呪文のような名前が気になって・・・・もしかして本当に幸せの呪文でしたか?

羽月☆

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13 水鳥 ~盛り上がりマックスの日はまったく盛り上がりを見せそうにない~

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「ねえ、ちなみさん、どうだった?」

「え?どうって?」

「だから私の話で想像してた感じと、実際に会ってみて。」

「お兄さんが可愛がりそうな、そんな感じ。水鳥ちゃんより・・・。」

「何?私より何?」

もしかして可愛いとか、優しそうとか、そんな事を言うんじゃないでしょうね!!
一気に満足感が消えた。


「あ・・・・・あ・・・頼りない感じっていうのは・・・・悪いよね・・・えっと水鳥ちゃんの方がしっかりしてそう。」

急に考えたんじゃないよね。
最後言い切るように早口だった。
当たり障りないことにしようとしたんじゃないよね?


「年上なのに、見えないなって。」

追加された。

「でもお兄さんは想像した通りで、二人で並ぶといい感じだったね。」

ちょっといい事も言ってくれた。

「お兄さんも水鳥ちゃんのことが可愛いって、そんな感じが伝わった。」

ここは褒めておいたほうがいいって感じ?
急いで喋り出した有田君にはちょっと必死さが見える。

まあ、いい。せっかくのデートで喧嘩はしない主義だから。
その言葉を信じてあげよう。

「お兄ちゃんは優しいよ、でもちなみさんにあげよう。しょうがない。」


有田君が近くにいる間は寂しくないからいい。
なんて、私だって素直には言いません。

「は~、お腹いっぱいだね。」

今頃妹に負けまいと、ちなみさんを誘ってるだろうか?
さすがにクリスマスには盛り上がりそうだけど、その前に盛り上がりの波があってもいいよね。

そして同じようにこっちも。

お兄ちゃんほど簡単に泊めてとは言えないし、実家暮らしにはちょっと不便だ。
そんな気配もないから、どう思ってるのかも分からない。

お酒でも飲ませて、そのまま酔ったふりでって、そんな事が出来たらいいのに。
また先に酔っぱらいそうだよなあ。

馬鹿正直にお母さんに報告したから、外泊したらバレバレだよね。

「あ~あ、今年はお兄ちゃんのボーナスはちなみさんへのプレゼントだろうなあ。私に回ってくるのは少なくなりそう。それはガッカリだなあ。」

そこまで言って隣を見た。

有田君がゴクリと覚悟を決めるように。

「僕がクリスマスプレゼントをあげたいです。」

私だってあげたいけど。
それじゃあおねだりしたみたいだし、それ以外には何も誘ってくれない?
ご飯とプレゼント交換。喜んでくれるならミニスカサンタにもなるよ。
部屋でいいならなるよ。去年のがあると思う。

でも全然その後に言葉は続かなかった。
予定を立てようとすら言われなくて。


バイトをしてるけど、その日はどうする?
何曜日だったかなあ、確かお兄ちゃんも楽しめるだろうなあって思ったくらいだから、週っ末だったかな?

大学生にはそんな事は関係ないけど。

黙ったまま、考え事をしたまま地下道を歩いてた。


「どこか行きたいところがある?」

「ああ、ごめん。ちょっと考え事してた。」

ちょっとだけわき道にそれて立ち止まった。
お店の大きな入り口で邪魔にはならないところ。


横に立ち同じように壁に張り付いた有田君。


「紹介してくれてありがとう。」

「あ、うん」

まあ、そんな目的も半分・・・とまではいかないけど。

「あの日に一緒に飲んだメンバーもみんな喜んでくれた。一ヶ月ちょっとくらいした時に、報告したんだ。」


「そう。」


実はあんまり知らないメンバーだった。
それに当然話したこともないくらいの人々。

「あの時は多めに出してくれて、ごちそうさまでした。今度伝えてて。みんなそう言ってたから。」


「うん。」




「ねえ、来年の事、想像できる?」



「出来るよ。今と変わりなく隣にいてもらえたらいいと願ってるし、僕はそうしたいって思ってる」


何?違うよ・・・・・・。
そう否定したいけど、ちょっと体温が上がった。


「就活も終わりにして、余裕が出来てるといいよね。」

そうそう、そういうこと。でも大きな山を無事に乗り越えられるか。

「ああ、大変そうだなあ。本当に、大変そうだなあ。」

心が何度も折れるんだろうなあ。
そしてその内慣れていくんだろうなあ。





「水鳥ちゃん、もしかして想像できない?」

「何?」

「一年後、まだこんな感じで二人でいるところ。」


真面目な顔で聞かれた。


「出来るよ。私も同じように願ってる。無事に大きな山を乗り越えて、やっぱり隣にいてもらえたらって思ってるよ。」

「ありがとう。」

赤くなってそう言ってくれたけど、一ヶ月後の事には何も言及されず。

そこはあんまりまだなのかな。具体的な想像は出来ないのかな。
それでもプレゼント交換はできるらしい。
何を買うべきか、お兄ちゃんに聞けばいいのか、ちなみさんに聞けばいいのか、多分同じことだろうなあ。



「何か買いたいものある?行きたいところとか?」

「ううん。特にはないけど、付き合うよ。」

「私もなんだかお役目ご苦労って感じで、すっかり肩の力が抜けて。」

「そんなに紹介するのに力が入った風には見えなかったけど。」

「ああ・・・・そうだよね。何だろう。気分的なものかな。」


ちなみさんに有田君の印象を聞く感じで、後で探りを入れよう。
もしもの邪魔にならない時間を見計らって、じゃあ、明日がいいかな?




結局だらだらとして駅で別れた。





「お母さん、お兄ちゃん順調に彼女と仲良くしてるみたいだったよ。」


「会って来たの?」


「うん、一緒にご飯を食べたの。彼女のちなみさんも一緒だった。連絡先を交換してきたから、就活の相談も出来る。」


「そんな図々しくご迷惑をかけたらダメよ。」


「分かってるよ。でもちょっとだけの前の事だからお兄ちゃんよりありがたいアドバイスがあったらうれしいじゃない。」


「そうね。お兄ちゃんもそれなりに大変だったから、いいご縁が見つかるまで探すしかないわよね。」


「うん。考えるだけで心が折れそうだよ。」


「慣れると強くなるかもしれないわよ。」


「そんなのいらない。繊細なハートの内にさっさと決まって欲しい。」


「繊細ね・・・・。」

何よ、これでも初めての事にはドキドキが止まらない方なんだから。
だからまだクリスマスの予定の事も聞けずにいるんだから。
家の外では、それなりに繊細なんです。


結局それからも何度かデートしてるのに、盛り上がりマックスのその日の予定は何も言われないまま。曜日だって確認した。
平日だけど、お兄ちゃんは残念だったけど有田君は何もない曜日だよね。

二日あるんだし、盛り上がりたいよね?


ため息が出た。


「水鳥、ため息うるさい。」

容赦ない友達のクレーム。
そんなに気になるほどだった?

「ごめん、お腹いっぱいで。」


「ご飯食べる前からだったけどね。」


そこも容赦なかった。

「どうしたの?この間まで浮かれてたのに、喧嘩したの?」


携帯に二人の写真を乗せてる時点で呆れられたりはした。
堂々としてると褒められもした。

みんな相手も知ってるし、いろいろとおすすめの場所は教えてもらってる。
お兄ちゃんに聞くよりも現実的なのは当たり前だ。
大学生のお財布の中は同じ状況だし、もっと厳しい一人暮らしの子もいるし。

そしてため息をつく理由はそれしかないと思われるのもそう。


「・・・クリスマスの予定を何も言われない。」


肘をテーブルについて顎を乗せる。


不満一杯の顔をしてると思う。


「別に他に予定があると断られたんじゃないんでしょう?」

「だから、何も言われない。誘われない。楽しみにしてるのに。いっそ・・・。」



皆の視線が集まる。


「無言のプレッシャーに、言い出せないんでしょう?」

「なんで?別にプレゼントの事はちょっとだけ言ったし。」

「なんて言ったの?」


「お兄ちゃんに彼女が出来てラブラブ真っ最中で、私がおねだりできなくて困るなあって言ったら・・・・。」


「言ったら・・・。」


「・・・・僕がプレゼントするって。」

顔が赤くなる。だって赤い顔で言われたし、思い出す。
あの話も特に進展はない。
何が欲しい?一緒に買いに行こうか?そんな事も何もなし。


今度は皆がため息をついた。

視線は私から外れた。


「なのに、何も進んでない。」



「だから水鳥が二日間一緒にいたい、ずっといたい、って思ってるのがうっすら通じてるんだけど、向こうとしてはやっぱり誘うのに勇気がいるってことでしょう?」


「・・・そんなこと聞かれてもないし、言ってもない。」

「でもそう思ってるでしょう?」



そりゃあ、クリスマスだし。
盛り上がってもいいよね。
チャンスだよね。

そろそろいいって誰もが思う頃だよね。


「だったら水鳥から誘えばいいじゃない。向こうもどう言いだしていいか、困ってると思うよ。酔わないと気持ちも伝えられなかったくらいのナイーブなのを分かってあげなきゃ。」

「だから、どうするって聞かれたら、もっと言えるのに、それもないんだもん。」

「何でそこ、誘われ待ちするの?いいじゃん、誘えば。」


誘われたい!そこはやっぱりね。

そう思ったのに誰も有田君にそれを期待してないらしい。



私だってドキドキするし、断れたらって・・・・ちょっとは思うのに。


はぁ~。



「早くしないとレストランも空いてないよ。ついでにプレゼントも売り切れるよ。夜は有田君の部屋でいいとしてもね。」


私が実家だからそうなるだろう。



「クリスマス、皆はどうするの?」

笑顔だけで答える子はさっさと誘った子だろう、もしくは誘われた子。

「いいじゃん、今年も女子で盛り上がらる予定だから。水鳥も来る?」

嫌だ。
そんな顔をしたら笑われた。



部屋に帰ってからクローゼットの奥に仕舞い込んでいた去年のサンタガールの服を出してみた。
とても外で着る勇気はない。
帽子だけかぶってみた。
まあまあいいじゃないって、部屋でならかぶってもいいじゃないって思った。


すっかりお泊りのセットにいれる気なのに、まだ確定しない予定。
お母さんに許可ももらわないといけないのに。


こんな時に大人はいいなあって思う。
お兄ちゃんもちなみさんも誰にも許可はとらなくていい。
二人とも大人で一人暮らしだし。



夜にお父さんが帰ってくる前にお母さんに聞いた。
一応許可は先に取っておこう。

「お母さん、クリスマス、外泊してもいい?」


有田君の事は隠してないから、ちゃんと言う。


「今年は特別に楽しい予定が出来たのね?」


「まだ、何も言われてない。誘われてもいない。」

「水鳥が誘えば?」




「誘われたい。」




「じゃあ、誘われたらどうぞ。」


「いいの?」




「内緒にされるよりはいいわよ。今年は盛り上がりたいって言ってたじゃない。」



「まだデートすら誘われてもいないけどね。」

「どうせ我慢できなくて誘うんじゃないの?待ってるのかもよ。」


「なんでよ、そこは男の子から言い出して欲しいのに。」


「さっさと決めたら、その分たくさん楽しみにできるんだから、いいじゃない、水鳥から誘えば。」


もう一ヶ月を切ってる。
とっくに街もソワソワしてるのに。


何枚も写真は撮った。さっさと可愛い飾りの所で撮ったのに。
まだ何も具体的には決まってない。

こんなに考えるなら、やっぱり自分から誘ってもいいのかもと思えてきた。


「誘う。」


「可愛く誘いなさいよ。」


「出来ない。だってドキドキする。断られたりすると思う?」


「大丈夫よ。」


何の根拠もないだろうけど、そう言われた。
そう信じたいけどね。





夜、バイトも終わって、のんびりしてるだろう時間。





『帰ってる?』

『うん。丁度連絡するところだった。』


すぐに返事は来た。


電話をした。




さすがにいきなりは誘えない。
それなりに今週の予定を話して、ちょっとだけ開いた『間』に期待をしたけど、やっぱりだった。



「ねえ、有田君。クリスマス、一緒に過ごしたいと思ってるんだけど。誘ってくれる?」




『うん。勿論僕も誘いたい。プレゼント、約束だったよね。一緒に買いに行こうよ。』


約束はしてないよ、宣言されただけだったよ。
そして買い物は一緒にすることになった。
じゃあ、食事も一緒だと思う。

でも待ってもそれ以外の過ごし方は提案されなくて。



『有田君はいつがいいと思ってるの?』


カレンダーを見た。
さっきから手元に寄せていた。
だって決まったらすぐに書き込むつもりだった。
ペンも一緒に置いてある。


『水鳥ちゃんの都合に合わせられるよ。』

返事はぜんぜん期待とは違った。
一緒に過ごす時間を限定された気分。
ほんの数時間。長くても午後からライトアップを堪能するくらいの間、もう少し長いかな?でもそれくらい。


「考える。じゃあ、またね。」


がっかりが声に出ただろう。
それ以上に不機嫌さも出たかもしれない。
電話で話することは以上、そう思って電話を切った。

いきなりだと思っただろうか?
何でだろうかと、あれって思ってくれただろうか?

返事も聞かなかった。

お休みも言ってない。


明らかにいつもと違ったと思うのに。




カレンダーを倒した。予定は増えたけど、それじゃあちょっとだけしかいつもと変わらないじゃない。ピンクの色ペンが転がったまま。


鈍感の意気地なし。


それとも本当に考えないんだろうか?そんな事ある?


次の日も全然浮かれてない私にお母さんも何も聞いて来ない。

報告することも、改めて許可をもらうことも何も決まってないから。



とうとう大人に相談というか、愚痴を言ってしまった。

『こんにちは、ちなみさん。』

さすがに挨拶と前置きをして、お兄ちゃんとのデートをちょっとだけ聞きたいって感じの文章も入れて。長々と送った。

『有田君がクリスマスを誘ってくれないの。一緒に都合のいい日にプレゼントを選びに行こうって。私の予定に合わせるって。一緒に過ごしたいって言ったのに、普通のデートくらいにしか思ってもらえなかった。』


こんな愚痴を二回しか会ったことのない人に言ってどうする。


仕事中で携帯を見てももらえてない。
やっぱりそこは大人だから。


午後遅くに返事が来た。


『水鳥ちゃんから誘えば?なかなか実家暮らしの子を誘うのも勇気いると思うし、有田君はそんなに簡単に言い出せる感じじゃなかったから、どうしようかなって思ってるとは思うよ。』


皆がそう言う。
有田君は言い出せないのかもって。
私だって言い出すのが簡単な訳ないのに。

『忙しいのに、くだらない事でごめんなさい。ありがとうございました。』


『楽しいクリスマスになるといいね。』


そうじゃなくても邪魔はしません。安心してください。

『お互いに。お兄ちゃんをよろしくお願いします。』

そう送って終わりにした。




その夜、私から連絡しなかったら、有田君からも何も来なかった。
そんな事もなかったのに。


電気を消して、目を閉じて、眠りにつくまで待ってたのに、何もなかった。





次の日も・・・・。



このまま今日もないかもしれない。
お互いバイトがない日、それでも待ち合わせもしてない日。



「新藤さん。」

声をかけられた。
そんな呼び方だから有田君じゃないって分かってる。


振り向いたら時々皆で話をする如月君がいた。


「如月君、久しぶりだね。一緒の授業受けてた?」


「うん。ギリギリで後ろの方にいたんだ。前の方にいるって僕はすぐ分かったけど。」


「そう。今日は一人だったの。適当に座ったら、誰も前には来てくれなかった。」


「うん、珍しく一人だなあって思ってた。」


歩きながら話をする。
きっと如月君も終わりなんだろう。


「この後誰かと待ち合わせてる?」



「ううん。一人。」予定は何もない。


「じゃあ、お茶しない?」


「いいよ。」


お互い一人だったから誰かと喋りたい。
如月君もそんな気分なんだろう。


でも話題は真面目だった。
就職活動の事について聞いてみた。


「的は絞ってるけど、結局それ以外も総当たりなくらいで受けないといけないだろうなあって思ってる。覚悟もしてるつもりだけど、どうかな?」


「そうだよね。覚悟が必要だよね。」


「ねえ、それよりクリスマスの辺りは?楽しい予定あるの?」


「うん・・・・・どうかな?本当にまだ『予定』ってくらいかな。」


「でも、あるんだ。」

どうだろう。二日間も連絡もなく。
まさか私が考えるって言ったから返事を待ってるとか?
いつもなら今頃一緒にいることが多いのに。

ダラダラと話をしながらコーヒーを飲んでることが多いのに。

いつもよりも笑顔の多い曜日なのに。



「特別な予定だよね。」


「うん、そうなるといいと思ってる。」


「そうか。そうだよね。相手は有田君でいいの?僕はあんまり知らないけど。」


顔を向けた。
そんな話は知らない間にいろんな人に伝わるから。
横に情報が流れることは全く珍しくない。


「・・・・・うん。」


「そうか。残念。」


そう小さく呟いたのが聞こえた気がした。



「そう言えば・・・・。」


全く違う話題になり、共通の友達の情報を少しだけ交換して、コーヒーを飲み切って別れた。


「じゃあ、またね。」


手を振って電車に乗る。

携帯を見ても何も連絡は来てなかった。
ポケットでも少しもそんな気配はなかったから分かってたのに。

やっぱりだった。



今日も何も連絡はないんだろうか?




乗り換えの駅でホームを歩く。
このまま電車に乗って行くと有田君の駅に行ける。
行ったことはないけど、さすがにどこに住んでるかは知ってる。

乗ってきた電車を見送った。






もう帰ったんだろうか?
そもそも今日来てたの?


もう授業が一緒になることはない。
最初の頃近くにいたグループで、たまたま仲良くなっただけだった。

二年以上前の事。


それ以来、本当に時々学内のカフェで会ったり、友達同士が一緒にいて、そこに合流したり。その流れで飲みに行ったり。そんな大勢の中で移動してた中の一人だった。
よく考えると大勢の中でも薄い知り合いだったと思う。
だから誘われてびっくりもしたんだし。


とっくに電車は見えなくなり、次の電車が来そうなくらいだった。

自分の電車のホームに移動する。

お兄ちゃんとちなみさんよりずっと長い時間かけてるのに、何でここにきてモタモタしてるんだろう。
誰が悪い?それは有田君が悪いよね???


むくれた顔をして、恨みごとを心でつぶやいて。


自分の駅で降りたら、すごく分かるところに有田君がいてびっくりした。

なんでいるの?
私以外に知り合いがいるの?



でも有田君は少しもびっくりしてないし、私に向かってちょっとだけ表情を緩めて手を挙げてきた。明らかに私を待ってた、そんな感じだった。

ある程度の距離を置いて、先に立ち止まった私。

そんな私の方に向かって来ていた有田君も少しだけゆっくりとした足取りになり。
それでも目の前に来た。


「お帰り。」

「どうして、ここにいるの?」

まず聞いた。


「待ってたんだ。」

まっすぐ私を見てる。

「私を待ってたの?」

ポケットの中の携帯には連絡はないと思う。
ゆっくり出して見る。


「もちろん、水鳥ちゃんを待ってた。遅くなるかもしれないって思ってたけど、早く帰って来てくれたらいいなあって、そう信じてもいた。」


やっぱり携帯に連絡はなかった。


「電話じゃ出来ない話なの?」

もしかしてって、そう思って・・・・・。
思い切って聞いた。
顔がこわばりそう。このところ連絡がなくて、そして今日電話じゃなくて直接会って話があると言われたら。

「電話じゃなくて、ちゃんと会って話がしたいと思ってた。」


クリスマスは一緒にいたいって、そう言ったことが、何かを決定づけたの?
合わせてくれるって言ったのに。
イブでも、クリスマス当日でもいいよって事でしょう?
二日ともって欲張りたいと思った私を前に、ちょっと考えなおした?



「水鳥ちゃん、どこか話が出来るところないかな?」



そう言われてゆっくり歩きだした。


なんてことない場所。


駅の反対側、自分の家じゃない方、駅を出て、少し歩いたところ、意外に人がいないのだ。
駅中のお店から明かりが漏れて、中の人の姿も見れるけど、声は聞こえない。

完全に楽しい食事中の人たちから距離がある場所だった。


フェンスにもたれた。


「今日、何か、いい事あった?」


「別に・・・・。」


何もうれしいことはない。
かわりに悲しいことがあるかもしれない。



「クリスマスの予定は決まった?」




「もしかして、もう一日の予定も決まったんじゃないかな?」




「僕はどっちでもいいって言ったけど、空いてる方でもいいと思ったけど・・・・。」





「やっぱり嫌だなって思った。」



そう言われても、最初、理解がおよばなかった。

・・・・今断られたの?
一緒に過ごすのは無理だって断られたの?
しかも、嫌だって・・・・・拒否の言葉だよね・・・・。


せっかく恋人の為のイベントなのに。
一日も付き合ってもらえないらしい。
それどころか嫌がられてるらしい・・・・・・何で?


じゃあって・・・・・それって・・・・・。



「分かった。そうか・・・・・。ごめんね。」



顔を見た。

辛そうな顔をしてる。いつも笑顔だったのに。
そんな顔をさせたんだとしたら、申し訳ない。


笑って欲しい。いつもの優しい笑顔が好きなのに。


だから頑張って笑顔になった。


「ありがとう。じゃあ、もういいよ。無理させてごめん。じゃあね。気をつけて帰ってね。お休み。」


最後は半分以上背中を向けてたかもしれない。

そんなに笑顔はもたないから。



向きを変えたら急いでそこを離れた。



私の家は駅の向こう。

本当にちょっとだけ寄り道しただけだから。


まるごと余分な時間だったと思おう。
ここ最近のちょっと浮かれた気分も、心に仕舞い込んで。




「ただいま。」


「お帰り。ご飯は?」


「先にお風呂に入りたい。体が冷えて寒気がする。」

「風邪ひいた?」


お母さんの心配する声をドアでブロックする。

本当に寒気がしてきた。
これで風邪でもひいたら最悪の思い出しかできないじゃない。

また愚痴が出た。

それでもずっと待ってた有田君の方が疲れて、寒かったかもしれない。
携帯に連絡してくれても良かったのに。
話があるって言ってくれたら、時間を連絡したし、改札を見張って待つこともなかったのに。

いい人なんだか、なんだか、分からない。

もう、本当に最低!!嫌なヤツ!!・・・・って思えたらいいのに。



涙が出そうになる。

急いで着替えを持ってお風呂に入った。

お湯が体を温めてくれる。
この数日のモヤモヤも、愚痴も、スッキリ流して。
それでも少しも笑顔になれない、まだ余分な事だったとは思いきれない、忘れられない、どっかりと心の中にいるのが分かる。

もう・・・・邪魔だよ・・・・・・。


やっぱり涙が出てきた。
止められなかった。

それは無理だった。





しばらくお風呂であったまった、そんな感じでお風呂から出て、お母さんと顔を合わせた。
あれっ?って見られた気がしたけど何も言われなくて。



テレビを見ながらご飯を食べて部屋に戻った。


何を食べたのか、味もしない状態だった。


こうなると授業が重ならないのは良かった。
授業中気にすることもない。

カレンダーは無印のまま。
今年も皆と・・・・・でも、いまさら振られたと皆に加わるのも悲しい気分しかしない。
お母さんとお父さんの二人に混ぜてもらうしかないと思った。
いい、それはそれで特別な二人だから。

それはそうだ。


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