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第二の石碑 コルセア王都カリーン
08話 王城
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それから半月後。
僕らはジェノアの森を抜け、順調に街道を進んでコルセア王国の王都、カリーンにやってきた。
カリーンは三重の城壁に守られていて、中央には巨大な城が建っていた。その規模はセレンディアの比ではなく、この城の堅固さは東の大国フェルゴートと比べても遜色ないほどだと、音楽団の楽士から聞いた。
元々、ここフェーン地方は十六国にわかれて争っていた。
その辺りはセレンディアと似ている。
違うのは、ふらりと現れた女性剣士が一国の主となると、僅か数年で十五国を平定、コルセア王国をフェーン地方の覇者に導いたという、冗談のような現実だ。
ソーン音楽団のみなさんとは、第二の城壁前で別れることにした。
昨日も、僕らのために盛大な送別会を開いてくれて、ユーリエは僕が止めるのも聞かずにワインを飲みまくっていたので、僕は嘆息し、ヤヒロちゃんと歌い踊った。
凄く楽しいひとときだった。
そして目の前に、第二の石碑がある。
一つ目の石碑の言葉は忘れてしまったけれど、石碑の言葉は、祠に入ると思い出すことができるという。つまりセレンディアのものに加え、カリーンの石碑も読めることになり、マールの言葉は途切れることなく考察できるということだ。
今、僕の目の前にはソーンさんを始め、楽団のみなさんが並んでいる。
その対面には荷物を持ったユーリエと、僕だ。
「ソーンさん、みなさん。ここまで送って頂いて本当にありがとうございました。僕はマール信徒として、旅のご無事をお祈りします」
僕は右手を左腕に当て、辞儀した。
「本当に素敵な時間を過ごさせて頂き、誠にありがとうございました。ご縁があれば、再びお目にかかれるでしょう。その時は、また私とカナクを旅のお仲間に加えて下さいませ」
ユーリエは右手を胸に当て、左手でスカートの裾を掴み、軽く腰を落とす。
見事な所だった。
「こちらこそ、石碑巡りのご加護のお陰で、誰一人、ケガをすることなく、病に倒れることなくここまでこられたこと、感謝いたします。我々はもっと腕を磨き、いずれアレンシアにソーン音楽団ありと、この名を轟かせてみせます。君たちのことは忘れません。どうか、マールのご加護がありますように」
ソーンさんが僕と同じポーズで一礼する。
僕と違って、とても絵になる礼だった。
「楽しかったよユーリエ~!」
「また働きにこい、カナク!」
「元気でな!」
楽団のみなさんが、口々に餞別の言葉をくれた。
やはり、別れは辛い。
「さあ、今日の酒場に行きますよ。出発です!」
おう、というかけ声と共に、馬車に乗り込む楽団員たち。
「ありがとうみなさん、本当にありがとう!」
僕はありったけの声で叫んだ。
ともに過ごしたのは数ヶ月だったけれど、本当にみんないい人たちで。
とても暖かくて、僕は目頭が熱くなり、瞳を閉じて頭を垂れた。
やがて馬車が動き出す。
僕とユーリエは、それをずっと見守っていた。
すると驚くことに、ヤヒロちゃんが最後尾の馬車に座っていた。
ヤヒロちゃんは満面の笑みを僕に向けて、小さく右手を振る。
僕も口元を緩めて、手を振り返した。
君の未来に、マールのご加護がありますように。
馬車の一団が、先にある十字路を左に曲がる。
完全に楽団の一行が見えなくなってから、呟いた。
「……もういいよ」
「はぁああああああうううううううううううう!」
唐突に、ユーリエが額に手を当てて、崩れ落ちるように蹲った。
この旅で会得したユーリエの得意技「二日酔い」である。
実は朝からこんな調子だったのだけれど、もう一つの得意技「猫かぶり」を駆使して、音楽団のみなさんには二日酔いであることを全く悟られずに凌ぎきった。
そこはある意味、尊敬に値する。
「大体さ、酒場で働くことを生業としている人たちと同じ量のお酒を飲んだらどうなるか、わかるでしょ?」
「ううう、人間は学ばない動物である……」
「誰の言葉?」
「私」
はあ、と嘆息する。
「うう、動けない~~~~! 頭痛いいいいい!」
悶絶しそうなユーリエが、はっとして、瞳を潤ませながら僕の顔を見る。
「あ、足手まといに、なっちゃった……私を、置いていく?」
僕はまた、はあ、と大きな溜め息をついてユーリエの前で屈み、水筒を渡した。
「水~~!」
ユーリエが美味しそうに、水を飲む。
ちなみに僕はお酒は一切飲まない。
もしお酒に飲まれてしまって、あの姿になったら一大事だからだ。
それから僕はリュックを背中からお腹側に映すと、屈んでユーリエに背中を向けた。
「さあ、のって」
「え?」
「こんな人通りの多いところで動けなくなっちゃったら大変だから、石碑までおんぶする」
「あうう、いいの?」
「僕はユーリエと石碑巡りをやり遂げるって決めた。なにがあっても置いていかないから。寧ろ、ユーリエが途中でやめたいって言い出しても、許さないからね」
「カナク……だ……」
「ほら早く!」
「い、あ、うん」
ユーリエが僕の背中に身体を預け、首に手を回す。僕はユーリエの太ももに手をかけて立ち上がると、そのまま正面の門を潜ってカリーンの王城を目指した。
「お、重くない?」
「うん。全然」
「カナクって、案外、力持ちなんだね」
「ああ、まあね」
よく考えてみたら、周りから見たらそうかもしれない。
大きな僕の鞄に、ユーリエと、その荷物。
それを背負って平然と歩いているのだから。
しかし僕は人間ではない。
銀獣人は人間と違い、圧倒的な筋力と特殊能力を備えている。
これくらいの荷物なんて重荷にもならない。
だから魔法学校時代は、手を抜くのにとても苦労した。
「今後、お酒は控えます」
いつになく殊勝なユーリエが、しょんぼりした声で言う。
「幻滅したよね……こんな女でごめんね」
「う~ん、僕は嬉しいかな」
「え?」
なるべくユーリエの身体を揺らさないように歩く。
ユーリエも痛い頭を振らないよう、僕の肩に顎を乗せていた。
「だってさ、魔法学校時代のユーリエって成績は常に一位で運動もできて、いつも笑顔を絶やさない人気者だったじゃないか。それが、実はこんなに乱暴で直情で我が儘で理不尽で酒乱な豆台風だったとはね」
「む~、言いたい放題……」
こんな機械でもなければ、ユーリエにあれこれ言えないからね。
「でも、どうしてそれが嬉しいの?」
「こんなユーリエの姿を知っているのって、他に誰かいる?」
「いない」
「だからだよ。僕はユーリエが誰にも見せなかった一面を知っている。それが嬉しいんだ」
「むむ~っ。なんだか弱みを握られたような」
「それもあるかな」
「むむむ~~~~!」
「ほら、もうすぐ王城に着いちゃうから。少し休んでて」
「む~……」
ついにユーリエは“む~”しか言えなくなった。
それから僕はユーリエの太ももの感触を楽しみながら……いや、大切な女の子を守りながら、第三の城壁を潜り、ついに王城の前にやってきた。
「「お、おおおおおお……」」
僕らは思わず声をあげた。
確かコルセア王国って、建国されたのは近年のはずだ。それなのに目の前の城には、もう古くから存在し、この地に君臨しているかのような威厳や風格が漂っていた。
円形の塔が四本。それに連なる高い城壁。それらは煉瓦ではなく、岩を切り出して作られた頑丈な作りで、おそらく石を雑に組み上げた後に、後から磨き上げ、美しく整えているのだろう。
間違いなく、この城は堅い。
三重の城壁に、堅牢な城。
今、アレンシアで最も勢いがある国と呼ばれているコルセア王国の象徴に相応しいものだった。
「カナク、ありがとう。もう大丈夫」
「そっか」
ユーリエと離れるのは少し残念だったけれど、ごねる理由もない。
僕はユーリエを下ろし、一緒に城門まで歩いた。
そこには二人の衛兵が立っていて、鎧を身に纏い、槍を手にしていた。
「待ちたまえ。ここから先、一般人は立ち入り禁止だ。なにか特別な知らせか用事でもあるのか?」
そんな衛兵の声に、僕とユーリエは顔を見合わせる。
「僕らはセレンディアからきた石碑巡りです。フェーン地方の石碑は、ここカリーンの城にあると聞いたのですが」
「なに、石碑巡りだと!?」
二人の衛兵はなにやら話し合い、一人が城門を開けて中に入っていった。
「今、コルセア・マール聖神殿に問いあわせているから、少し待ってくれ」
「えっ、聖神殿が城の中にあるんですか!?」
「そうだ。詳しくは聖神殿で伺ってくれ」
「わかりました。ではその辺を散歩して待っていてもいいですか?」
「ああ、構わんよ。聖神殿からの使いがきたら大声で呼ぶから、その範囲でな」
「ありがとうございます」
僕とユーリエは時間潰しに、カリーンの城の周囲にある庭を見て回った。様々な花が咲き、手入れが行き届いている。きっと多くの庭師をいれているに違いない。
「ねえ、セレンディアの城って、こんなに大きくないよね?」
ユーリエに問うと、うっとりとした目つきで花を愛でながら答えた。
「ここはヴァスト山脈が近いから、ドワーフから良質な鉱石を手に入れられるわ。それに比べてイルミナル地方は穀倉地帯だからね。セレンディアの城なんか平城だし」
ユーリエの二日酔いは、すっかり良くなっているようだ。
口調に力が入っている。
「カナクも知ってると思うけど、セレンディアがイルミナル地方を統一したのは、ほんの十年くらい前よ。それに比べて、コルセア王国は二十年も前には今の体勢になっていたわ。それに国力も大きく違うしね」
「鉱石や宝石はセレンディアが欲しがるものだし、潤沢な食料はコルセア王国が求めているもの。そして二つとも揃っているのが、フェルゴート王国だって聞いたことがある」
「あそこはもう別格ね。なにせ一〇〇〇年前から存在していた、伝統ある国だから」
「マールもフェルゴートに行ったことがあるのかな?」
「…………」
「ユーリエ?」
「さあね!」
なんか、急に機嫌が悪くなった。
ユーリエって、本当にわからない……。
僕らはジェノアの森を抜け、順調に街道を進んでコルセア王国の王都、カリーンにやってきた。
カリーンは三重の城壁に守られていて、中央には巨大な城が建っていた。その規模はセレンディアの比ではなく、この城の堅固さは東の大国フェルゴートと比べても遜色ないほどだと、音楽団の楽士から聞いた。
元々、ここフェーン地方は十六国にわかれて争っていた。
その辺りはセレンディアと似ている。
違うのは、ふらりと現れた女性剣士が一国の主となると、僅か数年で十五国を平定、コルセア王国をフェーン地方の覇者に導いたという、冗談のような現実だ。
ソーン音楽団のみなさんとは、第二の城壁前で別れることにした。
昨日も、僕らのために盛大な送別会を開いてくれて、ユーリエは僕が止めるのも聞かずにワインを飲みまくっていたので、僕は嘆息し、ヤヒロちゃんと歌い踊った。
凄く楽しいひとときだった。
そして目の前に、第二の石碑がある。
一つ目の石碑の言葉は忘れてしまったけれど、石碑の言葉は、祠に入ると思い出すことができるという。つまりセレンディアのものに加え、カリーンの石碑も読めることになり、マールの言葉は途切れることなく考察できるということだ。
今、僕の目の前にはソーンさんを始め、楽団のみなさんが並んでいる。
その対面には荷物を持ったユーリエと、僕だ。
「ソーンさん、みなさん。ここまで送って頂いて本当にありがとうございました。僕はマール信徒として、旅のご無事をお祈りします」
僕は右手を左腕に当て、辞儀した。
「本当に素敵な時間を過ごさせて頂き、誠にありがとうございました。ご縁があれば、再びお目にかかれるでしょう。その時は、また私とカナクを旅のお仲間に加えて下さいませ」
ユーリエは右手を胸に当て、左手でスカートの裾を掴み、軽く腰を落とす。
見事な所だった。
「こちらこそ、石碑巡りのご加護のお陰で、誰一人、ケガをすることなく、病に倒れることなくここまでこられたこと、感謝いたします。我々はもっと腕を磨き、いずれアレンシアにソーン音楽団ありと、この名を轟かせてみせます。君たちのことは忘れません。どうか、マールのご加護がありますように」
ソーンさんが僕と同じポーズで一礼する。
僕と違って、とても絵になる礼だった。
「楽しかったよユーリエ~!」
「また働きにこい、カナク!」
「元気でな!」
楽団のみなさんが、口々に餞別の言葉をくれた。
やはり、別れは辛い。
「さあ、今日の酒場に行きますよ。出発です!」
おう、というかけ声と共に、馬車に乗り込む楽団員たち。
「ありがとうみなさん、本当にありがとう!」
僕はありったけの声で叫んだ。
ともに過ごしたのは数ヶ月だったけれど、本当にみんないい人たちで。
とても暖かくて、僕は目頭が熱くなり、瞳を閉じて頭を垂れた。
やがて馬車が動き出す。
僕とユーリエは、それをずっと見守っていた。
すると驚くことに、ヤヒロちゃんが最後尾の馬車に座っていた。
ヤヒロちゃんは満面の笑みを僕に向けて、小さく右手を振る。
僕も口元を緩めて、手を振り返した。
君の未来に、マールのご加護がありますように。
馬車の一団が、先にある十字路を左に曲がる。
完全に楽団の一行が見えなくなってから、呟いた。
「……もういいよ」
「はぁああああああうううううううううううう!」
唐突に、ユーリエが額に手を当てて、崩れ落ちるように蹲った。
この旅で会得したユーリエの得意技「二日酔い」である。
実は朝からこんな調子だったのだけれど、もう一つの得意技「猫かぶり」を駆使して、音楽団のみなさんには二日酔いであることを全く悟られずに凌ぎきった。
そこはある意味、尊敬に値する。
「大体さ、酒場で働くことを生業としている人たちと同じ量のお酒を飲んだらどうなるか、わかるでしょ?」
「ううう、人間は学ばない動物である……」
「誰の言葉?」
「私」
はあ、と嘆息する。
「うう、動けない~~~~! 頭痛いいいいい!」
悶絶しそうなユーリエが、はっとして、瞳を潤ませながら僕の顔を見る。
「あ、足手まといに、なっちゃった……私を、置いていく?」
僕はまた、はあ、と大きな溜め息をついてユーリエの前で屈み、水筒を渡した。
「水~~!」
ユーリエが美味しそうに、水を飲む。
ちなみに僕はお酒は一切飲まない。
もしお酒に飲まれてしまって、あの姿になったら一大事だからだ。
それから僕はリュックを背中からお腹側に映すと、屈んでユーリエに背中を向けた。
「さあ、のって」
「え?」
「こんな人通りの多いところで動けなくなっちゃったら大変だから、石碑までおんぶする」
「あうう、いいの?」
「僕はユーリエと石碑巡りをやり遂げるって決めた。なにがあっても置いていかないから。寧ろ、ユーリエが途中でやめたいって言い出しても、許さないからね」
「カナク……だ……」
「ほら早く!」
「い、あ、うん」
ユーリエが僕の背中に身体を預け、首に手を回す。僕はユーリエの太ももに手をかけて立ち上がると、そのまま正面の門を潜ってカリーンの王城を目指した。
「お、重くない?」
「うん。全然」
「カナクって、案外、力持ちなんだね」
「ああ、まあね」
よく考えてみたら、周りから見たらそうかもしれない。
大きな僕の鞄に、ユーリエと、その荷物。
それを背負って平然と歩いているのだから。
しかし僕は人間ではない。
銀獣人は人間と違い、圧倒的な筋力と特殊能力を備えている。
これくらいの荷物なんて重荷にもならない。
だから魔法学校時代は、手を抜くのにとても苦労した。
「今後、お酒は控えます」
いつになく殊勝なユーリエが、しょんぼりした声で言う。
「幻滅したよね……こんな女でごめんね」
「う~ん、僕は嬉しいかな」
「え?」
なるべくユーリエの身体を揺らさないように歩く。
ユーリエも痛い頭を振らないよう、僕の肩に顎を乗せていた。
「だってさ、魔法学校時代のユーリエって成績は常に一位で運動もできて、いつも笑顔を絶やさない人気者だったじゃないか。それが、実はこんなに乱暴で直情で我が儘で理不尽で酒乱な豆台風だったとはね」
「む~、言いたい放題……」
こんな機械でもなければ、ユーリエにあれこれ言えないからね。
「でも、どうしてそれが嬉しいの?」
「こんなユーリエの姿を知っているのって、他に誰かいる?」
「いない」
「だからだよ。僕はユーリエが誰にも見せなかった一面を知っている。それが嬉しいんだ」
「むむ~っ。なんだか弱みを握られたような」
「それもあるかな」
「むむむ~~~~!」
「ほら、もうすぐ王城に着いちゃうから。少し休んでて」
「む~……」
ついにユーリエは“む~”しか言えなくなった。
それから僕はユーリエの太ももの感触を楽しみながら……いや、大切な女の子を守りながら、第三の城壁を潜り、ついに王城の前にやってきた。
「「お、おおおおおお……」」
僕らは思わず声をあげた。
確かコルセア王国って、建国されたのは近年のはずだ。それなのに目の前の城には、もう古くから存在し、この地に君臨しているかのような威厳や風格が漂っていた。
円形の塔が四本。それに連なる高い城壁。それらは煉瓦ではなく、岩を切り出して作られた頑丈な作りで、おそらく石を雑に組み上げた後に、後から磨き上げ、美しく整えているのだろう。
間違いなく、この城は堅い。
三重の城壁に、堅牢な城。
今、アレンシアで最も勢いがある国と呼ばれているコルセア王国の象徴に相応しいものだった。
「カナク、ありがとう。もう大丈夫」
「そっか」
ユーリエと離れるのは少し残念だったけれど、ごねる理由もない。
僕はユーリエを下ろし、一緒に城門まで歩いた。
そこには二人の衛兵が立っていて、鎧を身に纏い、槍を手にしていた。
「待ちたまえ。ここから先、一般人は立ち入り禁止だ。なにか特別な知らせか用事でもあるのか?」
そんな衛兵の声に、僕とユーリエは顔を見合わせる。
「僕らはセレンディアからきた石碑巡りです。フェーン地方の石碑は、ここカリーンの城にあると聞いたのですが」
「なに、石碑巡りだと!?」
二人の衛兵はなにやら話し合い、一人が城門を開けて中に入っていった。
「今、コルセア・マール聖神殿に問いあわせているから、少し待ってくれ」
「えっ、聖神殿が城の中にあるんですか!?」
「そうだ。詳しくは聖神殿で伺ってくれ」
「わかりました。ではその辺を散歩して待っていてもいいですか?」
「ああ、構わんよ。聖神殿からの使いがきたら大声で呼ぶから、その範囲でな」
「ありがとうございます」
僕とユーリエは時間潰しに、カリーンの城の周囲にある庭を見て回った。様々な花が咲き、手入れが行き届いている。きっと多くの庭師をいれているに違いない。
「ねえ、セレンディアの城って、こんなに大きくないよね?」
ユーリエに問うと、うっとりとした目つきで花を愛でながら答えた。
「ここはヴァスト山脈が近いから、ドワーフから良質な鉱石を手に入れられるわ。それに比べてイルミナル地方は穀倉地帯だからね。セレンディアの城なんか平城だし」
ユーリエの二日酔いは、すっかり良くなっているようだ。
口調に力が入っている。
「カナクも知ってると思うけど、セレンディアがイルミナル地方を統一したのは、ほんの十年くらい前よ。それに比べて、コルセア王国は二十年も前には今の体勢になっていたわ。それに国力も大きく違うしね」
「鉱石や宝石はセレンディアが欲しがるものだし、潤沢な食料はコルセア王国が求めているもの。そして二つとも揃っているのが、フェルゴート王国だって聞いたことがある」
「あそこはもう別格ね。なにせ一〇〇〇年前から存在していた、伝統ある国だから」
「マールもフェルゴートに行ったことがあるのかな?」
「…………」
「ユーリエ?」
「さあね!」
なんか、急に機嫌が悪くなった。
ユーリエって、本当にわからない……。
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