あの、ありがとうございました。引き続きお借りします。」

こっちの思いを壁越しに察知した、なんてこともなく、照れてお礼が遅れただけだろう。
そんなズレにやられて思わず可愛さ3倍増しで見てしまう。
だから甘やかす。依然としてこじれてる自分の恋愛脳。

「喉は大丈夫?」

「・・・はい。・・・」

「長風呂で大分蒸気吸い込んだしね。」

え?そのためのあの時間だったの・・・という声が聞こえそうな顔をする。

「勿論、無駄なことはしませんよ。なんせ『できる男クールな営業部萩原』です。」

「何も言ってません。あと自分で名前に冠つける人初めて見ました。」

「誰もつけてくれないからね。」

お湯を沸かして紅茶をいれる。スコーンをおいしく食べるために茶葉はインスタントじゃないものを買っている。
暖めたポットに茶葉を入れて運ぶ。

「で、さっきの話、どのくらい付き合い続ければ琴は自信を持ってオープンに出来そうなの?」

「そういわれても具体的には・・・・相手にもよるし長さよりも深さというか親密度というか・・・・。」

「う~ん、なるほど。もっと濃密に深く深く長い夜をいっぱいいっぱい使っていろんな愛し合い方を希望する。要約するとこういうこと?」

「なんでそうなるんですか?」真っ赤になって否定する。

「冷静に考えて、そうじゃない?だって多分琴のペースから行くと数時間で結構・・・・数か月分くらいは進んだつもりだけど?どう?」

確かにと納得する表情。

「まあ、いいよ。今はとりあえず二人の秘密で。アイコンタクトでどれだけ我慢できるか。ランチは・・・、南田がついてくるから、もれなくおまけもついてくるし。諦めて。」

「はい、友達と今まで通り食べます。」

「ねえ、ランチの時、俺が女性としゃべってるの見たことある?」

考える様子の彼女。

「ないです。」

「でしょう。だから美味しくない餅は焼かないでもいいよ。」

「・・・・はい。」

「会社の人からその・・・言い寄られたことないんですか?」

「真面目なのはないよ。飲み会でなら軽く何度か誘われたことはあるけど。あの噂が自分を守ってくれてる、なんてね。」

「軽く誘われたらどうするんですか?」

「なんだか網を取りかえて、新しい餅を並べそうだけど。」

「真面目に答えてください!」

「勿論だよ。『軽く断る』以上。『クールな営業部萩原』は態度もクールってことで。」

考え込む彼女。  

「『本当にクール振って完璧な二重人格!猫かぶりの二人羽織め!』どう、合ってた?」

「声まで真似ようとする努力はいりません。内容はまあまあ。そんな二重人格と二人羽織って細かいところは合ってませんが。猫はまあまあです。」

「驚かないの?」

「何がですか?」

「テレパシー能力の高さ。」

「はあ・・・・・。」

「結構感動するけどなあ~。普通できる?昨日初めて会話したんだよ。」

「うう・・・ん。そこはできる男なんたらの萩原さんとサトラレやすい私の問題とか?。」

「なんたら呼ばわりが悲しいけど、違うと思う。これが積もり積もって『合う』ってことだよ。阿吽の呼吸。一日にして長年連れ添った夫婦のような感じ。」

「そんな急に声まで変えられて真面目に言われたら・・・大好きとしか言えません。」

どんどん小さな声になる彼女。

「どうぞ、大きな声で。おばあさんの耳は寝室以外での声は聞こえにくくて。」

今度は最後まで言えた、満足。でも止められないのもちょっと物足りないと思ってしまう。
彼女はまだ何か考えてる表情で。

「本当に大好きです。でも本当にいいんですか、私で。」

「私がいいんです。」

ふんわりと抱き合う。

何とも心地いい彼女を見つけた。

強情なところもあるけど本当は自信がなく脆い、無礼そうに振舞いながらも照れながら反省をくり返すかわいい彼女。ギャップがあるのはお互い様。
愛し合うときはぐっと貪欲に自分を求め翻弄してくる。
いまだに信じられないくらいの変貌ぶりにのせられてつい頑張ってしまう。

じつに面白いじゃないか。



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