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14 たくさん褒めてくれたらしい時間・・・・・褒めてた?そこは疑問だ。

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顔を離されて、しばらくして目を開けた。

「後でいくらでも、飽きるほど、褒めてやる。」

ニヤリと笑われた。

さっきまでとは違う顔で。

混乱したままの私をそのままに、さっきとは違うキスが来た。




目を開けられない、息をするのがやっとなくらい。

それなのにちゃんと自分が葛城さんの首に手を回して引き寄せてるのに気がついた。

体に手を回されて、勢い余った手が胸を抑え、ビックリした声が出た。


「んぁあぁっ。」


思った声とは全然違う響きだった。
自分でも恥ずかしさに目が開いたくらいだった。

「かわいいなあ、やっとあの頃の素直さを思い出したか?」


嬉しそうに、あるいは満足そうに言われた。

胸の手はそのままに、膝ごと、体を寄せられて。
半分は自分から葛城さんの上に乗ったのかもしれない。

顎をあげて首にキスを受ける。
胸を荒く揺すられても、口から出るのはクレームの声じゃない。


「藍那。」


名前を呼ばれた。
名字でも滅多に呼んでくれなかったのに。

名前を覚えてないほどアホじゃなかった、そう言ってたし。




「葛城さん、もっと、名前を呼んで。」


「藍那、こっちに・・・・。」


足の上から下ろされて、手を引かれた。
暗い部屋だった。


寝室だとは分かる。
手を離した葛城さんがどんどん服を脱いでいく。

「藍那、脱いで。」

しばらく手は止まったけど、素直に言うことを聞いた。
そこも褒めてくれてもいい。

お互い下着のままでベッドに横になってくっついた。

体をぴったりとくっつけて、お互いの体温を分け合う。
足を絡ませて、もぞもぞと動く。


すぐに下着を取り合い、結局全部脱いだ。


上から見下ろされた。

「藍那、きれいだな。想像してた通りだった。」

「そんな想像はやめてください。」

「お前も自由に想像していいぞ。俺もなかなかだから。」

「結構です。」

恥ずかしい。なんの役にも立たない。
ただ自信があるらしいのは分かった。

せっかく褒めてもらったのは、素直に脱いだところじゃなかった。
まあ、褒められたんならいい・・・と思ってあげる。


「会社では相変わらずだし、甘えたくなるんじゃないのか?いつでも来ていいぞ。想像するより手っ取り早く見せてやるから。」

ニヤリと笑ったような気がする。

「過去の彼女たちと一緒にしないでください。」

そう言ってやった。

どんだけ自信があるんだか。鏡に向かってポーズでも取ってればいい。

視線を外して顔を横にした。

暗い部屋の壁が見えただけだった。



「寂しい夜に耐えられるならな。」


耳元で言われた。
どうせ裸の二人だから、始まれば終わりまで、そうなるのに。
ちょっと油断してたらしい。
自分の声が寝室に響いた。

「声もいいな。つんつんしてる方の声もいいけど、さっきから聞いてる啼き声もいい。褒められたことあるか?」


「ん・・・・ない。」



褒めた?今のは褒めたの?
もっと普通に褒めてよ!


さわさわと胸の辺りで手を動かして、ブツブツ言いながら首元にキスをする。

もう返事もしない。
褒めてる寄りの言葉だと思おう。
ただ、細かいし、何だか素直に喜べないポイントをついてくる。
恥ずかしいだけだ。


「今度酔っぱらったら、俺のことも褒めろよ。あんまり詳しく言うと恥ずかしいのはお前だからな、気をつけろよ。」


「・・・い、わない・・・・。」


「そうしてくれ。」



両手をシーツにはりつけられて顔を寄せられる。
明らかに支配的なやり方を好むらしい、S的気質だろう。
薄々分かっていたが、明らかになった。


くすぐったくて体を動かしたいのに、腰のあたりに体重をかけられてる。
膝でガッチリと挟まれてるらしい。
細いのに力技も使えるらしい。

思いっきり腕を動かしたら、自由になった。
何とか逃れたいと思ってたのに、おかしい、頭を抱えて引き寄せてしまった。

勢いがついたように音を立てて舐められた。
ついでに唸るような声も聞こえる。
猫?


我慢できずに私も声が出る。
目を開けた。

「もう・・・・。」


言葉になったそれは聞こえたらしい。

顔が目の前に戻ってきて、目が合った。


ニヤリと笑う顔。すっかり慣れた。


「もういいのか?」


知らない。


まっすぐ上から顔が下りてきて、また目を閉じた。

ゆっくり唇を合わせると微かに音がする。


腰に置かれた手がゆっくりと腿に行って戻ってくる。

自分の足をきつく閉じて耐える。


「藍那、可愛いなあ。想像以上。」

もういい。

勝手に想像と比べていいから、教えなくていいから。
そう思ってた。


「藍那、もういいんだろう。力抜いて。」

そう言われてもそこは素直にはいかない。

「藍那。」

ただもう一度名前を呼ばれて、指でトントンとされてあっけなく力は抜けた。

「素直だな。やっぱり可愛いな。」



「『よろしくお願いします。』くらい言ってくれたら最初の頃の初々しさを思い出してやるのに。」

「誰が言うもんか。」

心で毒づくつもりがしっかり声に出た。



「いつでもいいぞ。」



言わないって。


指はスルッと内側滑り、上下にゆっくり動く。
さっきよりどんどん力が抜ける。


「葛城さん・・・・。」

「なんだ?忙しいんだ。今甘えるとこじゃない。」



「お願いならされていいぞ。『よろしく』はいらないから。」


結局言わされた。
毎回毎回こんなことを彼女にしてたんだとしたら、本当にアホと罵りたい。



もう後はずっとどこかがつながって、『可愛い声で啼けばいい。』と言われるままに啼かされた。


ぐったり疲れて目を閉じて。
少し眠った。



もぞもぞと窮屈な場所で動いてる自分に気がついて、目が覚めた。
目が覚めた時に驚いて声が出そうになったけど、直ぐに思い出した。

窮屈なはずだ。

腕を乗せられて、狭い細身の胸の中で寝ていた。

ゆっくり離れて距離をとる。
そして考える。

これで良かったのだろうかと。

反省は必要なかったらしい。
悪口は許されるレベルだったらしい。
そして巻き込まれた三人はとんでもない告白のことは大人のふりで忘れてくれるだろう。
あえて何も言うまい。

後は・・・・・だいたい『お願い』は言い方の差はあっても私がするより、される方が多かった気もする。命令調かお願い調かの違いだ。
甘えたいより甘えて欲しいのではないのか疑惑。
余裕がある時だけ俺様のようなS気質を見せる。

相手にしなかったら空回りするんじゃないだろうか?


そう思うだけで余裕が自分に生まれてきて、ちょっとニヤリとしてしまう。


思わず笑顔になって、そんな事を考察していた。



「そんなに楽しい時間だったか?この上なく満足そうだな。お礼は聞くぞ。」

いきなり目が開いて、そう言われた。

薄目で見てたんだろうか?
見えてただろうか?真っ暗な室内なのに?

相手にしないことにした。


「葛城さん、時計を・・・・。」


「何て現実的なお願いなんだ。もっと他にあるだろう?」

「まず時間です。」


「時計があるだろう?」

ベッドの上を指された。
手を伸ばして探る。

チクチクと刺さるパッケージがばらばらとたくさんあり、他に大きな固い物があった。
手に取ってみると時間が分かった。

まだ夜の入り口だった。

時計を戻して、体を戻す。
暗くても本当に見えてるんだとしたら、恥ずかしいと気がついた。



「何時?」



「七時過ぎです。」


「まだまだだ。」


離れた距離をつめられて、壁に追いやられた。


首のあたりに腕を撒きつかれて、引き寄せられた。
ゆっくり手が頭の上で跳ねるように動く。


力を抜いてされるがままにその手を味わう。



「帰りたいか?」


当たり前だ。化粧がどうなってるのか、シャワーを浴びて帰りたい、ゆっくり寝たい。
携帯も気になる。


昨日の友達の感じだと探りの連絡が来てるかもしれない。
他にも卜部君は気にしてくれてるかもしれない。

「そうだよな。まだいいな。」

返事をするのを忘れていた。
あまりに当たり前のこと過ぎて。
ただそうは思ってないらしい。


頭の手の動きが止まった。

少し体の間に空間が出来て、顔をあげて見上げた。


「可愛いなあ、藍那。散々褒めたんだから、少しは素直になれるか?」

なれる訳がない。どうしてそう思うのか分からない。


無言で見上げた。

「あえてひねくれてるところも可愛いけどな。周りもビックリするし、そのままでいいか。」


もちろん私はそのつもりだ。


頬に両手を当てられた。
顔が限界一歩手前まで近寄って来た。

あと少しで鼻がくっつきそうな距離。
顎をあげたら鼻よりも唇がくっつきそうな距離。

自分が動いた。
顎をあげるより斜めに顔を傾けるようにして。
軽く触れただけ。


両手を離されたけど上からのぞかれて顔が下りて来た。
大人しく目を閉じた。

落ち着いた体がまた動き出す。


「藍那。」

何度も呼ばれてすっかり慣れた甘い呼び方。
嫌いじゃない。
好きだ。

「もっと呼んでください。」

またお願いした。


「藍那、お前はいいな。」


そう言われながら首にキスをされている。

何を羨んでるのか。もしかしてあの猫カフェで少しでも働きたいのか。
休日の掃除係くらいにはなれるかもしれない。
やはり獣だから毛と匂いとおトイレのお世話は毎日ある。
なんなら紹介してもいい。無償なら喜んでさせてくれそうだ。
そのご褒美にちょっとくらいあの子と触れあえばいい。


しつこくキスを繰り返される。
胸の辺りでかすかに動いてる手に、落ち着かない気分になる。


「俺も良かっただろう?」

何が?

何?

もしかしてそういうこと?バイトしたいとかじゃなくて?


落ち着かない体を揺らしながらも、理解はした。
ただ応えるほどでもない独り言だろう。


「どうだった?」

またそう聞かれても応えるつもりなんてないのに、首筋にすごい痛みを感じて悲鳴が出た。

「痛っ。」

本気で噛みついて、強くキスをされた。


「無視するな。」

両手で肩を押し返した。

視線を合わせて答えてあげた。

「そうですね。すごいですね。」

棒読みで望む答えを言ってやった。


本気で怒ったらしく大人げなく噛みついてきた。

猫に憧れていたのか・・・・・・。
きっと、嫌われ者の野良だろう。

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