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第一章:言えない想い
遥の違和感
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予定より早くはーちゃんのアパート近くまで来たので、時間を潰そうと買い物に来た。その店で見覚えのある後ろ姿が目に入った。
「はーちゃん」
背後から声をかけると、はーちゃんが驚いたように振り返った。灰がかった茶色の瞳が大きく見開かれて、すぐに嬉しそうな笑顔になった。頬が少し赤くなって、俺を見上げている。
「海ちゃん、どうしたの?」
「早く着いたから、時間を潰しながら買い物。はーちゃんこそ、もう帰ってきてたの?」
はーちゃんは私服を着ていて、グレーのパーカーに黒いジーンズ姿だった。仕事帰りなはずなのにスーツじゃないのが不思議で、疑問に思った。午前中に仕事があると言っていたから、早く帰ってきたとしても――スーツのはず?
「海ちゃん、お昼は食べた?」
はーちゃんが話題を変えるように尋ねてきて、俺は首を横に振った。
「まだ」
「じゃあ、一緒に食べよう。冷蔵庫に何もなくて、買い出しに来たんだ」
はーちゃんが笑顔で言って、買い物かごの中を見せてくれた。野菜や卵、豆腐などが入っていて、今日の昼食の材料らしかった。
はーちゃんが俺の隣に並んで一緒に歩き始めた時、今までに嗅いだことのないアルファの匂いが鼻についた。はーちゃんから漂ってくる香りに、知らない男の匂いが混ざっている。洗練された、優秀なアルファ特有の香りだ。
「ねえ、はーちゃん。どこにいたの?」
つい嫉妬して、低い声が出てしまった。胸の奥が熱くなって、冷静でいられない。
「え?」
はーちゃんが驚いた顔で俺を見上げた。目が泳いでいて、気まずそうな表情があからさま過ぎて、苛立ちが止められなかった。
「知らないアルファの匂いがするんだけど?」
声が低くなって、はーちゃんの肩を掴んだ。はーちゃんの身体が小さく震えた。
「職場にアルファもいるし」
はーちゃんの声が震えていて、視線も定まらなかった。俯いて、俺の目を見ようとしない。嘘をついている時のはーちゃんの癖だと、すぐにわかった。
「夏に来た小者なアルファの匂いじゃない。もっと優秀で……嫌なかんじ」
夏に一度、はーちゃんを送ってきた同僚のアルファの匂いは覚えている。あの時も嫉妬で頭がおかしくなりそうだったが、今日の匂いはそれとは違った。もっと洗練されていて、力のあるアルファの匂いだった。
俺ははーちゃんの耳元に顔を近づけて、囁くように低い声で尋ねた。
「誰?」
はーちゃんがびくっと肩を震わせて、買い物かごを落としそうになった。俺が支えて、はーちゃんの手から買い物かごを受け取った。
「海ちゃん、ここじゃ……」
はーちゃんが小さな声で言って、周りを見回した。スーパーの中で他の客の視線が気になるらしく、俺から少し離れようとした。俺ははーちゃんの手首を掴んで、離さなかった。
「答えて」
「あとで話すから」
はーちゃんの声が震えていて、今にも泣きそうな顔をしていた。俺は深呼吸をして、怒りを抑えようとした。
「家に帰ったら、教えて」
◇◇◇
買い物を終えて、はーちゃんのアパートに向かった。無言で並んで歩いて、はーちゃんは俯いたまま歩いていた。重い空気が二人の間に流れていて、息苦しかった。
アパートに着いて鍵を開けて部屋に入ると、はーちゃんが買ったものをキッチンに置いた。俺は「はーちゃん、こっち」と手を掴んで、寝室へと連れていった。
「海ちゃん?」
驚くはーちゃんをベッドに押し倒して、覆い被さった。柔らかいベッドが背中に沈んで、はーちゃんの細い身体が俺の下にあった。
「――で? 俺はまだ答えを聞いてないよ。誰と会ってたの? はーちゃんに匂いがうつるようなことしたんでしょう?」
嫉妬に任せて、荒々しい口付けをした。はーちゃんの唇を奪って、舌を押し込んだ。はーちゃんが小さく呻いて、俺の肩を押した。
「仕事って嘘をついて、誰と会ったの? 本当は昨日の夜からずっと一緒にいたんじゃないの?」
頭に血が昇って、理性が飛びそうになった。はーちゃんが他のアルファと一緒にいたかもしれないと思うと、冷静でいられない。
「海ちゃん、ちょっと……」
はーちゃんが苦しそうに声を出して、俺の胸を押した。
「遥、答えて」
はーちゃんの手首を掴んだ。強く握りしめて、はーちゃんから目を離さなかった。
「海ちゃん、手……痛いから」
はーちゃんの声が震えていて、涙が溢れそうな目で俺を見上げていた。ハッとして、はーちゃんの手首から手を離した。白い皮膚が赤くなっていて、俺の指の跡が残っていた。
「病院に行ってた」
はーちゃんが小さな声で言った。
「――病院?」
予想外の言葉に、頭が真っ白になった。
「今週、具合いが悪くて。仕事が忙しかったから体調崩したみたいで……吐き気がすごいから、薬をもらいにいってきただけ。たぶんそこの先生がアルファだったから」
はーちゃんの顔色を見ると、たしかに青白かった。頬も痩けていて、先週よりも身体の線が細くなっている。目の下にクマができていて、疲れた表情をしていた。
俺ははーちゃんの上からどいて、ベッドの横に座った。
「ごめん」
慌てて謝って、はーちゃんから離れた。自分が何をしたのか理解して、自己嫌悪で胸が苦しくなった。
「具合い悪いなら、俺が昼を作るから、はーちゃんは寝てて!」
はーちゃんに布団をかけて、額に手を当てた。熱はないが、身体が冷たかった。
「海ちゃん、大丈夫だから」
「大丈夫じゃない。ちゃんと休んで」
はーちゃんの頬を優しく撫でて、寝室を出ていった。リビングに戻って、深くため息をついた。
はーちゃんが仕事だと嘘をついたのは、俺に心配させないためだったはず。なのに嫉妬して、はーちゃんを傷つけそうになった。
「俺――ガキすぎる」
自分の頬を両手で叩いて、深呼吸をした。はーちゃんは具合いが悪いのに、俺は嫉妬で追い詰めてしまうなんて。最低だ。
「美味しいお粥をはーちゃんに作ろう」
キッチンに立って、はーちゃんが買ってきた材料を見た。
料理の合間、寝室を覗いた。はーちゃんは布団の中で丸くなって、目を閉じていた。寝息が聞こえて、少し安心した。
俺はそっと寝室に入って、はーちゃんの隣に座った。
「ごめん、はーちゃん」
小さく囁いて、はーちゃんの額にキスをした。はーちゃんが小さく身じろぎをして、俺の手を掴んでくれた。
「はーちゃん」
背後から声をかけると、はーちゃんが驚いたように振り返った。灰がかった茶色の瞳が大きく見開かれて、すぐに嬉しそうな笑顔になった。頬が少し赤くなって、俺を見上げている。
「海ちゃん、どうしたの?」
「早く着いたから、時間を潰しながら買い物。はーちゃんこそ、もう帰ってきてたの?」
はーちゃんは私服を着ていて、グレーのパーカーに黒いジーンズ姿だった。仕事帰りなはずなのにスーツじゃないのが不思議で、疑問に思った。午前中に仕事があると言っていたから、早く帰ってきたとしても――スーツのはず?
「海ちゃん、お昼は食べた?」
はーちゃんが話題を変えるように尋ねてきて、俺は首を横に振った。
「まだ」
「じゃあ、一緒に食べよう。冷蔵庫に何もなくて、買い出しに来たんだ」
はーちゃんが笑顔で言って、買い物かごの中を見せてくれた。野菜や卵、豆腐などが入っていて、今日の昼食の材料らしかった。
はーちゃんが俺の隣に並んで一緒に歩き始めた時、今までに嗅いだことのないアルファの匂いが鼻についた。はーちゃんから漂ってくる香りに、知らない男の匂いが混ざっている。洗練された、優秀なアルファ特有の香りだ。
「ねえ、はーちゃん。どこにいたの?」
つい嫉妬して、低い声が出てしまった。胸の奥が熱くなって、冷静でいられない。
「え?」
はーちゃんが驚いた顔で俺を見上げた。目が泳いでいて、気まずそうな表情があからさま過ぎて、苛立ちが止められなかった。
「知らないアルファの匂いがするんだけど?」
声が低くなって、はーちゃんの肩を掴んだ。はーちゃんの身体が小さく震えた。
「職場にアルファもいるし」
はーちゃんの声が震えていて、視線も定まらなかった。俯いて、俺の目を見ようとしない。嘘をついている時のはーちゃんの癖だと、すぐにわかった。
「夏に来た小者なアルファの匂いじゃない。もっと優秀で……嫌なかんじ」
夏に一度、はーちゃんを送ってきた同僚のアルファの匂いは覚えている。あの時も嫉妬で頭がおかしくなりそうだったが、今日の匂いはそれとは違った。もっと洗練されていて、力のあるアルファの匂いだった。
俺ははーちゃんの耳元に顔を近づけて、囁くように低い声で尋ねた。
「誰?」
はーちゃんがびくっと肩を震わせて、買い物かごを落としそうになった。俺が支えて、はーちゃんの手から買い物かごを受け取った。
「海ちゃん、ここじゃ……」
はーちゃんが小さな声で言って、周りを見回した。スーパーの中で他の客の視線が気になるらしく、俺から少し離れようとした。俺ははーちゃんの手首を掴んで、離さなかった。
「答えて」
「あとで話すから」
はーちゃんの声が震えていて、今にも泣きそうな顔をしていた。俺は深呼吸をして、怒りを抑えようとした。
「家に帰ったら、教えて」
◇◇◇
買い物を終えて、はーちゃんのアパートに向かった。無言で並んで歩いて、はーちゃんは俯いたまま歩いていた。重い空気が二人の間に流れていて、息苦しかった。
アパートに着いて鍵を開けて部屋に入ると、はーちゃんが買ったものをキッチンに置いた。俺は「はーちゃん、こっち」と手を掴んで、寝室へと連れていった。
「海ちゃん?」
驚くはーちゃんをベッドに押し倒して、覆い被さった。柔らかいベッドが背中に沈んで、はーちゃんの細い身体が俺の下にあった。
「――で? 俺はまだ答えを聞いてないよ。誰と会ってたの? はーちゃんに匂いがうつるようなことしたんでしょう?」
嫉妬に任せて、荒々しい口付けをした。はーちゃんの唇を奪って、舌を押し込んだ。はーちゃんが小さく呻いて、俺の肩を押した。
「仕事って嘘をついて、誰と会ったの? 本当は昨日の夜からずっと一緒にいたんじゃないの?」
頭に血が昇って、理性が飛びそうになった。はーちゃんが他のアルファと一緒にいたかもしれないと思うと、冷静でいられない。
「海ちゃん、ちょっと……」
はーちゃんが苦しそうに声を出して、俺の胸を押した。
「遥、答えて」
はーちゃんの手首を掴んだ。強く握りしめて、はーちゃんから目を離さなかった。
「海ちゃん、手……痛いから」
はーちゃんの声が震えていて、涙が溢れそうな目で俺を見上げていた。ハッとして、はーちゃんの手首から手を離した。白い皮膚が赤くなっていて、俺の指の跡が残っていた。
「病院に行ってた」
はーちゃんが小さな声で言った。
「――病院?」
予想外の言葉に、頭が真っ白になった。
「今週、具合いが悪くて。仕事が忙しかったから体調崩したみたいで……吐き気がすごいから、薬をもらいにいってきただけ。たぶんそこの先生がアルファだったから」
はーちゃんの顔色を見ると、たしかに青白かった。頬も痩けていて、先週よりも身体の線が細くなっている。目の下にクマができていて、疲れた表情をしていた。
俺ははーちゃんの上からどいて、ベッドの横に座った。
「ごめん」
慌てて謝って、はーちゃんから離れた。自分が何をしたのか理解して、自己嫌悪で胸が苦しくなった。
「具合い悪いなら、俺が昼を作るから、はーちゃんは寝てて!」
はーちゃんに布団をかけて、額に手を当てた。熱はないが、身体が冷たかった。
「海ちゃん、大丈夫だから」
「大丈夫じゃない。ちゃんと休んで」
はーちゃんの頬を優しく撫でて、寝室を出ていった。リビングに戻って、深くため息をついた。
はーちゃんが仕事だと嘘をついたのは、俺に心配させないためだったはず。なのに嫉妬して、はーちゃんを傷つけそうになった。
「俺――ガキすぎる」
自分の頬を両手で叩いて、深呼吸をした。はーちゃんは具合いが悪いのに、俺は嫉妬で追い詰めてしまうなんて。最低だ。
「美味しいお粥をはーちゃんに作ろう」
キッチンに立って、はーちゃんが買ってきた材料を見た。
料理の合間、寝室を覗いた。はーちゃんは布団の中で丸くなって、目を閉じていた。寝息が聞こえて、少し安心した。
俺はそっと寝室に入って、はーちゃんの隣に座った。
「ごめん、はーちゃん」
小さく囁いて、はーちゃんの額にキスをした。はーちゃんが小さく身じろぎをして、俺の手を掴んでくれた。
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