悪女の取り扱いには注意してください。

羽月☆

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6 囁かれてた別の噂

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怒りを宥めると、ため息が出そうになる。
ちょっと肩も凝って頭も痛い。お腹もちょっと。
生理前なのかも。
それか、便秘の腹痛か。

今日だけ頑張れば、休みだから。

とりあえずゆっくり休みたい。

一人週末万歳!


そう思ったけど、席を立ち、トイレに歩いていく。
本当に痛い。

トイレを目指してたのに、数人が固まってトイレに入るのが見えた。
苦手な女集団。
中学生ですか?仲良くトイレなんて。
いい大人ですよ。


行先変更、非常階段にでて、三階分下に下りて、壁にもたれて、そのまま座り込んだ。

生理前の痛みなのかも。
相変わらず、お腹が痛い。
週末ならゆっくり温めて寝てられるからいい。
時々酷い月がある。それが今回なのかも。


始まるなら週末にお願いしたい。
来週もきっと変わらない。
冷たい日々が続くだろう。


お腹に手を置いて温める。
自分の手なのに本当に気持ちいい。


下の非常階段の扉が閉まる音がして、足音が上がってきて、立ち止まる気配を感じた。
目を開けると目の前に足が見えた。
ゆっくり顔を上げる。


「大丈夫?具合悪い?」

「いえ、大丈夫です。ちょっとした逃避行動です。疲れたので運動してたついでに、休んでます。」

ゆっくり立ち上がって見せた。

なんだか滅茶苦茶な言い訳だったけど、納得してくれたみたい。

「じゃあ、大丈夫?」

「はい。」

「そう、じゃあ。」

そう言っていなくなった。
ため息をついてまた沈み込む。

恥ずかしくて体が熱くなり、少し腹痛も忘れた。
それでも少しだけそのままぼんやりしていた。

また誰かが階段を使うらしい。そろそろと立ち上がった。
下を見たら、見上げてこっちをみたその人。
さっきの人だった。

両手に飲み物を持って、こっちに歩いてきた。

「これ、良かったら。糖分入ってるけど、少し控えめにはしてきた。疲れた時には元気が出るかも。」

そう言って、コーヒーを手渡された。
知らない人だと思う。
だって数階下の会社になんて知り合いはいない。

「大人って大変だって思うよね。なんだか子供の頃は宿題もなくて、お金も自由に使える大人に憧れたけど、やっぱ大変。時々ここで愚痴を大きな声で囁くんだ。」


『その頭のモノ、ずれてる~、気がついてくれ~、こっちが気を遣う~。』

下に向かって、本当に大きな声で囁いた。
最大級の小声だ。

「なんかスッキリするんだよね。」

わざとだろうか、すごく気を遣ってくれたんだろうか?
ほほえましいともいえるその愚痴に思わず笑いが出る。

「それは大変ですね。」

「でしょう?」

「潔く無しでいて欲しいと思うんだけど、まあ、無理なんだろうね。自分もその時にならないと分からないよね。気配を感じたら早めにスキンヘッドにして、気にしてないふりをしてもいいけど。」


「今は技術も薬もいろいろありますよ。」

そう言って思わず頭を見てしまう。

「今見たよね、想像した?スキンヘッド?似合う?」

「どうでしょう?かなりの短い感じはいいかもしれないので、後、眼鏡も少し変えたりして。」

つい、顔を見ながら話をして。

「そのアドバイス、いつか参考にするときがあったら思い出すから。」


「何度かエレベーターとか、一階のフロアで見かけたことあるよ。もう少し上の階の人だよね?」

「はい。三階分降りてきました。さすがに自分のところだと休めなくて。」

「美人さんは男の噂にのぼるから。一方的に知っているだけでも、勝手に知りあいの気分になる。」

そう言われた。
悪い評判も伝わっているんじゃないかと軽く探る目をしてしまう。
噂はあくまでも噂だから、尾ひれも胸びれもとって聞いて欲しい。

「今日金曜日だから、コーヒーのお礼に奢られたいな。もし良かったら電話して。コーヒー代で足りない分は払います。お酒一杯にもいかないからね。」

そう言って名刺を渡された。

休憩ついでと介抱ついでにナンパ?

「ほら、知り合いだって勝手に思えてるから。気が向いたらでいいから。1時間くらいは残業あるけど、連絡あるかもって思ったら、すごい集中して仕事できるから。待ってる。」

そう言って返事も聞かずにいなくなった。

しばらく呆然としたまま。

どう?
浩美の誘いは断って、知りもしない人と飲みに行くって?


でもストレスが本当にマックスで、おまけに生理前の食欲の出ること出ること。
結構食べる量が増える数日なのだ。


今週は家にまっすぐ帰っていて、食事もろくな物は食べてない、ほぼおつまみのみ。
美味しいものが食べたい。
楽しい週末にして、今週の厄をリセットしたい!!

名刺をポケットに大切にしまいこみ、コーヒーを持ったまま急いで席に戻り仕事を再開した。

どうしよう顔が笑いそう。

そう、知らない人だから、思いっきり愚痴も言えるかも。
あるいは、まったく関係ない話で盛り上がれるかも。
楽しそう。

上司のカツラのズレにストレスを覚える会社員。

良かった、他の階まで自分の悪評は届いてないらしい。
安心だ。
やっぱり私もマダマダだから。

ふっ。

思わず鼻で笑った。


いつもの通り他の人は帰った。

そしていつもの二人と、上司・・・もいなかった。
二人。

終った、今日こそは先に終った~。

ファイルを指定の場所に戻し、パソコンを閉じる。

廊下に出て、電話をする。


「お疲れ様です。今日コーヒーを奢っていただいた鈴鹿です。」

『あ、お疲れ様。仕事終ったから連絡もらえたの??』

「はい。お礼をします。借りはその日のうちにお返しします。」

『律儀だね。でもうれしい。僕は終ってます。どうだろうかと待ってたんだ。良かった。もし帰られてても分からないし。』

「大丈夫です。私は後五分くらいで終ります。芦屋さんはいかがですか?」

『いつでも大丈夫!』

「じゃあ、ビルをでて、どこか分かりやすいところで待っていてください。」

『うん、少し離れてから声をかけるから、駅のほうへ歩いていいよ。ビルの出口辺りからストーキングするから。怪しいと思わないでね。』

「多分、大丈夫です。じゃあ、五分後くらいに。」

そう約束して電話を切った。
やった~、楽しいお酒が飲めそうだ。うれしいな!

ガッツポーズと満点の笑顔を普通に戻して、部屋に戻って帰り支度をする。
ご機嫌モードオン、数分前。

荷物を椅子に置き、化粧直しとトイレを済ませて、珍しくまだいるヤツに愛想よく挨拶して帰ろうとした。

「お疲れさまでした。」
さっきの電話とは違う低いトーンは仕方ない。


「お疲れ様。あのさ、本当に余計なお世話だけど、『TDIの芦屋さん』なら気をつけたほうがいいよ。うちにも被害者の会があるって噂があるくらいに本当に危ないヤツらしいから。」

いきなりそう言われてびっくりした。

『TDI』は確かに芦屋さんのいる会社だ。名刺にそう書いてあった。

「どうして・・・・。」

「うれしそうに廊下で電話しても丸聞こえだし。ご丁寧に自分の名前も言ってたしね。いっそここで電話したほうが良かったかも。他の部屋にも聞こえてただろうしね。」

なんて皮肉な言い方だ。
それにやっぱりそれも噂じゃない。
噂にはもれなく尾ひれがつくんだって、私はそんなものには惑わされないし。


「ご忠告ありがとうございます。お世話になったので気分転換にお酒を飲むだけです。」

「そう、お酒ね・・・・・薬を使うとか、なんとか。自分の飲み物は手元に置いといたほうがいいし、たまには相手に飲ませて反応見たほうがいいよ。」


薬?
麻薬じゃ・・ないでしょう?
睡眠剤みたいなもの?

そんな人じゃない・・・と思う。
だってそれは犯罪。

そんな・・・・。


珍しく真面目な顔をしてるけど。
信じられないから、信じないから。

せっかく楽しみにしてたのに、なんだか酷く嫌な気持ちになった。

しばらくヤツの方を見ていた。
言い切ったらすっかりパソコンに向き直ってしまってる。

信じないから・・・・。

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