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4 大切な場所にちょっと隙間風。しまった・・・と反省した真冬。

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そして何も変わらないまま、皆と会った。
職場とは違い、若い人に囲まれてちょっと華やいだ場所にいる自分、それだけで元気になる。

「元気だった?」

「うん、もちろん。」

「本当にちょっと空いちゃったね。」

「うん、久しぶり。」

「仕事はどう?」

「忙しい?」

「大変、お局様が・・・・上司が・・・・。」


そんな会話が飛び交いながら賑やかに食事をする。

「ねえ、愛は?今日はダメだったの?」

今日集まったのは京と優美と私。三人。
愛がいなかった。
会社が愛と近いらしい京が先に二人で決めて私に回してきた連絡。

週末暇だしいつでもいいよって言った私。

日程とレストランの名前だけが決定後に送られてきて、それしか知らなかった。

「それがね・・・・・・。」

優美も知らなかったらしくどうしたの?と聞いてくる。

「仕事休んでるみたい。ちょっと体調崩したらしいの。」

「そうなの?大丈夫なの?」

「うん、まあ、ストレスだろうから、長めの休暇を取ってて、それもいつまでもはダメだからって感じらしい。」

「会ったの?」

「ううん、会えてはいない。ちょっと、しばらくは無理かも。」

そんなあ・・・・・・。

去年の今頃はすごく張り切ってた。
キラキラとして見えた。一年が経って、随分慣れただろうに、今?
もしかしてしばらくそんな感じだったの?

「お見舞いとかは、行かない方がいい?連絡はどうかな?」

「うん、私が伝える、今はそっとしてあげよう。」

そう言われたことで、そんなに簡単じゃないのかもと思った。

「本当に愚痴を言えるうちはいいんだけどね、それも言える相手がいないとししんどいね。」

「いなかったの?」

「いないってことはないと思うけど、それでもやっぱり頑張って弱く見せないようにって思う方かもね。」

確かにしっかりしていたし、優しいし、なにより頑張り屋でもあったと思う。
私みたいに最初から何かを諦めたって方じゃない。
一番に内定を取って嬉しそうに報告していたから。

全力で頑張りたい、ダメでも絶対頑張ってみるってタイプだから。


「いっそ仕事辞めて新しい所を見つけられたら、また報告があると思うから。」

「うん、じゃあ、今は連絡しないでおく。」

「そうだね。真冬はいいね。仕事楽しいんでしょう?」

「うん。皆仲がいいから、ストレスはないかも。比べられる人も・・・・いない。」

能力的にはという意味ではいない。
まさか男の子と可愛さを競ってハッキリ負けてるなんて、そんな愚痴もないだろう。

「良かったね。なんだかそれが一番かも。うちでも先輩達も三十歳前に結婚しない場合は辞めて行く人が多いかな。結婚しても子供が出来てやめるし、結局すごい気の強い人か、それなりに出来る人が残る。」

京が寂しそうにそう言う。
化粧品の会社だった。
若い人が多いらしい、きれいな人が多いらしい。

うちはおじおばちゃんだけです。

「優美はどう?」

「うん、確かに何かのきっかけで辞める人はいるけど、男女は同じくらい。私も今のところストレスはなんとか発散出来てるくらいだから、できたら長く働きたいかも。仕事はまあまあやりがいあるし、また面接受けたりするのって、ちょっとしんどい。」

「そうだよね。だから辞める前にある程度は実績作らないとね。」

「ああ、結婚しても、働くんだろうなあ。肩身狭い思いしながらも働かないと子育ても大変そう。」

「だね。」

「結婚とかまったく欠片も見えないから、どうなんだろう。二人は?」

恐る恐る聞いてみた。

「分かんないなあ。まだ私も、見えない。」

「どうかなあ。あんまり早いとそれも先輩の目が厳しい。」

「そんな・・・・・、おめでたいのに。」

「三年は無理かな。結婚しても子供は無理。」

「厳しいんだね。」

「やっぱり真冬はいい所なんだよ。そんなこと感じないってところがいいよね。」

「だって皆子供より孫が生まれる世代かも。」

「そうか。でもきっと真冬がそうなっても皆が喜んでくれるよ。」

「うん、喜んでくれる前にすごく驚くと思うけどね。そのあと奇跡が起きたって喜んでくれるかも。」

「頑張れ。真冬。」

「無理だよ。出会いがない。」

「若い子が一人入ったって言ってたじゃない。男の子だったんでしょう?可愛いって言ってたじゃない。」

「うん、すごく可愛い顔の小さい男の子。同じ年。でも三次元はちょっとって言ってた。ゲーム好きな、歩人よりの人。もったいないって言われてる。」

「そうなんだ。そうだよ、真冬には歩人君がいるじゃん。」

「何で・・・・・、ちょっとお互いに知り過ぎててそんな感じには絶対にならないと思う。本当にお互い無理って言う。」

「会ってるの?」

「ううん、全然。いろいろ連絡はしてるけど、全く会ってない。」

「そうか。」

「なかなか会わなくなるね。」

「ええ~っ、皆は友達出来てるからいいだろうけど、私は誰もいない。卒業して以来本当に誰とも知り合ってないんだから、たまには誘ってよぅ。」

「もちろん、真冬と会うと安心する。変わってないなあって。」

「それは褒めてないでしょう?」

「褒めてるよ。なんだか無理に背伸びしてる自分の力が抜ける、楽になる。」

「あんまり褒められてる気がしない。」

「大丈夫、そのまま変わらないで、そのままおばあちゃんになってね。」

「さすがにそれは無理。」

「真冬ならできる。」

「何なのよ、それは~。」

やっぱりちょっとガッカリしたけど、思ったよりみんな大変で。
私は自分を変えることもしなくて良くて、私らしくいれるところがあるならいいかなって思った。
やっぱり勝おじさんに感謝だ。


皆と会った後の週から、少し忙しくなった。
恒例のイベントが三個重なると、そうなる。
去年もそうだった。

皆で三つの山を乗り切る。

前よりは数字も役所書類も何とか一人で対応できるようになった。
そこは成長だと思いたい。

そしてやり終えた最後の山。

疲れた後はご褒美のようにみんなでいつもの焼き肉屋さんへ。

ガンガンと焼いてバクバクと食べる。

何ていい会社なんだ。本当にそう思った。
あ、だからお肉食べ放題ってだけじゃなくて、仲がいいって事を。

お酒は飲める方だけど、飲むより食べたい、美味しいお肉。

トングはほぼ常に私の手に。
しかも左手に。右手は箸が握られてるから。
皆が取ればすかさず焼く。
皆が取らない時は責任もって私の皿へ。

「今日も絶好調だね。」

赤ら顔で言われる。林さん、すっかり出来上がってる。

「はい。頑張ったんでお腹が空きました。」

「体使ってないのにね。」

「頭を使ってます。指だって忙しく動いてました。」

「そうだね。お疲れさま。」

そう言ってビールを注がれたのでグイッと飲む。
油が流されて、口の中がさっぱりするとまたお肉が恋しくなる。

珍しく目の前の席が空き、会長がやってきた。

「お疲れ様。」

「お疲れ様です。」

お互いのグラスを満たし合う。
さすがにトングも一度お皿の上に置いた。

「食べてる?」

「もちろんです。いつも一番食べ放題状態です。間違いなく一番ご馳走になってる自信があります。」

「うん、そうらしいね。」

「えええ~、お酒はあんまり飲んでませんよ。お肉とどっちが高いのかは知りませんが。」

「いいよ、楽しく美味しく食べて飲んでくれれば。」

「会長、この間友達に会ったんです。みんな仕事が大変らしいです。私は一番いい所に就職できてるって褒められました。仲がよくて、ストレスがないのが一番だって。」

「うれしいね。ストレスない?」

「もちろんないです。楽しく出勤できてます。朝起きて、もっと寝ていたいとは思っても、会社に行くのが嫌だなんて思ったことは一度もないです。」

「いいね。ありがたい。」

「私は優しいお局様を目指しますね。」

「何年後?まだまだみんな引退しないから先は長いよ。」

「もちろんです。」

「すぐに辞めないで、ずっといたいって言ってくれるだけでもうれしいね。」

「もちろんです。・・・・たとえ名前が変わっても、子供が出来ても、と思ってますが私の可能性は分からないとして、会社の方はどうなんでしょうか?」

「どうぞどうぞ、バンバン子だくさんでいいよ。予定は?」

「ないです。聞いてみただけです。」

「じゃあ、誰かいい人がいないか、聞いてみようか?」

「本当ですか?多分自力では無理です。どこかにいい人が落ちてたらお願いします。」

つい本気でお願いした。

「まだ若いじゃない。これからいくらでもあるよ。」

「今まで全くなかったのに、いきなりそんなことが自分に起こるとは思えませんが、あと少し位は自分に失望しないでいたいです。」

「年上は?」

「何でも。」

「どんなタイプがいいの?」

「さあ、分からないです。」

「ありゃりゃ。」

「会長は奥さんとどんな出会いだったんですか?」

「それはまた化石のような古い話をするの?」

「はい、是非参考にさせてください。」

「友達の紹介だよ。最初は気の強い女だと思ったけど、本当は優しいって気がついたら、他の男には渡したくなくてね。ガンガンと攻めてやっとお付き合いできた時は本当にうれしかったよ。今ではやっぱり気が強かったなあって、第一印象は間違ってなかったって日々思ってる。」

「いいじゃないですか。惚気にしか聞こえません。」

「まあ、ここまで一緒にいたら、もう当たり前の存在だからね。」

「ごちそうさまです。」

「いろんな出会いがあるから。きっといい出会いがあるよ。」

「その言葉を信じます。」

いつの間にか隣に倫太郎君が来ていた。
気がつかなかった。

「倫太郎君、仕事はどう?」

会長がそう言って隣を見て初めて気がついた。

しばらく二人が話をしてて、私はお肉にちょっとだけ関心を戻す。

まだお肉も野菜も残ってる。
あちこちで真っ赤なおじさんとおばさんがいて、誰も箸を手にしてない。

マイペースで焼いていく。

会長との間に煙が立ち込めた。

いい匂い、いつでも食欲をそそる最高の音と匂い。


いつの間にか倫太郎君にもプライベートな話を聞いていたらしい。

「僕はあんまり、苦手な分野です。」

「そうなの?可愛い女の子と歩いてそうだけど。」

「全然です。本当に休みの日もうちの中にいるんです。食事もいらないくらいなので外に出ることもないくらいです。」

「大丈夫?ちゃんと日光浴びてね。ひょろひょろと細くて、体力は大丈夫?」

「はい。その辺は問題ないです。めったに風邪もひかないです。」

「真冬ちゃんはストレスないって言ってくれるから、倫太郎君、何かあったら真冬ちゃんに相談するといいよ。明るく笑って気にするなって言ってくれるから。」

「はい。でもストレスは僕もないかもしれないです。」

「いいねえ、二人とも嬉しいなあ。社長は毎年新しい人をいれるつもりらしいから、よろしくね。」

私の方も見られたので急いで咀嚼の口を止めてうなずいた。

会長が席を立つと二人が残された。

「食べる?」

生のお肉をトングで持って聞くと、思いっきり首を振られた。

「もったいないよ。」

「でももうお腹いっぱい。」

だから顔が小さい人は胃も小さいからすぐ容量がいっぱいになるらしい。
私の胃は良く伸びるのかもしれない。
だってお腹の空間はかなりある。
まさか脂肪がたくさんで他の人と体内空間はあんまり変わらない、ということはないだろう。
きっと空間も大きいのだろう。

相変わらずマイペースで肉を焼きながら話をする。

友達の話をした。

「分かるかも。僕も大変だった。好きなことを仕事にしても、無理なことってあるんだと思う。」


最初の仕事を辞めたことを言ってるのだろう。
数ヶ月で辞めた倫太郎君。

その事情は歩人からちょっとだけ聞いていた。


『今度倫太郎君のいた会社と仕事するよ。本当にすごいらしいよ。新人も本当に廃人になるって言ってた。残るのはわずかだって。きっと廃人になる前に倫太郎君は辞めれて良かったんだよ。この業界では珍しい話じゃないけどな。』

『そんな話をしたの?』

『まあ、流れで。お互い辛いですねみたいな。』

『歩人も大変なの?』

『お前誰に聞いてるんだよ、俺有名だって言ったじゃん、天才なの。』

『ふ~ん。』

『その薄い反応はなんだよ。それでもうちはいい方なんだよ。ちゃんとやれるなら自宅でもいいって言われてる。ある程度信頼されれば任せてくれるから、面倒な通勤なんてしなくていいし、基本夜型だし。その代わりにデッドラインより出来るだけ前に提出するようにしてるよ。それから依頼者に渡して手直しがある時もあるし、それ込みで間に合うようにしてる。すごいだろう、尊敬しろ。』

『じゃあ、歩人は運が良かったんだね。』

『お前聞いてないな。競争はし烈だから、好きだけじゃできないこともあるんだよ。』

『ふ~ん。私は特に好きも嫌いもないけど。』

『それは夢がないと言う。』

『あったもん、それはちゃんとあったのに、みんながみんな、そんな思い描いた夢のようにはいかないの。』

『そりゃそうだ。』

『そう言えばこの間皆と会ったんだけど・・・・・。』

『だけど?』



『ねえ、ちょっと確認なんだけど、歩人彼女いるの?』

『答えたくない。』

『私はいない。』

『お前に彼女いてどうする。』

『彼氏です。私には彼氏です。歩人が言いやすいようにわざわざ自分の事言ってあげたのに。』

『そんなの分かってるし。』

『じゃあ、歩人も彼女はいない、でいいの?』

『俺の彼女はパソコンの中に限りなくいる。』

『痛い。やっぱり現実逃避の二次元オンリーなんだ。』

『うるさい。放っといてくれ。自分のことを何とかしてからこっちを責めろ。』

『そんなに噛みつかなくてもいいのに。歩人、そんなゲームの中のようにおっぱい大きいのにウエスト細くて、かつ可愛い子ばかりじゃないんだよ。』

『知ってる。隣に住んでた奴がお腹が大きくて胸がペタンコで、かつよく食う子だったから。』

『歩人の部屋だけ雷落ちて長時間停電しますように。』

『真面目に仕事しろよ。じゃあな。』

あの時は冗談で終わったけど、やっぱり倫太郎君の会社でも何人も辞めていったらしい。
その後すごく頑張ったから、本当に早めに見切りをつけたみたい。
廃人ってのが良く分からないけど、本当に精神的にも疲れるんだろう。

早めに限界を見て、それはそれで良かったと思う。
愛みたいに体調壊すと結局辛くなるし。

「私は倫太郎君が来てくれてよかった。いい人だし、すごくホッとした。」

「そ、う・・・?」

ちょっと照れてるのも可愛い。

「うん、やっぱり会長と社長のところに集まるのはいい人なんだよ。」

「うん。」

倫太郎君が私をまっすぐに見る。

「あ、今私は自分のことも褒めた?」

「そうだね。でもいい人じゃない。真冬さんもいい人だよ。」

「そうかな。私は就職が全然ダメで会長の友達だと言うおじさんのコネで紹介してもらったの。だから正直決まればどこでも良かったんだ。」

「そう。」

「うん、私は久しぶりの新人だったから歓迎された。本当は倫太郎君が面接終わって出て行った後、社長が今の子が新しい子だって言った時に皆が拍手したんだよ。倫太郎君がいる時に紹介してくれれば皆が温かく迎えてくれるって分かるから、初日の緊張が薄まっていいのにって思ったんだ。」

「ありがとう。本当にいい人だね。」

いい人。いい子。みんなそう言ってくれるけど・・・・。

「ねえ、兄弟が多いの?」

「ううん、一人っ子だよ。」

「そうなんだ。そうは見えない。なんだかお兄さんがたくさんいそうだよね。」

「どういうこと?」

「なんだか可愛がられ慣れてる、人慣れしてるから。友達作るのも上手そう。」

「ああ、倫太郎君、少しも分かってない。全部ハズレ。ダメだよ、やっぱり二次元じゃあ、頭が夢見がちなんだよ。歩人も倫太郎君も。」

全然分かってない。

つい歩人の名前も出してしまったけど。

「だっていつも変わりない。元気だよね。」

「それはうちはお父さんの兄弟が多くてみんな仲良くて、皆親族で集まると決まって言われるの。『元気そうだね。』って。」

「うん、それで?」

「だって他の従妹とかは、大きくなったなとか、可愛くなったなとか言われるのに、元気だけが取り柄みたいに言われてたの。じゃあ元気だよって答えるように振舞うって。」

「それは本当に元気だったからでしょう?大人しい子にそんな事言っても元気には振舞えないもん。」

「それはそうだけど、もし『可愛くなったなあ。』って毎回言われてたら私だって可愛くなったかもしれないのに。」

そう言ったら黙った倫太郎君。
それはないよね、黙るタイミングじゃないよ・・・・って思って見たら急いで言われた。

「別に・・・可愛い、と、思うけど。」

無理に言わせたみたいだし。

「もういいよ。友達も多くはないし、就職してから一人も友達出来てない。この間の友達と会う日だって、いつでもいいよって言ったら日にちも時間も決まってから教えてもらって。いくらいつでもいいって言っても決まる前に一言私も聞かれたいのに。美容院とかエステとかネイルとかジムとか、私だってどこかに予定をいれてるかもしれないのに。」

「エステとかネイル行ってるんだ。」

「行ってないです。信じてないのに聞かないでよ。例えばの話です。なんでジムは聞かれないの?」

「だってなんだか行ってなさそうだなあって。入会しても続かなそうかなあって思って。」

「それだって一応聞いてほしい。」

「聞くなって言ったり、聞いてって言ったり、やっぱり良く分からない。」

「だから三次元は複雑なの。二次元じゃわからないでしょう?」

「・・・・。」

倫太郎君が困ったように黙った。

「あ、別に冗談。いいんだよ、歩人だって二次元に恋してるけど仲良しだから。」

慌てて言った。

でも、やっぱり黙られた。
そんな言ってはいけない事だった?
この間は自分で言ってたし・・・・。

お開きになったタイミングに救われた。
そのまま社長のあいさつが少しあって、席を立った。
明日も仕事だから二次会は今回はなしだった。


すっかり時間が経って酔いも覚めてきたらしいおじおばさん。

皆で駅まで行ってそれぞれ分かれた。


おばちゃん達と一緒にいて、倫太郎君とは話が出来ないままだった。

え~、傷つけた?大丈夫かなあ?
反省点はどこ?

その次の日から、しばらくして、気がついた、というか確信した。
避けられてる気がする。


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