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15 手にしたものが自分の物か確かめましょう。
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相変わらず同じチャンネルの占いを聞いて心にとめる。ラッキーアイテムを探して手にとる。そのあたりは変わらない。
最近の最大のラッキーは今、目の前で食事をしている。
なぜか今日はメニューがかぶり交換するまでもない。ちょっと残念。
「そっちの新人は2人だよね?」夏。
「うん、男女ね。調査の方は女の子2人でしょう?」
「うん。可愛いのよ、これが。2人とも可愛いの。私たちも去年あんなだった?」
夏がオヤジのようなことを言う。茅野を見るとふっと鼻で笑われた。
2人きりだと真面目に可愛い言ってくれるのに、こういう時全く賛同してくれない。
「可愛かったんだよ、僕たちも。」
井田君は自分たちの事までまとめて言う。
「可愛かったの?茅野も?」
「何だよ、不満そうだなあ。」
茅野が眉間に皺を寄せる。
「だって目つき悪いし、えらそうに姿勢がいいし。」
「まあね、・・・可愛いとは違ったかもね。でも2人はそうだったよ。」
井田君は本当に女性をいい気分にしてくれる。彼女も幸せだろうなあ。
あ、別に私も十分・・・ですが。
「可愛いのか、本当に?楽しみだなあ、納涼会。」
嬉しそうにいう茅野。
思いを撤回します。時々幸せです。本当に時々私を嫌な気分にもするのです。
そういえばこの間、シャイカーを振っているバーテンダーさんと話し込んでしまい、結局個人的な質問をしてしまった。たっぷりと罰を与えられて意地悪して責め立てたのに、まだ根に持ってるのか?
女々しい奴め。茅野を睨んだ。
ベロを出された。子供かっ。
隣で冷ややかに見てる2人には気がつかなかった。
なんでそんなことでやきもちを焼く。
こっそり話し込んでたらともかく、一緒に行って横にいるのによこしまな心が入るわけがないのに。
あれから何度も週末を過ごしてる部屋。
すっかり馴染んだ茅野の部屋には私が買った料理器具が増えた。
そしてようやく認めてもらえた。何度か私の鷹の爪を披露できたのだ。
ピカピカに磨いた爪を。
どうだ参ったか。
本当に嬉しそうに食べてくれる茅野。
いつも横でちょっとだけ不安そうに見ている私に満面の笑顔でお礼を言ってくれる。
やった!やっと証明できた、そんな達成感。
写真を撮ってみた。満足な茅野の顔もこっそり撮った。
夏に見せたらすごくビックリされた。
二人だとこんな顔するんだ、と。
井田君には見せない方がいいとまで言われた。
そう?
そして夏も二度と見ないからと。
何でだろう?
あれから繰り返し見てるけど、そんな変な写真でもない。私には見慣れた顔。
ただ会社での茅野からは少し想像しがたい気もする?
「納涼会、今年も同じところかな?」
「そうらしいよ。まあ、近くていいよね。」
会社の近くで広めの個室があるところ。まあ、そうなるか。
水曜日は一緒に帰る日。
しばらくは家でご飯を食べると宣言された。一緒に材料を買って私が作る。
嫌じゃないけど。
一つの原因は定食屋のおばちゃん。
調子に乗って仲良くしたら、いろいろと茅野が相談していたと教えてくれた。
しかも友人の話として。
まさか自分の恋愛相談を友達の話なんですが・・・と言って話していたなんて。
しかもおばちゃんはお見通し。
まだまだ青いと言われて恥ずかしくて真っ赤になりながら私に八つ当たりする茅野。
何でよ!
でもちょっとうれしくて、そう言ったら久しぶりに唇をつままれた。
そんなことをされても問題ないもん。怖くないもん。
まあ、あと一つの原因はバーテンダーさんのことだから。
定食屋のおばちゃんは行くととても喜んでくれる。
まるで親戚のおばちゃん、もしくは母親?
よっぽど茅野が深刻に相談してたんだろうか?
また来ますと言ったのに茅野がしばらく行かないとごねる。
もう。
時々子供っぽい反応をすることにも気がついた。
青い。なんて言ったらどんな意地悪されるか分からないから言わないけど。
クールなはずなのに。
ただ、そんなところもとても大好き。
今日のお昼、2人の新人ちゃんと一緒に食事をとった。
4人で食べる、慣れない四角。
夏のメニューをちらりと見てもなんとも思わず、ちょっと寂しい気分。
それでも可愛い後輩。
仕事以外の話でいろいろと個人的な話も聞いたりした。
内田あかりちゃんと枝野響ちゃん。
夏が一生懸命に話をしてる横でうなずく私。
ふとした時にあかりちゃんが私に聞いてきた。
「唯先輩、あの・・・・茅野先輩は恋人ですか?」
まさかのどストレートな質問。
なんで配属間もないのに茅野を知っているの?私とのことまで?
真剣な目でこちらを見つめてくる。ごまかせそうにない。
それに他の誰かに頼まれたという話でもなさそうで。
言い淀んでると夏が肯定してくれた。
「そうなのよ。もうバカップル丸出しだから、何かを見ても見ないふりしてあげてね。」
夏・・・・そんな言い方。
「そうなんですか。」
響ちゃんがそっとあかりちゃんの腰に手を当てたのが見えた。
何でこういうことばかりは気がついちゃうんだろう。そっと目をそらした。
視線の先に茅野がいた。
井田君と2人で食べていた、違う、茅野の隣には1人見知らぬ女の人がいた。
誰?あんまり社内の人を知らないから先輩か、新人かも分からない。
同期ではないと分かるくらい。
井田君がこっちを向いた。ちょっと残念そうな顔をしている。
何なの?いろいろと叫びたくなった。
もやもやとした気分。どうして?
「じゃあ、お先に失礼します。」と2人が立ち去る。
まだあかりちゃんのトレーには食事が半分くらい残ってた。
茅野の方を見ると井田君と2人になっていた。
ちょっとだけホッとする。
「夏、あかりちゃん・・・。」
「だから唯、ちゃんと言わなきゃ。どっちにしても茅野も断るのは嫌だろうし、本人も断られるのは嫌だろうし、女の子も早く諦めたほうがいいし。はっきり言うこと。じゃないと、占いじゃないけど唯も嫌な気分になるよ。」
「そんなあ・・・・・。」
茅野と井田君がやってきた。
茅野のトレーには半分くらい食事が残っていた。私も食べる気なし。
さっきの人は誰?聞きたいのに聞けない。
箸を放り出して珍しく残す。井田君が物言いたそうにこっちを見る。
今日は水曜日。一緒に帰れる。楽しみなのに、もやもやは消えない。
1年生は先に帰った。
ぼおっとしてパソコンを閉じたまま自分の席で連絡を待つ。
誰、誰、誰? くり返し自分の声が聞こえる。
仕事に集中してた時は忘れていられたのに、頭が暇になるとぼんやりと疑問が浮かんでくる。
手の中で携帯が震える。
バッグを持ってロッカーからちょっと荷物を持ち出してエレベーターに乗る。
前後で歩く2人。まだまだ会社の人も多い。手もつながずに偶然のふりで歩く。
でも、目の前でポケットにいれられた腕を見て、本当に衝動的に動いた。
小走りに駆け寄りポケットの中に手を入れた。
狭い。
びっくりして茅野が手を出して、つないでくれた。
とりあえず嫌がられずにつながれてホッとした。
「怒らないの?」ちょっと小声で聞いた。
「まだ会社の近くだよ。」見上げると首を傾げられた。
「別にいいよ。唯がいいなら。」
うれしいのにお礼も言えず。そのまま改札を通り電車で見慣れた駅で降り買い物をする。
リクエストを聞いて何も考えずに食材をかごに放り込む。
ビーフシチューとサラダの材料とバケットを買う。
余ればご飯を買って一緒に食べればいいし。ドリアにしてもいいし。
切ってルーで煮込んでシャワーを浴びる間はお願いする。
少しだけスッキリして出てくるといい匂いがした。バケットを軽く焼いて持っていく。
楽しみに待っててくれる茅野。よろこんで笑顔で食べてくれる。
「唯、これもおいしいよ。」
「そう?良かった。」
「あんまり食欲ない?」
「うん。余っても大丈夫だよ。冷凍してまた食べてくれる?」
「もちろん。ありがとう。」
「うん。」
私は少なめにした。それでもちょっと努力して食べた。
正直なところ美味しいのかさえ分からない。
でも市販のルーだから失敗はないし。
片づけはお願いしてぼんやりとする。
自分から聞くのと、教えられるの、どっちがいいだろう。
モヤモヤは全く消えることがなく簡単に私から元気を奪う。食欲まで。
いつものように体育座りをして固まる私の横にゆっくりと座る茅野。
「唯、何か言いたいことは?」
目の前に置かれたお茶のお礼を言う。
「ふ~ん。」
しょうがないじゃない。
言いたくても言えないこともあるし、聞きたくても聞けないこともあるし。
「じゃあ、言うけどさ・・・・。」
「聞きたくない。」耳を塞ぐ。
「もう、そうしてたって聞こえるし、唯、無駄だよ。」
「聞こえない、聞こえてない。無駄じゃない。」
「まあ、いいけど。」
ふ~、なんてため息ついてる茅野。
やっぱりしっかり聞こえてしまう。
「唯はさぁ、もっと電話したり、マメに連絡してくるほうだと思ったけど、全然だよな。さっぱりあっさり。明日の夜とか、日曜日の夜とかさ、一人で部屋にいると寂しくてしょうがないのに。会いたいときは電話をくれれば迎えに行けるのに、夜でも迎えに行くのにって思ってても、今まで一度もそんなおねだりされたことないよな。意外だった。しっかりしてるし、料理も上手で。時々どうしようもなく徒労感を味わうけど、そこも可愛いけど・・・。」
「何が言いたいのよ。」
「唯はどう思ってるのかなって。」
「何が。」
「いろいろ。」
何だか分からない。何が言いたい、どう答えれば正解なの?
とりあえず耳を塞いでる手は外す。会話が成立してる時点で聞こえてるってばれてるし。
あ、もしかして、今日手をつないだことを言ってるの?
「あのさ、もう俺には唯にしてあげれることないのか?」
何言ってるのよ、本当にさっぱり分からないってば。
「だって何も欲しがらないじゃないか。わがまま言ったことあったか?甘えたこともないだろう?じゃあ、今の俺はどうなんだ?この先は?」
「なんで、今のままで私は、・・・いいし。毎日会えて、一緒にいれて、それで十分じゃないの?茅野は他に・・・何か足りないの?」
そういうこと?茅野は私に与えれてないと思い、私じゃ何か足りないと思い。
「結局、そういうことなんだ。・・・茅野は満足してないんだ。私じゃ足りないんだ、ダメなんだ。思ったのとは違った私が、失敗だと思ってるんだ。」
小さく体育座りなんてしてる場合じゃない。
だったら他の人をここに呼べばいい、私じゃない誰かを。
もっともっと茅野が満足する誰かを。甘えて会いたいと素直に言い、連絡もちゃんとマメに何度も送ってくる子に。勝手に見つければいい、そして、・・・・その子の近くに引っ越せばいい!!
ゆっくりと立ち着替えを取りに行こうとする。
洗面所に置いてある。あちこちに私の荷物はあるけどいい。今は無理だから。何度もちょっとづつ積み重ねた自分の分身を拾い集めるのは。
涙で廊下がにじむ。でも方向は間違えない。
踏み出した足はよろめきそうだったけど。
手を引っ張られてバランスを保てた。と思ったのに何故か更によろめいて茅野の方へ倒れ込んだ。
もうしっかりしなきゃいけないのに。
きちんと立ったつもりなのに、茅野に抱えられていた。
「唯、どうしてそうなるんだ、いつも。全然俺の言いたいことと違う話になってるじゃないか。」
知らない、だってそう言ったのは茅野だ。改まって言ったんじゃない。
耳を塞ぐ手を外した後にそんなこと言うなんて意地悪の最強版でしょう。
「俺は、ただ、もっと一緒にいたいって言ったんだよ。甘えてくれない唯がおねだりすることはなさそうだから、でも俺は一人で過ごすこの部屋がいつも寂しくて、もっと一緒にいたいって。俺からお願いしたいって言ったのに。唯以外誰がいるんだよ。唯がいいって言ってるのに。何度言えばいいんだよ。」
「分からないって、初めてだって知ってるじゃない。一般論も分からないのに、だから今が普通だって思うしかないって。会社では普通にしてるって言ったし、朝もランチも会えるからメールだって夜の挨拶でいいんだろうって。寂しくないわけないじゃない。一人でいる時に寂しくないわけないじゃない。そんなの当たり前でしょう。毎日会ってるのに、近いから夜でも我慢しなくていいなんてこと・・・知らない。だってそんなこと言える訳ないじゃない。もっと会いたいなんて、これ以上ないくらい甘やかされてると思ってるのに、それ以上のわがまま言える訳ないじゃない。」
座り込んで下を向く。涙が止まらない。
「それなのに甘えないんだねって、じゃあ、茅野が言ってくれても良かったじゃない。何で私に言わせようとするの。今日のお昼だって、女の人の事、何にも言ってくれない。誰なのか全然分からないから、不安で心配で。後輩が茅野の事を好きになってるって気がついても、肝心の時に近くにいないから、何も言えなかった。夏が言ってくれたけど、せめて近くにいてくれたら、私はあんな思いはしなくて済んだのに。どうして・・・・近くにいてよ。いつもいてくれたじゃない。1人じゃ無理なの知ってるじゃない。一緒がいいんだもん。本当はいつも一緒がいいのぉ。」
縋りつくようにして泣いた。
聞きたいこと1つが聞けないためにこんなことになったのだ。
明らかにそれは自分が悪いのに、我慢して強がった自分が悪い、見て見ぬふりした自分が悪いのに茅野を責めて、そうやって甘えて。
「ごめん、ちゃんと話すから。話すつもりだったし。ごめん。唯。」
頭を撫でられてなだめられる。
しっかりなんてしてない。まるで子供の様じゃない。
大切な大切な宝物を必死に守ってるのに守ってることを知られたくなくて、時々突き放すように転がす。
すこし嗚咽が収まった私に茅野が話をする。
今日昼に来たのは多分後輩。一緒に飲みに行きませんかって誘われた。
いろんな課の適当な男性に声をかけてるらしい。
あの女の人が自分をどうこうなんてことじゃない、もしくは一緒のメンバーに頼まれたかどうかだと思う。
恋人と過ごすことがほとんどだから飲みにはいかないってちゃんと断った。
「残念ですって笑ってあっさりと帰っていったよ。」
そうだった?
なんだか絡みつくようなねっとりしたオーラを感じたけど。気のせい?
「今日は後輩と食べてたからちょっと離れてたんだよ。さすがに邪魔だろう。女子トークしたいだろうし。誰かと一緒の時はさすがに近寄れないよ。でも、面倒くさいからいいよ、会社でも手つなぎ出勤で噂をどんどん肯定して。これからは堂々と唯って呼ぶから。そしたら誰も余計なものは近づかないし。邪魔されない。」
「井田が一緒に暮らしてるんだよ、彼女と。うらやましいんだよ。いつも一緒にいれるあいつが。出遅れたけど、俺の方がずっと先に唯を見つけて好きになって、仲良くなってたのにって。ただ告白するのが遅くなっただけなのに。俺だって一緒に暮らしたいよって。」
ビックリして茅野を見る。そんなことで・・・・張り合ってるの?それとも・・・・。
「唯は一人の時間が必要なタイプか?別にずっとべったり一緒の事をしろなんて言わないし、テレビだって勝手に見ればいい。ゴロゴロしてる唯の横で俺は俺で好きなことをするし。だから少し考えて欲しい。ただもっと一緒にいる時間を増やしたい。唯の作るご飯を食べたい、太ってもいいから。」
何だ最後のは。勝手に太れ。知るかっ。いつもいつも最後は私が怒る。
だって本当に訳わかんない。
「大っ嫌い!茅野の事なんて大嫌い。」
思いっきり下を向いて言う。顔を向けたらバレちゃうから。
ただ言いたかったから言ってみただけだって。
「知ってる、俺は大好きだから。」
何を知ってるのよ。おかしいでしょう。
でもやっぱりおかしいのは私。大嫌いって言ったのにちゃんと首に手を回して縋りついてるなんて。
週の真ん中なのに、まだまだ週末まで長いのに。本当に長い。
「・・・・・明日も泊まりに来ていいの?」
「いいよ。来て。仕事頑張るから、一緒に帰ろう。」
「本当にバレていいの?」
「もう遅い。うすうすバレてるから。はっきりバレるだけ。みんなやっぱりそうかって思うだけだよ。」
「うん。」
「で、何で大嫌いなの?太ってほしくない?」
「言ってみただけ。」分かってるくせに。
「納涼会、近くにいてね。絶対・・・・・断って。」
「分かってるって。来ないよ、誰も。唯ほど退屈しない相手はいないから。無敵の恋人。すごいね。」
「若くて可愛いからって油断しないで。」
「了解。」
ちゃんと自分の物だって確かめた。自分の物だった。誰にも渡せない。
珍しく占いが当たったかも、多分茅野も確かめたから。
次の日、本当に茅野も確かめたと分かった。
「今日は髪の毛気を付けろよ。」
「なんで?」
ざっと髪の毛をまとめられて指で首筋を押される。
「ここと、ここと、ついでにここもだな。」
何?自分じゃわからない。微妙な位置。もしかして?
「印付けといたから。俺印。」
「何で?」どうして?
「だって唯がしきりに言うから。私の柊だからって。じゃあって、俺の唯だって言ったじゃないか。」
確かに言ったし、聞いた。で、それでなんだって?
「だから自分の物には名前を書きましょうって小さい頃からの習性で。あの時は絡みついて縋りついてくる唯の相手で忙しいからペンなんて持ってくる余裕なんてないし。知恵を絞ってつけれる印にしといた。いいアイデアだよな、俺って天才!」
うっ。朝からまた揶揄ってくる。
「ただ油性ペンじゃないからすぐ消えそうで、また今日上書き予定。毎日必要だよなぁ?」
さらにボケ倒す気?
まあ、言ってくれただけよしとしよう。知らないでまとめ髪なんてしてたら恥ずかしいことになる。
襟を正し、髪を押さえつけ隙間をなくす。絶対見えないって思うけど、気になる。
もっと、せめて違うところならいいのに・・・・いいのか?どこ?
手をつないでマンションを出た。そのまま電車でも、改札出ても・・・・・でも無理。手を離した。
だって人多すぎ。恥ずかしい。帰りならともかく、朝は止めよう。
それでも窮屈なエレベーターでかすかに触れる手。ゆるっと指同士が絡まる。
誰にもバレてないと思うのに顔が熱い、混んでるエレベーターのせいだけじゃないはず。
会社のフロアで吐き出されるように出て歩く。
「じゃあな、唯。」
「うん、じゃあね。」
あっさり別れて席へ。
さて今日も頑張りましょう。
首筋を押さえる様に髪を貼りつかせて仕事に取りかかる。
今日の占いは集中すると幸運がやってくるだった。まさにそう願いたい。
最近の最大のラッキーは今、目の前で食事をしている。
なぜか今日はメニューがかぶり交換するまでもない。ちょっと残念。
「そっちの新人は2人だよね?」夏。
「うん、男女ね。調査の方は女の子2人でしょう?」
「うん。可愛いのよ、これが。2人とも可愛いの。私たちも去年あんなだった?」
夏がオヤジのようなことを言う。茅野を見るとふっと鼻で笑われた。
2人きりだと真面目に可愛い言ってくれるのに、こういう時全く賛同してくれない。
「可愛かったんだよ、僕たちも。」
井田君は自分たちの事までまとめて言う。
「可愛かったの?茅野も?」
「何だよ、不満そうだなあ。」
茅野が眉間に皺を寄せる。
「だって目つき悪いし、えらそうに姿勢がいいし。」
「まあね、・・・可愛いとは違ったかもね。でも2人はそうだったよ。」
井田君は本当に女性をいい気分にしてくれる。彼女も幸せだろうなあ。
あ、別に私も十分・・・ですが。
「可愛いのか、本当に?楽しみだなあ、納涼会。」
嬉しそうにいう茅野。
思いを撤回します。時々幸せです。本当に時々私を嫌な気分にもするのです。
そういえばこの間、シャイカーを振っているバーテンダーさんと話し込んでしまい、結局個人的な質問をしてしまった。たっぷりと罰を与えられて意地悪して責め立てたのに、まだ根に持ってるのか?
女々しい奴め。茅野を睨んだ。
ベロを出された。子供かっ。
隣で冷ややかに見てる2人には気がつかなかった。
なんでそんなことでやきもちを焼く。
こっそり話し込んでたらともかく、一緒に行って横にいるのによこしまな心が入るわけがないのに。
あれから何度も週末を過ごしてる部屋。
すっかり馴染んだ茅野の部屋には私が買った料理器具が増えた。
そしてようやく認めてもらえた。何度か私の鷹の爪を披露できたのだ。
ピカピカに磨いた爪を。
どうだ参ったか。
本当に嬉しそうに食べてくれる茅野。
いつも横でちょっとだけ不安そうに見ている私に満面の笑顔でお礼を言ってくれる。
やった!やっと証明できた、そんな達成感。
写真を撮ってみた。満足な茅野の顔もこっそり撮った。
夏に見せたらすごくビックリされた。
二人だとこんな顔するんだ、と。
井田君には見せない方がいいとまで言われた。
そう?
そして夏も二度と見ないからと。
何でだろう?
あれから繰り返し見てるけど、そんな変な写真でもない。私には見慣れた顔。
ただ会社での茅野からは少し想像しがたい気もする?
「納涼会、今年も同じところかな?」
「そうらしいよ。まあ、近くていいよね。」
会社の近くで広めの個室があるところ。まあ、そうなるか。
水曜日は一緒に帰る日。
しばらくは家でご飯を食べると宣言された。一緒に材料を買って私が作る。
嫌じゃないけど。
一つの原因は定食屋のおばちゃん。
調子に乗って仲良くしたら、いろいろと茅野が相談していたと教えてくれた。
しかも友人の話として。
まさか自分の恋愛相談を友達の話なんですが・・・と言って話していたなんて。
しかもおばちゃんはお見通し。
まだまだ青いと言われて恥ずかしくて真っ赤になりながら私に八つ当たりする茅野。
何でよ!
でもちょっとうれしくて、そう言ったら久しぶりに唇をつままれた。
そんなことをされても問題ないもん。怖くないもん。
まあ、あと一つの原因はバーテンダーさんのことだから。
定食屋のおばちゃんは行くととても喜んでくれる。
まるで親戚のおばちゃん、もしくは母親?
よっぽど茅野が深刻に相談してたんだろうか?
また来ますと言ったのに茅野がしばらく行かないとごねる。
もう。
時々子供っぽい反応をすることにも気がついた。
青い。なんて言ったらどんな意地悪されるか分からないから言わないけど。
クールなはずなのに。
ただ、そんなところもとても大好き。
今日のお昼、2人の新人ちゃんと一緒に食事をとった。
4人で食べる、慣れない四角。
夏のメニューをちらりと見てもなんとも思わず、ちょっと寂しい気分。
それでも可愛い後輩。
仕事以外の話でいろいろと個人的な話も聞いたりした。
内田あかりちゃんと枝野響ちゃん。
夏が一生懸命に話をしてる横でうなずく私。
ふとした時にあかりちゃんが私に聞いてきた。
「唯先輩、あの・・・・茅野先輩は恋人ですか?」
まさかのどストレートな質問。
なんで配属間もないのに茅野を知っているの?私とのことまで?
真剣な目でこちらを見つめてくる。ごまかせそうにない。
それに他の誰かに頼まれたという話でもなさそうで。
言い淀んでると夏が肯定してくれた。
「そうなのよ。もうバカップル丸出しだから、何かを見ても見ないふりしてあげてね。」
夏・・・・そんな言い方。
「そうなんですか。」
響ちゃんがそっとあかりちゃんの腰に手を当てたのが見えた。
何でこういうことばかりは気がついちゃうんだろう。そっと目をそらした。
視線の先に茅野がいた。
井田君と2人で食べていた、違う、茅野の隣には1人見知らぬ女の人がいた。
誰?あんまり社内の人を知らないから先輩か、新人かも分からない。
同期ではないと分かるくらい。
井田君がこっちを向いた。ちょっと残念そうな顔をしている。
何なの?いろいろと叫びたくなった。
もやもやとした気分。どうして?
「じゃあ、お先に失礼します。」と2人が立ち去る。
まだあかりちゃんのトレーには食事が半分くらい残ってた。
茅野の方を見ると井田君と2人になっていた。
ちょっとだけホッとする。
「夏、あかりちゃん・・・。」
「だから唯、ちゃんと言わなきゃ。どっちにしても茅野も断るのは嫌だろうし、本人も断られるのは嫌だろうし、女の子も早く諦めたほうがいいし。はっきり言うこと。じゃないと、占いじゃないけど唯も嫌な気分になるよ。」
「そんなあ・・・・・。」
茅野と井田君がやってきた。
茅野のトレーには半分くらい食事が残っていた。私も食べる気なし。
さっきの人は誰?聞きたいのに聞けない。
箸を放り出して珍しく残す。井田君が物言いたそうにこっちを見る。
今日は水曜日。一緒に帰れる。楽しみなのに、もやもやは消えない。
1年生は先に帰った。
ぼおっとしてパソコンを閉じたまま自分の席で連絡を待つ。
誰、誰、誰? くり返し自分の声が聞こえる。
仕事に集中してた時は忘れていられたのに、頭が暇になるとぼんやりと疑問が浮かんでくる。
手の中で携帯が震える。
バッグを持ってロッカーからちょっと荷物を持ち出してエレベーターに乗る。
前後で歩く2人。まだまだ会社の人も多い。手もつながずに偶然のふりで歩く。
でも、目の前でポケットにいれられた腕を見て、本当に衝動的に動いた。
小走りに駆け寄りポケットの中に手を入れた。
狭い。
びっくりして茅野が手を出して、つないでくれた。
とりあえず嫌がられずにつながれてホッとした。
「怒らないの?」ちょっと小声で聞いた。
「まだ会社の近くだよ。」見上げると首を傾げられた。
「別にいいよ。唯がいいなら。」
うれしいのにお礼も言えず。そのまま改札を通り電車で見慣れた駅で降り買い物をする。
リクエストを聞いて何も考えずに食材をかごに放り込む。
ビーフシチューとサラダの材料とバケットを買う。
余ればご飯を買って一緒に食べればいいし。ドリアにしてもいいし。
切ってルーで煮込んでシャワーを浴びる間はお願いする。
少しだけスッキリして出てくるといい匂いがした。バケットを軽く焼いて持っていく。
楽しみに待っててくれる茅野。よろこんで笑顔で食べてくれる。
「唯、これもおいしいよ。」
「そう?良かった。」
「あんまり食欲ない?」
「うん。余っても大丈夫だよ。冷凍してまた食べてくれる?」
「もちろん。ありがとう。」
「うん。」
私は少なめにした。それでもちょっと努力して食べた。
正直なところ美味しいのかさえ分からない。
でも市販のルーだから失敗はないし。
片づけはお願いしてぼんやりとする。
自分から聞くのと、教えられるの、どっちがいいだろう。
モヤモヤは全く消えることがなく簡単に私から元気を奪う。食欲まで。
いつものように体育座りをして固まる私の横にゆっくりと座る茅野。
「唯、何か言いたいことは?」
目の前に置かれたお茶のお礼を言う。
「ふ~ん。」
しょうがないじゃない。
言いたくても言えないこともあるし、聞きたくても聞けないこともあるし。
「じゃあ、言うけどさ・・・・。」
「聞きたくない。」耳を塞ぐ。
「もう、そうしてたって聞こえるし、唯、無駄だよ。」
「聞こえない、聞こえてない。無駄じゃない。」
「まあ、いいけど。」
ふ~、なんてため息ついてる茅野。
やっぱりしっかり聞こえてしまう。
「唯はさぁ、もっと電話したり、マメに連絡してくるほうだと思ったけど、全然だよな。さっぱりあっさり。明日の夜とか、日曜日の夜とかさ、一人で部屋にいると寂しくてしょうがないのに。会いたいときは電話をくれれば迎えに行けるのに、夜でも迎えに行くのにって思ってても、今まで一度もそんなおねだりされたことないよな。意外だった。しっかりしてるし、料理も上手で。時々どうしようもなく徒労感を味わうけど、そこも可愛いけど・・・。」
「何が言いたいのよ。」
「唯はどう思ってるのかなって。」
「何が。」
「いろいろ。」
何だか分からない。何が言いたい、どう答えれば正解なの?
とりあえず耳を塞いでる手は外す。会話が成立してる時点で聞こえてるってばれてるし。
あ、もしかして、今日手をつないだことを言ってるの?
「あのさ、もう俺には唯にしてあげれることないのか?」
何言ってるのよ、本当にさっぱり分からないってば。
「だって何も欲しがらないじゃないか。わがまま言ったことあったか?甘えたこともないだろう?じゃあ、今の俺はどうなんだ?この先は?」
「なんで、今のままで私は、・・・いいし。毎日会えて、一緒にいれて、それで十分じゃないの?茅野は他に・・・何か足りないの?」
そういうこと?茅野は私に与えれてないと思い、私じゃ何か足りないと思い。
「結局、そういうことなんだ。・・・茅野は満足してないんだ。私じゃ足りないんだ、ダメなんだ。思ったのとは違った私が、失敗だと思ってるんだ。」
小さく体育座りなんてしてる場合じゃない。
だったら他の人をここに呼べばいい、私じゃない誰かを。
もっともっと茅野が満足する誰かを。甘えて会いたいと素直に言い、連絡もちゃんとマメに何度も送ってくる子に。勝手に見つければいい、そして、・・・・その子の近くに引っ越せばいい!!
ゆっくりと立ち着替えを取りに行こうとする。
洗面所に置いてある。あちこちに私の荷物はあるけどいい。今は無理だから。何度もちょっとづつ積み重ねた自分の分身を拾い集めるのは。
涙で廊下がにじむ。でも方向は間違えない。
踏み出した足はよろめきそうだったけど。
手を引っ張られてバランスを保てた。と思ったのに何故か更によろめいて茅野の方へ倒れ込んだ。
もうしっかりしなきゃいけないのに。
きちんと立ったつもりなのに、茅野に抱えられていた。
「唯、どうしてそうなるんだ、いつも。全然俺の言いたいことと違う話になってるじゃないか。」
知らない、だってそう言ったのは茅野だ。改まって言ったんじゃない。
耳を塞ぐ手を外した後にそんなこと言うなんて意地悪の最強版でしょう。
「俺は、ただ、もっと一緒にいたいって言ったんだよ。甘えてくれない唯がおねだりすることはなさそうだから、でも俺は一人で過ごすこの部屋がいつも寂しくて、もっと一緒にいたいって。俺からお願いしたいって言ったのに。唯以外誰がいるんだよ。唯がいいって言ってるのに。何度言えばいいんだよ。」
「分からないって、初めてだって知ってるじゃない。一般論も分からないのに、だから今が普通だって思うしかないって。会社では普通にしてるって言ったし、朝もランチも会えるからメールだって夜の挨拶でいいんだろうって。寂しくないわけないじゃない。一人でいる時に寂しくないわけないじゃない。そんなの当たり前でしょう。毎日会ってるのに、近いから夜でも我慢しなくていいなんてこと・・・知らない。だってそんなこと言える訳ないじゃない。もっと会いたいなんて、これ以上ないくらい甘やかされてると思ってるのに、それ以上のわがまま言える訳ないじゃない。」
座り込んで下を向く。涙が止まらない。
「それなのに甘えないんだねって、じゃあ、茅野が言ってくれても良かったじゃない。何で私に言わせようとするの。今日のお昼だって、女の人の事、何にも言ってくれない。誰なのか全然分からないから、不安で心配で。後輩が茅野の事を好きになってるって気がついても、肝心の時に近くにいないから、何も言えなかった。夏が言ってくれたけど、せめて近くにいてくれたら、私はあんな思いはしなくて済んだのに。どうして・・・・近くにいてよ。いつもいてくれたじゃない。1人じゃ無理なの知ってるじゃない。一緒がいいんだもん。本当はいつも一緒がいいのぉ。」
縋りつくようにして泣いた。
聞きたいこと1つが聞けないためにこんなことになったのだ。
明らかにそれは自分が悪いのに、我慢して強がった自分が悪い、見て見ぬふりした自分が悪いのに茅野を責めて、そうやって甘えて。
「ごめん、ちゃんと話すから。話すつもりだったし。ごめん。唯。」
頭を撫でられてなだめられる。
しっかりなんてしてない。まるで子供の様じゃない。
大切な大切な宝物を必死に守ってるのに守ってることを知られたくなくて、時々突き放すように転がす。
すこし嗚咽が収まった私に茅野が話をする。
今日昼に来たのは多分後輩。一緒に飲みに行きませんかって誘われた。
いろんな課の適当な男性に声をかけてるらしい。
あの女の人が自分をどうこうなんてことじゃない、もしくは一緒のメンバーに頼まれたかどうかだと思う。
恋人と過ごすことがほとんどだから飲みにはいかないってちゃんと断った。
「残念ですって笑ってあっさりと帰っていったよ。」
そうだった?
なんだか絡みつくようなねっとりしたオーラを感じたけど。気のせい?
「今日は後輩と食べてたからちょっと離れてたんだよ。さすがに邪魔だろう。女子トークしたいだろうし。誰かと一緒の時はさすがに近寄れないよ。でも、面倒くさいからいいよ、会社でも手つなぎ出勤で噂をどんどん肯定して。これからは堂々と唯って呼ぶから。そしたら誰も余計なものは近づかないし。邪魔されない。」
「井田が一緒に暮らしてるんだよ、彼女と。うらやましいんだよ。いつも一緒にいれるあいつが。出遅れたけど、俺の方がずっと先に唯を見つけて好きになって、仲良くなってたのにって。ただ告白するのが遅くなっただけなのに。俺だって一緒に暮らしたいよって。」
ビックリして茅野を見る。そんなことで・・・・張り合ってるの?それとも・・・・。
「唯は一人の時間が必要なタイプか?別にずっとべったり一緒の事をしろなんて言わないし、テレビだって勝手に見ればいい。ゴロゴロしてる唯の横で俺は俺で好きなことをするし。だから少し考えて欲しい。ただもっと一緒にいる時間を増やしたい。唯の作るご飯を食べたい、太ってもいいから。」
何だ最後のは。勝手に太れ。知るかっ。いつもいつも最後は私が怒る。
だって本当に訳わかんない。
「大っ嫌い!茅野の事なんて大嫌い。」
思いっきり下を向いて言う。顔を向けたらバレちゃうから。
ただ言いたかったから言ってみただけだって。
「知ってる、俺は大好きだから。」
何を知ってるのよ。おかしいでしょう。
でもやっぱりおかしいのは私。大嫌いって言ったのにちゃんと首に手を回して縋りついてるなんて。
週の真ん中なのに、まだまだ週末まで長いのに。本当に長い。
「・・・・・明日も泊まりに来ていいの?」
「いいよ。来て。仕事頑張るから、一緒に帰ろう。」
「本当にバレていいの?」
「もう遅い。うすうすバレてるから。はっきりバレるだけ。みんなやっぱりそうかって思うだけだよ。」
「うん。」
「で、何で大嫌いなの?太ってほしくない?」
「言ってみただけ。」分かってるくせに。
「納涼会、近くにいてね。絶対・・・・・断って。」
「分かってるって。来ないよ、誰も。唯ほど退屈しない相手はいないから。無敵の恋人。すごいね。」
「若くて可愛いからって油断しないで。」
「了解。」
ちゃんと自分の物だって確かめた。自分の物だった。誰にも渡せない。
珍しく占いが当たったかも、多分茅野も確かめたから。
次の日、本当に茅野も確かめたと分かった。
「今日は髪の毛気を付けろよ。」
「なんで?」
ざっと髪の毛をまとめられて指で首筋を押される。
「ここと、ここと、ついでにここもだな。」
何?自分じゃわからない。微妙な位置。もしかして?
「印付けといたから。俺印。」
「何で?」どうして?
「だって唯がしきりに言うから。私の柊だからって。じゃあって、俺の唯だって言ったじゃないか。」
確かに言ったし、聞いた。で、それでなんだって?
「だから自分の物には名前を書きましょうって小さい頃からの習性で。あの時は絡みついて縋りついてくる唯の相手で忙しいからペンなんて持ってくる余裕なんてないし。知恵を絞ってつけれる印にしといた。いいアイデアだよな、俺って天才!」
うっ。朝からまた揶揄ってくる。
「ただ油性ペンじゃないからすぐ消えそうで、また今日上書き予定。毎日必要だよなぁ?」
さらにボケ倒す気?
まあ、言ってくれただけよしとしよう。知らないでまとめ髪なんてしてたら恥ずかしいことになる。
襟を正し、髪を押さえつけ隙間をなくす。絶対見えないって思うけど、気になる。
もっと、せめて違うところならいいのに・・・・いいのか?どこ?
手をつないでマンションを出た。そのまま電車でも、改札出ても・・・・・でも無理。手を離した。
だって人多すぎ。恥ずかしい。帰りならともかく、朝は止めよう。
それでも窮屈なエレベーターでかすかに触れる手。ゆるっと指同士が絡まる。
誰にもバレてないと思うのに顔が熱い、混んでるエレベーターのせいだけじゃないはず。
会社のフロアで吐き出されるように出て歩く。
「じゃあな、唯。」
「うん、じゃあね。」
あっさり別れて席へ。
さて今日も頑張りましょう。
首筋を押さえる様に髪を貼りつかせて仕事に取りかかる。
今日の占いは集中すると幸運がやってくるだった。まさにそう願いたい。
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