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第一章:言えない想い
海斗の想い
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はーちゃん、今週も可愛かったと思いながら、最寄駅に到着した電車を降りた。
日曜日の夜、帰宅する俺の手にはまだ体温が残っているような気がした。金曜日の夜から泊まり込んで日曜日の夜まで一緒に過ごしてきた。
はーちゃんの笑顔や甘い匂い、柔らかい肌の感触が脳裏に焼き付いていて、まだ名残惜しさが胸に残っている。
(第一志望の大学に受かったし、もう同棲してもいいのになあ)
はーちゃんは律儀に大学生になるまで同棲を許してくれそうにない。
「ちゃんと大学生になってから」とはーちゃんは真面目な顔で言って、俺がどんなに頼んでも首を縦に振ってくれない。
はーちゃんは一見、気が弱そうに見えるのに、意外と自分の意見を曲げないところがある。しかも、おかしな方向に勘違いして、一人で決めてしまうから厄介だ。
番同士になったのだから俺としてはずっと一緒にいたい。離れている時間が惜しくて仕方がない。週末だけの逢瀬では足りなくて、平日も会いたいのに、はーちゃんはそれを良しとはしてくれなかった。
(夏休みみたいな生活がしたいなあ)
朝、一緒に起きてご飯を食べて、はーちゃんを見送る。夜、はーちゃんが帰ってきたら、夕飯を一緒に食べて――お風呂を出たらベッドでいちゃいちゃする。
(はーちゃんと、くっついてたい)
俺がアルファだとわかったのは中学二年生の時だ。あの時から何度もはーちゃんがオメガだったらいいと思っていた。
まだ幼かった俺には性別なんて関係なくてただはーちゃんが好きだったが、アルファだと判明した瞬間に「はーちゃんがオメガだったら番になれる」という希望が生まれた。
たとえベータやアルファだったとしても恋人になれるように努力しようと決めていたが、オメガだったら番同士になって一生一緒にいられるという可能性に胸が高鳴った。
はーちゃんが大学二年生の時に、ヒートで苦しむ姿を見て初めてオメガだと知った。ベータだとずっと隠されていたのはショックだったけど、番同士になれると喜んだ。
やっとその想いが通じて今こうして結ばれて、番になって俺は幸せだ。首筋にあるはーちゃんの咬み痕を思い出すと、俺のものだという実感が湧いて胸が熱くなった。
最寄駅の改札を出ると「海斗」と呼ばれて、顔をあげると父親が立っていた。十一月の夜は冷え込んでいて、父親の吐く息が白く見えた。
「親父? どうしたの?」
「悠斗が迎えに行けって」
「母さんが?」
父親に問い返すと、父親の視線が宙を彷徨った。街灯の光が父親の顔を照らしていて、少し困ったような表情をしているのが見えた。
「……怒らせたの?」
(ああ、俺がいないからって羽目を外し過ぎて、俺を理由に家から追い出されたパターンだ)
週末に俺が家を空けると、両親は新婚みたいにいちゃいちゃするのが常で、母さんが「海斗が帰ってくるから迎えに行って」と言うのは父親がやり過ぎた時の決まり文句だった。
「今更、兄弟ができても……困るんだけど」
駅を後にして家に向かって二人で歩き出すと、父親が首を横に振った。住宅街の静かな道を歩きながら、街灯の明かりだけが頼りで、時々車のライトが通り過ぎていく。
「できないよ」
「可能性はあるだろ。首筋にキスマークあるけど?」
父親の首元を見ると、シャツの襟から赤い痕が覗いていた。父親が顔を赤くしてパッと赤い痕を手で隠すと、俺は小さくため息をついた。
「お前には言ってなかったけど、悠斗……もう子どもができない身体なんだ」
「――え? それってさ、俺が小学生のとき?」
思わず立ち止まって父親を見つめると、父親がフッと微笑んで「覚えてるのか」とぼそっと呟いた。冷たい風が頬を撫でて、落ち葉が足元を転がっていく音が聞こえた。
「後にも先にも、母さんが怒鳴って怒ったのってその時だけじゃん。俺、かなりびびったんだから」
「実は俺も――」
父親が苦笑いをする姿を見て、夜な夜な二人がよく言い合いしていたのを思い出した。二人は子どもが寝た後に話し合いをしているつもりだったのだろうが、俺には怒鳴りあって喧嘩しているようにしか見えなかった。
両親が離婚してこの地から離れていくんだろうなって子ども心に不安だった。両親が別れる恐怖もあったがはーちゃんとお隣同士じゃなくなるのが嫌だったのを覚えている。
「よくあれから、夫婦仲を盛り返したよな」
「あれなあ。俺が泣きついたの」
「――だろうね」
俺は呆れながら言った。母さんはいつでも冷静で自分の気持ちをあまり表に出さない人だ。逆に父親は母さんが好きなことを隠しもしないし家族を優先に生きている。父親の母さんへの愛情は誰の目にも明らかで、母さんの機嫌を損ねると子犬のように落ち込む父親の姿を何度も見てきた。
「海斗は、遥くんを大事にしろよ」
「当たり前! 俺ははーちゃんがいないと生きていけないから」
父親が口元を緩めて微笑んだ。街灯の光が父親の顔を照らして、優しい表情が浮かび上がる。多分、俺は父親にそっくりだ。
相手に一途で、原動力のキーになるのが好きな人の笑顔だった。父親が母さんのために生きているように、俺ははーちゃんのために生きていたい。
「親父たちも学生結婚だったんだろ? どうだった?」
「楽しかったよ」
「――そういうことじゃなくて」
俺が眉をひそめると、父親は少し考え込むような表情をして立ち止まった。家まであと少しという距離で、父親は夜空を見上げた。
「俺はとくに辛いことはなかったけど……悠斗は辛かったかもしれないね。母さんに聞いてみな? どういうところに気をつけておくべきか。俺は母さんと一緒にいられるって喜びすぎて、母さんの苦悩に寄り添えなくて、離婚されそうになったから。そこは回避しないと!」
「そうする」
父親の真剣な表情を見て、俺は頷いた。
◇◇◇
「おかえり、海斗」
玄関で母さんが出迎えてくれて、ふわっと香ってくる風呂上がりの匂いに、「ああ……」と土日の親の行動がわかってしまった。シャンプーの香りと石鹸の香りが混ざり合って、母さんの黒髪がまだ少し湿っている。
はーちゃんと俺がしていたことを、両親も楽しんだのだろう。学生結婚して俺を産んだ二人はまだ若い。母さんは三十七歳で父親は三十九歳だった。
俺が小学生の頃だと思うが、もしかしたら記憶が曖昧で幼稚園頃かもしれないが、夫婦仲は最悪だった。
何度も母さんが父親に離婚届を突きつけていたシーンの記憶の断片が残っていて、母さんの冷たい声と父親の必死な声が今でも耳に残っている。
あの頃の家の雰囲気は重苦しくて、子どもながらに息苦しさを感じていた。
「悠斗、もうお風呂に入ったのか。俺も入ってこよう」
父親はにこにこと嬉しそうに笑いながら浴室へと向かっていく。母さんの匂いが残っているお風呂に入りたいのだろうと思うと、俺は少し呆れた気持ちになった。
母さんも同じように思ったのか、呆れた顔で親父の背中を見送っていて、小さくため息をついている。
「海斗はお風呂どうする?」
「ああ、俺ははーちゃんのとこで入ったし、大丈夫」
「そう」
母さんの声が少し柔らかくなって、俺を優しく見つめた。俺は母さんと一緒にリビングに行って、俺がソファに座ると母さんはキッチンに立った。冷蔵庫を開けて麦茶を取り出し、グラスに注いで俺の前に置いてくれる。
「ねえ、母さん。学生結婚で大変だったことってなに?」
「海斗、結婚するの?」
母さんが少し驚いた顔をして、グラスを持つ手が止まった。
「いや、わかんないけど。番同士になったし、同棲する時点でもう……そういうことかなって。気をつけるべきことは、母さんに聞けって親父に言われた」
「拓海が?」
「親父はなにも辛くなかったって。辛い思いをしたのは母さんのほうだからって」
「――嘘つき」
母さんがぼそっと呟いてため息をついた。一瞬だけ暗い表情になって目を伏せるがすぐに笑顔を貼り付けて感情を隠した。
「大変だったのはお父さんのほう。僕はずっと拓海に守られてきたから」
にっこりと微笑む母さんの顔はなんだか寂しそうに見えて、目の奥に影があった。
(夫婦で想い合うのはいいけど……)
俺はどう答えを出せばいいんだろうか。どちらも相手を思いやるあまり、自分の辛さを隠している。
「海斗のその顔……拓海にそっくり」
眉間に皺を寄せて考え込む俺の表情を見て、母さんが笑った。優しい笑い声がリビングに響いて、さっきまでの寂しげな表情が消えた。
「お互いに辛いのは相手だって言われたら、俺……どうしたらいいかわからないって」
「そうだね。遥ちゃんと納得いくまで話し合うようにして。遥ちゃんは、年上で一人で抱え込みそうだから」
母さんの言葉に、はーちゃんの顔が浮かんだ。はーちゃんは確かに一人で抱え込むタイプで、辛いことがあっても笑顔で誤魔化そうとする。俺に心配をかけたくないと思って、弱音を吐かない。
「わかった。母さんも一人で抱え込んだ? 俺が小さい時」
母さんが目を大きく開けて驚いた顔をして、グラスを置く音が響いた。
「夫婦ってね、いろいろな愛の形があると思うんだ。拓海の愛と僕が描く愛があの時は違ったから……。海斗にも怖い思いさせちゃったよね。ごめんね」
母さんが俺の隣に座って、優しく頭を撫でた。小さい頃によくしてくれた仕草で、懐かしい感覚が蘇る。
「まあ……うん。今は親父と描く愛は一緒ってこと?」
「そうだね。かなり拓海のほうが重い気がするけど」
「それは俺も思う」
「だよね」と母さんが声をたてて笑った。今が幸せならいいやと思って、俺も一緒に笑った。
「ああ、もう……はーちゃんに会いたい」
俺はソファに倒れ込んでクッションを抱きしめた。はーちゃんの温もりが恋しい。そんな俺の姿を、母さんがにっこりと微笑んで見つめていた。
日曜日の夜、帰宅する俺の手にはまだ体温が残っているような気がした。金曜日の夜から泊まり込んで日曜日の夜まで一緒に過ごしてきた。
はーちゃんの笑顔や甘い匂い、柔らかい肌の感触が脳裏に焼き付いていて、まだ名残惜しさが胸に残っている。
(第一志望の大学に受かったし、もう同棲してもいいのになあ)
はーちゃんは律儀に大学生になるまで同棲を許してくれそうにない。
「ちゃんと大学生になってから」とはーちゃんは真面目な顔で言って、俺がどんなに頼んでも首を縦に振ってくれない。
はーちゃんは一見、気が弱そうに見えるのに、意外と自分の意見を曲げないところがある。しかも、おかしな方向に勘違いして、一人で決めてしまうから厄介だ。
番同士になったのだから俺としてはずっと一緒にいたい。離れている時間が惜しくて仕方がない。週末だけの逢瀬では足りなくて、平日も会いたいのに、はーちゃんはそれを良しとはしてくれなかった。
(夏休みみたいな生活がしたいなあ)
朝、一緒に起きてご飯を食べて、はーちゃんを見送る。夜、はーちゃんが帰ってきたら、夕飯を一緒に食べて――お風呂を出たらベッドでいちゃいちゃする。
(はーちゃんと、くっついてたい)
俺がアルファだとわかったのは中学二年生の時だ。あの時から何度もはーちゃんがオメガだったらいいと思っていた。
まだ幼かった俺には性別なんて関係なくてただはーちゃんが好きだったが、アルファだと判明した瞬間に「はーちゃんがオメガだったら番になれる」という希望が生まれた。
たとえベータやアルファだったとしても恋人になれるように努力しようと決めていたが、オメガだったら番同士になって一生一緒にいられるという可能性に胸が高鳴った。
はーちゃんが大学二年生の時に、ヒートで苦しむ姿を見て初めてオメガだと知った。ベータだとずっと隠されていたのはショックだったけど、番同士になれると喜んだ。
やっとその想いが通じて今こうして結ばれて、番になって俺は幸せだ。首筋にあるはーちゃんの咬み痕を思い出すと、俺のものだという実感が湧いて胸が熱くなった。
最寄駅の改札を出ると「海斗」と呼ばれて、顔をあげると父親が立っていた。十一月の夜は冷え込んでいて、父親の吐く息が白く見えた。
「親父? どうしたの?」
「悠斗が迎えに行けって」
「母さんが?」
父親に問い返すと、父親の視線が宙を彷徨った。街灯の光が父親の顔を照らしていて、少し困ったような表情をしているのが見えた。
「……怒らせたの?」
(ああ、俺がいないからって羽目を外し過ぎて、俺を理由に家から追い出されたパターンだ)
週末に俺が家を空けると、両親は新婚みたいにいちゃいちゃするのが常で、母さんが「海斗が帰ってくるから迎えに行って」と言うのは父親がやり過ぎた時の決まり文句だった。
「今更、兄弟ができても……困るんだけど」
駅を後にして家に向かって二人で歩き出すと、父親が首を横に振った。住宅街の静かな道を歩きながら、街灯の明かりだけが頼りで、時々車のライトが通り過ぎていく。
「できないよ」
「可能性はあるだろ。首筋にキスマークあるけど?」
父親の首元を見ると、シャツの襟から赤い痕が覗いていた。父親が顔を赤くしてパッと赤い痕を手で隠すと、俺は小さくため息をついた。
「お前には言ってなかったけど、悠斗……もう子どもができない身体なんだ」
「――え? それってさ、俺が小学生のとき?」
思わず立ち止まって父親を見つめると、父親がフッと微笑んで「覚えてるのか」とぼそっと呟いた。冷たい風が頬を撫でて、落ち葉が足元を転がっていく音が聞こえた。
「後にも先にも、母さんが怒鳴って怒ったのってその時だけじゃん。俺、かなりびびったんだから」
「実は俺も――」
父親が苦笑いをする姿を見て、夜な夜な二人がよく言い合いしていたのを思い出した。二人は子どもが寝た後に話し合いをしているつもりだったのだろうが、俺には怒鳴りあって喧嘩しているようにしか見えなかった。
両親が離婚してこの地から離れていくんだろうなって子ども心に不安だった。両親が別れる恐怖もあったがはーちゃんとお隣同士じゃなくなるのが嫌だったのを覚えている。
「よくあれから、夫婦仲を盛り返したよな」
「あれなあ。俺が泣きついたの」
「――だろうね」
俺は呆れながら言った。母さんはいつでも冷静で自分の気持ちをあまり表に出さない人だ。逆に父親は母さんが好きなことを隠しもしないし家族を優先に生きている。父親の母さんへの愛情は誰の目にも明らかで、母さんの機嫌を損ねると子犬のように落ち込む父親の姿を何度も見てきた。
「海斗は、遥くんを大事にしろよ」
「当たり前! 俺ははーちゃんがいないと生きていけないから」
父親が口元を緩めて微笑んだ。街灯の光が父親の顔を照らして、優しい表情が浮かび上がる。多分、俺は父親にそっくりだ。
相手に一途で、原動力のキーになるのが好きな人の笑顔だった。父親が母さんのために生きているように、俺ははーちゃんのために生きていたい。
「親父たちも学生結婚だったんだろ? どうだった?」
「楽しかったよ」
「――そういうことじゃなくて」
俺が眉をひそめると、父親は少し考え込むような表情をして立ち止まった。家まであと少しという距離で、父親は夜空を見上げた。
「俺はとくに辛いことはなかったけど……悠斗は辛かったかもしれないね。母さんに聞いてみな? どういうところに気をつけておくべきか。俺は母さんと一緒にいられるって喜びすぎて、母さんの苦悩に寄り添えなくて、離婚されそうになったから。そこは回避しないと!」
「そうする」
父親の真剣な表情を見て、俺は頷いた。
◇◇◇
「おかえり、海斗」
玄関で母さんが出迎えてくれて、ふわっと香ってくる風呂上がりの匂いに、「ああ……」と土日の親の行動がわかってしまった。シャンプーの香りと石鹸の香りが混ざり合って、母さんの黒髪がまだ少し湿っている。
はーちゃんと俺がしていたことを、両親も楽しんだのだろう。学生結婚して俺を産んだ二人はまだ若い。母さんは三十七歳で父親は三十九歳だった。
俺が小学生の頃だと思うが、もしかしたら記憶が曖昧で幼稚園頃かもしれないが、夫婦仲は最悪だった。
何度も母さんが父親に離婚届を突きつけていたシーンの記憶の断片が残っていて、母さんの冷たい声と父親の必死な声が今でも耳に残っている。
あの頃の家の雰囲気は重苦しくて、子どもながらに息苦しさを感じていた。
「悠斗、もうお風呂に入ったのか。俺も入ってこよう」
父親はにこにこと嬉しそうに笑いながら浴室へと向かっていく。母さんの匂いが残っているお風呂に入りたいのだろうと思うと、俺は少し呆れた気持ちになった。
母さんも同じように思ったのか、呆れた顔で親父の背中を見送っていて、小さくため息をついている。
「海斗はお風呂どうする?」
「ああ、俺ははーちゃんのとこで入ったし、大丈夫」
「そう」
母さんの声が少し柔らかくなって、俺を優しく見つめた。俺は母さんと一緒にリビングに行って、俺がソファに座ると母さんはキッチンに立った。冷蔵庫を開けて麦茶を取り出し、グラスに注いで俺の前に置いてくれる。
「ねえ、母さん。学生結婚で大変だったことってなに?」
「海斗、結婚するの?」
母さんが少し驚いた顔をして、グラスを持つ手が止まった。
「いや、わかんないけど。番同士になったし、同棲する時点でもう……そういうことかなって。気をつけるべきことは、母さんに聞けって親父に言われた」
「拓海が?」
「親父はなにも辛くなかったって。辛い思いをしたのは母さんのほうだからって」
「――嘘つき」
母さんがぼそっと呟いてため息をついた。一瞬だけ暗い表情になって目を伏せるがすぐに笑顔を貼り付けて感情を隠した。
「大変だったのはお父さんのほう。僕はずっと拓海に守られてきたから」
にっこりと微笑む母さんの顔はなんだか寂しそうに見えて、目の奥に影があった。
(夫婦で想い合うのはいいけど……)
俺はどう答えを出せばいいんだろうか。どちらも相手を思いやるあまり、自分の辛さを隠している。
「海斗のその顔……拓海にそっくり」
眉間に皺を寄せて考え込む俺の表情を見て、母さんが笑った。優しい笑い声がリビングに響いて、さっきまでの寂しげな表情が消えた。
「お互いに辛いのは相手だって言われたら、俺……どうしたらいいかわからないって」
「そうだね。遥ちゃんと納得いくまで話し合うようにして。遥ちゃんは、年上で一人で抱え込みそうだから」
母さんの言葉に、はーちゃんの顔が浮かんだ。はーちゃんは確かに一人で抱え込むタイプで、辛いことがあっても笑顔で誤魔化そうとする。俺に心配をかけたくないと思って、弱音を吐かない。
「わかった。母さんも一人で抱え込んだ? 俺が小さい時」
母さんが目を大きく開けて驚いた顔をして、グラスを置く音が響いた。
「夫婦ってね、いろいろな愛の形があると思うんだ。拓海の愛と僕が描く愛があの時は違ったから……。海斗にも怖い思いさせちゃったよね。ごめんね」
母さんが俺の隣に座って、優しく頭を撫でた。小さい頃によくしてくれた仕草で、懐かしい感覚が蘇る。
「まあ……うん。今は親父と描く愛は一緒ってこと?」
「そうだね。かなり拓海のほうが重い気がするけど」
「それは俺も思う」
「だよね」と母さんが声をたてて笑った。今が幸せならいいやと思って、俺も一緒に笑った。
「ああ、もう……はーちゃんに会いたい」
俺はソファに倒れ込んでクッションを抱きしめた。はーちゃんの温もりが恋しい。そんな俺の姿を、母さんがにっこりと微笑んで見つめていた。
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