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23 まだまだ油断は出来ない、自分のことに全力で取り組む征四郎。

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「なんか変じゃないか?どうもおかしいんだよな。絶対なにかあると思うんだけど。」

そう言われてさっき昼に行く時に、さりげなく見た彼女を思い浮かべてしまった。
最近になって小籠包の先輩にも変化を指摘されて、ちょっと誤解を受けてるかもと言っていた。たしかに変わったのは明らかで、同じ二課のこいつもそう思っても不思議はない。
注目した後輩の意外に知られてなかった魅力に気がついてもおかしくはない。

俺に言うか?
そう思わないでもないが。

知らぬ顔をしていたけど、さっきから視線がこっちに来る。

「何だ?」

「だから、なんかあったろだう?教えろ!」

「今のは俺の話だったのか?」

「誰の話だと思ってたんだよ?」

それは言えない、絶対に。

「別に何も思い当たらない!」

言い切った。顔も普通だと思う。

「白を切るとは。せいぜいトボケろ。絶対変だし。」

「そうか。それならそうでいい。で、お前はどうなんだ?」

適当にはぐらかすように言った。

「まぁ、適当にやってる。」

「誠意がないな、今に痛い目見るぞ。」

「お前にだけは言われたくはないな。」

「まあな。」

そう思うだろうが、それは昔のことだ。
今はすっかり違うんだ。教えてはやらないが。

それにしても彼女の変化に気がついてないとは。
本当に社内に目を向けてないか、好みじゃないの一言なのか。
まあ、気づかないでいてほしい。
でも驚く顔が見たいとか、惜しい事をしたと思わせたいとか、ちょっとだけ思う自分の気持ちも厄介だ。

「やっぱり変だよな。」

おおっと、しまった。

「今、何考えてた。」

「覚えてない。ぼんやりしてた。疲れてるのかもな?」

「ほう、週末もゆっくり休めないほど何か楽しい事があるのか?」

「週末たっぷり休んでも、もう木曜日だろう。疲れも出るだろう。」

「爺さんぶるな。トボケ過ぎだ。イライラしてくる。」

何をそんなそんに真剣になってるんだ?

「お前こそ、どうした?嫌な事でも言われたのか?」

そう言ったら視線を外された。
きっと酷い事をして、お返しに嫌なことを言われたんだろう。
いつもなら去る者追わない主義なのに、少しは心があったか?

「相談にのるか?」

「いらない。」

そう素直にはなれないらしい。

「いいよな、若い奴らは。」

「何だよ、人には爺さんぶるなと言ったのに。本当に大丈夫か?」

「なんだか空しくなってきた。自分の人生の中身が。」

珍しい、相当堪えてるな。

「仕事はそこそこ順調だからプライベートだろう?」

返事はない。

「そろそろ、周りもそんな時期だし、このあたりで真面目に相手を探すのもいいんじゃないか?」

「何でそう上から目線なんだ?」

「俺のことより、お前のことだからだよ。そんなに落ちこんでる姿は見たことないから、心配してるんだよ。素直に聞け!」

「そうか、まあ、よく考える。」

「気に入った子がいるとか?」

声を落として聞いた。

「いや、振られた。反省したよ、さすがに。」

分かるぞ。俺もメッセージ1つにすら気を遣ってる。
きちんと大切に考えて、読んで、返して、受け取って。
今までの俺が嘘のようにいい奴になってるんだから。

「男は案外脆いのかな?逞しくないと頼られないぞ。過去は過去、図太く行こう!」

「やっぱり何かあったんだな。でも今は幸せな現実は見せるな。その内聞いてやる。」

教えるとは言ってないが。
一応食事は完食した。
背伸びした後、ため息をつき、顔をあげて歩き出した奴。
そこまで落ち込ませた女性に興味がわく。
年下にとられたのか?
さすがにそれは悲しいな。

夜に彼女と話をしてて。

「ねえ、一応聞いておきたいんだけど、直也に何か言われたりした?」

『いいえ。何も。もしかして・・・・。』

「ああ、大丈夫。今はそれどころじゃないらしいし。何か酷く落ち込んでるんだ。振られたとも言ってて、今までなら全然執着しなかったのに、今度は相当落ち込んでる。初めて見たくらいだったよ。』

『あ・・・・・・・ああ・・・・・、それ・・・・。』

「何か知ってるの?」

『うっすらと聞こえてきた話ですが、秘書課の子かもしれません。同期なんですが可愛い感じの子なんです。偶然外で会って誘われて、でも他に好きな人がいるって言って次の誘いは断ったみたいです。その相手が志波さんって、聞いた気がします。噂みたいな感じで、はっきりとはわかりません。』

「どんな子だろう?秘書課ってかわいい子いたんだ。しっかりしたキレイどころのイメージはあるけど。」

『惹かれますか?綺麗どころがたくさんいますし、皆隙のないスタイルですよ。』

「ううん、あんまり興味ない。」

『あんまり、と言うなら少しはあるんですか?』

「なんだかこだわってる?全然ないよ。会ったこともない、接点もないくらいだからね。今は隣の営業の子に夢中ですから。」

それは・・・すみませんでした。
小さい声で謝られた。

「満足した?」

『・・・・はい。』

「ああ、さっきのその話は有名なのかな?」

『どうでしょうか?私たち同期には伝わってるかもしれません。』

「その子と仲がいいの?」

『そんなに話したことはないです。』

「そうか・・・・。まあ、しょうがないか。好きな人がいるならどうしようもないね。」

『はい。』


「ねえ、直也は普通に見たらかっこいいと思うけど、どう?」

『どうでしょうか?私は・・・・隣の営業の人に夢中で。』

同じように返してくれたけど。

「へえ、そうなんだ。誰?」

そう返したら、ちょっと黙られた。

『・・・・そうですね、志波さんはすごくかっこいいと思います。あんまり話をした事がないから知らないんですが、一応私たちの間でもかっこいい先輩上位です。』

平坦な声を出されて、言われた。

「名前を言って欲しいだけなのに。それに何?そのランキング。」

『女子が集まるとかっこいい先輩の話になりますから、よく名前は出ます。それでもずっと彼女がいるからって、誰もチャレンジはしてないと思います。』

まあ、いると言えばいる。
ローテーションのごとく入れ替わるけど。

ただその話で自分の話が出ない所を見ると話題には乗らないらしい。
ちょっと複雑だったりする。
あれ、でも・・・・確か前に・・・・。

「ねえ、隣の営業の人の話題は出ないの?聞いてない?」

『聞いてても言いたくないです。』

「あ、出てるんだ。ちょっとうれしい。」

『良かったですね。かっこいいだけじゃなくて優しい先輩と仕事ができる先輩というカテゴリーもあります。』

「どこでもいいや。完全無視よりは。ね、思わず自慢したくなるくらい仕事を頑張るから。」

そう言っても返事はなかった。

「頑張ろうね、仕事。」

色気のない話で終わった。

「週末に楽しい事が待ってると思うと頑張れるし。」

本音を入れてちょっとだけ色っぽい感じに・・・なっただろうか?

「ああ、明日金曜日だね。どうする?」

『予定は午後三時過ぎに帰ってきます。』

「じゃあ、また連絡する。」

『はい。』

「ねえ、前にさらりと褒めて欲しいってお願いした気がするけど。」


『・・・・またの機会に。』

「じゃあ、楽しみにしておく。お休み。」

『おやすみなさい。』

正直、他人のことに構ってる時間はない。直也、悪いがそう言うことだ。


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