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第五章:覚悟と告白
拓海の決断
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会社のエレベーターに乗り込み、最上階のボタンを押した。鏡に映る自分の顔は疲れ果てていて、目の下には濃いクマができていた。昨夜も悠斗と背中合わせで眠り、朝になっても何も変わらなかった。
このままではいけない。悠斗に無理をさせている。
海斗の前では笑顔を作り、仲良し家族を演じ続ける悠斗の姿を見るたびに、胸が張り裂けそうになった。悠斗は俺を愛してくれている。それは、わかっている。番になった後も、悠斗の目に宿る愛情を感じ取ることができた。
それなのに、悠斗は僕から離れようとする。離婚したいと言い続ける。
一緒にいたいという俺の思いが、悠斗を苦しめているのなら、俺はもう離れるしかないのかもしれない。
エレベーターが最上階に着き、ドアが開いた。父の秘書が「お待ちしておりました」と頭を下げ、社長室へと案内してくれた。
重厚なドアを開けると、父が窓際に立っていた。街を見下ろしている後ろ姿は、いつも通り堂々としていた。
「父さん」
声をかけると、父が振り返った。
「拓海か。どうした、急に呼び出して」
父が椅子に座るよう促し、俺も向かいの椅子に腰を下ろした。深呼吸をして、覚悟を決めた。
最後に、一つだけ試したいことがある。
悠斗はいつも、「社長の息子だから」とか「後継者」というワードを何度も口にしていた。会社の人たちの期待に応えられない、親戚たちの視線が辛い、もっと相応しい配偶者がいるはずだと。
それなら、そうじゃない俺になれば、悠斗の考えも変わってくれるかもしれない。
「父さん、俺、会社を辞めたい」
言葉を口にすると、父が目を見開いた。
「何を言っているんだ」
「悠斗のネックが、社長の息子である俺なら。俺が後継者じゃなくなれば、悠斗の重荷が軽くなるかもしれない」
父が椅子に深く座り直し、腕を組んだ。
「悠斗さんと、何かあったのか」
父の鋭い視線に、俺は頷いた。
「離婚したいって言われてる。悠斗は、俺が社長の息子だから、ちゃんと子供を産める相手と番になるべきだって。海斗一人じゃ、周りが許さないって」
声が震えて、拳を握りしめた。
「俺は悠斗と離婚したくない。悠斗と海斗がいれば、それで充分なんだ。社長の座も、会社も、全部いらない」
父がため息をついた。
「この前、家に行ったときに、なんとなく二人の雰囲気から仲がこじれているなとは感じていた」
父の言葉に、俺は顔を上げた。
「ごめん。一人息子なのに、後を継げなくて。でも、俺には悠斗と海斗のほうが大事なんだ」
涙が溢れそうになって、必死で堪えた。
父が立ち上がり、窓際に歩いていった。
「お母さんがお前を産んだときに話したんだ。子どものしたいようにさせようって。その中で、仕事を引き継ぎたいと言うなら、後継者として育てていけばいい。そうでないなら、別に他の誰かがこの仕事を続けていく」
父が振り返り、穏やかに微笑んだ。
「好きで始めた事業だから、この仕事を誇りに思って楽しく仕事する人に預けたい。それがお前でなくてもいいんだ」
父の言葉が、胸に染み込んできた。
「父さん……」
「お前が会社を継ぎたいと言うなら、喜んで教える。でも、お前が他にやりたいことがあるなら、それを応援する。それが、俺たち親の役目だから」
涙が溢れて、止まらなくなった。ずっと、俺は後継者にならなければいけないと思い込んでいた。父の期待に応えなければいけない、会社を継がなければいけないと。
悠斗も、きっと同じように思い込んでいたのだろう。社長の息子の配偶者として、相応しくなければいけない。周りの期待に応えなければいけないと。
「ありがとう、父さん」
俺は父に頭を下げた。
「せいぜい捨てられないようにな」
父の冗談めいた言葉に、俺は苦笑した。
「もうほぼ捨てられてる」
正直に答えると、父が目を見開いた。
「背水の陣か」
父が笑い、俺も一緒に笑った。久しぶりに、心から笑えた気がした。
「お前が幸せなら、それでいい。悠斗さんも海斗も、大切にしろよ」
「はい」
社長室を出て、エレベーターに乗り込んだ。降りていく途中、鏡に映る自分の顔を見た。さっきまでの疲れ果てた顔とは違い、少しだけ希望が見えていた。
勤務時間を終えると会社を出て、車に乗り込んだ。ハンドルを握りながら、悠斗のことを考えた。
悠斗は、俺が社長の息子だから離婚したいと言っていた。後継者だから、相応しくないと。
車を発進させ、家へと向かった。後継者じゃなくなった俺で、悠斗ともう一度、向き合いたい。
信号待ちをしながら、ふと悠斗の笑顔が浮かんだ。高校生の頃、初めて告白したときの照れた顔。大学に合格したときの嬉しそうな笑顔。
あの笑顔を、もう一度見たい。心から笑っている悠斗を、もう一度見たい。
家に着き、玄関のドアを開けた。リビングから、悠斗が料理をしている音が聞こえた。
「ただいま」
声をかけると、悠斗がキッチンから顔を出した。
「おかえりなさい」
「悠斗、海斗が寝てから話がしたい」
悠斗が驚いたように俺を見た。
「もう一度だけ、二人で話したいんだ」
悠斗が少し戸惑ったような顔をしたが、頷いてくれた。
「わかりました」
このままではいけない。悠斗に無理をさせている。
海斗の前では笑顔を作り、仲良し家族を演じ続ける悠斗の姿を見るたびに、胸が張り裂けそうになった。悠斗は俺を愛してくれている。それは、わかっている。番になった後も、悠斗の目に宿る愛情を感じ取ることができた。
それなのに、悠斗は僕から離れようとする。離婚したいと言い続ける。
一緒にいたいという俺の思いが、悠斗を苦しめているのなら、俺はもう離れるしかないのかもしれない。
エレベーターが最上階に着き、ドアが開いた。父の秘書が「お待ちしておりました」と頭を下げ、社長室へと案内してくれた。
重厚なドアを開けると、父が窓際に立っていた。街を見下ろしている後ろ姿は、いつも通り堂々としていた。
「父さん」
声をかけると、父が振り返った。
「拓海か。どうした、急に呼び出して」
父が椅子に座るよう促し、俺も向かいの椅子に腰を下ろした。深呼吸をして、覚悟を決めた。
最後に、一つだけ試したいことがある。
悠斗はいつも、「社長の息子だから」とか「後継者」というワードを何度も口にしていた。会社の人たちの期待に応えられない、親戚たちの視線が辛い、もっと相応しい配偶者がいるはずだと。
それなら、そうじゃない俺になれば、悠斗の考えも変わってくれるかもしれない。
「父さん、俺、会社を辞めたい」
言葉を口にすると、父が目を見開いた。
「何を言っているんだ」
「悠斗のネックが、社長の息子である俺なら。俺が後継者じゃなくなれば、悠斗の重荷が軽くなるかもしれない」
父が椅子に深く座り直し、腕を組んだ。
「悠斗さんと、何かあったのか」
父の鋭い視線に、俺は頷いた。
「離婚したいって言われてる。悠斗は、俺が社長の息子だから、ちゃんと子供を産める相手と番になるべきだって。海斗一人じゃ、周りが許さないって」
声が震えて、拳を握りしめた。
「俺は悠斗と離婚したくない。悠斗と海斗がいれば、それで充分なんだ。社長の座も、会社も、全部いらない」
父がため息をついた。
「この前、家に行ったときに、なんとなく二人の雰囲気から仲がこじれているなとは感じていた」
父の言葉に、俺は顔を上げた。
「ごめん。一人息子なのに、後を継げなくて。でも、俺には悠斗と海斗のほうが大事なんだ」
涙が溢れそうになって、必死で堪えた。
父が立ち上がり、窓際に歩いていった。
「お母さんがお前を産んだときに話したんだ。子どものしたいようにさせようって。その中で、仕事を引き継ぎたいと言うなら、後継者として育てていけばいい。そうでないなら、別に他の誰かがこの仕事を続けていく」
父が振り返り、穏やかに微笑んだ。
「好きで始めた事業だから、この仕事を誇りに思って楽しく仕事する人に預けたい。それがお前でなくてもいいんだ」
父の言葉が、胸に染み込んできた。
「父さん……」
「お前が会社を継ぎたいと言うなら、喜んで教える。でも、お前が他にやりたいことがあるなら、それを応援する。それが、俺たち親の役目だから」
涙が溢れて、止まらなくなった。ずっと、俺は後継者にならなければいけないと思い込んでいた。父の期待に応えなければいけない、会社を継がなければいけないと。
悠斗も、きっと同じように思い込んでいたのだろう。社長の息子の配偶者として、相応しくなければいけない。周りの期待に応えなければいけないと。
「ありがとう、父さん」
俺は父に頭を下げた。
「せいぜい捨てられないようにな」
父の冗談めいた言葉に、俺は苦笑した。
「もうほぼ捨てられてる」
正直に答えると、父が目を見開いた。
「背水の陣か」
父が笑い、俺も一緒に笑った。久しぶりに、心から笑えた気がした。
「お前が幸せなら、それでいい。悠斗さんも海斗も、大切にしろよ」
「はい」
社長室を出て、エレベーターに乗り込んだ。降りていく途中、鏡に映る自分の顔を見た。さっきまでの疲れ果てた顔とは違い、少しだけ希望が見えていた。
勤務時間を終えると会社を出て、車に乗り込んだ。ハンドルを握りながら、悠斗のことを考えた。
悠斗は、俺が社長の息子だから離婚したいと言っていた。後継者だから、相応しくないと。
車を発進させ、家へと向かった。後継者じゃなくなった俺で、悠斗ともう一度、向き合いたい。
信号待ちをしながら、ふと悠斗の笑顔が浮かんだ。高校生の頃、初めて告白したときの照れた顔。大学に合格したときの嬉しそうな笑顔。
あの笑顔を、もう一度見たい。心から笑っている悠斗を、もう一度見たい。
家に着き、玄関のドアを開けた。リビングから、悠斗が料理をしている音が聞こえた。
「ただいま」
声をかけると、悠斗がキッチンから顔を出した。
「おかえりなさい」
「悠斗、海斗が寝てから話がしたい」
悠斗が驚いたように俺を見た。
「もう一度だけ、二人で話したいんだ」
悠斗が少し戸惑ったような顔をしたが、頷いてくれた。
「わかりました」
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