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11 仕事が終われば当然夜になる。
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心も体も軽く2人の子供の送り迎えをする。
駅からはちょっと離れた場所にいる。
早めに迎えに行ってドラッグストアに寄り必要なもの買いバッグの中にしまう。
夕食はどうしようか、仕事を終えて通りかかった総菜屋さんでお弁当を買う。
そのまま部屋に戻り、サッとシャワーと着替えをして荷物をまとめて部屋を出る。
お弁当が冷めないうちに・・・・、一つ一つの動作が落ち着かないくらい急いでる。
部屋を出てまっすぐに彼女の元へ。
「ただいま、真奈さん。」
「お帰りなさい。佐野さん。」
ドアを開けてくれた彼女に笑顔を向ける。
「はい、ご飯。お腹空いた~。」
今日はあんまり食事をとってない気がする。昼、多少の緊張と思った以上の満足感にすっかり忘れていた。
「オムライス。美味しそう。スープ作ります、インスタントですけど。」
「お願い。」
壁にもたれてぼんやりと後ろ姿を見る。
振り向いてこっちに来て、見上げられる。
「あの・・・・今日泊まりますか?」
「真奈さんが良かったらそうしたい。」
「お願いします。」
『どうぞ』と許可ではなく、お願いされた。
こちらこそ手を合わせて頼み込んででもお願いしたいくらいだ。
キッチンでお湯が沸く音がする。
カップにスープを入れてくれる間に二人分のオムライスをテーブルに運ぶのを手伝う。
デミグラスと、トマトソース。ほんのりまだ温かいのは全力で駆け付けたから。
「お腹すきました。」
「あの後、何か食べた?」
「いいえ、何も。」赤い顔で答える。
二人で二種類を分け合うように食べる。
「あ、そういえば、今度里猫の写真送ってもらうから。そうしたら携帯に又送るね。」
「サノマル大きくなってるでしょうね?」
振り向いて子猫の写真を見る彼女。
ん?サノマル・・・・、名前?それはもしやあの猫の名前?
彼女は気がついてないようだけど、確かにそう呼んだよな。
今日子さんが名前を教えてくれないって言っていたけど、サノマル・・・・。
キノコとかじゃなかったんだ。サノマルという雑種の人懐こい猫。
なかなか似合ってる気もする。変に気取った洋風の名前よりずっといい。
「楽しみにしてます。」
無邪気にそういう彼女はやはり気がついてない。
無意識に呼んだんだろう。
明かに自分の名前から文字られたということがうれしい。
絶対聞き違いじゃない。
「そうだね、逞しい猫になってるかも。」
「もらいに来た時に既にゲージを持ってきてたから仲間がいたのかなあ?」
「そうなの?その辺は聞いてないけど。」
「猫飼いたいなあ、仕事から帰ってきて、にゃあって言って出てきてくれたら癒されるだろうなあ。休みの日も一日中家にいてぐりぐりしたりして。」
「稲葉さんところならアルマジロとかいるけどね。癒されるって感じじゃないからね。」
「だって同じ部屋に毒蜘蛛もいるじゃないですか、猫がいたとしてもそこは無理です。」
「見慣れるとかわいいらしいよ。」
「見た瞬間にかわいいと思える動物なら会いたいです。」
「まあね。」
空になった容器とカップをかたずける。
ほとんど手伝うこともないけど。
コーヒーを入れてくれるのを待つ。
キッチンでゆっくり振り返り聞かれた。
「あの、シャワー浴びますか?タオル出しますけど。」
「ううん、家に帰って浴びてきたから。今は大丈夫。ありがとう。」
「そうですか。」
くるりと向きを変えてコーヒーを注ぐ背中。
見える細い背中が緊張してるようで、こっちまでその緊張が伝わってくる。
「いつも帰ってくるのはこれくらい?」
「いいえ、もっと早いですよ。7時には大体終わりにします。そのあと商店街でお買い物して帰ってくるくらいですので。」
「そうなんだ。真奈さんがいるから今日子さんはゆっくりさやかちゃんと過ごせるようになったと思うよ。さやかちゃんは昔はよくお祖母ちゃんとお店の中にいたんだ。お客さん対応してるお母さんの近くに居たかったんだろうけど。今はお祖母ちゃんと過ごした後夕方前には今日子さんと一緒にいれるからね。」
「役に立ってるならそれでうれしいです。」
「立ってる立ってる。」
自信をもって、と心の中で付け加える。
「佐野さん、明日のお仕事は?」
「お昼から打ち合わせ。毎年恒例で大きな家の庭木の手入れをお願いされてるんだ。梅雨の前に一度手を入れて庭掃除をして。3日から1週間くらいかけてゆっくりでいいって言われてる。しばらくは職人です。」
「器用ですよね。佐野さん。」
「そう・・・かな?」
「そうです。今日子さんに言わせるとただの年の功だって、不器用だって言ってましたが。」
「今日子さんには敵わないよ。移動販売とか、お店出店とか務さんがあまり実用向きじゃないからさやかちゃん背負っていろいろと調べたり届けを出したりしたみたいだよ。だから事務能力も高いと思うよ。僕もいろいろアドバイスもらったし。」
「そうなんですか。二人は、なんだか仲のいい姉弟みたいです。」
「そうだね、さやかちゃんも小さい時から見てるから、もうおじさん気分だし。」
「務さんは物静かで、今日子さんがお世話好きで。いい夫婦ですよね。憧れます。」
「今日子さんにとっては真奈さんも妹みたいなものかもね。」
「いいですね、ずっとお姉さん欲しかったんです。兄しかいなかったから。」
「佐野さんは?ご兄弟は?」
「僕は一人っ子。だからうらやましかった、男でも女でも、上でも下でも欲しかったなあ。」
コーヒーを飲み普通に話しながらどうやって誘うかと考えていた。
話をすればするほど言い出しにくくなる。
少しの話の隙間に自分が息を吸い込むのを感じて、でもなかなか言い出せず。
「もう少し飲みますか?」
真奈さんがコーヒーのお代わりを聞いてくる。
グッと肩を抱き寄せて上半身を包み込む。
「デザート食べたい。」
思た以上に切ない声に自分でも驚く。
「あ、この間買ってもらったのが冷蔵庫にもう少しありました。」
ちょっとびっくりしたようだけど嬉しそうに少し顔をあげながら言う。
「違う、今腕の中にあるほう、食べたい。ダメかな?」
しばらく彼女が考えて首を振る。
「お風呂入ってきてもいいですか?」
「うん、待ってる。」
髪の毛にキスをして腕を緩めて彼女を解放する。
ゆっくり立ち上がり奥の部屋に行き着替えを持ってお風呂場に行く彼女。
決して急いでるわけではない、恥ずかしくてこっちを見ないようにしているのが分かる。
さて、自分も着替えをし、カップを片付けながら歯磨きをする。
バイト途中に買ってバッグにしまった袋を取り出す。
小さな箱からパッケージを出していくつかポケットにしまう。
元の場所に戻り彼女を待つ。
タブレットを起動して今日の業務内容を記入する。
明日の予定をチェックして、少しの間いつも見るサイトを見回る。
何かしてないと緊張に飲み込まれまれそうだった。
扉が開く音がして彼女が出てくる気配にゆっくりタブレットを消した。
ゆっくり歩いてくる彼女。この間風邪の時はパジャマではなく普通の楽な部屋着だった。
初めてのパジャマがとても新鮮だ。
「お待たせしました。」
彼女の緊張が伝わってくる。
タブレットをテーブルに置いて迎えに行く。
「真奈さん、今更だけど・・・大丈夫?」
はっきりこっちを見てうなずく彼女。
潤んだような目に期待するような光を見たいとのぞき込む。
そのまま見つめ合い囁く。
「じゃあ、ベッドに行きたい。」
リビングの照明を小さく落として、まだ入ったことのない寝室に手をつないで入る。
照明一つついてない部屋は暗い。後ろのリビングから弱い光が入りおぼろげに見えるくらい。それでも目が慣れてくるとうすぼんやりと物の形がわかる。
「真奈さん、少し光を入れていい?」
リビングの光がもっと入るように扉の隙間を大きくする。
ベッドわきに立ち尽くす彼女の表情も見えるようになった。
急いで彼女のところに戻り抱きしめる。
抱きしめて体温を感じ合う。優しいキスはすぐに激しく深いものになる。
「まなさん・・・。」
名前を呼んでゆっくりベッドに腰を下ろす。
彼女のパジャマを脱がす、下に着た柔らかい布の感触越しに肌を触る。
彼女が自分のパジャマのボタンを外す。肌に触れてくる細い手がゆっくりと動くのを感じる。
首に吸い付きキスを繰り返す。
布団を捲り足を持ちベットに横たわらせた彼女に覆いかぶさる。
首から胸元へキスをしながら自分のパジャマの胸ポケットに入れたものを枕の下に押し込む。もう後は用はない。自分で脱ぎ去りベッドの下へ落とす。
「あ、あの・・・。」
かろうじて表情が読めるくらいの明かりの中、両手が待ったをかける様に胸に当てられた。
「あの、あんまり経験がなくて・・・・その。」
初めてというほどの緊張感はなかったから、さほど気にもしてなかったのだが。
「大丈夫、僕もほんとに久しぶりだから。嫌だったら、言って。」
頷いた彼女を見たすぐ後には自分の言ったことも忘れるくらい夢中になっていた。
彼女の肌に触れた手を腰から脇、胸の方へ動かしていく。
「はぁ。佐野さん、あぁ。」
「まな、あぁ、きもちいい。なま。」
「はぁ。」
手が胸の柔らかい裾野へたどり着くころには先端を唇で刺激していた。
手で胸を大きく揺らす。やわらかい胸が自分の手で形を変えていくのは良く見えないけど顔を押し当てて感じる。
彼女の荒い息の途中に少しずつ色っぽい嬌声が混じる。
「いやぁ、あぁん。」
完全にめくりあげられた余分な布をはぎ取る時、背中をあげてくれる彼女。
全体をよく見る余裕もなく吸い付く。
彼女の手が自分の頭に触れる。
かすかに動き始めた彼女の下半身を自分の下半身で挟む。
太腿のあたりに自分の固く熱いものを当てる。
「ああぁぁ。」
裸の上半身が汗ばんでくる。
彼女の肌もしっとりとして、熱くなってくる。
唇を腰やおへそに落とすとともに腰や太ももに触れる。
彼女の腰が動いた瞬間にパジャマの下をはぎ取る。
ひざ下まで下げると後は自分で脱いでくれた。
自分のズボンも彼女が下げるのに協力して脱ぎ去る。
自分の手をゆっくりとさまよわせて少しずつ彼女の中心に向かう。
逃げるように動く腰は自分の足でシーツに縫い留める。
お腹や腰へのキスをやめて彼女の顔の前へ。
一度視線を合わせ、甘い吐息に薄く開いた唇にキスを繰り返しながらゆっくりそこに触れる。
布越しにも彼女が感じて反応しているのがわかる。
「いやぁ、いやぁ。」
ゆっくり前後に動かしてやると特に色っぽい声をあげる。
「ぅぅ、はぁ、はぁ、。」
腰を軽く震わせる彼女。少しじらすように指を動かす。
そして薄い布も勢いよく脱がせて足から外す。
裸になった彼女が恥ずかしいのか、うれしいのか、こっちに手を伸ばしてきた。
「佐野さん。」
どっちでもいい。また覆いかぶさるようにする。
自分でもトランクスを脱いで今度こそ裸の2人でゆっくり絡み合う。
ぴったりと体をくっつけて腰を強く寄せ合う。
応える様に彼女も自分の腰に手を回して力を込めてくる。
彼女の肌に吸い付くように太腿に挟まれている。
「まな、欲しい。全部。」
「佐野さん、したい。すごくしたい。」
体を少し離して彼女の中心に指を滑らせる。
抵抗なく中心に誘われた自分の指で彼女の敏感なところを刺激していく。
いっそう大きくなる声、触れているそこで、あふれるような愛液が卑猥な音を立て始める。
彼女の足を自分の腰にかけさせてゆっくりと指を深く潜り込ませる。
「いやぁ。」
大きく声をあげて首を振る彼女。
耳元で囁くようになだめる。
「大丈夫だから、まな、俺の指だけ感じて。」
「あぁ、あぁあぁ。」
首に縋りついてくる彼女が腰を浮かせる。
「ね、気持ちいいよね。」
あふれて響く水音に負けないように耳元で聞く。
「あぁ、さ・・・のさん、いい、いい、あぁぁ、きもち、いい。もっと・・・。」
強く寄せてくるように腰を浮かす彼女。
「ううっ」
つい堪えられず声を出してしまった。
もっとと言われて、彼女の腰をしっかりと支えて一気に指を動かす。
徐々に彼女の力が抜けてただただ快感を求める声だけが響く。
その声も自分の与える刺激で波打つように揺らぐ。
「あああああぁぁぁ、いい、いい、きもちいい・・いいいぃ。」
叫ぶように上る彼女。大きく声をあげてそのまま声をなくす。
ゆっくり彼女の体を下ろして寄り添う。
彼女の息が整うまで髪を撫でて頬にキスをして抱きしめる。
「まな。」
自分でも甘いと恥ずかしくなるくらいの声で彼女の名前を呼ぶ。
いくらか落ち着いた彼女が首に手を回して顔をうずめてくる。
「まな、まな。かわいいよ。」
腰をゆっくり寄せる。
まだ自分は固いままで痛みをこらえている。
そこはすっかりゴムをつけて準備をしている。
ゆっくり太ももの間に差し込んで彼女の腰を持って揺らす。
彼女の息がまた熱を持つ。
ゆっくりゆっくりやわらかい刺激を感じて、その気持ちよさに声を出してしまう。
彼女が腰に足を巻き付けてきたのをきっかけにして、足の間に自分の体を入れて覆いかぶさる。正面の彼女の顔の髪をかき分けて瞳を見つめる。
「なま、愛してる。愛してる。」
彼女の中にゆっくりと自分自身を沈み込ませる。
キスをして、名前を呼んで、ゆっくりと。
「入ったよ、まな、大丈夫?」
胸の下でうなずく彼女。ゆっくり動きだしてお互いの快感を追うように声を出す。
彼女の中の温度と柔らかさ、汗ばんだ肌が触れ合いながら生み出す熱。お互いの声と水音、手や唇から感じる大好きな彼女の感触も五感をフルに使って味わう。
野性的に動かし続ける腰とぶつかり合う音、本能を表にだしながらも愛しさが止まらない。
とぎれとぎれの喘ぎ声の中に彼女が自分を呼ぶ声や好きだという声が聞こえる。
もう限界でそのままスピードを上げてお互いを解き放った。
力が抜けて倒れ込むように彼女の横に沈む。
手早く始末したいけどティッシュの場所が分からない。
「ごめん、まな。ティッシュ・・・・。」
彼女が頭上に手を伸ばそうとする。
「分かった、探すから。」
彼女の手をつかんで戻してやり自分で探して始末する。
彼女を引き寄せて彼女の肩に頬をくっつける。
息が落ち着いてくるまでそのままで。
心地よい疲れの中彼女の息が落ち着くのを待つ。
一緒にお風呂に。
彼女の肩が冷えてくるのを感じる。
残念だけどあれは今日は一つで間に合った。枕の下のものを回収したい。
そのままにして置いてたら彼女が驚いた顔をするだろうか。
ちょっと見たい気もしてそのまま忘れることにした。
「まな、お風呂に入りたいよね。汗かいたし。お湯入れてくるから待ってて。」
疲れてる彼女の返事も聞かず、有無を言わせず一緒に入ることにした。
トランクスだけ持ってお風呂場へ行く。
勝手に入りお湯をためる。
鏡で自分の体を見ると二か所ほど赤い跡が見えた。
彼女につけられた跡だ。後で彼女の体も確認しよう。今日子さんにばれないように、ちゃんと教えとかないと。まあ、隠せないだろうなあ。半分覚悟の上だ。
お湯が半分くらいたまったところでベッドへ戻る。
「まな、お風呂の準備できたよ。起きれる?お水いる?」
「お水。」かすれた声が色っぽく響く。
冷蔵庫からペットボトルを取り出して開ける。
自分も飲んで彼女に渡す。
飲み終わったボトルを貰って、手を出す。
彼女が手を出してきたのを引っ張って起こす。
当然全裸で悲鳴が出る。
「あ、ごめん、じゃあ先に行く。待ってるから。」
シャワーを軽く浴びて湯船に入る。
ぼんやりと扉を見て待ってると彼女が入ってくる音がした、が浴室はいきなり真っ暗になった。
「真っ暗は危ないよ。」
心配するふりをして声をかける。ただここは彼女の部屋だから自分よりは明らかに慣れてるだろう。リビングの光を入れる様に扉を開いて彼女が入ってくる、と思ったら顔だけ。
「佐野さん、あっちを向いててください。」
「分かったから、体が冷えるよ。」
シャワーで軽く洗い流して湯船に入ってくる彼女。
途中振り向きたい衝動をこらえてお湯の水位が落ち着くまで我慢する。
小さな浴槽はくっつき合うようにしてやっと二人が入れるくらいだった。
だから当然抱き合うようにして入る。
「まな。」
首や背中にキスをする。
動かないように抱きしめてるので後ろからなら大抵何でもやれる。
薄暗い明かりの中で体を引き寄せて首や胸元を見る。
やっぱりわかりやすい痕あった。
「まな、ごめん。ここ痣になっちゃうかも。明日隠すような服着てね。」
彼女が自分の胸元を見下ろして確認する。
指をそっと置いて撫でる。
「まなも僕に二つ付けたから。僕も気をつけなきゃ。」
耳元で囁く。
相変わらず言葉はない。
耳まで真っ赤になっているのがわかる。お湯のせいだけじゃないだろう。
「もしかして喉痛い?」
「・・・・大丈夫です。」
さっきよりは声もかすれがよくなっている。一晩寝れば元通りだろう。
「どこかつらいとこある?」
首を振る彼女。
「後悔してる?」
そんなことないのはこの状況が物語っていると思うけど一応聞いてみる。
「してません。」
首を振られると思ってたのに、ちゃんと答えてくれた。
「ありがとう、まな、愛してる。」
後ろから耳元にキスをする。
「ねえ、毎日とは言わなくても、もっと一緒にいたいなあ。一緒にご飯食べて、時々こうして愛し合って。朝までくっついて寝て、おはようっていう朝。考えてくれないかな?」
「はい。」
「あ~、ぐっすり眠れそうだなあ。」
彼女を抱きしめてお湯の中でやわらかい暖かさを感じる。
背中にキスをして鼻をこすりつけて。
彼女の胸の前で組まれた自分の手に彼女の手が重なる。
湯船から上がり先に出る。
タオルを借りてトランクスだけでリビングに戻る。
寝室の空気を入れ替えるように窓を開けて。
床の自分の抜け殻のパジャマをそのまま着た。
枕に目を止めてその下のものに気がついたけどやっぱりそのままに。
髪を洗ったりいろいろ、彼女が出てくるまで時間がたっぷりとあった。
まだ12時ちょっと。さほど遅い時間ということもない。
リビングに戻りテレビをつけてぼんやりとニュースを見る。
彼女が出てきてテレビを消す。
「まな、眠そうだね。」
「眠いです。」
「じゃあ、明日までゆっくり寝よう。」
「私は朝7時には起きますが。佐野さんは?」
「勿論一緒に起きて途中まで一緒に行くよ。さすがに商店街には近づけないけど。」
「勿論です、それは無理です。」
真っ赤になる彼女。多分残念なことになると思うけど、今は言わないでおこう。
隠せるのならしばらく隠してほしい気がする。
寝室の窓を閉めて二人で布団に横になる。
彼女を引き寄せて背中を撫でる。
「お休み、まな。」
「おやすみなさい。佐野さん。」
おたがいそのまま落ちる様に眠りについた。
駅からはちょっと離れた場所にいる。
早めに迎えに行ってドラッグストアに寄り必要なもの買いバッグの中にしまう。
夕食はどうしようか、仕事を終えて通りかかった総菜屋さんでお弁当を買う。
そのまま部屋に戻り、サッとシャワーと着替えをして荷物をまとめて部屋を出る。
お弁当が冷めないうちに・・・・、一つ一つの動作が落ち着かないくらい急いでる。
部屋を出てまっすぐに彼女の元へ。
「ただいま、真奈さん。」
「お帰りなさい。佐野さん。」
ドアを開けてくれた彼女に笑顔を向ける。
「はい、ご飯。お腹空いた~。」
今日はあんまり食事をとってない気がする。昼、多少の緊張と思った以上の満足感にすっかり忘れていた。
「オムライス。美味しそう。スープ作ります、インスタントですけど。」
「お願い。」
壁にもたれてぼんやりと後ろ姿を見る。
振り向いてこっちに来て、見上げられる。
「あの・・・・今日泊まりますか?」
「真奈さんが良かったらそうしたい。」
「お願いします。」
『どうぞ』と許可ではなく、お願いされた。
こちらこそ手を合わせて頼み込んででもお願いしたいくらいだ。
キッチンでお湯が沸く音がする。
カップにスープを入れてくれる間に二人分のオムライスをテーブルに運ぶのを手伝う。
デミグラスと、トマトソース。ほんのりまだ温かいのは全力で駆け付けたから。
「お腹すきました。」
「あの後、何か食べた?」
「いいえ、何も。」赤い顔で答える。
二人で二種類を分け合うように食べる。
「あ、そういえば、今度里猫の写真送ってもらうから。そうしたら携帯に又送るね。」
「サノマル大きくなってるでしょうね?」
振り向いて子猫の写真を見る彼女。
ん?サノマル・・・・、名前?それはもしやあの猫の名前?
彼女は気がついてないようだけど、確かにそう呼んだよな。
今日子さんが名前を教えてくれないって言っていたけど、サノマル・・・・。
キノコとかじゃなかったんだ。サノマルという雑種の人懐こい猫。
なかなか似合ってる気もする。変に気取った洋風の名前よりずっといい。
「楽しみにしてます。」
無邪気にそういう彼女はやはり気がついてない。
無意識に呼んだんだろう。
明かに自分の名前から文字られたということがうれしい。
絶対聞き違いじゃない。
「そうだね、逞しい猫になってるかも。」
「もらいに来た時に既にゲージを持ってきてたから仲間がいたのかなあ?」
「そうなの?その辺は聞いてないけど。」
「猫飼いたいなあ、仕事から帰ってきて、にゃあって言って出てきてくれたら癒されるだろうなあ。休みの日も一日中家にいてぐりぐりしたりして。」
「稲葉さんところならアルマジロとかいるけどね。癒されるって感じじゃないからね。」
「だって同じ部屋に毒蜘蛛もいるじゃないですか、猫がいたとしてもそこは無理です。」
「見慣れるとかわいいらしいよ。」
「見た瞬間にかわいいと思える動物なら会いたいです。」
「まあね。」
空になった容器とカップをかたずける。
ほとんど手伝うこともないけど。
コーヒーを入れてくれるのを待つ。
キッチンでゆっくり振り返り聞かれた。
「あの、シャワー浴びますか?タオル出しますけど。」
「ううん、家に帰って浴びてきたから。今は大丈夫。ありがとう。」
「そうですか。」
くるりと向きを変えてコーヒーを注ぐ背中。
見える細い背中が緊張してるようで、こっちまでその緊張が伝わってくる。
「いつも帰ってくるのはこれくらい?」
「いいえ、もっと早いですよ。7時には大体終わりにします。そのあと商店街でお買い物して帰ってくるくらいですので。」
「そうなんだ。真奈さんがいるから今日子さんはゆっくりさやかちゃんと過ごせるようになったと思うよ。さやかちゃんは昔はよくお祖母ちゃんとお店の中にいたんだ。お客さん対応してるお母さんの近くに居たかったんだろうけど。今はお祖母ちゃんと過ごした後夕方前には今日子さんと一緒にいれるからね。」
「役に立ってるならそれでうれしいです。」
「立ってる立ってる。」
自信をもって、と心の中で付け加える。
「佐野さん、明日のお仕事は?」
「お昼から打ち合わせ。毎年恒例で大きな家の庭木の手入れをお願いされてるんだ。梅雨の前に一度手を入れて庭掃除をして。3日から1週間くらいかけてゆっくりでいいって言われてる。しばらくは職人です。」
「器用ですよね。佐野さん。」
「そう・・・かな?」
「そうです。今日子さんに言わせるとただの年の功だって、不器用だって言ってましたが。」
「今日子さんには敵わないよ。移動販売とか、お店出店とか務さんがあまり実用向きじゃないからさやかちゃん背負っていろいろと調べたり届けを出したりしたみたいだよ。だから事務能力も高いと思うよ。僕もいろいろアドバイスもらったし。」
「そうなんですか。二人は、なんだか仲のいい姉弟みたいです。」
「そうだね、さやかちゃんも小さい時から見てるから、もうおじさん気分だし。」
「務さんは物静かで、今日子さんがお世話好きで。いい夫婦ですよね。憧れます。」
「今日子さんにとっては真奈さんも妹みたいなものかもね。」
「いいですね、ずっとお姉さん欲しかったんです。兄しかいなかったから。」
「佐野さんは?ご兄弟は?」
「僕は一人っ子。だからうらやましかった、男でも女でも、上でも下でも欲しかったなあ。」
コーヒーを飲み普通に話しながらどうやって誘うかと考えていた。
話をすればするほど言い出しにくくなる。
少しの話の隙間に自分が息を吸い込むのを感じて、でもなかなか言い出せず。
「もう少し飲みますか?」
真奈さんがコーヒーのお代わりを聞いてくる。
グッと肩を抱き寄せて上半身を包み込む。
「デザート食べたい。」
思た以上に切ない声に自分でも驚く。
「あ、この間買ってもらったのが冷蔵庫にもう少しありました。」
ちょっとびっくりしたようだけど嬉しそうに少し顔をあげながら言う。
「違う、今腕の中にあるほう、食べたい。ダメかな?」
しばらく彼女が考えて首を振る。
「お風呂入ってきてもいいですか?」
「うん、待ってる。」
髪の毛にキスをして腕を緩めて彼女を解放する。
ゆっくり立ち上がり奥の部屋に行き着替えを持ってお風呂場に行く彼女。
決して急いでるわけではない、恥ずかしくてこっちを見ないようにしているのが分かる。
さて、自分も着替えをし、カップを片付けながら歯磨きをする。
バイト途中に買ってバッグにしまった袋を取り出す。
小さな箱からパッケージを出していくつかポケットにしまう。
元の場所に戻り彼女を待つ。
タブレットを起動して今日の業務内容を記入する。
明日の予定をチェックして、少しの間いつも見るサイトを見回る。
何かしてないと緊張に飲み込まれまれそうだった。
扉が開く音がして彼女が出てくる気配にゆっくりタブレットを消した。
ゆっくり歩いてくる彼女。この間風邪の時はパジャマではなく普通の楽な部屋着だった。
初めてのパジャマがとても新鮮だ。
「お待たせしました。」
彼女の緊張が伝わってくる。
タブレットをテーブルに置いて迎えに行く。
「真奈さん、今更だけど・・・大丈夫?」
はっきりこっちを見てうなずく彼女。
潤んだような目に期待するような光を見たいとのぞき込む。
そのまま見つめ合い囁く。
「じゃあ、ベッドに行きたい。」
リビングの照明を小さく落として、まだ入ったことのない寝室に手をつないで入る。
照明一つついてない部屋は暗い。後ろのリビングから弱い光が入りおぼろげに見えるくらい。それでも目が慣れてくるとうすぼんやりと物の形がわかる。
「真奈さん、少し光を入れていい?」
リビングの光がもっと入るように扉の隙間を大きくする。
ベッドわきに立ち尽くす彼女の表情も見えるようになった。
急いで彼女のところに戻り抱きしめる。
抱きしめて体温を感じ合う。優しいキスはすぐに激しく深いものになる。
「まなさん・・・。」
名前を呼んでゆっくりベッドに腰を下ろす。
彼女のパジャマを脱がす、下に着た柔らかい布の感触越しに肌を触る。
彼女が自分のパジャマのボタンを外す。肌に触れてくる細い手がゆっくりと動くのを感じる。
首に吸い付きキスを繰り返す。
布団を捲り足を持ちベットに横たわらせた彼女に覆いかぶさる。
首から胸元へキスをしながら自分のパジャマの胸ポケットに入れたものを枕の下に押し込む。もう後は用はない。自分で脱ぎ去りベッドの下へ落とす。
「あ、あの・・・。」
かろうじて表情が読めるくらいの明かりの中、両手が待ったをかける様に胸に当てられた。
「あの、あんまり経験がなくて・・・・その。」
初めてというほどの緊張感はなかったから、さほど気にもしてなかったのだが。
「大丈夫、僕もほんとに久しぶりだから。嫌だったら、言って。」
頷いた彼女を見たすぐ後には自分の言ったことも忘れるくらい夢中になっていた。
彼女の肌に触れた手を腰から脇、胸の方へ動かしていく。
「はぁ。佐野さん、あぁ。」
「まな、あぁ、きもちいい。なま。」
「はぁ。」
手が胸の柔らかい裾野へたどり着くころには先端を唇で刺激していた。
手で胸を大きく揺らす。やわらかい胸が自分の手で形を変えていくのは良く見えないけど顔を押し当てて感じる。
彼女の荒い息の途中に少しずつ色っぽい嬌声が混じる。
「いやぁ、あぁん。」
完全にめくりあげられた余分な布をはぎ取る時、背中をあげてくれる彼女。
全体をよく見る余裕もなく吸い付く。
彼女の手が自分の頭に触れる。
かすかに動き始めた彼女の下半身を自分の下半身で挟む。
太腿のあたりに自分の固く熱いものを当てる。
「ああぁぁ。」
裸の上半身が汗ばんでくる。
彼女の肌もしっとりとして、熱くなってくる。
唇を腰やおへそに落とすとともに腰や太ももに触れる。
彼女の腰が動いた瞬間にパジャマの下をはぎ取る。
ひざ下まで下げると後は自分で脱いでくれた。
自分のズボンも彼女が下げるのに協力して脱ぎ去る。
自分の手をゆっくりとさまよわせて少しずつ彼女の中心に向かう。
逃げるように動く腰は自分の足でシーツに縫い留める。
お腹や腰へのキスをやめて彼女の顔の前へ。
一度視線を合わせ、甘い吐息に薄く開いた唇にキスを繰り返しながらゆっくりそこに触れる。
布越しにも彼女が感じて反応しているのがわかる。
「いやぁ、いやぁ。」
ゆっくり前後に動かしてやると特に色っぽい声をあげる。
「ぅぅ、はぁ、はぁ、。」
腰を軽く震わせる彼女。少しじらすように指を動かす。
そして薄い布も勢いよく脱がせて足から外す。
裸になった彼女が恥ずかしいのか、うれしいのか、こっちに手を伸ばしてきた。
「佐野さん。」
どっちでもいい。また覆いかぶさるようにする。
自分でもトランクスを脱いで今度こそ裸の2人でゆっくり絡み合う。
ぴったりと体をくっつけて腰を強く寄せ合う。
応える様に彼女も自分の腰に手を回して力を込めてくる。
彼女の肌に吸い付くように太腿に挟まれている。
「まな、欲しい。全部。」
「佐野さん、したい。すごくしたい。」
体を少し離して彼女の中心に指を滑らせる。
抵抗なく中心に誘われた自分の指で彼女の敏感なところを刺激していく。
いっそう大きくなる声、触れているそこで、あふれるような愛液が卑猥な音を立て始める。
彼女の足を自分の腰にかけさせてゆっくりと指を深く潜り込ませる。
「いやぁ。」
大きく声をあげて首を振る彼女。
耳元で囁くようになだめる。
「大丈夫だから、まな、俺の指だけ感じて。」
「あぁ、あぁあぁ。」
首に縋りついてくる彼女が腰を浮かせる。
「ね、気持ちいいよね。」
あふれて響く水音に負けないように耳元で聞く。
「あぁ、さ・・・のさん、いい、いい、あぁぁ、きもち、いい。もっと・・・。」
強く寄せてくるように腰を浮かす彼女。
「ううっ」
つい堪えられず声を出してしまった。
もっとと言われて、彼女の腰をしっかりと支えて一気に指を動かす。
徐々に彼女の力が抜けてただただ快感を求める声だけが響く。
その声も自分の与える刺激で波打つように揺らぐ。
「あああああぁぁぁ、いい、いい、きもちいい・・いいいぃ。」
叫ぶように上る彼女。大きく声をあげてそのまま声をなくす。
ゆっくり彼女の体を下ろして寄り添う。
彼女の息が整うまで髪を撫でて頬にキスをして抱きしめる。
「まな。」
自分でも甘いと恥ずかしくなるくらいの声で彼女の名前を呼ぶ。
いくらか落ち着いた彼女が首に手を回して顔をうずめてくる。
「まな、まな。かわいいよ。」
腰をゆっくり寄せる。
まだ自分は固いままで痛みをこらえている。
そこはすっかりゴムをつけて準備をしている。
ゆっくり太ももの間に差し込んで彼女の腰を持って揺らす。
彼女の息がまた熱を持つ。
ゆっくりゆっくりやわらかい刺激を感じて、その気持ちよさに声を出してしまう。
彼女が腰に足を巻き付けてきたのをきっかけにして、足の間に自分の体を入れて覆いかぶさる。正面の彼女の顔の髪をかき分けて瞳を見つめる。
「なま、愛してる。愛してる。」
彼女の中にゆっくりと自分自身を沈み込ませる。
キスをして、名前を呼んで、ゆっくりと。
「入ったよ、まな、大丈夫?」
胸の下でうなずく彼女。ゆっくり動きだしてお互いの快感を追うように声を出す。
彼女の中の温度と柔らかさ、汗ばんだ肌が触れ合いながら生み出す熱。お互いの声と水音、手や唇から感じる大好きな彼女の感触も五感をフルに使って味わう。
野性的に動かし続ける腰とぶつかり合う音、本能を表にだしながらも愛しさが止まらない。
とぎれとぎれの喘ぎ声の中に彼女が自分を呼ぶ声や好きだという声が聞こえる。
もう限界でそのままスピードを上げてお互いを解き放った。
力が抜けて倒れ込むように彼女の横に沈む。
手早く始末したいけどティッシュの場所が分からない。
「ごめん、まな。ティッシュ・・・・。」
彼女が頭上に手を伸ばそうとする。
「分かった、探すから。」
彼女の手をつかんで戻してやり自分で探して始末する。
彼女を引き寄せて彼女の肩に頬をくっつける。
息が落ち着いてくるまでそのままで。
心地よい疲れの中彼女の息が落ち着くのを待つ。
一緒にお風呂に。
彼女の肩が冷えてくるのを感じる。
残念だけどあれは今日は一つで間に合った。枕の下のものを回収したい。
そのままにして置いてたら彼女が驚いた顔をするだろうか。
ちょっと見たい気もしてそのまま忘れることにした。
「まな、お風呂に入りたいよね。汗かいたし。お湯入れてくるから待ってて。」
疲れてる彼女の返事も聞かず、有無を言わせず一緒に入ることにした。
トランクスだけ持ってお風呂場へ行く。
勝手に入りお湯をためる。
鏡で自分の体を見ると二か所ほど赤い跡が見えた。
彼女につけられた跡だ。後で彼女の体も確認しよう。今日子さんにばれないように、ちゃんと教えとかないと。まあ、隠せないだろうなあ。半分覚悟の上だ。
お湯が半分くらいたまったところでベッドへ戻る。
「まな、お風呂の準備できたよ。起きれる?お水いる?」
「お水。」かすれた声が色っぽく響く。
冷蔵庫からペットボトルを取り出して開ける。
自分も飲んで彼女に渡す。
飲み終わったボトルを貰って、手を出す。
彼女が手を出してきたのを引っ張って起こす。
当然全裸で悲鳴が出る。
「あ、ごめん、じゃあ先に行く。待ってるから。」
シャワーを軽く浴びて湯船に入る。
ぼんやりと扉を見て待ってると彼女が入ってくる音がした、が浴室はいきなり真っ暗になった。
「真っ暗は危ないよ。」
心配するふりをして声をかける。ただここは彼女の部屋だから自分よりは明らかに慣れてるだろう。リビングの光を入れる様に扉を開いて彼女が入ってくる、と思ったら顔だけ。
「佐野さん、あっちを向いててください。」
「分かったから、体が冷えるよ。」
シャワーで軽く洗い流して湯船に入ってくる彼女。
途中振り向きたい衝動をこらえてお湯の水位が落ち着くまで我慢する。
小さな浴槽はくっつき合うようにしてやっと二人が入れるくらいだった。
だから当然抱き合うようにして入る。
「まな。」
首や背中にキスをする。
動かないように抱きしめてるので後ろからなら大抵何でもやれる。
薄暗い明かりの中で体を引き寄せて首や胸元を見る。
やっぱりわかりやすい痕あった。
「まな、ごめん。ここ痣になっちゃうかも。明日隠すような服着てね。」
彼女が自分の胸元を見下ろして確認する。
指をそっと置いて撫でる。
「まなも僕に二つ付けたから。僕も気をつけなきゃ。」
耳元で囁く。
相変わらず言葉はない。
耳まで真っ赤になっているのがわかる。お湯のせいだけじゃないだろう。
「もしかして喉痛い?」
「・・・・大丈夫です。」
さっきよりは声もかすれがよくなっている。一晩寝れば元通りだろう。
「どこかつらいとこある?」
首を振る彼女。
「後悔してる?」
そんなことないのはこの状況が物語っていると思うけど一応聞いてみる。
「してません。」
首を振られると思ってたのに、ちゃんと答えてくれた。
「ありがとう、まな、愛してる。」
後ろから耳元にキスをする。
「ねえ、毎日とは言わなくても、もっと一緒にいたいなあ。一緒にご飯食べて、時々こうして愛し合って。朝までくっついて寝て、おはようっていう朝。考えてくれないかな?」
「はい。」
「あ~、ぐっすり眠れそうだなあ。」
彼女を抱きしめてお湯の中でやわらかい暖かさを感じる。
背中にキスをして鼻をこすりつけて。
彼女の胸の前で組まれた自分の手に彼女の手が重なる。
湯船から上がり先に出る。
タオルを借りてトランクスだけでリビングに戻る。
寝室の空気を入れ替えるように窓を開けて。
床の自分の抜け殻のパジャマをそのまま着た。
枕に目を止めてその下のものに気がついたけどやっぱりそのままに。
髪を洗ったりいろいろ、彼女が出てくるまで時間がたっぷりとあった。
まだ12時ちょっと。さほど遅い時間ということもない。
リビングに戻りテレビをつけてぼんやりとニュースを見る。
彼女が出てきてテレビを消す。
「まな、眠そうだね。」
「眠いです。」
「じゃあ、明日までゆっくり寝よう。」
「私は朝7時には起きますが。佐野さんは?」
「勿論一緒に起きて途中まで一緒に行くよ。さすがに商店街には近づけないけど。」
「勿論です、それは無理です。」
真っ赤になる彼女。多分残念なことになると思うけど、今は言わないでおこう。
隠せるのならしばらく隠してほしい気がする。
寝室の窓を閉めて二人で布団に横になる。
彼女を引き寄せて背中を撫でる。
「お休み、まな。」
「おやすみなさい。佐野さん。」
おたがいそのまま落ちる様に眠りについた。
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