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7 自然に振舞う不自然さ

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バッグは太陽君に持たれたまま。
エレベーターに乗り、降りる。

「この奥のお店はいっぱいみたいです。今度一緒に来ませんか?すごくいい感じでした。バーでお料理も美味しそうで。」

普通に誘われる。
友達だから、都合が合えば行ってみたいね、なんて言う感じで。
私もじゃあ、そう言う感じで付き合えばいいと思うけど。
何となく返事もできず。

「悠里先輩、だから前みたいにね、楽しく遊びましょう。そんな申し訳ないって顔しなくていいですから。」

「・・・・わかった。」

そう、分かった、友達だから気軽に。

「どこ行くか決めてるの?」

「はい、ずっと誘いたいって思ったところがあるんです。予約もしました~。」

嬉しそうに言うけど。

「・・・・いつ?」

「さっき。声かける前に。良かったです。『一人になりました。』って悲しい変更せずに済んで。」

「どのくらいあそこにいたの?」

「それは・・・・30分は経ってないです。長いですか?」

「当たり前でしょう。何考えてたのよ?」

その間ずっと見られてたのかと思うと恥ずかしくて、口調が怒ってしまった。

「え~、悠里先輩には言われたくないなあ、先輩こそ何考えてたんですか?僕より数分長くあそこにいたんですよ。」

まあ、そうなるか。

「いいの、ぼんやりするために行くところだから。」

「そういう時はガンガン誘ってください。いつでも連絡待ってますから。」

答えられない内に立ち止まってお店を指さされた。

「到着。」

うれしいなあ、小さく呟いて先にドアを開けて入る太陽君、あとに続く私。

こじゃれた小さな店だった。
ワインがたくさんあった、籠にはたくさんの野菜が。

お酒がメインらしい、席はすべてがカウンター式だった。
空いてる二つの席に案内されて。
メニューは手書きの紙一枚と、その後ろには飲み物が。
お酒と食べ物を数品注文する。

すぐにお酒が来て乾杯をする。
少しも変わらない優しい笑顔で見つめられるとドキドキするのに。

「悠里先輩、結局肉食べれたんですか?」

「まさか、準備するだけ。一口も食べてないから。」

「準備するだけして一人だけ早帰りですか?」

「仕事が残ってたから終わらせてたの。あとは来週片づけするから、いいの。それより、太陽君こそ・・・・。」

今立ち聞きしたことをばらしそうになった。偶然だったけど。

「何ですか?」

「太陽君こそ食べれなくて残念だったわね。お酒も相当用意してたわよ。」

「全然いいです。ギリギリで追いかけられて良かったです。タイミングがずれてたら無理でした。」

約束をすっかり忘れてるっぽい。
知らないから。

「いい日だなあ。あれからの日々がすごく長かったから、うれしいです。」

そう言われて顔を見られて。

「お昼もひよりさんが一人で寂しく食べてましたよ。」

やっぱり社食に行かなくて良かった。
毎日視界に入るのは辛い。

「最近復活したんですね。もう奴も諦めただろうって思われたのかなあ。」

他人事のように言う。
そんなつもりはないけど、そうかも。
いつまでも居残りの様に席にいるのも寂しくて。

「なんて冗談です。ちょっと言いたかっただけです。」

「・・・・言いたかったんだ。」

「え?そこはさらっと流してください。」



「さすがにお腹空いたんじゃないですか?焼き肉の煙浴びましたよね。」

太陽君が背中に顔をつけて髪の毛のあたりの匂いをクンクンとされた気がした。

「ちょっと、びっくりするから。」

「やっぱり少し焼き肉の匂いついてますよ。ちゃんと脱いでから寝てくださいね。」

「当たり前です。ねえ、何か意地悪されてるの?」

「ええ?そんなことされる心当たりあるんですか?」

睨んだ。

「いいじゃないですか。仲がいい先輩と後輩ですから。」

そう言いながらも視線は正面を向いていて、合わなかった。

お酒を飲む太陽君の横顔を見る。
毎週見てた気がするのに、本当に随分前のことみたい。

「改めて考えなおします?もう遅いですよ。」

笑って言われた。
そう、もう二度も答えたから。三度目はない。

ふいって顔を背けて正面を見る。
目の前に置かれたのは季節の野菜たち。
食べられるタイミングを待ってそこにいる。
美味しい内に。
新鮮な内に。

何事にもタイミングってある。
告白されたタイミング、断ったタイミング、友達になったタイミング。
きっとその時はその時で、それがいいと思った答えだったと思うから。

「そんなに食べたいですか?」

「へ?」

「なんかすごい野菜を見つめてましたよ。追加しますか?」

「いい、違う。ちょっと見てただけ。」

目の前にはあんまり減ってない料理もある。

「食べようっと。」

「美味しいですよ。」

「ここ、誰かに聞いたの?」

「そうです。先輩が・・・美味しいって。この席の並びコウシとはないから、悠里先輩と来たかったんです。」

「そう、なんだ。」

「でも、来年は一緒に屋上から花火みましょうね。焼き肉食べながら。」

「来年って、本当に一年後じゃない。先過ぎるわよ。」

「そうですか?でもきっと誘います。準備は頑張ってくださいね。」

「そう毎年なのよ。せめて下ごしらえくらいは持ち回りでもいいのに。」

「そうですよね。冷蔵庫の前でアイスを出された先輩が泣いてましたよ。」

「いいの、ちゃんと告知したから。大体先輩なら去年も同じことしたんだから、そんなのいちいち知らない。かなり古い感じのアイスだったし。」

「だって思い出のアイスかもしれませんよ。」

「何よそれ。ずっと食べない気ならまた凍らせればいいのよ。」

「悠里先輩、大胆なアドバイスです。」

「本当に面倒なのよ。」

「だからお疲れ様会です。先輩思いのいい後輩でしょう?」

いつもの笑顔だった。

「本当に、太陽君は出来た後輩よ。」

「じゃあ、来年は一緒に楽しみましょう!」

「わかった。太陽君が寂しかったら付き合ってあげる。」

「寂しいですかね?」

「さあ?」

答えながら階段を機嫌よく登ってきた美人の顔が浮かんだ。
本当はあんまり覚えてない。だから想像で補ってる。

先輩か、後輩か、同僚か、誰もがどれかに当てはまる。

ただの後輩、仲のいい後輩。友達の彼氏の同僚。

そういうこと。

三杯くらいお代わりして、頼んだものをきれいに食べてお会計は半分づつ出し合う。
先輩だからって奢らなくていいですよって冗談のように言われたから。

「後輩だからって奢ってもらえるなんて思ったら甘いわよ。」

そう言い返した。
外にでても仲のいい二人を装ったままで。

「でも、いつか奢ってでも手に入れたいって思う後輩が現れるかもしれませんよ。」

「なんで私の相手を後輩に限定するの?」

「なんとなくです。」

「現れませんから。」

一緒に駅に向かう。

「先輩、疲れてたら僕の部屋のベッド貸しましょうか?」

「いいえ、大丈夫です。ちゃんと帰れます。」

「無理しないでくださいね。」

「ありがとうございます。無理してないです。」

「でも僕が酔いつぶれたら先輩の部屋に泊めてくださいね。」

「なんで?太陽君の部屋まで運んであげるから。ネクタイ外してベッドに突き飛ばして、鍵はポストにいれとくね。」

「・・・・突き飛ばさないで、ちゃんと優しく眠るまで見守りをお願いします。僕はベッドで気分悪くなって吐いたりしないか見守ってましたよ。」

足が止まった。
見上げたらうれしそうに笑う顔。

「だって頼まれたんですよ。ちゃんとシャワー行く時も断りましたし、何度か声もかけたのに。さすがにずっとは無理でしたが。」


「だからお願いしますね。」

そう言いながら歩きだす。
改札は目の前。

「週末もせめてどちらか一日、遊びに誘いたいんですが、行きませんか?」

首を振って断る。

「残念です。暇なんです。でも気が向いたら電話ください。じゃあ、おやすみなさい。」

笑顔で手を振って別れた。

違う改札へ行く太陽君。
どうしたいの?
お互いに時間を無理に埋めてる?
そんな必要ないってその内に気が付くだろう。
もしかしたら今夜にも、来週にも。
それまでなら先輩で、友達で、気楽に誘われる人でいい。
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