苦手なものを克服する一番いい方法は?

羽月☆

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20 太郎とご対面・・・のついでに他の人々とも。

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土曜日と日曜日、一緒に過ごそう。
土曜日、太郎と散歩しようと誘われた。

「太郎を紹介するよ。」

「はい。楽しみです。」

そう言って駅まで迎えに来てもらった。
ロータリーに太郎と一緒にいてくれて、すぐにわかった。

「お待たせしました、郷里さん。太郎君、初めまして。」

座り込んで頭を撫でた。
何でこんな笑い顔なんだろう。
黒い目も可愛いし、ちょっと口が開いた笑い顔はうれしい。
でもさすがに毛は硬い。
ちょっとだけ暖かい。
そしてそれなりに犬の匂いがする。
太郎と比べられた私・・・・ちょっとどう?
郷里さんを見上げたけど、さっぱり気がついてない。

「阿里ちゃん、行こうか?」

そう言って太郎に案内されるように歩き出した。
一緒にランチをと約束はしていた。

「太郎も入れるカフェを見つけたんだ。天気もいいしテラス席で食べよう。」

「はい。太郎君のご飯は?」

「おやつを持ってきてる。朝食べさせたし、あとは夜ご飯でいいんだ。」

名前を呼ばれるたびに太郎がこっちを振り向いて笑顔を向ける。

「いつも笑顔ですね。」

「癒される?」

「はい。」

「だよね。寂し時は抱きついて、話かけて、お世話になったなあ。」

「これで人間の言葉が喋れたら、椎名ちゃんにボロボロと漏らされてたかもしれませんね。」

「どうだろうね。呆れて言いつけてるかも。でも、椎名の分も教えてくれるかも。今日は潤君と会って一緒に勉強してるみたいだし。」

「勉強ですか。さすがですね。」

「真面目に勉強してるのかな?」

「成績が上がったら今度も何かご褒美をってねだられたりするかもしれませんね。」

「そうだね。潤君のためにおしゃれをしたいかもね。」



「ここだね。」

「太郎君、ここから入るの?」

どこまでも案内する太郎。

「犬の匂いがするのかなあ?」

「中のお店の人に声かけてきます。」

メニュー表をもらって席に戻る。
すっかり太郎は伏せの姿勢で休んでる。
お水をもらったらしい。折り畳みのコップと小さい水筒があった。
満足そうに笑顔のまま目を閉じてる。

「疲れたんでしょうか?」

「ううん、いつもは二時間くらい平気で歩くから。気を利かせて聞かないふりだよ。」

別にそんな聞かれて困る会話をするつもりはないのに。
真顔で言ってる郷里さん。

テーブルにはおやつが乗ってるけど、いらないらしい。食事をしてまったりする。

「一人だとテラス席なんて絶対使わないです。気持ちいいですね。」

「そうだね。美味しいしね。」

ガレットとハンバーグ、少し交換して食べた。

「椎名ちゃんと一緒に散歩することもあるんですか?」

「ないよ。だいたい当番制だから一緒には行かないね。今まで週末も暇だったからだいたいは週末は自分が行ってたんだけどね。今度は父親も当番制に入れるって言ってる。母親の手伝いも父親に参加させるつもりらしい。」

「・・・そうなんですか?お父さん嫌がらなければいいですね。」

「椎名にお願いする週末が増えたら太郎係以外にも手伝いの負担が増えるから、今の内にローテーションに入れるらしい。」

それは私のせいみたいですが、半分はそうかも。
本当に何も気にしてないみたいに言う郷里さん。

「でも母親はご飯の準備は変わらないみたい。三人分も四人分も一緒だって。二人の時は外に出るって言ってる。たまには楽したいって。」

「毎日のことですもんね。」

「本当、子どもは当たり前だと思うよね。何度か母親が風邪で食事が作れない時があっても、三人でワクワクしながら出前を選んだけどね。」

「やっと元気になったら洗濯物が山になってたりしたんでしょうか?」

「そうだね。」

「なんだか気の毒ですね。お父さんが手伝うのもいいかもしれませんね。」

「阿里ちゃんの家は?」

「あんまり偉そうに言えないです。家もお母さんが一人で全部してました。お父さんも私も全然役立たずです。」

「今は作ってるのに?」

「本当に時々です。一人暮らしして始めました。」

「ねえ、阿里ちゃんはお家の人に何も聞かれないの?」

「何をですか?」

何となく、思いあたったけど、聞いてみた。
郷里さんが困った顔をしてる。

「今日うちまで一緒に来てもらえると、多分両親がいるし、紹介できると思うんだけど。嫌かな?・・・・お付き合いしてますって報告だけだよ。」

しばらく見つめ合う。

下の方から太郎がワンと声をかけてきた。

『行こう!』

そう言われたんだろうか?

『おやつがあるって言われてたの忘れてた!』かもしれない。

「急にお邪魔してもいいんでしょうか?」

「大丈夫だよ。ご飯も食べてるし、何もいらないよね。お茶くらいなら出せるし。」

太郎が足をテーブルにかけて半立ちになった。
視線の先にはおやつの袋があった。
やっぱりおやつを思い出しただけらしい。

「じゃあ、お邪魔します。よろしくお願いします。」

「うん。太郎、おやつにしようか。」

そう言って足を下ろして、お座りした太郎におやつをあげる。
やっぱり笑顔の太郎。

「デザートもあるけど、食べる?」

「無理です。」

緊張してきたのに。

「じゃあ、今度ね。あ、夜でもいいか。また明日まで一緒にいてもいいかな?」

「はい。」

もちろんそのつもりで、部屋もちょっと掃除してきましたし。
他にもいろいろ。

太郎の食事が終わるのを待って、立ち上がって歩き出した。
まっすぐ先を行く太郎、今度はもちろん家へ。

明るい色の一軒家に入り玄関でただいまを言い、太郎は足を拭かれたら、待ちきれずに飛び出していく。
椎名ちゃんが出てきたみたい、声がする。
郷里さんは椎名ちゃんがいたことにちょっと驚き、椎名ちゃんは私がいたことに驚く。

誘われるまま挨拶をして皆の前に。
お父さんらしき人はいなくて、代わりに可愛い男の子。
テーブルの上には勉強道具と食べ終わったプリン。
噂の潤君だった。
可愛い椎名ちゃんと並んでも似合う可愛い男の子だった。
優しそう。

お互いに紹介してもらった。
お母さんには挨拶できた。同じ会社の後輩だと。それだけ。

しばらく郷里さんと椎名ちゃんがしゃべり、すぐに明日まで留守にするとお母さんに言った郷里さん。
それはこっそりお願いしたい・・・・・。
ただ、誰も気にしないらしい。

椎名ちゃんが二階の部屋に潤君と行って、三人が残された。
二人がいたところに太郎がお座りして会話に加わってるみたいになった。

「なんだか急に家族が増えたみたいじゃない?」

お母さんがそう言う。

「椎名はここで勉強してたの?」

「そう。仲良く、いろいろ教えてもらって楽しそうだった。」

「てっきり図書館とか行くんだと思ってた。」


「阿里さん、文土が邪魔なときはハッキリ言っていいのよ。お友達と遊びたかったりするでしょう?」

「え、いえ・・・・、大丈夫です。」

「そんな事言われたら大人しく太郎と遊ぶし。阿里ちゃん、ちゃんと言っていいからね。」

郷里さんにも言われた。
友達と遊んでいても夜には帰ってくるし。

「大丈夫です。」

笑顔で答えた。

「文土をよろしくね。椎名とこそこそしてると思ったら、いろいろ相談してたらしいじゃないの。」

「今はその話はやめてよ。」

そう郷里さんは言うけど、私も知ってる話ではないのかと思ったり。

「阿里さんのお家は遠いの?」

「はい。実家は神奈川の端です。」

「まあ、寂しいでしょうね?他に兄弟はいるの?」

「いえ、一人っ子です。」

「あらあら。文土、迷惑かけないのよ。一人きりのお嬢様なんだから。」

「もちろんだよ。」

大人しく話を聞いていた太郎が急に立ち上がった。
椎名ちゃん達が降りてきたらしい。

「じゃあ潤君を駅まで送ってくる。」

「気を付けて。」

「太郎もいく?」

ワンと返事をして急いで玄関に向かった太郎。

「お邪魔しました。」

潤君が挨拶をして出て行った。

「椎名の成績が上がるかも。少なくとも英語は。」

「やる気が出ればいいじゃない。」

「出てるでしょう?」

「まあね。父さんは帰ってこないかな?」

「あてに出来ないわね。」

「じゃあ、紹介は今度にするよ。」

「ごめんなさいね、阿里さん。文土が何も言ってなかったから。」

「いいえ、私も急にお邪魔いたしました。」

「どうせ文土に連れてこられたんでしょう?犬と一緒よね、大切な物は見せびらかしたいみたいで、二人とも太郎に似てるのよ。」

うなずいていいものかどうか。

「阿里ちゃん、部屋を見せる。二階へどうぞ。」

そう言われて一緒に二階へ上がる。
ずっと過ごしてきた部屋だろう。

何となく匂いが、文土さんの匂いだと分かるくらいにはする。
くるりと向き直られて、抱きしめられた。

「ねえ、椎名と潤君もちょっとくらい触れ合ったりしたと思う?二人で二階に行って、手をつないだり、抱きつくくらいしたと思うんだけど。」

そう思ってるなら、私たちもそう思われてると思わないんだろうか?
顔をのぞいたら軽くキスをされた。

「ちょっと荷物の準備をするね。すぐ終わるから、座ってて。」

そう言って大きなバッグに着替えを詰め始めた。

「ねえ、パジャマとか置いてっていい?」

「はい。全部、洗います。」

「じゃあ、二日分セットくらい。」

そう言って詰めたのにバッグはかなりスカスカで、もう一個小さなバッグに詰め直していた。男の人は楽でいい。

「郷里さん、本当にお母さんは変に思ってないですか?」

「何を?二人でここにいること?それとも紹介したこと?」

「違います、週末に私の部屋で過ごすことです。」

「だって一人暮らししろみたいな圧もあったんだよ。別にそんなの、喜んでるよ。聞いてみる?」

「いいです。」

そんなこと聞けるわけない、恥ずかしい。
あんまり気にしないことにした。本当に必要ないみたいな気もしてきた。
思いもかけず娘の彼氏と息子の彼女が集合した日。
そんな日を『急に家族が増えたみたい。』なんてのんびり言ってるお母さん。
あんまり驚かれることもない。
きっと娘と息子を信じてるんだろう。
お父さんはどんな人だろう?
会いたい気もする。
捲土重来のケンドさん。

「郷里さん、お父さんはどんな人ですか?」

「普通だけど。帰ってくるまで待つ?」

「いえ、大丈夫です。」

急いで首を振る。さっきまでは潤君もいたから何とか緊張も半分だったけど、一人だけ他人って辛い気がする。

「駅までの道で会ったら紹介するよ。」

「はい。」

郷里さんに似てるらしい。
確かに椎名ちゃんはお母さんに似ていた。
荷物を手に、一緒に一階へ降りた。

「父さんから連絡あった?」

「全然。当てにならないわよ。」

「阿里ちゃんが会いたかったみたいだけど、また今度にするよ。」

「阿里さん、ごめんなさいね。またいつでも来てね。椎名も喜ぶから。」

「はい。ありがとうございます。」

「じゃあ、行ってきます。明日の夕飯もいらない。」

「分かりました。阿里さん、文土をよろしくね。」

「はい・・・・・。お邪魔いたしました。」

お辞儀をして一緒に出て行く。
途中椎名ちゃんにも、そしてお父さんもに会うことはなく。
『ケンド』さんは本当に野武士のような人なんだろうかと想像だけが膨らむ。

電車に乗ってから言った。

「緊張しました。」

「そう?」

「大丈夫だよ。あの通り、楽な感じだから。」

そうですね、とは言えない。

「椎名ちゃんはお母さんに似たんですね。潤君は郷里さんとは全く違うタイプの様ですけど。」

「そうだね。ラブレターを押し付けて逃げるくらいだからね。」

「なかなか、それは女の子のようなエピソードですね。」

「あの子だったら椎名が泣かせされることはなさそうだな、逆はあってもね。」

「どうでしょうか?」

見た感じはそうだけど、見た目とのギャップはお兄さんもあるし、椎名ちゃんもあるんじゃないですか?

月曜日、美沙子に報告したら驚かれるかも。
先週も隠せなくて、教えたら驚かれた。
今週早速お家に行って母妹に挨拶したなんて言ったら驚くかも。
『郷里さんも速攻型だっただろうけど、阿里もやるね。』
先週はそう言われた。
恥ずかしいけど、お礼を込めて教えた。
違う意味でも喜んでくれたみたい。

きっと原市さんの方にはバレてると思うから。

私の部屋に戻って、荷物を広げる郷里さん。
籠を一つ持って来た。
着替えを入れてもらって、クロスをかけておいてもらう。
ゆったりとソファに座ってくつろいでいる。
なんだか緊張感を無くしてくれる。
そんな事最初の最初はちらりとも思わなかったのに。

空いてる狭いスペースに入り込む。
自然に腕を回される。

「ありがとう。」

散歩の事?実家に来てくれたこと?泊めてあげること?

「はい。」

全部かもしれない。

返事はちょっと郷里さんの広い胸に吸い込まれた。

「ねえ、原市に何か聞かれた?」

あれから滅多に来なくなった。
美沙子には先輩に疑われたとは伝えた。
それが伝わったからだろうか?
郷里さんも言ったかもしれないとは思ってた。

先週から何度か軽くあいさつとちょっとだけ話をするだけだった。
前よりさっぱりと軽い話しかけだ。
それにさすがに最近は私もいろんな備品と仲良く出来ていて、そうそう手を借りることもない。

「特別なことは、何も。」

「先週、阿里ちゃんの部屋に、ここに泊まったってバレてたんだけど。」

あ・・・・・・、それは、きっと美沙子から。

「すみません。美沙子には正直に教えました。きちんと返事をして、ちょっとだけ長く一緒にいたと、隠さずに話してしまいました。」

「あ・・・・・そう。じゃあ、薄木さんが嬉しくて報告したのかもね。」

「多分・・・・すみませんでした。」

「別にいいよ。今更隠してもね。褒められたし。」

褒められた・・・・とは?

「薄木さんは何て言ってた?」

「ええっと・・・おめでとうと。うれしい、良かったと。」

それ以外は言えない。
顔を見られた。
嘘は言ってない。

全部言ってないだけ。
それだけ。

「郷里さん。」

甘えた声を出して首に縋りついてみた。

追及の視線は躱せたと思う。

「阿里ちゃん。」

郷里さんに名前を呼ばれて、大きな手に抱えられるように抱き寄せられた。
ごめんなさい・・・・。
心で謝った。でも変だとは思われてないから大丈夫です!

キスをしてもらいながら、目を開けて伝えた。

「郷里さん、大好きです。」

「うれしいな。もちろん僕も。」

押しつぶされると思ってた。
いつも自分を覆う影に、大きな分厚い壁に。
でもそんなに簡単に壁は倒れてこなくて。
もたれると太陽の熱を吸収した温かさで背中を支えてくれるだろう。
暑い日は日陰を作ってくれると思う。
風の強い日ならその勢いも冷たさも和らげてくれるはず。

そんなことに気がつくのにすごく時間がかかったけど、一度気がついたら絶対忘れない。
ずっと側に。
いつも守って欲しい。
もっともっと逞しい私になるまで。



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