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11 水鳥~ランチをご馳走になって帰ってきた時間~
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「ただいま。」
「お帰り。」
まだまだ中途半端な時間。
リビングに顔を出した。
週末の両親は仲良く旅番組を見ていたらしい。
「はぁ~。」
「何でため息なのよ。奢りだったんでしょう?」
「うん。ご馳走してもらった。お酒もちょっとだけ飲んじゃった。」
「昼から羨ましいわね。」
「へへへっ。」
「お兄ちゃんからは全く連絡がない。私の事なんて思い出してもくれないのかも。」
「デート中なのかしらね?」
「多分そうだと思うけど。ここでもたもたしてたら、お兄ちゃんはこの先しばらく一人だよ。」
「水鳥は前の人にも会ったことあるの?」
「ないよ。写真も見せてもらってない。綺麗な人だったらしいよ。今回はもっと後輩感のあるかわいいタイプの人だった。だからタイプは全然違うかもしれないけどね。」
「気になるなら連絡してみれば。」
「邪魔だったら悪いじゃない。」
「じゃあ、明日にしなさい。」
「つまんない。中途半端に知ってるから、何だかむずむずしてる。漫画の盛り上がりのところで、続きを読めない感じ。」
本当に軽い報告もないんだろうか?
「そういう水鳥は、自分のことはどうなの?」
お母さんからの攻撃が来た。
「あ~あ、それはまあ、お兄ちゃんよりずっと若いから、まだいい。」
「幸せが有り余って分けてあげたいって訳じゃないのね。」
「ないない、まったくない。逆に誰かの幸せにあやかりたいくらい。」
「あ~あ、今年も静かに一年で最高に楽しい季節を迎えそう。」
「去年もそんな事言って友達と騒いでたんでしょう?」
「しょうがない。大切な一人と二人きりより、そんな人がいない人大勢の中の一人だったから。」
「あ~あ、お兄ちゃんに何を買ってもらうか考えて楽しもう。奮発してくれるかも。」
「なるほどね。」
「どうせ私はまた誰かの家でパーティーだから、お父さんとお母さんは二人で外に行ってもいいよ。最悪留守番でもいいから。」
「まあ、その時はそうするね。」
「はいはい、どうぞどうぞ~。」
お父さんが母娘の会話を聞きながら、悲しそうな目で私を見た。
まさか同情じゃないよね、寂しいんだよね?
娘が両親より友達を選ぶ宣言したのが寂しいんだよね?
まだ友達だからいいじゃん。
安心していいんだから。
部屋に戻って勉強をした。
せめてデザートの分の糖分は消費しよう。
頭を使って消費しよう。
ただ集中力が出るわけもなく。
思考があちこちに飛んでしまう。
あと少し。
学生身分もあと少し。
受験をして大学に入ってからもあっという間だった。
来年の今頃は落ち着いて最後の余力で遊んでいられたらいいのに。
どうなるんだろう?
本当に言葉と噂だけでビビる『就活』
愛想ならそこそこ、元気も出せる、緊張も慣れてくれば何とか乗り越えられるかも。
でもそんな私くらいのレベルは本当にどこにでもいるんだろう。
とびぬけてアピールできるところもないのに。
探して探して掘り起こして、見せるしかない。
ペンをクルクルと回しながら、やはり集中できなくて、そんな事を考えていた。
携帯が着信を知らせる。
『今日はありがとう。』
それは有田君からで。
その後続かないみたいだけど。
『ごちそうさまでした。』
そう送った。
携帯は手にしてたみたい。
見てくれてる。
で?終わりでいいの?
締めていいですか?
ここでバイバイって変じゃない?
あと一言くらいあった方がいいよね。
『また、美味しいものを食べれたらいいね。』
そう書いてみたけど。
送る前に電話がかかってきてビックリした。
何?何か用?
今度こそ相談?愚痴?何だろう?
「はい。」
『有田です。』
それはそうだろう。
他の誰かに携帯を貸してなければね。
「新藤です。」
私は誰にも貸してないし。
「ごちそうさま。ハチミツのお酒も優しい甘さで美味しかったね。」
『うん、良かった。』
「何か相談があった?」
『・・・・うん。』
あったんだ。私じゃないといけない相談なの?
今日のあの時間じゃ言い出せなかった?
考える。
言い出しやすいように、当ててみてもいいけど・・・難しい。
『今日も言えなくて、この間、少しは酔っぱらったら言えるかなって思ってたんだけど。本当に酔っぱらって、自分も残念だったし、友達もどうしたらいいのかなって思ってたんだと思う。盛り上がらなかったのは僕のせいなんだ。』
まあ、そうだよね。
はっきりとは言わないけどね。
『今日言えると思ったんだけど、なんだかお兄さんの話を聞いてて、もしかしてって思って。』
「お兄ちゃん?何だろう?何?」
ますますわからない。
「なんだろう?」
もう一度つぶやいた。
『新藤さん、好きな人いるの?付き合ってる人、いるの?』
何でそんな話になる?お兄ちゃんの話はどこ行った?
「いないけど。週末も空いてるって言ったけど。・・・・ちなみにこの間の飲みのメンバーも誰もいないよ。」
ちょっとだけ、あれ?って思ったけど、それでもまだ違う言葉が続くかもと思って、他の友達の事を追加情報にしてみた。
『じゃあ、僕と付き合ってもらえませんか。今までの様な友達より、もっと違う感じで・・・・、そう言いたかったんです。』
電話じゃわからないだろうけど、私は今かなり体温が上がってる。顔も赤い。
言い切ってホッとしてるだろう有田君の代わりに、こっちがドキドキしてきた。
有田君の彼女になる?どう?
だって今までもそんなに二人で話したことなんてなかったじゃない。
大勢の中の二人で、時々隣にいて、お兄ちゃんとちなみさんみたいな傘の貸し借りなんてなかったし・・・・・、ってあった、あった。あったことになる?あれの事?
前にグループでいる時にお店から出て雨が降ってたことがあった。
適当にその辺の傘を持ってた誰かの傘に入った。
もう合い合い傘の相手が誰でも濡れないようにくっついた。
私だけじゃない、みんなそんな感じで三人組が出来上がってた。
ちょうど隣にいて開かれた傘に入った。
他にももう一人反対側に入った。三人で固まって濡れないように頑張った。
まあ、濡れたけどね。
駅に滑り込んで、体を離してお礼を言った。
そんな事はあった。ただ、他の人ともあったと思う、あと一二回はあったと思う。
それが・・・なに?
お兄ちゃんの話が、何?
ん???
「有田君、お兄ちゃんの話は、何の関係があるの?」
ちょっと疑問に思って聞いてみた。
その辺のきっかけもお揃いに出来たらいいなあって、私が思うと思った?
そんなこと思う?
『お兄さんともう一人と泊ったホテル、そんな事にも詳しいんだと思って。次の朝にモーニングが美味しい場所まで知ってるって。じゃあ・・・・。』
「じゃあ?」
『誰と行ったんだろう、最近も行ったのかなあって、本当に大好きな人と行ったんだろうなあって。』
ああああ・・・・・・。なるほど、そう来たか・・・・。
「それは友達に聞いたんだよ。モーニングの場所も教えてもらってて、たまたま覚えてたから。」
まさか携帯のメモ機能にちゃんとメモしてるなんて言いにくいから、記憶力のいい振りをする、思い出せて検索できたと思ってもらいたい。
『そうなんだ。』
ため息と一緒に聞こえた声。
「傘の話は関係ないの?前に一度一緒にいれてもらったことあったよね。」
『一度と半分あるよ。』
「半分って何?」
「途中他の奴の傘に走って行ったよね?」
覚えてない。
あったかな?
記憶力がいいのは有田君らしい。
「・・・・多分悪いと思ったんじゃないかな?」
『呼ばれたら、嬉しそうに返事して走って行ったよ。』
「本当に覚えてない。誰?」
『・・・・・。』
「嘘?」
『そんな嘘つかないよ。それにもういいよ。』
「そうだね。お兄ちゃんもやるなあって思ったんだ。でもお兄ちゃんも困ってた人にいらない傘をあげただけで、すっかり忘れてたからね。」
『・・・・そう。』
あ・・・・つい、普通に話しをしてしまった。
結局、今はどういうこと?
お礼を言う?考えるという?
とりあえず、今はどうすればいい?
しばらく無言のままの二人。
自分が言うしかない。
「あの、ちょっと、また連絡していい?今は、ちょっとだけ、いろいろ頭が忙しくて、時間が欲しい。」
『・・・・じゃあ、待ってる。』
「うん、えっと、来週になるかも。」
『分かった。待ってる。』
待たれてるのは分かってる。
さり気なく待って欲しいと思う。
そんなに全力で待ってるアピールされたら、プレッシャーなんです。
とりあえず、じゃあとかごにょごにょと言いながら通話を終わりにした。
「う~ん、誰に相談したらいいの?」
こんな時こそ・・・・・お兄ちゃん?
友達に言っても、みんな実感がないと思う。
だって存在感薄いよね?そんなに目立ってないよね?
ちなみにそんなに仲良くなかったとすら思ってるけど。
誰もが驚いて、面白がりそう。
内緒は難しい。
じゃあ・・・・・・。
ああああ・・・・今日は無理。
明日は来週になる、カウントダウンで返事を待たれてると思う。
どうしよう・・・・。
二度も待ってるって言われたら、すごく焦るのに。
携帯を部屋に置いて、下に降りた。
夕飯の準備をするお母さんの横に行った。
「水鳥、お酒も飲んできたのにお腹空いたの?」
「ううん。別に。何となく、手伝おうと思っただけ。」
「ぼんやり立ち尽くして?手を洗って、これをお願いね。」
『お手伝い』の定番のようにジャガイモの皮むきがあったらしい。
一緒にピーラーも渡された。
「うれしい事あった?」
「なんで?別に嬉しいって訳じゃない・・・・と思う。」
「お兄ちゃんにお礼を言われて、ついでにおねだりでもしたのかと思ったのに。」
「何の連絡もない。」
本当に無い。
「じゃあ、何があったの?」
「何で、何かあったと思うの?」
「なんだか微妙な顔してるから。お兄ちゃんに彼女が出来て寂しいんじゃないとしたら、どうしたの?」
そう言われて、お父さんの姿を見ようと移動した。
和室にはいない、ソファにもいない。
「お父さんは車の掃除中。昼ご飯の後ワックス掛けたからふき取ってるわよ。内緒にしたいようなことなの?」
この際相談はお母さんでもいいかもしれない。
とりあえず様子見の相談をしてみた。
「今日ランチをごちそうしてくれた子に、さっき告白された。」
シンプルに言った。
「誰?」
「お母さんの知らない人。だって今までもそんなに仲良くなかったし。初めてこの間誘われて友達同士で飲んだの。」
「それで?」
「誘ったのにさっさと酔っぱらって、全然話もしてない。だからごめんねってお詫びに今日奢ってくれるって、そう誘われたの。」
「ふんふん。」
「昼の食事も今一つ盛り上がらなくて、さっきもう一度謝られて、そう言われた。金曜日の夜に言いたかったって。」
「まあ、びっくり。」
今更の驚きコメント。
わざとらしいくらい棒読みだったし。
「もっと本当に驚いてよ。私だってびっくりしてるんだから。」
「なんて返事したの?」
「考えるって。」
「そう言ったの?がっかりされなかった?」
「待ってるって言われた。」
そこでお母さんが無言になって鍋に集中した。
そこからのアドバイスが欲しいんだってば。
経過報告しかしてないよ、アドバイスは?大人の意見は?
鍋の中が一段落したらしい。
「よかったじゃない。これから盛り上がる時期だし、いいわねえ。寂しいなんて言ってたのに、十分間に合ったじゃない。」
「まだ返事してない。」
「嫌なの?断るの?」
「だからまだ考え中。」
「そうなの?もったいない。お兄ちゃんも彼女が出来ていっそう一人ぼっちじゃない。」
「別にお兄ちゃんは関係ないよ。」
「そこは仲良く二人で同時に付き合い始めた方が盛りあがるじゃない。」
それ必要?
お兄ちゃんと張り合うの?
大人だし、男だし、それにちなみさんは凄くラブラブ光線出してたから。
私が有田君の隣にいたとして、どう?
今日だって話があんまり弾まなくて。
変な誤解をしてたみたいだけど、それがなくなったらもっと盛り上がる?
断るのは申し訳ないと何故か思う。
だっていい人なのは知ってる。
穏やかだし、お父さん寄りのタイプだし。
じゃあ、何とかなる?
さっきから考えてるのに、少しもピンとこない。
結局お母さんに相談しても解決に至らなくて、もう後は友達しかない。
有田君を知ってる子で、一番口が堅そうな、信頼できる子・・・。
『あぐりちゃん、暇してない?忙しい?』
『暇だよ。どうしたの?』
『電話していい?』
『いいよ、部屋の中でダラダラ中。』
私だけじゃない、休日に部屋で過ごすモグラ族は、全然普通にいる。
だって学校の日は外に行くんだから。
何も予定がないときはそんな過ごし方も普通。
「ありがとう。ねえ、相談があるんだけど。」
『何?私で役に立つ?』
「うん、ちょっと参考意見を求めてます。」
『何?何?』
一呼吸して、心を落ち着けた。
「ねえ、・・・・・・・有田君、どう思う?」
『普通。』
それはそうだけど、その辺はもっと深く読み込んで、答えを導いて欲しい。
そう思ったら笑い声が聞こえてきた。
『普通にいい人、水鳥とはタイプは違うけど、いいと思うよ。楽しいんじゃない?』
ん?ものすごく誘導した?分かった?ばれた?
『この間誘われたでしょう?最初っから緊張してたじゃない。』
金曜日誘ったうちの一人だったあぐりちゃん。
その時の事だよね?
「それは金曜日の飲み会だよね?有田君が緊張してたって事?」
『そうだよ。せっかく目の前にいたのに、乾杯したらすぐに水鳥は席を離れたじゃない。』
「だって端っこだとつまんないじゃない。盛り上げるためにも動いたよ。」
それはいつもの事。
だいたい席で大人しくしてない。
好きなものは好きな場所で食べる飲む、そして喋る。
そんな働きが評価されて飲み会の幹事を頼まれることも時々あるし。
『あの時すごく寂しそうに水鳥を見て、お酒を飲んでたよ。』
「あぐりちゃんは有田君を見てたの?」
『だって、珍しいからね。どうしたのかなって、裏の目的を探るでしょう?』
「探らないよ。ただ飲みたいだけなんだと思ってた。騒ぎたいのかなって。」
『あの中に水鳥に勝負しそうな男の子はいなかったじゃない。全員ライバルにはならない、むしろ応援団を集めた感じだったよね。それなのに気がつかないで有田君から距離をとるからどうしようかって感じで。盛り上がる前に有田君が酔っぱらうし、じゃあ僕達は大人しくするしかないよねって感じだった。』
「他にそんな事言ってた子いた?」
『う~ん、いない。有田君に注目する子はいないから。心配ないよ、あの中にはライバルはいないよ。』
知らない。そんな事をあぐりちゃんが思っていたなんて、あの時ちょっとでも教えてくれたら・・・・・どうした?
有田君と話をしたかも。
大丈夫とか、優しく声をかけたかも。でもそんなのも観察される予定だったらしい。
『それで、電話でも来たの?』
「うん。お詫びにってランチしたんだけど、全然盛り上がらなくて。奢ってもらってお終い。その後電話が来て、もう一度謝られて、そんな事を言われてびっくりした。」
『おお~、思いきったね。水鳥が一人で改札とは逆に行ったのも見てたよ。あれからどうしたの?』
「あ、お兄ちゃんを見つけたから・・・・・、ちょっとそこは面白いことがあって、また教える。」
『そうなの?偶然だよね。ちゃんとお兄ちゃんを見つけたって有田君に教えたんだよね。』
「うん、全部教えた。」
まあ、それが原因でランチがしょぼしょぼの盛り上がりのない時間になったんだけど。
『ねえ、最初の相談に戻ろう。ずっと好きだって言われた?』
「・・・別に、そこは何とも。」
ずっとって、だいたい本当にあの日に気がついたの?
それともその前から、うすうす気がついてた?
『さりげなく近くにいるし、気がつかない水鳥も鈍い。でも他の子も気がついてないよね。有田君のアピール力が弱すぎる。』
「あぐりちゃんの洞察力を褒めた方がいい所?」
そう言ったら楽しそうに笑われた。
やっぱり薄々パターンらしい。
まったく気がついてないし、喋ってた?近くにいた?記憶にございません。
アピール力の前に存在感が薄いよ。
『いいじゃん。二人を足して割れば普通になるくらい。むしろ有田君が目を回すほど振り回してみたら?ふらふらになりながらもついて行きそう。想像できて面白い。』
「いい人なのは分かってる。」
『それだけ言われると本人はがっかりだと思うよ。意外に二人きりになると俺様だったりして。』
ないな、それはない。
『落ち着いたら披露して。みんなの驚く顔が見たい!』
相談タイムは終わりらしい。
『早く返事してあげれば。考えるより、行動あるのみ。』
「うん、わかった。じゃあ、もう少し整理して、返事する。」
『うん、良かったね。あの金曜日の飲み会の目的が達成されたら、あの場の人全員が喜ぶよ。』
そうなの?・・・そう・・・かも。
「ありがとう。じゃあ、またね。」
そう言って電話を終わりにした。
携帯を見た。
待ってるだろうなあ。
連絡したらびっくりしながら出るんだろうなあ。
私もそのくらいは想像できる。
振り回すのも、まあまあ想像できる。
多分、楽しいと・・・・そう思えてきた。
それでも連絡はしないで、下に降りた。
「あら、解決したの?」
お母さんに聞かれた。
「まだです。」
「人の事はガンガンと押せるのに、自分の事になるとやっぱり水鳥も怖気づくのね。」
「普通そうでしょう?お母さんはガンガン攻めたの?」
「だってお父さん相手よ、攻めないと進まないから。」
「ああ・・・・・・。」
お兄ちゃんもそう思われて、ちなみさんはあんなにくっついていたんだろうか?
酔った勢いで何とかしようと思ったんだろうか?
もう、有田君も寝てないで、酔った勢いを借りれば良かったのに・・・・って借りようとしたら飲み過ぎたって言ってたか。
限度を知らないと悲惨だなあ。
思わず笑顔になる。
「ほら、その笑顔で嬉しそうに、でもちょっと恥ずかしそうに返事してみたら?」
またお母さんに言われた。
攻めないとダメなタイプ、まあ、そっちだろう。
「うん、分かった。ちょっと連絡してみる。」
部屋で落ち着いた姿勢で座り、携帯を手にして、連絡した。
最初に結論を言ってしまったからか、無言のまま、時間が流れた。
「いいよ。」
そういきなり言ってしまったから。
なんだかもっと嬉しそうに照れながらって言われてたのに。
それすら忘れてた。
「あの・・・・、いろいろありがとう。すごくいい人だって知ってるし、一緒にいるのも嫌じゃないし、良かったら二人で遊びに行ったり、食事をしたりしたいなあって思って。」
さすがに照れた。
精一杯の表現だったけど、あんまり上手じゃないかも。
『こちらこそありがとう。ホッとした。自信はなかったし・・・・・。』
授業の合間にお茶したり、就職の相談もしたりしようと言い合った。
バイトはもう少し、就活が始まるまでするみたいだから。
連絡を取り合って、遊びに行ったりしようと約束した。
それでお互いに満足して、電話はお終いにした。
熱くなった携帯を置いて、しばらく目を閉じた。疲れた。
それでもすぐに連絡が来てビックリした。
冷え切らない携帯を見たら、お兄ちゃんだった。
『ちなみさんが水鳥にお礼を言って欲しいって、頼まれたから、伝える。』
『お兄ちゃんにもお礼を言われたい。』
『欲張るな。』
『そこをなんとか、結果はいい感じ?』
『ああ、また機会があったら会いたいって言ってたよ。』
『邪魔はしたくないけど、邪魔じゃない時は声かけて。就職の相談もしようかなあ。』
『まあ、その内に。何かあったら連絡しろよ。』
『はいは~い。お兄ちゃんもね。』
大きな何かはありましたがさすがに報告はしないよ。
結局兄妹同時スタートみたいじゃない。
でも大人には負けてあげよう。
勝つ気もしない。
だって有田君だし、私が押して攻めて振り回してお願いするしかないよね、ってそんな想像をして、あの広い部屋を思い出して・・・やっぱり、まだまだだって思った。
「お帰り。」
まだまだ中途半端な時間。
リビングに顔を出した。
週末の両親は仲良く旅番組を見ていたらしい。
「はぁ~。」
「何でため息なのよ。奢りだったんでしょう?」
「うん。ご馳走してもらった。お酒もちょっとだけ飲んじゃった。」
「昼から羨ましいわね。」
「へへへっ。」
「お兄ちゃんからは全く連絡がない。私の事なんて思い出してもくれないのかも。」
「デート中なのかしらね?」
「多分そうだと思うけど。ここでもたもたしてたら、お兄ちゃんはこの先しばらく一人だよ。」
「水鳥は前の人にも会ったことあるの?」
「ないよ。写真も見せてもらってない。綺麗な人だったらしいよ。今回はもっと後輩感のあるかわいいタイプの人だった。だからタイプは全然違うかもしれないけどね。」
「気になるなら連絡してみれば。」
「邪魔だったら悪いじゃない。」
「じゃあ、明日にしなさい。」
「つまんない。中途半端に知ってるから、何だかむずむずしてる。漫画の盛り上がりのところで、続きを読めない感じ。」
本当に軽い報告もないんだろうか?
「そういう水鳥は、自分のことはどうなの?」
お母さんからの攻撃が来た。
「あ~あ、それはまあ、お兄ちゃんよりずっと若いから、まだいい。」
「幸せが有り余って分けてあげたいって訳じゃないのね。」
「ないない、まったくない。逆に誰かの幸せにあやかりたいくらい。」
「あ~あ、今年も静かに一年で最高に楽しい季節を迎えそう。」
「去年もそんな事言って友達と騒いでたんでしょう?」
「しょうがない。大切な一人と二人きりより、そんな人がいない人大勢の中の一人だったから。」
「あ~あ、お兄ちゃんに何を買ってもらうか考えて楽しもう。奮発してくれるかも。」
「なるほどね。」
「どうせ私はまた誰かの家でパーティーだから、お父さんとお母さんは二人で外に行ってもいいよ。最悪留守番でもいいから。」
「まあ、その時はそうするね。」
「はいはい、どうぞどうぞ~。」
お父さんが母娘の会話を聞きながら、悲しそうな目で私を見た。
まさか同情じゃないよね、寂しいんだよね?
娘が両親より友達を選ぶ宣言したのが寂しいんだよね?
まだ友達だからいいじゃん。
安心していいんだから。
部屋に戻って勉強をした。
せめてデザートの分の糖分は消費しよう。
頭を使って消費しよう。
ただ集中力が出るわけもなく。
思考があちこちに飛んでしまう。
あと少し。
学生身分もあと少し。
受験をして大学に入ってからもあっという間だった。
来年の今頃は落ち着いて最後の余力で遊んでいられたらいいのに。
どうなるんだろう?
本当に言葉と噂だけでビビる『就活』
愛想ならそこそこ、元気も出せる、緊張も慣れてくれば何とか乗り越えられるかも。
でもそんな私くらいのレベルは本当にどこにでもいるんだろう。
とびぬけてアピールできるところもないのに。
探して探して掘り起こして、見せるしかない。
ペンをクルクルと回しながら、やはり集中できなくて、そんな事を考えていた。
携帯が着信を知らせる。
『今日はありがとう。』
それは有田君からで。
その後続かないみたいだけど。
『ごちそうさまでした。』
そう送った。
携帯は手にしてたみたい。
見てくれてる。
で?終わりでいいの?
締めていいですか?
ここでバイバイって変じゃない?
あと一言くらいあった方がいいよね。
『また、美味しいものを食べれたらいいね。』
そう書いてみたけど。
送る前に電話がかかってきてビックリした。
何?何か用?
今度こそ相談?愚痴?何だろう?
「はい。」
『有田です。』
それはそうだろう。
他の誰かに携帯を貸してなければね。
「新藤です。」
私は誰にも貸してないし。
「ごちそうさま。ハチミツのお酒も優しい甘さで美味しかったね。」
『うん、良かった。』
「何か相談があった?」
『・・・・うん。』
あったんだ。私じゃないといけない相談なの?
今日のあの時間じゃ言い出せなかった?
考える。
言い出しやすいように、当ててみてもいいけど・・・難しい。
『今日も言えなくて、この間、少しは酔っぱらったら言えるかなって思ってたんだけど。本当に酔っぱらって、自分も残念だったし、友達もどうしたらいいのかなって思ってたんだと思う。盛り上がらなかったのは僕のせいなんだ。』
まあ、そうだよね。
はっきりとは言わないけどね。
『今日言えると思ったんだけど、なんだかお兄さんの話を聞いてて、もしかしてって思って。』
「お兄ちゃん?何だろう?何?」
ますますわからない。
「なんだろう?」
もう一度つぶやいた。
『新藤さん、好きな人いるの?付き合ってる人、いるの?』
何でそんな話になる?お兄ちゃんの話はどこ行った?
「いないけど。週末も空いてるって言ったけど。・・・・ちなみにこの間の飲みのメンバーも誰もいないよ。」
ちょっとだけ、あれ?って思ったけど、それでもまだ違う言葉が続くかもと思って、他の友達の事を追加情報にしてみた。
『じゃあ、僕と付き合ってもらえませんか。今までの様な友達より、もっと違う感じで・・・・、そう言いたかったんです。』
電話じゃわからないだろうけど、私は今かなり体温が上がってる。顔も赤い。
言い切ってホッとしてるだろう有田君の代わりに、こっちがドキドキしてきた。
有田君の彼女になる?どう?
だって今までもそんなに二人で話したことなんてなかったじゃない。
大勢の中の二人で、時々隣にいて、お兄ちゃんとちなみさんみたいな傘の貸し借りなんてなかったし・・・・・、ってあった、あった。あったことになる?あれの事?
前にグループでいる時にお店から出て雨が降ってたことがあった。
適当にその辺の傘を持ってた誰かの傘に入った。
もう合い合い傘の相手が誰でも濡れないようにくっついた。
私だけじゃない、みんなそんな感じで三人組が出来上がってた。
ちょうど隣にいて開かれた傘に入った。
他にももう一人反対側に入った。三人で固まって濡れないように頑張った。
まあ、濡れたけどね。
駅に滑り込んで、体を離してお礼を言った。
そんな事はあった。ただ、他の人ともあったと思う、あと一二回はあったと思う。
それが・・・なに?
お兄ちゃんの話が、何?
ん???
「有田君、お兄ちゃんの話は、何の関係があるの?」
ちょっと疑問に思って聞いてみた。
その辺のきっかけもお揃いに出来たらいいなあって、私が思うと思った?
そんなこと思う?
『お兄さんともう一人と泊ったホテル、そんな事にも詳しいんだと思って。次の朝にモーニングが美味しい場所まで知ってるって。じゃあ・・・・。』
「じゃあ?」
『誰と行ったんだろう、最近も行ったのかなあって、本当に大好きな人と行ったんだろうなあって。』
ああああ・・・・・・。なるほど、そう来たか・・・・。
「それは友達に聞いたんだよ。モーニングの場所も教えてもらってて、たまたま覚えてたから。」
まさか携帯のメモ機能にちゃんとメモしてるなんて言いにくいから、記憶力のいい振りをする、思い出せて検索できたと思ってもらいたい。
『そうなんだ。』
ため息と一緒に聞こえた声。
「傘の話は関係ないの?前に一度一緒にいれてもらったことあったよね。」
『一度と半分あるよ。』
「半分って何?」
「途中他の奴の傘に走って行ったよね?」
覚えてない。
あったかな?
記憶力がいいのは有田君らしい。
「・・・・多分悪いと思ったんじゃないかな?」
『呼ばれたら、嬉しそうに返事して走って行ったよ。』
「本当に覚えてない。誰?」
『・・・・・。』
「嘘?」
『そんな嘘つかないよ。それにもういいよ。』
「そうだね。お兄ちゃんもやるなあって思ったんだ。でもお兄ちゃんも困ってた人にいらない傘をあげただけで、すっかり忘れてたからね。」
『・・・・そう。』
あ・・・・つい、普通に話しをしてしまった。
結局、今はどういうこと?
お礼を言う?考えるという?
とりあえず、今はどうすればいい?
しばらく無言のままの二人。
自分が言うしかない。
「あの、ちょっと、また連絡していい?今は、ちょっとだけ、いろいろ頭が忙しくて、時間が欲しい。」
『・・・・じゃあ、待ってる。』
「うん、えっと、来週になるかも。」
『分かった。待ってる。』
待たれてるのは分かってる。
さり気なく待って欲しいと思う。
そんなに全力で待ってるアピールされたら、プレッシャーなんです。
とりあえず、じゃあとかごにょごにょと言いながら通話を終わりにした。
「う~ん、誰に相談したらいいの?」
こんな時こそ・・・・・お兄ちゃん?
友達に言っても、みんな実感がないと思う。
だって存在感薄いよね?そんなに目立ってないよね?
ちなみにそんなに仲良くなかったとすら思ってるけど。
誰もが驚いて、面白がりそう。
内緒は難しい。
じゃあ・・・・・・。
ああああ・・・・今日は無理。
明日は来週になる、カウントダウンで返事を待たれてると思う。
どうしよう・・・・。
二度も待ってるって言われたら、すごく焦るのに。
携帯を部屋に置いて、下に降りた。
夕飯の準備をするお母さんの横に行った。
「水鳥、お酒も飲んできたのにお腹空いたの?」
「ううん。別に。何となく、手伝おうと思っただけ。」
「ぼんやり立ち尽くして?手を洗って、これをお願いね。」
『お手伝い』の定番のようにジャガイモの皮むきがあったらしい。
一緒にピーラーも渡された。
「うれしい事あった?」
「なんで?別に嬉しいって訳じゃない・・・・と思う。」
「お兄ちゃんにお礼を言われて、ついでにおねだりでもしたのかと思ったのに。」
「何の連絡もない。」
本当に無い。
「じゃあ、何があったの?」
「何で、何かあったと思うの?」
「なんだか微妙な顔してるから。お兄ちゃんに彼女が出来て寂しいんじゃないとしたら、どうしたの?」
そう言われて、お父さんの姿を見ようと移動した。
和室にはいない、ソファにもいない。
「お父さんは車の掃除中。昼ご飯の後ワックス掛けたからふき取ってるわよ。内緒にしたいようなことなの?」
この際相談はお母さんでもいいかもしれない。
とりあえず様子見の相談をしてみた。
「今日ランチをごちそうしてくれた子に、さっき告白された。」
シンプルに言った。
「誰?」
「お母さんの知らない人。だって今までもそんなに仲良くなかったし。初めてこの間誘われて友達同士で飲んだの。」
「それで?」
「誘ったのにさっさと酔っぱらって、全然話もしてない。だからごめんねってお詫びに今日奢ってくれるって、そう誘われたの。」
「ふんふん。」
「昼の食事も今一つ盛り上がらなくて、さっきもう一度謝られて、そう言われた。金曜日の夜に言いたかったって。」
「まあ、びっくり。」
今更の驚きコメント。
わざとらしいくらい棒読みだったし。
「もっと本当に驚いてよ。私だってびっくりしてるんだから。」
「なんて返事したの?」
「考えるって。」
「そう言ったの?がっかりされなかった?」
「待ってるって言われた。」
そこでお母さんが無言になって鍋に集中した。
そこからのアドバイスが欲しいんだってば。
経過報告しかしてないよ、アドバイスは?大人の意見は?
鍋の中が一段落したらしい。
「よかったじゃない。これから盛り上がる時期だし、いいわねえ。寂しいなんて言ってたのに、十分間に合ったじゃない。」
「まだ返事してない。」
「嫌なの?断るの?」
「だからまだ考え中。」
「そうなの?もったいない。お兄ちゃんも彼女が出来ていっそう一人ぼっちじゃない。」
「別にお兄ちゃんは関係ないよ。」
「そこは仲良く二人で同時に付き合い始めた方が盛りあがるじゃない。」
それ必要?
お兄ちゃんと張り合うの?
大人だし、男だし、それにちなみさんは凄くラブラブ光線出してたから。
私が有田君の隣にいたとして、どう?
今日だって話があんまり弾まなくて。
変な誤解をしてたみたいだけど、それがなくなったらもっと盛り上がる?
断るのは申し訳ないと何故か思う。
だっていい人なのは知ってる。
穏やかだし、お父さん寄りのタイプだし。
じゃあ、何とかなる?
さっきから考えてるのに、少しもピンとこない。
結局お母さんに相談しても解決に至らなくて、もう後は友達しかない。
有田君を知ってる子で、一番口が堅そうな、信頼できる子・・・。
『あぐりちゃん、暇してない?忙しい?』
『暇だよ。どうしたの?』
『電話していい?』
『いいよ、部屋の中でダラダラ中。』
私だけじゃない、休日に部屋で過ごすモグラ族は、全然普通にいる。
だって学校の日は外に行くんだから。
何も予定がないときはそんな過ごし方も普通。
「ありがとう。ねえ、相談があるんだけど。」
『何?私で役に立つ?』
「うん、ちょっと参考意見を求めてます。」
『何?何?』
一呼吸して、心を落ち着けた。
「ねえ、・・・・・・・有田君、どう思う?」
『普通。』
それはそうだけど、その辺はもっと深く読み込んで、答えを導いて欲しい。
そう思ったら笑い声が聞こえてきた。
『普通にいい人、水鳥とはタイプは違うけど、いいと思うよ。楽しいんじゃない?』
ん?ものすごく誘導した?分かった?ばれた?
『この間誘われたでしょう?最初っから緊張してたじゃない。』
金曜日誘ったうちの一人だったあぐりちゃん。
その時の事だよね?
「それは金曜日の飲み会だよね?有田君が緊張してたって事?」
『そうだよ。せっかく目の前にいたのに、乾杯したらすぐに水鳥は席を離れたじゃない。』
「だって端っこだとつまんないじゃない。盛り上げるためにも動いたよ。」
それはいつもの事。
だいたい席で大人しくしてない。
好きなものは好きな場所で食べる飲む、そして喋る。
そんな働きが評価されて飲み会の幹事を頼まれることも時々あるし。
『あの時すごく寂しそうに水鳥を見て、お酒を飲んでたよ。』
「あぐりちゃんは有田君を見てたの?」
『だって、珍しいからね。どうしたのかなって、裏の目的を探るでしょう?』
「探らないよ。ただ飲みたいだけなんだと思ってた。騒ぎたいのかなって。」
『あの中に水鳥に勝負しそうな男の子はいなかったじゃない。全員ライバルにはならない、むしろ応援団を集めた感じだったよね。それなのに気がつかないで有田君から距離をとるからどうしようかって感じで。盛り上がる前に有田君が酔っぱらうし、じゃあ僕達は大人しくするしかないよねって感じだった。』
「他にそんな事言ってた子いた?」
『う~ん、いない。有田君に注目する子はいないから。心配ないよ、あの中にはライバルはいないよ。』
知らない。そんな事をあぐりちゃんが思っていたなんて、あの時ちょっとでも教えてくれたら・・・・・どうした?
有田君と話をしたかも。
大丈夫とか、優しく声をかけたかも。でもそんなのも観察される予定だったらしい。
『それで、電話でも来たの?』
「うん。お詫びにってランチしたんだけど、全然盛り上がらなくて。奢ってもらってお終い。その後電話が来て、もう一度謝られて、そんな事を言われてびっくりした。」
『おお~、思いきったね。水鳥が一人で改札とは逆に行ったのも見てたよ。あれからどうしたの?』
「あ、お兄ちゃんを見つけたから・・・・・、ちょっとそこは面白いことがあって、また教える。」
『そうなの?偶然だよね。ちゃんとお兄ちゃんを見つけたって有田君に教えたんだよね。』
「うん、全部教えた。」
まあ、それが原因でランチがしょぼしょぼの盛り上がりのない時間になったんだけど。
『ねえ、最初の相談に戻ろう。ずっと好きだって言われた?』
「・・・別に、そこは何とも。」
ずっとって、だいたい本当にあの日に気がついたの?
それともその前から、うすうす気がついてた?
『さりげなく近くにいるし、気がつかない水鳥も鈍い。でも他の子も気がついてないよね。有田君のアピール力が弱すぎる。』
「あぐりちゃんの洞察力を褒めた方がいい所?」
そう言ったら楽しそうに笑われた。
やっぱり薄々パターンらしい。
まったく気がついてないし、喋ってた?近くにいた?記憶にございません。
アピール力の前に存在感が薄いよ。
『いいじゃん。二人を足して割れば普通になるくらい。むしろ有田君が目を回すほど振り回してみたら?ふらふらになりながらもついて行きそう。想像できて面白い。』
「いい人なのは分かってる。」
『それだけ言われると本人はがっかりだと思うよ。意外に二人きりになると俺様だったりして。』
ないな、それはない。
『落ち着いたら披露して。みんなの驚く顔が見たい!』
相談タイムは終わりらしい。
『早く返事してあげれば。考えるより、行動あるのみ。』
「うん、わかった。じゃあ、もう少し整理して、返事する。」
『うん、良かったね。あの金曜日の飲み会の目的が達成されたら、あの場の人全員が喜ぶよ。』
そうなの?・・・そう・・・かも。
「ありがとう。じゃあ、またね。」
そう言って電話を終わりにした。
携帯を見た。
待ってるだろうなあ。
連絡したらびっくりしながら出るんだろうなあ。
私もそのくらいは想像できる。
振り回すのも、まあまあ想像できる。
多分、楽しいと・・・・そう思えてきた。
それでも連絡はしないで、下に降りた。
「あら、解決したの?」
お母さんに聞かれた。
「まだです。」
「人の事はガンガンと押せるのに、自分の事になるとやっぱり水鳥も怖気づくのね。」
「普通そうでしょう?お母さんはガンガン攻めたの?」
「だってお父さん相手よ、攻めないと進まないから。」
「ああ・・・・・・。」
お兄ちゃんもそう思われて、ちなみさんはあんなにくっついていたんだろうか?
酔った勢いで何とかしようと思ったんだろうか?
もう、有田君も寝てないで、酔った勢いを借りれば良かったのに・・・・って借りようとしたら飲み過ぎたって言ってたか。
限度を知らないと悲惨だなあ。
思わず笑顔になる。
「ほら、その笑顔で嬉しそうに、でもちょっと恥ずかしそうに返事してみたら?」
またお母さんに言われた。
攻めないとダメなタイプ、まあ、そっちだろう。
「うん、分かった。ちょっと連絡してみる。」
部屋で落ち着いた姿勢で座り、携帯を手にして、連絡した。
最初に結論を言ってしまったからか、無言のまま、時間が流れた。
「いいよ。」
そういきなり言ってしまったから。
なんだかもっと嬉しそうに照れながらって言われてたのに。
それすら忘れてた。
「あの・・・・、いろいろありがとう。すごくいい人だって知ってるし、一緒にいるのも嫌じゃないし、良かったら二人で遊びに行ったり、食事をしたりしたいなあって思って。」
さすがに照れた。
精一杯の表現だったけど、あんまり上手じゃないかも。
『こちらこそありがとう。ホッとした。自信はなかったし・・・・・。』
授業の合間にお茶したり、就職の相談もしたりしようと言い合った。
バイトはもう少し、就活が始まるまでするみたいだから。
連絡を取り合って、遊びに行ったりしようと約束した。
それでお互いに満足して、電話はお終いにした。
熱くなった携帯を置いて、しばらく目を閉じた。疲れた。
それでもすぐに連絡が来てビックリした。
冷え切らない携帯を見たら、お兄ちゃんだった。
『ちなみさんが水鳥にお礼を言って欲しいって、頼まれたから、伝える。』
『お兄ちゃんにもお礼を言われたい。』
『欲張るな。』
『そこをなんとか、結果はいい感じ?』
『ああ、また機会があったら会いたいって言ってたよ。』
『邪魔はしたくないけど、邪魔じゃない時は声かけて。就職の相談もしようかなあ。』
『まあ、その内に。何かあったら連絡しろよ。』
『はいは~い。お兄ちゃんもね。』
大きな何かはありましたがさすがに報告はしないよ。
結局兄妹同時スタートみたいじゃない。
でも大人には負けてあげよう。
勝つ気もしない。
だって有田君だし、私が押して攻めて振り回してお願いするしかないよね、ってそんな想像をして、あの広い部屋を思い出して・・・やっぱり、まだまだだって思った。
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