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第一章:出会いと告白
高校時代・憧れの先輩
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桜の花びらが舞い散る入学式の日、僕は新しい制服に袖を通し、緊張で固くなった肩を何度もほぐしながら校門をくぐった。
真新しい革靴が硬くて足に食い込み、少し痛かったのを覚えている。校舎は想像していたよりも大きく、廊下を歩く先輩たちの姿が眩しく見えた。
入学式が終わり、教室に案内され、担任の先生の話を聞きながらも、窓の外に見える桜の木と、その下を歩く上級生たちの姿ばかりが目に入ってきた。
部活動見学が始まったのは、入学から一週間が過ぎた頃だった。僕は中学時代にバスケットボールの試合を見るのが好きで、高校でも何か関わりたいと思い体育館へと足を運んだ。
オメガである僕がアルファが衝突し合うような輪の中には到底入れない。逆に足を引っ張ってしまうのはわかりきっている。
選手としてではなくマネージャーとして部活に貢献したいと思った。体育館の扉を開けると、ボールが床を弾む音と、生徒たちの掛け声が響いていた。見学者用の椅子に座り、練習の様子を眺めていると、コートの中央で指示を出している先輩の姿が目に留まった。
その先輩は、他の部員よりも頭一つ分背が高く、黒髪を短く整えていた。声がよく通り、的確な指示を出しながらボールを操る姿は、無駄な動きが一切なく洗練されていた。
シュートを決めるたびにチームメイトが歓声を上げ、彼は照れたように笑いながら頭を掻いていた。汗で額に張り付いた髪を手で払う仕草が、妙に大人びて見えた。
「あの人、誰ですか」
隣に座っていた同級生に尋ねると、相手は目を丸くして僕を見た。
「知らないの? 藤堂拓海先輩だよ。三年生のエースで、去年の大会で全国ベスト8まで行ったんだ」
藤堂拓海。名前を聞いた瞬間、胸の奥で何かが動いた気がした。
練習が終わり、部員たちが一列に並んで礼をする姿を見届けてから、僕は体育館を後にした。帰り道、拓海先輩の名前が頭の中で何度も繰り返され、自分でも不思議に思いながら家路についた。
翌日から、僕は意識的に拓海先輩の姿を探すようになっていた。朝、校門をくぐる時、廊下を歩く時、昼休みに購買へ向かう時、いつも視線が自然と周囲を彷徨い、彼の姿を探していた。
拓海先輩を見かけると、胸が高鳴り、足が止まってしまう。遠くから眺めるだけで満足していたはずなのに、日を追うごとに、もっと近くで見たい、声を聞きたいと思うようになっていた。
バスケットボール部のマネージャーとして入部した僕は、週に五日ある練習日を心待ちにするようになった。
マネージャーの仕事は、タオルや飲み物の準備、ボールの空気圧チェック、得点板の操作、練習メニューの記録など多岐にわたっていた。先輩マネージャーに教わりながら一つ一つ覚えていく日々の中で、僕は常に拓海先輩の姿を目で追っていた。
パスの出し方、シュートフォーム、ディフェンスの動き、すべてが教科書のように正確で美しかった。試合形式の練習になると、拓海先輩は圧倒的な存在感を放ち、コート上を支配していた。ボールを持つと周囲の空気が変わり、相手チームが一斉に警戒する様子が見て取れた。
ある日の練習後、僕が得点板を片付けていると、背後から声がかけられた。
「いつもありがとう。助かってるよ」
振り返ると、拓海先輩が立っていた。近くで見る拓海先輩は、想像していたよりもずっと大きく、僕を見下ろす瞳は優しい光を宿していた。
「あ、いえ……マネージャーの仕事ですから」
声が震えてしまい、顔が熱くなった。拓海先輩は僕が持っていた得点板を手に取り、「重いだろ、持つよ」と言って倉庫まで運んでくれた。
本来マネージャーがやるべき仕事を手伝ってもらい、申し訳なさと嬉しさが入り混じった複雑な気持ちになった。
「無理しないでね。何かあったらいつでも言って」
拓海先輩が笑顔で言ってくれて、胸の奥が熱くなった。
それから僕は、マネージャーの仕事を通じて拓海先輩と関わる機会が増えていった。
練習中に「タオル」と声をかけられて手渡す時、「ありがとう」と笑顔を向けられると、心臓が早鐘を打った。
給水タイムに飲み物を配る時、拓海先輩が「悠斗の入れた麦茶、美味しいな」と言ってくれたことがあり、その日は一日中幸せな気持ちだった。
ある日の練習後、拓海先輩が足首を捻ったことがあった。軽い捻挫だったが、僕は保健室まで付き添い、湿布を貼る手伝いをした。拓海先輩の足首に触れながら、丁寧に湿布を巻いていく。体温が手のひらから伝わってきて、顔が熱くなるのを必死で抑えた。
「ごめんな、手間かけて」
「いえ、大丈夫です。痛みますか」
「全然。悠斗が処置してくれたから、痛みが消えた」
拓海先輩の言葉に、胸が締め付けられた。
(優しい――)
この恋心を友人に相談することもできなかった。
同級生たちは、女子生徒の話題で盛り上がり、誰が可愛いか、誰に告白されたかという話ばかりしていた。僕がオメガで男子の先輩に憧れているなんて、口が裂けても言えない。言葉にした瞬間、すべてが壊れてしまう気がした。
高校一年の秋、文化祭の準備で遅くまで学校に残っていた時、廊下で拓海先輩と二人きりになったことがあった。
夕日が窓から差し込み、廊下をオレンジ色に染めていた。拓海先輩は窓際に立ち、外を眺めていた。僕は声をかけようとして、何度も口を開いては閉じた。
「悠斗」
突然、名前を呼ばれて心臓が跳ね上がった。拓海先輩が僕の方を向き、穏やかな笑みを浮かべていた。
「いつもマネージャーの仕事、ありがとう。おかげで練習に集中できてる」
「そんな……僕は当たり前のことをしているだけです」
「当たり前じゃないよ。悠斗がいるから、みんな頑張れてるんだ」
拓海先輩の言葉が、胸に沁みた。認めてもらえている。必要とされているのが嬉しかった。
「これからもよろしく」
拓海先輩が頭を軽く撫でてくれて、僕は頷くことしかできなかった。
年が明け、三学期が始まると、拓海先輩は受験勉強で忙しくなり、部活に顔を出す回数が減っていった。たまに練習に来ても、すぐに帰ってしまう日が続いた。会えない日が続くと胸が締め付けられるように苦しかった。
マネージャー室で一人、拓海先輩が使ったタオルを畳みながら、ため息をつく日が増えていった。
高校一年の終わりが近づいた頃、僕は図書室で部活のスコア表を作成していた時、偶然拓海先輩を見かけた。窓際の席で、ノートに何かを書き込んでいる横顔が、夕日に照らされて神々しく見えた。
近づいて声をかけたかったが、勉強の邪魔をしてはいけないと思い、遠くから眺めることしかできなかった。拓海先輩がペンを走らせる音、ページをめくる音、小さく息を吐く音、すべてが愛しくて、いつまでもその場に立ち尽くしていた。
図書室を出ようとした時、後ろから声がかけられた。
「悠斗、マネージャーの仕事?」
振り返ると、拓海先輩が笑顔で立っていた。
「あ、はい……スコア表を作っていて」
「マネージャーも大変だよな。分からないところがあったら、いつでも聞いて」
「ありがとうございます」
拓海先輩は僕の頭を軽く撫でると、「じゃあな」と言って図書室を出ていった。頭に残る温もりを確かめるように、僕は手を当てた。優しい声も、温かい手のひらも、愛おしくて、胸が苦しかった。
冬が深まり、受験シーズンが本格化すると、拓海先輩の姿を見かける機会はさらに減っていった。廊下ですれ違っても、急いでいるのか足早に通り過ぎていくことが多くなった。僕は遠くからその背中を見送りながら、話しかけることもできずにただ立ち尽くしていた。
ある寒い日の放課後、僕は一人でマネージャー室に残って部員たちのタオルを洗濯していた。洗濯機が回る音だけが静かな部屋に響き、窓の外では雪が降り始めていた。ふと、拓海先輩が使っていたタオルを手に取り、顔を埋めた。拓海先輩の匂いが、かすかに残っている気がした。
体育館から人の気配がして、様子を見に行くと、拓海先輩が一人でシュート練習をしていた。久しぶりに見る拓海先輩の姿に、胸が高鳴った。
「拓海先輩……受験勉強は」
「ちょっと息抜き。久しぶりにボール触りたくなって」
拓海先輩は汗を拭いながら、僕に笑いかけた。
「タオル、使いますか」
慌てて持っていたタオルを差し出すと、拓海先輩は「ありがとう」と受け取り、顔を拭った。
「悠斗も大変だな。こんな寒い日に洗濯して」
「いえ、マネージャーの仕事ですから」
「いつも本当にありがとう」
拓海先輩が優しく言ってくれて、涙が出そうになった。好きだと言いたかった。でも言う結城がなかった。マネージャーと選手という立場、先輩と後輩という壁が、あまりにも高く感じられた。
「そろそろ戻るわ。受験まであと少しだからな」
拓海先輩がタオルを返そうとした時、僕は思わず声をかけていた。
「先輩、受験……頑張ってください」
拓海先輩が振り返り、優しく笑った。
「ありがとう。悠斗も、マネージャー頑張れよ」
体育館の扉が閉まり、拓海先輩の足音が遠ざかっていく。僕は受け取ったタオルを抱きしめた。拓海先輩の体温が、まだかすかに残っている。もうすぐ卒業してしまう。会えなくなる。話せなくなる。
(先輩と離れるの――嫌だな)
マネージャー室に戻り、洗濯機から取り出したタオルを一枚一枚丁寧に畳みながら、僕はただ涙をこらえ続けていた。外は雪が降り続いていて、窓の向こうで白い粒が舞い落ちていくのが見えた。
真新しい革靴が硬くて足に食い込み、少し痛かったのを覚えている。校舎は想像していたよりも大きく、廊下を歩く先輩たちの姿が眩しく見えた。
入学式が終わり、教室に案内され、担任の先生の話を聞きながらも、窓の外に見える桜の木と、その下を歩く上級生たちの姿ばかりが目に入ってきた。
部活動見学が始まったのは、入学から一週間が過ぎた頃だった。僕は中学時代にバスケットボールの試合を見るのが好きで、高校でも何か関わりたいと思い体育館へと足を運んだ。
オメガである僕がアルファが衝突し合うような輪の中には到底入れない。逆に足を引っ張ってしまうのはわかりきっている。
選手としてではなくマネージャーとして部活に貢献したいと思った。体育館の扉を開けると、ボールが床を弾む音と、生徒たちの掛け声が響いていた。見学者用の椅子に座り、練習の様子を眺めていると、コートの中央で指示を出している先輩の姿が目に留まった。
その先輩は、他の部員よりも頭一つ分背が高く、黒髪を短く整えていた。声がよく通り、的確な指示を出しながらボールを操る姿は、無駄な動きが一切なく洗練されていた。
シュートを決めるたびにチームメイトが歓声を上げ、彼は照れたように笑いながら頭を掻いていた。汗で額に張り付いた髪を手で払う仕草が、妙に大人びて見えた。
「あの人、誰ですか」
隣に座っていた同級生に尋ねると、相手は目を丸くして僕を見た。
「知らないの? 藤堂拓海先輩だよ。三年生のエースで、去年の大会で全国ベスト8まで行ったんだ」
藤堂拓海。名前を聞いた瞬間、胸の奥で何かが動いた気がした。
練習が終わり、部員たちが一列に並んで礼をする姿を見届けてから、僕は体育館を後にした。帰り道、拓海先輩の名前が頭の中で何度も繰り返され、自分でも不思議に思いながら家路についた。
翌日から、僕は意識的に拓海先輩の姿を探すようになっていた。朝、校門をくぐる時、廊下を歩く時、昼休みに購買へ向かう時、いつも視線が自然と周囲を彷徨い、彼の姿を探していた。
拓海先輩を見かけると、胸が高鳴り、足が止まってしまう。遠くから眺めるだけで満足していたはずなのに、日を追うごとに、もっと近くで見たい、声を聞きたいと思うようになっていた。
バスケットボール部のマネージャーとして入部した僕は、週に五日ある練習日を心待ちにするようになった。
マネージャーの仕事は、タオルや飲み物の準備、ボールの空気圧チェック、得点板の操作、練習メニューの記録など多岐にわたっていた。先輩マネージャーに教わりながら一つ一つ覚えていく日々の中で、僕は常に拓海先輩の姿を目で追っていた。
パスの出し方、シュートフォーム、ディフェンスの動き、すべてが教科書のように正確で美しかった。試合形式の練習になると、拓海先輩は圧倒的な存在感を放ち、コート上を支配していた。ボールを持つと周囲の空気が変わり、相手チームが一斉に警戒する様子が見て取れた。
ある日の練習後、僕が得点板を片付けていると、背後から声がかけられた。
「いつもありがとう。助かってるよ」
振り返ると、拓海先輩が立っていた。近くで見る拓海先輩は、想像していたよりもずっと大きく、僕を見下ろす瞳は優しい光を宿していた。
「あ、いえ……マネージャーの仕事ですから」
声が震えてしまい、顔が熱くなった。拓海先輩は僕が持っていた得点板を手に取り、「重いだろ、持つよ」と言って倉庫まで運んでくれた。
本来マネージャーがやるべき仕事を手伝ってもらい、申し訳なさと嬉しさが入り混じった複雑な気持ちになった。
「無理しないでね。何かあったらいつでも言って」
拓海先輩が笑顔で言ってくれて、胸の奥が熱くなった。
それから僕は、マネージャーの仕事を通じて拓海先輩と関わる機会が増えていった。
練習中に「タオル」と声をかけられて手渡す時、「ありがとう」と笑顔を向けられると、心臓が早鐘を打った。
給水タイムに飲み物を配る時、拓海先輩が「悠斗の入れた麦茶、美味しいな」と言ってくれたことがあり、その日は一日中幸せな気持ちだった。
ある日の練習後、拓海先輩が足首を捻ったことがあった。軽い捻挫だったが、僕は保健室まで付き添い、湿布を貼る手伝いをした。拓海先輩の足首に触れながら、丁寧に湿布を巻いていく。体温が手のひらから伝わってきて、顔が熱くなるのを必死で抑えた。
「ごめんな、手間かけて」
「いえ、大丈夫です。痛みますか」
「全然。悠斗が処置してくれたから、痛みが消えた」
拓海先輩の言葉に、胸が締め付けられた。
(優しい――)
この恋心を友人に相談することもできなかった。
同級生たちは、女子生徒の話題で盛り上がり、誰が可愛いか、誰に告白されたかという話ばかりしていた。僕がオメガで男子の先輩に憧れているなんて、口が裂けても言えない。言葉にした瞬間、すべてが壊れてしまう気がした。
高校一年の秋、文化祭の準備で遅くまで学校に残っていた時、廊下で拓海先輩と二人きりになったことがあった。
夕日が窓から差し込み、廊下をオレンジ色に染めていた。拓海先輩は窓際に立ち、外を眺めていた。僕は声をかけようとして、何度も口を開いては閉じた。
「悠斗」
突然、名前を呼ばれて心臓が跳ね上がった。拓海先輩が僕の方を向き、穏やかな笑みを浮かべていた。
「いつもマネージャーの仕事、ありがとう。おかげで練習に集中できてる」
「そんな……僕は当たり前のことをしているだけです」
「当たり前じゃないよ。悠斗がいるから、みんな頑張れてるんだ」
拓海先輩の言葉が、胸に沁みた。認めてもらえている。必要とされているのが嬉しかった。
「これからもよろしく」
拓海先輩が頭を軽く撫でてくれて、僕は頷くことしかできなかった。
年が明け、三学期が始まると、拓海先輩は受験勉強で忙しくなり、部活に顔を出す回数が減っていった。たまに練習に来ても、すぐに帰ってしまう日が続いた。会えない日が続くと胸が締め付けられるように苦しかった。
マネージャー室で一人、拓海先輩が使ったタオルを畳みながら、ため息をつく日が増えていった。
高校一年の終わりが近づいた頃、僕は図書室で部活のスコア表を作成していた時、偶然拓海先輩を見かけた。窓際の席で、ノートに何かを書き込んでいる横顔が、夕日に照らされて神々しく見えた。
近づいて声をかけたかったが、勉強の邪魔をしてはいけないと思い、遠くから眺めることしかできなかった。拓海先輩がペンを走らせる音、ページをめくる音、小さく息を吐く音、すべてが愛しくて、いつまでもその場に立ち尽くしていた。
図書室を出ようとした時、後ろから声がかけられた。
「悠斗、マネージャーの仕事?」
振り返ると、拓海先輩が笑顔で立っていた。
「あ、はい……スコア表を作っていて」
「マネージャーも大変だよな。分からないところがあったら、いつでも聞いて」
「ありがとうございます」
拓海先輩は僕の頭を軽く撫でると、「じゃあな」と言って図書室を出ていった。頭に残る温もりを確かめるように、僕は手を当てた。優しい声も、温かい手のひらも、愛おしくて、胸が苦しかった。
冬が深まり、受験シーズンが本格化すると、拓海先輩の姿を見かける機会はさらに減っていった。廊下ですれ違っても、急いでいるのか足早に通り過ぎていくことが多くなった。僕は遠くからその背中を見送りながら、話しかけることもできずにただ立ち尽くしていた。
ある寒い日の放課後、僕は一人でマネージャー室に残って部員たちのタオルを洗濯していた。洗濯機が回る音だけが静かな部屋に響き、窓の外では雪が降り始めていた。ふと、拓海先輩が使っていたタオルを手に取り、顔を埋めた。拓海先輩の匂いが、かすかに残っている気がした。
体育館から人の気配がして、様子を見に行くと、拓海先輩が一人でシュート練習をしていた。久しぶりに見る拓海先輩の姿に、胸が高鳴った。
「拓海先輩……受験勉強は」
「ちょっと息抜き。久しぶりにボール触りたくなって」
拓海先輩は汗を拭いながら、僕に笑いかけた。
「タオル、使いますか」
慌てて持っていたタオルを差し出すと、拓海先輩は「ありがとう」と受け取り、顔を拭った。
「悠斗も大変だな。こんな寒い日に洗濯して」
「いえ、マネージャーの仕事ですから」
「いつも本当にありがとう」
拓海先輩が優しく言ってくれて、涙が出そうになった。好きだと言いたかった。でも言う結城がなかった。マネージャーと選手という立場、先輩と後輩という壁が、あまりにも高く感じられた。
「そろそろ戻るわ。受験まであと少しだからな」
拓海先輩がタオルを返そうとした時、僕は思わず声をかけていた。
「先輩、受験……頑張ってください」
拓海先輩が振り返り、優しく笑った。
「ありがとう。悠斗も、マネージャー頑張れよ」
体育館の扉が閉まり、拓海先輩の足音が遠ざかっていく。僕は受け取ったタオルを抱きしめた。拓海先輩の体温が、まだかすかに残っている。もうすぐ卒業してしまう。会えなくなる。話せなくなる。
(先輩と離れるの――嫌だな)
マネージャー室に戻り、洗濯機から取り出したタオルを一枚一枚丁寧に畳みながら、僕はただ涙をこらえ続けていた。外は雪が降り続いていて、窓の向こうで白い粒が舞い落ちていくのが見えた。
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