クリスマス、不機嫌な私は遅れて神様に感謝します。

羽月☆

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2 お互いに一人だったから

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涙が止まるまで背中に手を軽く当てられたまま。
お互い無言で。

それでも出された手をつないで歩いた。
今はただ誰かに近くにいて欲しいと思ってる。
優しく横にいてくれればそれでいいから。

だって誰かと一緒にいる日でいいのよね。
今必要なのはただそばにいて優しくしてくれる人。
特別じゃなくても、安心できる人ならいい。


無言で手を引かれ電車で運ばれたところ。
今まで降りたこともない駅だった。

コンビニでお酒を買った。
何も考えずに差し出された籠の中にお酒の缶をゴンゴンと入れた。

お店の入り口ではサンタとトナカイの安っぽい着ぐるみを着たバイトの子がケーキやチキンを売っていた。

「ケーキとチキンはいつでもいいから、食欲出てきたら付き合うよ。美味しく食べられるようになったら食べよう、ね。」


最寄りの駅なんだろう。

泣いた顔の女を部屋に連れて行く男。訳アリっぽい。
いいの?ここによく立ち寄ったりして、顔を知られてたりしてないの?


楽しいクリスマスとはかけ離れた雰囲気の二人。
さっきのサンタとトナカイだって何も勧めてこなかったよ。
この二人はまずい!ちょっと訳あり!!ってきっとそう思われたんだよ。

重たい水分ばかりのビニール袋を持って歩く青野君。

本当はどんな人なんだろう。
確かに優しい人、同期。それだけであんまり知らない。
同期と言っても席も離れていて、普通のあいさつ程度の会話しかしてない。
彼女の話とかは全く。

さっき言われたことを思い出す。
そんなことあり得ないよね?

最初の頃は同期二人だからまとめて指導を受けたり、ちょっと相談したりしてたのに。

途中からあんまり接点もなくて。

それでも困ってる時とか、疲れてる時、声をかけてもらっていた。
何度か助けられて、そのたびにありがとうとお礼を言って。
誰にでも優しいから、それも普通だと思ってた。
自分に特別に・・・なんて思ったこともない。

今では後輩にも慕われてる。
困ってるとき声をかけてくれる優しい先輩。

「青野先輩には彼女いるんですか?」

一年下の後輩にそう聞かれたこともある。
ちょっとびっくりした。
そんな事あんまり話したこともなかったから知らないし。


「知らない。そんなに個人的な話はしたことがないから。どうかな?」

正直にそう答えた。

やっぱり、誰にでも優しい人、後輩にも慕われてる人。


何度か聞かれた。多分たいていは社内の人への興味だと思う。
あっさりとした聞き方だったし。
でも中には真剣な人もいたのかも。
もしくは他の課の子に頼まれていたとか。
顔をあげて見せる斜めからの横顔。

少し硬い表情がするけど、本当は面倒だって思ってない?



部屋に着いたみたいで階段を上がる。
どこまでも無口で。
カラオケでもファミレスでもなく、やっぱり部屋に連れてこられた。
ファミレスに寄った時点でそれしかないとは思った。

お酒でも飲んで愚痴でも何でも聞くよって事?
1人で部屋で泣くくらいなら、自分の前で泣いていいよって事?

部屋の前に止まり鍵を開けて中に入る。

真っ暗の部屋に明かりがともる。
振り向いて、まっすぐ見ていた私に近づいてきて。
体を固くした私の後ろのドアのカギを閉めた青野君。

「大丈夫だよ。」

鍵をかけただけだった。
瞬間身構えた自分に気が付いたみたい。

・・・・恥ずかしい。

やっぱり違うから。


「どうぞ。」

そう声を掛けられて部屋にお邪魔する。
やっとヒールを脱げた。
ちょっとだけトゲトゲがなくなった気がした。
無理した姿をちょっとだけ脱いだ、そんな気分だった。


「お邪魔します。」

テーブルとクッションとテレビとオーディオ。
きれいにしている。

この部屋が青野君らしいのか私にはさっぱりわからない。
同期なのになんでこんなに私はこの人の事を気にしなかったのかと反省するくらいに。
なんのイメージも持ってない。

勧められた一個のクッションの横に座る。

服に合わせて履いていたヒールの高い靴。
履き慣れなくて脚が疲れた。

目の前にはコンビニのお酒。

さっきおしゃれでおいしいお酒も飲めたからいいじゃない。
今年のクリスマスは忘れられないくらいの自虐的なクリスマス。

それももう終わり。
華やかな光の届かない部屋の中にいると、普通の週末と変わらない。
本当は服を借りて着替えたいくらいだから。
こんな浮かれ過ぎた格好なんて。

普通のグラスとおつまみを持ってきてくれた。


「おつまみも買ってくれば良かったかな?何もなくて。」

「ううん、あんまり食べたくないから。」

「心配だよ。本当に付き合うから、明日ちゃんとご飯食べに行かない?」

優しい顔が心配そうな表情を作る。

「ありがとう。」

行くとは言えないけど。

悲しい顔をされた。

青野君がビールを開けてグラスに注いで飲む。
美味しそうに飲むのをじっと見ていた。
喉を伸ばしてごくりと飲んでいる。


強いんだっけ?

「うちでも良く飲むの?」

「ううん、ほとんど飲まないよ。アルコールじゃないものもコーヒー紅茶くらいならあるよ。暖かいものが良ければいれるけど。」

「そんなに・・・・大丈夫だから。」

自分で注いだグラスを持って飲む。
甘い甘いお酒。
ゆっくり少しずつ、静かに飲む。

立ち上がった青野君が音楽をかける。
静かなクリスマスソング。

「部屋で一人で聞いてたの?」

「この時期にしか選ばないから、12月は数枚のクリスマスのアルバムを流しっぱなし。邪魔にもならないし。」

「青野君の事、ほとんど知らない。どんな人? 後輩からも人気あるよね。」

「大変そうなときに仕事を手伝うことはあるから、それだけだよ。困ったときに頼れる一番楽な相手ってくらいだよ。」



「誰にも言われてない?」

「何を?」

「好きです・・・とか。」


「なんでそう思うの?」

ちょっとムキになって聞き返された。
どうやら言われたことがあるらしい。

「彼女いるんですかって聞かれたことあるよ。」

「なんて答えたの?」

「個人的な事はよく知らないって、どうかなあって。本当に私は知らないから。」

「そうだね。」

悲しく言われた?

質問には答えてもらってないけど、きっと誰かかわいい子に告白されたんだろう。
どう言ったんだろう。少し気になったりした。


暖房がゆっくり部屋の空気をかき回す。
暖かい風が時々こっちに来る。

コートを脱いだらちょっと薄着で冷えたアルコールが入ると少し寒くなる。
両腕を自分に巻き付ける。

「あ、今上着持ってくるから。」

青野君のパーカーを借りて着る。
膝にはフリースの大きなハーフケットを。

パーカーに包まれるように胸で掻き合わせる。

「そんなに寒い?」

「ううん、暖かいのがうれしくて。」

ハーフケットを乗せた膝も抱えるようにして顎を乗せた。

「隣に並んで座っていいかな?」

指をさしたのはもう一つのクッションで。
距離もある。
うなずく。

クッションを持ち上げて程よい距離を保って隣に来た青野君。
結局どんな人なのか分からないまま。

今自分を包むのは多分そんな青野君の匂いで。
自分の物じゃない匂い。

パーカーのフードをあげて頭半分を覆う。

「青野君、自由にしてもいいよ。」

「何を?」

そう聞き返された声が冷たい気がして振り向いた。

「お風呂に入りたかったらどうぞ。ご飯を食べたかったらどうぞ、眠たかったらどうぞ。私はここにいます。暖かいし、ふわふわして気持ちいいから大丈夫です。そう言いたくて。ごめんなさい、迷惑かけてるのは分かってるから。」

視線をはがす。

最後にちょっと悲しそうに表情を変えたのを見た。
なんだかさっきからよく見てる表情で。

「あの、一緒のところにいてくれるだけでも、安心できるし。大丈夫だから。」

「ごめん、ちょっと勘違いしたから。それに迷惑じゃないって言ったよね。そばにいたいって。」

フードの上から手を乗せられた。軽く二度くらい。撫でられるように。
ほんの少し目を閉じたら手は離れて行った。

「夜は眠れてたの?」

無理です。
1人で部屋にいると涙が出てきて。疲れて眠って、起きるとまた悲しくなって。

「ベッド一個しかなくて。ソファもなくて。シングルで狭いけどクッションを間に置いて寝ればいいかな?それとも朝まで起きてる?」

「私は眠れないから。逆に今夜頑張って起きてれば、明日はぐっすりとお昼から寝れるかも。青野君、ベッドにいつものように寝ていいから。」

「それじゃあ、一人と変わらないじゃない。僕も眠れないよ。」

「気にしなくても・・・やっぱりごめんね。」


やっぱり甘えるべきじゃなかったのに。


「今度謝ったらベッドに寝かせるから。ちゃんと間にクッション挟んで。迷惑じゃないし、謝る必要もないから。何度も繰り返し言ってるけどね。」


「ごめ・・・・・・。」

「はい、残念でした~。着替えを持ってくる。その服はすごく似合ってるけど、やっぱり疲れるし寒いよね。」

わざとだった?
着替えてゆっくりできるように?

寝室らしい部屋に消えて持ってこられたのはパジャマの上下。

「シャワー浴びる?顔洗うもの何でも良かったら買ってくるから。」

そう言われて浴室に連れていかれた。
バスタオルを渡されて。

「薬局に行って買ってくる。何が必要?」

そう聞かれて、適当にトラベルセットをとお願いした。
既にお湯も出されて浴槽にためられてる。

「すぐ帰ってくる。中に入ってそこに置いたら声かけるから。温まってて。」

「ご・・・・・、ありがとう。」

「うん、行ってくるから。」

「気を付けて。」

「・・・・そうだね。」

笑顔で手を振って出て行った。

疲れた。眠い。眠れそう。お湯が溜まるのを見ている。
服を脱いでタオルをかけて隠す。

浴槽に沈んで温まる。
暖かい。

1人じゃなくて良かった。

出そうな涙も温かいお湯に癒されて気持ちよさが上回ってる今。
ただただ迷惑かけてる気がするけど。・・・・・ありがとう。

しばらく体を丸めて温まってたら外で声がして引き戸が開いた音がした。


「ここに置いておくね。Tシャツも着て。ゆっくりしていいよ。終わったらお湯は抜いていいから。」

ちょっとゆっくりした。
すっかり温まりお湯を抜いて出てみると化粧品と歯ブラシがあった。
ドライヤーも借りて、すべて終わらせて外に出た。

テーブルは片付けられていて、ちょっと照明を落とされた部屋でパソコンに向き合う青野君。
音楽はそのまま小さく流れていた。

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