紹介し忘れましたが、これが兄です。

羽月☆

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26 初めましてイチロです

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ぼんやりと思ってた。
どんなご両親に育てられたらあんな仲が良くて楽しい優しい人たちになるのか。
春日兄妹。
仕事で疲れている私をかなりのヒーリングパワーで癒してくれる二人。


「お帰り、テツ、ハルヒ。いらっしゃい、奈央さん。どうぞ上がってください。」

最初に玄関に出てきてくれたお母さんは普通で。
個性的に明るいわけでも、甘えん坊のような甘さもなく。
普通の人、お上品なお母さん。

ちょっとがっかりというくらい期待は裏切られて。

今日はハルヒちゃんがずっと報告していたせいで・・・おかげで?噂の彼女に会いたいと言い出したお母さん。
その言葉にイチが喜んで、二人の実家につれてきてもらった。

電車でも遠くない、近いのでびっくり。
手土産を買い、緊張した私。
でも楽しみのほうが勝ってたのに。

普通だった。

ただやっぱり優しそうで。私の緊張もちょっとほぐれて。
イチのうしろについて行って和室に通された。
勧められた座布団に。
普段正座なんてしないから・・・。
言われて足を楽にさせてもらった。

お持たせでごめんなさい、と言いながら手土産を出されて、皆で食べる。


「親父は?」

「うん、緊張して散歩に出かけた。」

「はぁ?何でだよ、ハルヒが彼氏連れてくるわけじゃないよ、俺が彼女連れてきたんだけど。」

確かに娘の彼氏に会うより気分は楽なはず。

「寂しいのよ、お父さんも。」

本気ですか?何故ですか?息子ですが・・・・。いい年です。
そして誰も突っ込まない。
そういうお父さん?それとも、そういう家族力?

どっち?


「昨日までは楽しみにしてて、『美人ナースなんていいなあ。』なんてのんきに鼻の下伸ばして言ってたのに。もう、ごめんなさいね、奈央さん。もうすぐ帰ってくると思うから。」

「はい。・・・・。」

お茶を飲んで二人の仕事や学校のことを聞いたりして時々私にも話を振られて。
しばらくしたら玄関で音がした。

スリッパの音がして登場したのは。
もちろん二人のお父様。


あ、こっちだったのか・・・・。

見た瞬間納得。優しい癒し顔。既にゆるんでる。
見てる私の緊張をとるような顔立ち。

「こんにちは。遅刻してすみません。へへ。」

いろいろと変、だから確実にこっちの遺伝子が強かったみたい・・・・・。

「大人なんですからきちんと挨拶してください。しっかり背筋も伸ばして。」

お母さんがピシャリ。

座ったお父さんの腰と背中が伸びた。
大人の挨拶が続きそうな雰囲気になった。

「はい、ハルヒとテツの父親の一路です。『イチロ』と呼んでください。」

・・・いや・・・呼びません。
今のは、大人の挨拶でしたか?


「こちらこそ、お邪魔してます。鶴来奈央です。よろしくお願いします。」

なんだかすごく自分が大人のふるまいをしてる気がする。
大体ここはイチが私を紹介するところでしょう?

「でも、本当にお会いできてうれしいです。二人がお世話になっているようで。特にテツが甘えてると聞いてます。うらやましいです。もう、本当に子供のような子供で。誰に似たんでしょう?」

・・・・お父さんでは? 今、余分な一言もありましたし。

ハルヒちゃんとイチが無反応ですが。さりげなく見るとお土産満喫中。

イチには彼女を紹介するというノルマともいえる大人の常識が抜けているらしい。
本当に現在の彼女を連れてきただけ、そういうこと?
それでも正面のお父さんのニコニコの笑顔に私も笑顔になる。

「いえ、こちらこそ、いつも仕事の疲れを吹き飛ばすような元気を二人にもらってます。」

「役に立てて何よりです。ハルヒの隣の部屋とは本当に偶然ですね。」

ん?そういうことになってるの?逆のような気がするけど。

「はい。」一応話をあわせる。

「お父さん、何度も説明したのに・・・・。大体どこまで散歩に行ってたの?どうせお寺の克己おじさんに愚痴言ってたんでしょう?本当に弱虫一路君なんだから。」

ハルヒちゃんがはっきり言う。

「親父、奈央をがっかりさせないでよね。さっきさり気なくうらやましいとか言ってるし。奈央に甘えないでね。」

ちゃんと聞いてたらしい。

「そんな・・・想像しただけだよ、テツが子供のころ母さんに甘えてたように甘えてるんじゃないかなあって。」

「何でだよ、恥ずかしいこと言うなよ。失礼だし!!」

そうは間違ってない気もする?

「はぁ~、奈央さん、ごめんなさいね。テツはこんな父に似ないように育てたつもりだけど・・・こうなったら・・・諦めてね。」

「いえ・・・そんな・・・・。」

苦笑い。
大体今でもうっすら片鱗見えてます。
・・・・先の事を言われても分かりませんが。

でも本当に緊張する必要なさそうで。

なんだかんだと言いながらハルヒちゃんがお菓子をお父さんに取り分けてあげている。
仲のいい家族。
私の事も聞かれたけど仕事の事と実家の場所と両親の健在を確認されたくらいで。

「こんど奈央の実家にも挨拶に行かなきゃ。」

えっ。
まあ、遠くはないです。
さすがにこちらほどではないですがのんびり行っても電車で2時間以内に着きます、日帰り余裕ですが。

「そうよ、早くきちんと挨拶してらっしゃい。」

「あの・・・うちの両親はびっくりするので、もう少し後でも大丈夫です、はい。」

「でもテツでは微妙だけど、話だけを聞いてるより安心してもらえるかもしれないじゃない。ハルヒも一緒に行ったら?」

それこそなんで?友達紹介みたいじゃない。

「うん、兄さん一人じゃ緊張して手足が一緒に動きそう。一緒に行ってあげてもいいよ。」

「いらない。2人で行く。ね、奈央。」

いやいやいや・・・後でよくよく相談しましょう、その件は。

「ね、奈央。もしかして全然僕の事言ってないの?」

「うっ。」

何で今聞くの。ごまかせない。

「あ・・あんまり・・・・。」

「え~、僕なんかちゃんとその日といわず数時間後にはハルヒに報告したのに。」

あんな恥ずかしいあからさまなやり取り・・・。
それ以上言うべきではありません。視線に力を籠める。

「ダメだよ、そんな目をしても。行くからね。」

勘違いされたようで勝手に予定された。

「・・・よろしくお願いします。」

両親の前だからそう言うしかなかった。取りあえず後で話し合おう。
喜んでくれるのは確か。・・・でも絶対聞かれる。
「式はいつごろと思ってるのかな?」とか、「籍を先にいれるのか?」とか。
挨拶って、わざわざ結婚以外で実家に帰るとは思ってないと思う。


先に一応言うけど、そんな風に見てしまうと思う、期待してしまうと思う。
そしてそう見られてるのはイチも感じると思うし。

まだ・・早いから。
そんな・・・・ないから。


取りあえず顔をあげた。
イチを見るとちょっとだけ困った顔をしていた。


何?・・・えっと・・・・。
ゆっくり笑顔になったのでそのまま私も安心した。

数時間過ごして帰ることにした。


「奈央さん、また来てくださいね。」

そう言ってくれたお母さんの後ろでブンブンと両手を大きく振るお父さん。
本当に思わず笑顔になる。
私の視線を追ったお母さんが振り返り、お父さんがスリッパをはいた足を引込めて痛そうな顔をした。
声も出てた。

「痛いっ。」

「お邪魔いたしました。ごちそうさまでした。」

1人大人らしく挨拶をしたけど、さっきから笑顔のままで。

「じゃあね、母さん、親父。」イチ。

「また帰ってくるね。続報は随時、こうご期待。」

ハルヒちゃんも笑いながら手を振って玄関を出た。

「奈央さん、家のお父さんとお兄ちゃん似てるよね。そう思ったよね。」

大きくうなずきそうになるけど笑顔でごまかした。

「なんだかお母さんはしっかりしてるみたいで、お父さんは・・・無邪気・・・?」

何とかしくっりくる言葉がひねり出せた。
天然とかとぼけてるとか変とか・・・そのほかにもいろいろ浮かんでは消して。
でもこれっていいかも。

「やっぱり似てるかも。」

もちろんイチとも、ハルヒちゃんとも。


途中の駅でハルヒちゃんと別れた。
嬉しそうに手を振るハルヒちゃんがどこに行くかは聞くまでもない。
そして私も一度イチの部屋に行くことにした。

「ありがとう、イチ。楽しかった。」

「そう?」

「うん。」

いつものようにソファでくつろぐ。

「お父さん面白い。」

「そうだよ、なんだかね。小さいころはもっと違ったような気がするんだけ。」

「似てる・・・。」

「・・・もしかして僕?」

「もしかしなくてもイチ。」

「ねえ奈央の両親は?どんな感じ。」

「普通、すごく普通だと思う。仲はいいよ。」

あのお父さんを見た後では普通です。
両親を無邪気だなんて思ったことはない。

「本当に何も言ってくれてないんだ。僕の事。」

「それは・・・・。」

だから何て言うの?好きな人がいるなんて話題を今、この年で?
だって本当に・・・・無理。

「いつぐらいならいい?」

「・・・まだ、分からない。」

男と女の差?それとも考え方の差?
それはなかなか分かってもらえないのかとがっかりしつつ、思った。

「奈央、ねえ、今週末一緒にデートしようね。僕が行きたいところ付き合ってもらっていい?ご飯も予約するから。」

「うん、任せる。」

「そう?」

顔を見て視線を合わせる。

「うん、楽しみ。」

そう言った私の言葉は終わらないうちに塞がれたけど伝わったのは分かってる。
大好きなのに、伝わらないこともある。伝えられないことも。

今が続けばいいと思う、ずっと、このまま。

「奈央はしっかり者だけど、・・・時々とぼけるよね。」

途中で言われた。

「な・・・に?」

息ががってるから。聞く声もささやく声で。

「何でもないよ。集中していいよ。」

先に言いだしたくせに・・・。



まだまだ熱のひかない体を抱きしめられて。
まどろんでぼんやりしてる頭の上。

「奈央、どうしてなんだろう?何か足りない?」

何?聞いてるの?
本当につぶやくように言われて、私もちょっと意識がぼんやりしてて。

その後は言葉が続かなかったのか、私が眠ってしまったのか。
起きても何も聞かれなかったので思い出しもせず。


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