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29 二度目の夜のあと ~友田の反省、イロイロ

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やっと許されると思った。
誰に、何を、かはともかく。
ただ本当に自分で一つの区切りにしたいと思った。
この時期に白石さんに会うと分かったから。

それがなかったら、もっと早く言えたと思う。
そう何度も言いたくて。
我慢してた。
言うのじゃなくて、引き寄せるのを、抱き寄せるのを。


なんであんなことを言ったのか、今思うと分からない。
妹とか、抱きたい気がしないとか・・・・。
多分どこかで金子に逆らう気持ちがあった。
自分がいる時に彼女に声をかけるのにうっすらと作為を感じ始めて。
可愛いと聞かされて。


多分、そうなんだろう。
認めたくない心が、隠したい気持ちが、見透かされてた敗北感もあって。

どうにかしてその気持ちに負けまいとして意地を張って。

結果ひどく彼女を苦しめた。

もっと柔らかく笑っていた気がするのに、ちょっと悲しい笑顔が見られるようになり。
とうとう絶望的な表情まで見てしまった。


やっと言えると思った。胸の中にいる彼女を抱きしめたまま。
それなのに、胸を突き飛ばすようにされて、逃げ出された。
何が何なのか、寝起きの頭では理解できず。
まず、何かしてしまったかと思った。

つい触れたくて手を出したことがあるが、それも肩や頭、背中どまり。
自制していた。
それが寝ぼけてるときにもっと強引に触れてしまったのかと。

「信じられない。」

そう言って駆け込んだバスルーム。
泣き声が聞こえる。

そんなショックだったのかと、逆にこっちがショックを受けた。
それとも本当に酷い触れ方だったのかと。

謝った。とにかくごめんと謝った。

何かをしたというのなら、ちょっと寝ぼけていたと言って許してもらえるだろうと。

ただ薄く開けた隙間から聞こえた言葉がよく理解できなくて。

白井さんの名前が出てきて。

『良かった。』そう言った?

何かをしたわけではなかったらしいことに安堵した。
自分が信じられなくなりそうだった。
ただすべて昨日話せなかったことだ。

扉を隔てて聞いてもらった。

全て。白井さんの事を。自分の思ってる事を。

いつの間にか泣き声は止んでいて。

話が終わって声をかける。

拒否の言葉がない内にゆっくり扉を開けた。

酷く取り乱した状態の、それでも何とか着替えは終わったらしい姿で、座り込んで顔は本当にひどく濡れていた。すすり上げた鼻水をこすり、ふき取った目元の赤い跡。

それでもやっぱり大切に思ってる彼女がそこにいて。

その姿勢のまま抱きしめた。


「白井さんに『仲直りする。』って宣言したのに、そこを声に出せばよかった。本当にごめんね。分かってくれたんだよね。」



頭を撫でるとするすると腕を伸ばして縋りついてきた。


「返事を聞かせてください。『友田先輩、付き合ってください。』って言ったんです。『どこにだよ。』って答えになってないです。違う返事を・・・・ください。」

「いいよ。いつでも、どこにでも。つくしちゃん、ずっと前から大好きだったから。」

「本当に、いいんですか?」

「いいよ。」

顔を見て伝えた。

「やっと・・・・。」

キスをした。ずっとしたかった。何で我慢できたんだろう。
意固地と言われた。


頬を挟んだ手がまた濡れてくる。

「泣きすぎると目が腫れるよ。」

「だって・・・・・。何度も金子さんまで恨んで、片思いをそっとしておいてほしかったって八つ当たりしました。」

「うん。」

「友田さんのことも、たくさん悪口言いました。一生グルグル考えてろとか、リケジョとしか恋愛するなとか。」

「そんな事言うタイプなんだ。気をつけないとね。」

「本当に二人ともごめんなさい。」

「金子はいいよ。内緒にしておくから。ねえ、今は?」

「大好きです。今だけじゃないです、ずっとです。」

「続きはしない?」

「続き?悪口?」


顔を見た。何だろうという顔をしてる。

「我慢してるって言ったじゃない。寝室に行きたい。もう酔ってないから、いいよね。」

「・・・・・・。」

「仲直りしたよね。それとも、今度はつくしちゃんが時間をかけて考える番?返事は今は無理?それとも・・・・。」

キスをした、何度も軽く。
絶対欲しくなるように、煽った。
声を出して首に腕を巻き付けてどんどん深くなるキス。

「ごめんね、せっかく着替えたのに。」

その場で服を脱がす。

「友田さん、ベッドに行きたい。」

「うん、わかってる。」

それでも胸元にキスをして、明るいところで表情をの変化を楽しんだ。
予想以上に大人びた表情になるらしい。

「つくし、我慢できない。」

手を取って寝室へ飛び込んだ。
お互いに自分の着てるものを脱いで、下着だけになりベッドの中にもぐりこんだ。
キスから始まるけどさっきとは違う息の上がった激しいキスで、むさぼり合う様に舌を絡めた。
体をこすり合わせながら揺すりあげ、下着を取っていく。

「つくし、抱きたい。抱きたくてたまらない。」

「友田さん、もっと。」

胸を堪能したいけど、どうにも我慢できなくて。

「つくし、一度だけ先に行きたい。」

自分の準備をして彼女の中に入り込む。
直接刺激をしなくても何とかなった。
体をくっつけ合って声をあげる。

「つくし、つくし・・・・・。」

「友田さん、あぁぁ、もっと・・・・・、もっともっと。」

声がどんどん上がる。
腰を引き寄せて上から見下ろす。
揺れる胸と口を開けて声を上げ続ける彼女がとても扇情的で、たまらなく色っぽくて、大きく息を吸い込んで腰をスライドさせた。
目を閉じて天井を向いて名前を呼んで、その瞬間までひたすら声を上げ続けた。
彼女もほぼ同時に大きく震えた。

ゆっくり腰を離して横になり始末する。

ちょっと久しぶりとはいえ、何だこれは。
初めてなのに。まったく余裕がなかった。
反省すべきだろう。


息を落ち着けながら隣を見ると静かに上下する胸元が見える。

布団を引き上げて隠す。

抱き寄せてキスをする。

「もっとゆっくりするつもりだったのに・・・・。」

独り言だった。


しばらくして名前を呼ばれた。

「友田さん。」

「何、つくしちゃん。」

「最初見た時から大好きなんです。」

「ありがとう。最近後輩の女の子に地味だと言われていじめられてたから、すごく勇気が出る。」

「それは段田君の分の残業をした時に一緒にいた人ですか?」

「どうだろう、うん・・・・いたかな?」

「ハリネズミのところで動画をとったんです。」

「そう、可愛いって言ってたからね。」

「ハリネズミじゃないです。友田さんのです。」

「えっ・・・・知らない、いつ?」

「写真を撮る前。」

「何してたかな?」

「動かずにじっとハリネズミと見つめ合ってました。」

「そうだろうね。」

「毎日見てたんです。寂しくて、会いたくて。触れたくて。」

「俺も写真ばっかり見てたよ。たくさん撮ったからね、ハリネズミとつくしちゃん。」

「それ送ってくれるって言ってたのに、もらってないです。」

「だって一人で見たいし。すごく可愛いよ。」

「何でイケメンランキングに入らないのか不思議です。」

「そんなのあるの?ランク外って事?」

「はい、金子さんは6位とか7位です。」

「ああ、聞きたくない。」

「でも白衣で外には出ないでください。困ります。」

「出ないよ。基本は実験室だけなんだから。」

「前に廊下に出て来てました。」

「あれは強引に金子に引っ張られたからだよ。」

「じゃあ、大丈夫ですよね。目立たないでください。」

「大丈夫だって。・・・・地味だから。」

「で、同期の男の子はつくしちゃんの何が気に入ったって?」

「知らないです。」

「きっかけとか言われなかったの?」

「いえ、ほとんど悩み相談というか愚痴でした。片思いだと言いました。兄のような存在だと。」

「彼は信じたの?」

「いいえ、どう見ても違う感じだったって言われました。でもそう言われてて彼女にはしてもらえないって、愚痴りました。」

「ごめんね、最初がいけなかったね。もっと素直になるべきだったのに。つい金子に反抗してみたくなって。」

「・・・・全然、色気無しでしたか?」

「うん、可愛いから、想像したくなかったかな。でも、すごく色っぽくなるんだね。びっくりしたなぁ。」

耳元で囁いた。

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