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6 初めまして、そう挨拶しました
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多少周りの視線が痛い。
どう頑張っても出ない元気。
服もメイクも普段通りにしたのに。
心からのパワーが全くない。
「どうしたの?大丈夫?」
「はい。ちょっと同級生の友達と派手に喧嘩をしてしまいました。反省モード中です。」
「あ、そうなんだ。」
多分、今ガッカリしてるよね。
きっと、彼氏との喧嘩だと思ったよね。
何てちょっと意地悪に思ってしまう。
優しい同僚の言葉にすらトゲトゲの心がザラザラとした言葉に変えてしまう。
「難しいです。人間関係。」
そう言ってため息をつく。
演技しよう。春斗の事は思い出さないように。
思い出したら、ほら、涙腺がやばい。
「ちょっと休憩してきます。」
ひとり休憩室で椅子に座ってぼんやりする。
また、ひとりになった。
何だか、もう馬鹿らしくなった。
いっそ服の趣味も変えて、大人っぽくモノトーン基調にして、髪もショートカットにして大人女子とか、服も言葉もしぐさも地のままの私で・・・・・、出来る?
ショートにしたことはない。似合うのだろうか?
一応相談しよう。
服とメイクは楽になる。
言葉もしぐさも楽になる。
でも自分に染みついてしまったものが・・・・。
本当に自分の一部だから、そう易々とは消えない。
結局バレるんだから、もうよくない?
若いと言われる今はいいけど、来年あたりはもう少し大人びていい年になるよね。
言葉は落ち着いたしっとり系くらいには落として、でもそれじゃあ一緒。
新しい自分を生み出すだけ。
大人女子のふりしてみても『地』じゃなきゃ意味がない。
「小愛ちゃん、元気ないね?どうしたの?」
「そうなんです、ちょっと友達と喧嘩して、ただいま反省モード中です。」
「じゃあさあ、ちょうど良かった。金曜日に飲み会するから、おいでよ。さっき早瀬を誘ったら小愛ちゃんを誘うって言ってたよ。考えてて。気分転換になればいいよね。」
「分かりました。後で返事します。」
「よろしく。」
何度か飲みに行ったことがある営業の佐久間さん。
今までは確かに葵から誘われてた。
二人は仲がいい先輩後輩だ。よく飲みに行ってるらしい。
でもほとんど断ってた。
何で今回も誘うの?
葵にはまだいつもの挨拶しかしてない。普通にしただけ。・・・まだ春斗のことは教えてもないし。
何か変だったかな?確かにいくらかは変だとは思うけど・・・・。バレてる?
部屋にいてもウジウジしそう。
せっかく作ったお出かけ予定表を見ながらぶつぶつ独り言言ってそう。
そんな自分が怖い。
春斗の文句も出そう。
外にいて誰かといた方がいいのかも。
誘われてみようかな。行こうかな。
減ってない甘い紅茶を持って、席に着く。
パソコンに付箋があった。
『ランチしよっ。葵』
葵の方を見るけど真面目に仕事してた。
付箋はそのままにして仕事を始めた。
「ねえ、誤魔化してる?」
「無理?」
「うん、私には通用しない。」
「そうか。その通りです。」
「どうして?」
「考えたくない。うまく言えないって言われた。」
「そう。」
やっぱりバレてたか。
今のやり取りだけで会話が成立するほど、明らかだったらしいから。
「ねえ、飲もう。金曜日、佐久間さんたちと飲もうって誘われたの。小愛を誘うって言っちゃった。」
「うん、聞いた。」
「どう?」
「うん、いいよ。1人で部屋にいると暗くなりそう。」
「そうそう。楽しく飲もう!!」
金曜日の予定は決まった。
他誰が誘われたのかは知らなかった。
知らない先輩も数人。
女性陣は隣の課も含めて一年目と二年目メイン。
そして楽しく飲もうと思ったのに、先に言われた。
「小愛、彼氏はお留守番?」
ゲゲゲッ。お前わざとだろう、天誅。
心の中でそう思ったけど、にっこり笑ってやり過ごした。
毎回毎回嫌味を言われる。濃沼麻美さん。
同期の中で唯一、何故か敵対視されてるらしい。
多分春斗のことがあるから。
その前からもちょっとはあったけど。
春斗の時も、あの時も独り占めして誰にも渡さなかったから。
だめだ・・・・考えるな、私。
絶対知られたくない。
だからいい。
どうぞ勝手に、ご自由に楽しんでください。
端の席を選んで座る。
楽しく飲む楽しく飲む・・・・・・。1人、つぶやく。
向かいの席の先輩は知らない人だった。
視線があったら少し驚かれた目をされた。
誰?
一応可愛らしく、少し考えるふり、・・・・・結論、知らん。
「初めまして・・・でいいでしょうか?安曇 小愛です。」
「初めてだね、多分。宇佐美です。」
しーん。なんだか、会話が、あれ?
どんな感じで始めてた?いつもの調子が出ない・・・・。
楽しく飲みたいから・・・・。
「宇佐美さんはお酒は強いんですか?」
「普通だよ。でも安積さんには負けるかも。」
ん?
「そんな強そうに見えますか?」
一応少しは可愛らしく聞いてみた。
「うん、実はすごく飲めそうなタイプかなって、違ったかな?」
そんな事実はひた隠してます・・・・。
「いえ・・・家族みんな飲めないタイプなんです。きっと遺伝です。でも今日は楽しく飲むって決めてるので、気分で酔っぱらいます。」
「いつも楽しく飲んでないの?」
ん?
何で思った通りの会話にならない?
ちょっと変なポイントに疑問を感じるタイプの人なんだ。
「楽しいです。美味しいお酒と美味しい食べ物があれば、女子は楽しいです。」
「食べ物はどんなのが好み?」
「あんまり好き嫌いはないですが、このお店だと、アヒージョが美味しいらしいので、食べたいです。」
まっすぐに顔を向けられて、普通に言われる。
「煮込みとか、焼き鳥とか、枝豆ってタイプじゃないね。」
勿論です!!大好きです!!
でも実家の周りだけでと、決めてるんです!!
「いえ・・・・嫌いじゃないです。でもあんまり食べる機会はないです。」
嘘ではない?月一くらいで、一日かけて食べてます。
美味しいんです。ソウルフードです。
「そんな感じのメニューが好きですか?」
「まあね。でも僕も好き嫌いないかな。」
「内臓も結構いける。女の人は苦手な人が多いよね。」
「はい・・・・まあ。そういえばあんまり。未知です。名前を言われても、どの部位かはわからないです。」
「分からない方が食べれるかもね。」
はい、別に普通に食べてます。気にしません。
何となく隠せてない?
もしや、ちょっとづつ地がでてる?
それを読んでる?
あっという間にこじゃれた一杯目のグラスが空いた。
「やっぱり、行けそうじゃない?次は何にする?」
一緒に二杯目を注文してもらった。
程よく盛り上がってる人々。
「誰か気になる人がいる?」
ぼんやり見てたら耳元で声がした。
ビックリして離れる。
顔を見ると驚かれた。
あれ?
そんなに近くなかった?
相手も・・・・宇佐美さんもビックリしてる。
首を振る。
恥ずかしい。
すごく近くで聞かれた気がしたけど気のせいだったみたい。
ニッコリ笑われた。
ちょっと笑ってみた。
何だか本当におかしいかも。
「あ、もしかして食べたいのがあるなら、お皿回してもらう?」
「ああ、はい。ちょっとお腹空いてて。」これは本当。
端の席でサラダしか食べてない。
「ちょっと待ってて。」
そうだ、会費の分は食べるぞ。
私は新しい取り皿を二人分持ってくる。
ふたりで端の席で立ちながらお皿に移す。
「食べたかったアヒージョあったよ。シーフード諸々。」
「ありがとうございます。いつの間にって感じです。」
「バゲットとってくるよ。食べる?」
「はい。」うなずく。
その間、チョリソーを取りわける。
見渡すと誰も食べてない?
もったいない。
移し終わった皿は元の場所へ運んでもらった。
「あの、ありがとうございます。」
「いいよ、別に。端の席はつまんないね。」
「今度からは店員さんはこっちに誘導します。でももったいないですよね。」
「二人で頑張る?」
「もちろんです。」
笑われた。
「個室じゃなかったら隣のテーブルに分けたいくらいだよね。誰も手をつけてなくない?」
「代わりに違うのもらいますよね。」
「まあ、物々交換は交流の基本だね。そういうのも楽しいよね。」
しまった、つい。
「でも、良かった。元気なさそうに見えたから。」
だって普通を知らないでしょう?って思いますが。
「そんなに暗い表情でした?」
「ううん、なんとなく、笑顔が無理してるかなって、ごめん、聞き流して。」
それは天敵の濃沼さんに対峙した時じゃないですか?
あの辺りは引きつってたかも。
「少し落ち込んでしまってましたが、食欲とともに元気も復活です。」
チョリソーにかぶりつく。
視線を感じて・・・・ヤバイ、ナイフを使うべき?
歯を立てたところから肉汁が・・・・。
やっぱりおかしい。いつものようにふるまえない。ゆるゆると『地』が漏れ出しそう。まあ、いいか・・・・。
諦めてチョリソーはそのままバリッバリッと皮の感触を感じて、とっても美味しくいただきました。
「あの、変なこと聞いていいですか?」
「何?」
「今まで好きになったり魅力を感じたりした人で、髪の長さは関係ありますか?」
「ないよ。」即答。
「ないんですか?」
「それは、髪の長い人が好きか短い人が好きかでしょう?別に気にしない。似合ってれば、清潔だったら。長くてもあんまりまとめてない広がってるのはのは嫌いだし、顔立ちに似合ってれば短いのもかっこいいよね。別に女性らしさがなくなるとは思わないよ。」
「そうですか。」
「でも、僕の意見ね。ほら、しぐさフェチとか、髪に触れたいとか、いろいろあるから。」
そう言って顔を見られたら、急に恥ずかしくなる。
「長いのも面倒じゃないの?もっと短い方が楽そう。」
そう言う宇佐美さんの髪を見る。
まあ、普通。
あれ?
「前に一緒に飲んだことありましたか?離れた席とかで。」
「飲んだ記憶はないな。」
「すみません、そうですよね。」
「・・・・。」
嫌だ、自意識過剰みたいで。
今日だって反対端の人は私の事なんて覚えてない、私も今隣の人の事すら思い出せない。
さっきから宇佐美さんとばかりしか話してないから。
「髪切るの?」
唐突に話題が戻された気がしたけど、そうでもないのかも。
失恋してすることはそれかいっ、普通過ぎるよ!
自分に突っ込みを入れる。
春斗に撫でてもらってた髪が随分伸びた。
綺麗だって褒めてくれたから。
やばい・・・泣きそう。
「さあい、楽しんでる?彼氏できてからあんまり来なかったよね。珍しい。」
来た~、濃沼~。
でも今は感謝。涙が引っ込んだ。
その声に顔をあげると言いたいことは言ったらしく、向かいの宇佐美さんの隣に立って、全身が甘い匂いを放ってる。分かりやすい。
多分自分の席のあたりじゃあ、誰も見つけられなかったんだろう。
それとも知り合いとか?
名前を言ってる時点で違うらしい。
濃沼初ということは、宇佐美さんもあんまり参加してないらしい?
反応の薄い宇佐美さん。いっそこっちも分かりやすい。
ああ、また恨まれそう。知りませんよ。
たまたま向かいにいただけですから。
だから話をしただけですから。
しばらくして、諦めたのかいなくなった。
「友達?」
「ただの同期です。」
まさかです。確実に天敵寄りです。
言い切ったのが良かったのか、笑われた。
「なるほど。」
何がですか?
もう、いつもはもっと控えめに否定するのに。
一度は肯定してからの、やんわりと付き合いが薄いと知らせるくらいなのに。
本当に今日は猫の毛皮がほころびてる。
「あっ。」
店員さんが肉を運んできてくれた。
心配したお皿はあれから大分なくなっていた。
「取ってこようか?」
「待ちます。」
「回してくれるかなあ?」
置かれたお皿には誰も手を伸ばさず。
もう一皿運んできてくれた店員さんに声をかける。
ふたりでまた端に立ち、場所を開けて食べたい分を切り分ける。
宇佐美さんが素晴らしい手つきでやってくれた。
私は今度こそはナイフを使おう。
そう思った。
残りを向こうのテーブルに運んでくれた宇佐美さん。
ついでにお酒の注文もしてくれた。
気の利く人だ。
「宇佐美さん、バイトで飲食やってました?」
「うん、やってた。」
「手際がいい感じです。そういえば佐久間さんと同期ですか?」
「そうだよ。佐久間は知ってるの?」
「友達が仲がよくて、よく飲んでるらしいです。久しぶりに今日は誘われました。今一人で部屋にいると、どうしても・・・・・・」
あ、喋り過ぎた。
「・・・どうしてもお菓子を食べてしまうんです。ダイエットしてるんです。」
って、こんなに肉を切り分けてもらってる時点で、間違えた言い訳だった。
あああ~。
宇佐美さんの視線が肉に行った。私に戻った。 ちん。
不信感は明らかだけど、笑いに変えてくれた。いい人だ。
それも何度目かの笑いかも。
「人といる方が楽しい時もあるし。」
そうそう。宇佐美さんいいことを言う。心でうなずく。
でも自分の頭も上下して深く同意してたみたい。
気が付いても、下を向いたまま。
また笑われてるだろうか?
お酒が届いて、何度目かの乾杯をした。
そこは元気に!!
既に可愛らしい二杯までのふりは出来てない。
まあ、もういい。笑われてばかり。
よく食べ、よく飲むって、そんな奴と思われていい。
どうせ彼氏がいるって思われてるし。
まったく本当に嫌がらせが子供っぽい。
大人だったらこっそり裏でほのめかすとか、するよ。
濃沼~。
でも今日はムカついた心が、落ち込んだ心を少しは元気にしてくれた。
だから、許す。
今日の無礼は忘れてやる。
オヤジ達のセクハラくらいにしか思えない、児戯だ。
でも楽しかった。
宇佐美さんも全然グイグイ来るタイプじゃないし、楽だった。
ハッキリ言って他の人とは一言も話してない。
話しかけられもしなかった。
・・・・そこはちょっとだけ、がっかりかな。
どう頑張っても出ない元気。
服もメイクも普段通りにしたのに。
心からのパワーが全くない。
「どうしたの?大丈夫?」
「はい。ちょっと同級生の友達と派手に喧嘩をしてしまいました。反省モード中です。」
「あ、そうなんだ。」
多分、今ガッカリしてるよね。
きっと、彼氏との喧嘩だと思ったよね。
何てちょっと意地悪に思ってしまう。
優しい同僚の言葉にすらトゲトゲの心がザラザラとした言葉に変えてしまう。
「難しいです。人間関係。」
そう言ってため息をつく。
演技しよう。春斗の事は思い出さないように。
思い出したら、ほら、涙腺がやばい。
「ちょっと休憩してきます。」
ひとり休憩室で椅子に座ってぼんやりする。
また、ひとりになった。
何だか、もう馬鹿らしくなった。
いっそ服の趣味も変えて、大人っぽくモノトーン基調にして、髪もショートカットにして大人女子とか、服も言葉もしぐさも地のままの私で・・・・・、出来る?
ショートにしたことはない。似合うのだろうか?
一応相談しよう。
服とメイクは楽になる。
言葉もしぐさも楽になる。
でも自分に染みついてしまったものが・・・・。
本当に自分の一部だから、そう易々とは消えない。
結局バレるんだから、もうよくない?
若いと言われる今はいいけど、来年あたりはもう少し大人びていい年になるよね。
言葉は落ち着いたしっとり系くらいには落として、でもそれじゃあ一緒。
新しい自分を生み出すだけ。
大人女子のふりしてみても『地』じゃなきゃ意味がない。
「小愛ちゃん、元気ないね?どうしたの?」
「そうなんです、ちょっと友達と喧嘩して、ただいま反省モード中です。」
「じゃあさあ、ちょうど良かった。金曜日に飲み会するから、おいでよ。さっき早瀬を誘ったら小愛ちゃんを誘うって言ってたよ。考えてて。気分転換になればいいよね。」
「分かりました。後で返事します。」
「よろしく。」
何度か飲みに行ったことがある営業の佐久間さん。
今までは確かに葵から誘われてた。
二人は仲がいい先輩後輩だ。よく飲みに行ってるらしい。
でもほとんど断ってた。
何で今回も誘うの?
葵にはまだいつもの挨拶しかしてない。普通にしただけ。・・・まだ春斗のことは教えてもないし。
何か変だったかな?確かにいくらかは変だとは思うけど・・・・。バレてる?
部屋にいてもウジウジしそう。
せっかく作ったお出かけ予定表を見ながらぶつぶつ独り言言ってそう。
そんな自分が怖い。
春斗の文句も出そう。
外にいて誰かといた方がいいのかも。
誘われてみようかな。行こうかな。
減ってない甘い紅茶を持って、席に着く。
パソコンに付箋があった。
『ランチしよっ。葵』
葵の方を見るけど真面目に仕事してた。
付箋はそのままにして仕事を始めた。
「ねえ、誤魔化してる?」
「無理?」
「うん、私には通用しない。」
「そうか。その通りです。」
「どうして?」
「考えたくない。うまく言えないって言われた。」
「そう。」
やっぱりバレてたか。
今のやり取りだけで会話が成立するほど、明らかだったらしいから。
「ねえ、飲もう。金曜日、佐久間さんたちと飲もうって誘われたの。小愛を誘うって言っちゃった。」
「うん、聞いた。」
「どう?」
「うん、いいよ。1人で部屋にいると暗くなりそう。」
「そうそう。楽しく飲もう!!」
金曜日の予定は決まった。
他誰が誘われたのかは知らなかった。
知らない先輩も数人。
女性陣は隣の課も含めて一年目と二年目メイン。
そして楽しく飲もうと思ったのに、先に言われた。
「小愛、彼氏はお留守番?」
ゲゲゲッ。お前わざとだろう、天誅。
心の中でそう思ったけど、にっこり笑ってやり過ごした。
毎回毎回嫌味を言われる。濃沼麻美さん。
同期の中で唯一、何故か敵対視されてるらしい。
多分春斗のことがあるから。
その前からもちょっとはあったけど。
春斗の時も、あの時も独り占めして誰にも渡さなかったから。
だめだ・・・・考えるな、私。
絶対知られたくない。
だからいい。
どうぞ勝手に、ご自由に楽しんでください。
端の席を選んで座る。
楽しく飲む楽しく飲む・・・・・・。1人、つぶやく。
向かいの席の先輩は知らない人だった。
視線があったら少し驚かれた目をされた。
誰?
一応可愛らしく、少し考えるふり、・・・・・結論、知らん。
「初めまして・・・でいいでしょうか?安曇 小愛です。」
「初めてだね、多分。宇佐美です。」
しーん。なんだか、会話が、あれ?
どんな感じで始めてた?いつもの調子が出ない・・・・。
楽しく飲みたいから・・・・。
「宇佐美さんはお酒は強いんですか?」
「普通だよ。でも安積さんには負けるかも。」
ん?
「そんな強そうに見えますか?」
一応少しは可愛らしく聞いてみた。
「うん、実はすごく飲めそうなタイプかなって、違ったかな?」
そんな事実はひた隠してます・・・・。
「いえ・・・家族みんな飲めないタイプなんです。きっと遺伝です。でも今日は楽しく飲むって決めてるので、気分で酔っぱらいます。」
「いつも楽しく飲んでないの?」
ん?
何で思った通りの会話にならない?
ちょっと変なポイントに疑問を感じるタイプの人なんだ。
「楽しいです。美味しいお酒と美味しい食べ物があれば、女子は楽しいです。」
「食べ物はどんなのが好み?」
「あんまり好き嫌いはないですが、このお店だと、アヒージョが美味しいらしいので、食べたいです。」
まっすぐに顔を向けられて、普通に言われる。
「煮込みとか、焼き鳥とか、枝豆ってタイプじゃないね。」
勿論です!!大好きです!!
でも実家の周りだけでと、決めてるんです!!
「いえ・・・・嫌いじゃないです。でもあんまり食べる機会はないです。」
嘘ではない?月一くらいで、一日かけて食べてます。
美味しいんです。ソウルフードです。
「そんな感じのメニューが好きですか?」
「まあね。でも僕も好き嫌いないかな。」
「内臓も結構いける。女の人は苦手な人が多いよね。」
「はい・・・・まあ。そういえばあんまり。未知です。名前を言われても、どの部位かはわからないです。」
「分からない方が食べれるかもね。」
はい、別に普通に食べてます。気にしません。
何となく隠せてない?
もしや、ちょっとづつ地がでてる?
それを読んでる?
あっという間にこじゃれた一杯目のグラスが空いた。
「やっぱり、行けそうじゃない?次は何にする?」
一緒に二杯目を注文してもらった。
程よく盛り上がってる人々。
「誰か気になる人がいる?」
ぼんやり見てたら耳元で声がした。
ビックリして離れる。
顔を見ると驚かれた。
あれ?
そんなに近くなかった?
相手も・・・・宇佐美さんもビックリしてる。
首を振る。
恥ずかしい。
すごく近くで聞かれた気がしたけど気のせいだったみたい。
ニッコリ笑われた。
ちょっと笑ってみた。
何だか本当におかしいかも。
「あ、もしかして食べたいのがあるなら、お皿回してもらう?」
「ああ、はい。ちょっとお腹空いてて。」これは本当。
端の席でサラダしか食べてない。
「ちょっと待ってて。」
そうだ、会費の分は食べるぞ。
私は新しい取り皿を二人分持ってくる。
ふたりで端の席で立ちながらお皿に移す。
「食べたかったアヒージョあったよ。シーフード諸々。」
「ありがとうございます。いつの間にって感じです。」
「バゲットとってくるよ。食べる?」
「はい。」うなずく。
その間、チョリソーを取りわける。
見渡すと誰も食べてない?
もったいない。
移し終わった皿は元の場所へ運んでもらった。
「あの、ありがとうございます。」
「いいよ、別に。端の席はつまんないね。」
「今度からは店員さんはこっちに誘導します。でももったいないですよね。」
「二人で頑張る?」
「もちろんです。」
笑われた。
「個室じゃなかったら隣のテーブルに分けたいくらいだよね。誰も手をつけてなくない?」
「代わりに違うのもらいますよね。」
「まあ、物々交換は交流の基本だね。そういうのも楽しいよね。」
しまった、つい。
「でも、良かった。元気なさそうに見えたから。」
だって普通を知らないでしょう?って思いますが。
「そんなに暗い表情でした?」
「ううん、なんとなく、笑顔が無理してるかなって、ごめん、聞き流して。」
それは天敵の濃沼さんに対峙した時じゃないですか?
あの辺りは引きつってたかも。
「少し落ち込んでしまってましたが、食欲とともに元気も復活です。」
チョリソーにかぶりつく。
視線を感じて・・・・ヤバイ、ナイフを使うべき?
歯を立てたところから肉汁が・・・・。
やっぱりおかしい。いつものようにふるまえない。ゆるゆると『地』が漏れ出しそう。まあ、いいか・・・・。
諦めてチョリソーはそのままバリッバリッと皮の感触を感じて、とっても美味しくいただきました。
「あの、変なこと聞いていいですか?」
「何?」
「今まで好きになったり魅力を感じたりした人で、髪の長さは関係ありますか?」
「ないよ。」即答。
「ないんですか?」
「それは、髪の長い人が好きか短い人が好きかでしょう?別に気にしない。似合ってれば、清潔だったら。長くてもあんまりまとめてない広がってるのはのは嫌いだし、顔立ちに似合ってれば短いのもかっこいいよね。別に女性らしさがなくなるとは思わないよ。」
「そうですか。」
「でも、僕の意見ね。ほら、しぐさフェチとか、髪に触れたいとか、いろいろあるから。」
そう言って顔を見られたら、急に恥ずかしくなる。
「長いのも面倒じゃないの?もっと短い方が楽そう。」
そう言う宇佐美さんの髪を見る。
まあ、普通。
あれ?
「前に一緒に飲んだことありましたか?離れた席とかで。」
「飲んだ記憶はないな。」
「すみません、そうですよね。」
「・・・・。」
嫌だ、自意識過剰みたいで。
今日だって反対端の人は私の事なんて覚えてない、私も今隣の人の事すら思い出せない。
さっきから宇佐美さんとばかりしか話してないから。
「髪切るの?」
唐突に話題が戻された気がしたけど、そうでもないのかも。
失恋してすることはそれかいっ、普通過ぎるよ!
自分に突っ込みを入れる。
春斗に撫でてもらってた髪が随分伸びた。
綺麗だって褒めてくれたから。
やばい・・・泣きそう。
「さあい、楽しんでる?彼氏できてからあんまり来なかったよね。珍しい。」
来た~、濃沼~。
でも今は感謝。涙が引っ込んだ。
その声に顔をあげると言いたいことは言ったらしく、向かいの宇佐美さんの隣に立って、全身が甘い匂いを放ってる。分かりやすい。
多分自分の席のあたりじゃあ、誰も見つけられなかったんだろう。
それとも知り合いとか?
名前を言ってる時点で違うらしい。
濃沼初ということは、宇佐美さんもあんまり参加してないらしい?
反応の薄い宇佐美さん。いっそこっちも分かりやすい。
ああ、また恨まれそう。知りませんよ。
たまたま向かいにいただけですから。
だから話をしただけですから。
しばらくして、諦めたのかいなくなった。
「友達?」
「ただの同期です。」
まさかです。確実に天敵寄りです。
言い切ったのが良かったのか、笑われた。
「なるほど。」
何がですか?
もう、いつもはもっと控えめに否定するのに。
一度は肯定してからの、やんわりと付き合いが薄いと知らせるくらいなのに。
本当に今日は猫の毛皮がほころびてる。
「あっ。」
店員さんが肉を運んできてくれた。
心配したお皿はあれから大分なくなっていた。
「取ってこようか?」
「待ちます。」
「回してくれるかなあ?」
置かれたお皿には誰も手を伸ばさず。
もう一皿運んできてくれた店員さんに声をかける。
ふたりでまた端に立ち、場所を開けて食べたい分を切り分ける。
宇佐美さんが素晴らしい手つきでやってくれた。
私は今度こそはナイフを使おう。
そう思った。
残りを向こうのテーブルに運んでくれた宇佐美さん。
ついでにお酒の注文もしてくれた。
気の利く人だ。
「宇佐美さん、バイトで飲食やってました?」
「うん、やってた。」
「手際がいい感じです。そういえば佐久間さんと同期ですか?」
「そうだよ。佐久間は知ってるの?」
「友達が仲がよくて、よく飲んでるらしいです。久しぶりに今日は誘われました。今一人で部屋にいると、どうしても・・・・・・」
あ、喋り過ぎた。
「・・・どうしてもお菓子を食べてしまうんです。ダイエットしてるんです。」
って、こんなに肉を切り分けてもらってる時点で、間違えた言い訳だった。
あああ~。
宇佐美さんの視線が肉に行った。私に戻った。 ちん。
不信感は明らかだけど、笑いに変えてくれた。いい人だ。
それも何度目かの笑いかも。
「人といる方が楽しい時もあるし。」
そうそう。宇佐美さんいいことを言う。心でうなずく。
でも自分の頭も上下して深く同意してたみたい。
気が付いても、下を向いたまま。
また笑われてるだろうか?
お酒が届いて、何度目かの乾杯をした。
そこは元気に!!
既に可愛らしい二杯までのふりは出来てない。
まあ、もういい。笑われてばかり。
よく食べ、よく飲むって、そんな奴と思われていい。
どうせ彼氏がいるって思われてるし。
まったく本当に嫌がらせが子供っぽい。
大人だったらこっそり裏でほのめかすとか、するよ。
濃沼~。
でも今日はムカついた心が、落ち込んだ心を少しは元気にしてくれた。
だから、許す。
今日の無礼は忘れてやる。
オヤジ達のセクハラくらいにしか思えない、児戯だ。
でも楽しかった。
宇佐美さんも全然グイグイ来るタイプじゃないし、楽だった。
ハッキリ言って他の人とは一言も話してない。
話しかけられもしなかった。
・・・・そこはちょっとだけ、がっかりかな。
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