苦手なものを克服する一番いい方法は?

羽月☆

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21 優しさに気がついてからは、いつも一番近くで感じてます。

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週末は一緒に過ごすのが当たり前になってきた。

朝目が覚めたときに、暗闇でうっすらと郷里さんが見えるのにもすっかり慣れた。


すごくよく寝てる。

硬そうな顎を触る。

チクチクと硬いひげがある。
一日で育つらしい。
顎から首は普通。チクチクはない。

太郎だったらここを撫でたら嬉しそうに顎を伸ばしてくれる。

指でなぞってキスをした。

首が太い。
たくましい。

顔を埋めるからすっかり馴染んでる気もする。

肩も腕も郷里さんらしい。

その厚みを指で確かめるように手を動かす。



「ん・・・・、太郎、くすぐったい。・・・・」

ん、なんで?

なんで太郎と間違えられた。どうして?

太郎を引き寄せたいらしく手が伸びる。
半分起き上がった私の体にたどり着いて、太郎とは違う手触りを確認してるらしい。

目が開いた。

ぼんやりからハッキリと。


暗がりで睨む私と起き抜けの郷里さん。


「太郎と間違えてましたよ。ちゃんと見えてますか?」

「・・・・あれ、なんだか顎をペロペロされて、くすぐったくて。阿里だった?ごめんね。」

誤魔化すように腰を抱え込まれて引き寄せられた。

すごく近い顔で見合ってる。

「・・・ペロペロなんてしてません。」

「ほんとに?」

「してません。」


「そっか、なんかくすぐったい感じだった。太郎が起こしに来たのかと思った。阿里だったんだ。じゃあ、起きようかなぁ。」


まだ早いけど、起こしたのは私だから文句は言わない。


それからまた一眠りして。いつもと同じ時間になった。



「椎名ちゃん、大学生になったら散歩もお手伝いもできなくなりますよ。」

「手伝いは父親にバトンを渡す気だし、散歩は空いてる時間に行くと思うよ。」



「どうしたの?急に。」



「ただ、週末は椎名ちゃんも潤君とデートしたいだろうと思って。」

「するよ、ほっといても。散歩もすると思うよ。」


「そうですか。」

郷里さんはまったく考えてないみたいだ。
時々だけど、平日にもここに泊まりに来てるのに。


会社では相変わらず静かに仕事をしてる。
美沙子も惚気けたい気持ちが落ちついて、私の恋愛もなんとなくうまくいってると先輩たちも思ってる。

まさか相手がすぐそこの人だなんて思ってないみたい。
まだバレてない。

会社では全く挨拶以外しない。
どちらかと言うと相変わらず喋るのは原市さん。
時々こそっと郷里さんネタを教えてくれるけど、すぐに郷里さんを見ることもしない。

本当に最初の頃のように鬼門レベルに見てない。

「気にしすぎじゃない?」

美沙子が言う。

「そうだよね。餌をおあずけにされてる太郎と同じ顔になってるのは面白いけど。」

そう言って笑う原市さん。

この狭い課内にバレるのは避けたい。


原市さんのときと違って誰にも聞かれない。うまく隠せてるんだと思う。


「会社じゃ目も合わないよね。たまに仕事を頼んでもなんだか嫌われてるみたいに見えると思う。」

「いいんです、それで。」

そう言ったら確かに太郎のお預けの顔になった。
ずっと郷里さんと呼んでるし、間違って馴れ馴れしく呼んだら皆が驚く。だいたい郷里です!って感じだから。文土さんも合ってるとは思うけど。


そう言えば捲土重来の捲土さんにも会った。
野武士とまでは行かなくても強そうだった。
でもお母さん 文さんとのやり取りではまったく強そうでもなかった。
郷里さんに『女はそのうち強くなる』と伝えた教えの通りなのかもしれない。


太郎の散歩のあと、何度かお邪魔してすっかり上がり込んで話もしてる。
いつもそのまま一緒に出かけて外泊のパターンだった。
すごくおおらかな家族でよかったと思う。
すっかり大人だし、そろそろなお年だし、そんなものだとは思うけど。
どう思われてるんだろうと考えるまでもなく、隠すこともしないために家族からは呆れられてる郷里さん。



春、仕事は二年目になる。
きっと新しい後輩が少しは入ってくるかもしれない。
何かが変わるだろうか?


原市さんが結婚するという話もちらりと郷里さんに聞いた。
全力でおめでとうございますと言いたい。
美沙子と何かサプライズが出来ないかと言っていたばかり。

「郷里さん、寂しいですか?」

そう聞いたら変な顔をされた。
冗談だけど。


原市さんにも相変わらず可愛がってもらってる。
それを面白く思ってない人がここにいる限り変わらないと思う。


やっぱり時々怖い顔になってるけど、今度後輩が来たら大丈夫だからって教えてあげてもいい。見た目よりはずっと優しいって。
ものすごく、とは教えられないけど、本当に印象よりはいい人だからって。

少しは信じてくれるかもしれない。

そう思って顔を上げたら珍しく離れた席にいる郷里さんと目が合った。
つい、うっかりだったけど、それよりも前に嬉しくて笑顔になった。
同じような表情を返してくれたかもしれない。
やばいと思う前に恥ずかしくて急いで顔を伏せた。
何となく笑顔がすぐに消えた気がした・・・かも。
怒ってない事を祈りたい。

怒ってても、いつもみたいに言い負かされて誤魔化されて忘れてくれることを信じてる。

やっぱりすごくすごく優しいとは・・・・私にだけだと思いたいから・・・・教えないと思う。
思ったよりは優しいって教えるだけにしよう。

でも、それだけ。


犬のネクタイのことも内緒。

ペットの桃太郎を可愛がってることも内緒。

妹には甘い事も内緒。

年下の妹に恋愛相談するような人だと言うことも内緒。



そしてどんな週末を過ごしてるかも絶対内緒!!


やっぱり自分から郷里さんの事について語るのはやめた方がいいみたい。
そんなに知らない先輩ってことにしよう。

いいよね・・・・、郷里さん。



最初に全く気がつかなかった優しさはやっぱり内緒でいい。
苦手だって思ってた頃には全く気がつかなかった優しさ。


時々目つきが悪くなる大きな先輩です。


それでもこっそり私だけは大好きなんです!

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