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第一章:運命の交差点
混乱と逃走
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キスをされた――。
シオンに、大勢の前で、堂々と濃厚なキスをされた。唇が熱い。舌が侵入してきた感触がまだ残っている。口の中に残る蜜のような味が広がる。
何が起きているのか……脳が混乱し、思考が追いつかない。心臓が胸の中で暴れている。バクバクと音を立ていた。
周囲がざわめいている。僕と同じように、シオンの行動に思考が追いつかないのだろう。
「まさか」
「シオン様が、ユーリ様に」
恥ずかしさが込み上げてくる。顔が熱い。燃えるように熱い。
全身から汗が噴き出し、何が起きているのか分からない。思考が停止し、ただシオンに抱きしめられるがままだった。
(なんで?)
一体、何が起きているのだろう。
「し、シオン様」
家臣の声が響いた。驚愕に満ちた声。僕は現実に引き戻される。
(何が起きてるんだ――原作と違う)
頭の中で叫ぶ。原作のシオンは、ルナを選ぶ。僕を見下し、軽蔑し、男のオメガなど眼中にないはずだ。
なのに、なぜキスをした?
なぜ僕を抱きしめている?
なんでいやらしく僕を触っているんだ?
どうしてそんな熱っぽい視線で僕をみている?
強く、逃がさないように、シオンの腕が僕の腰を抱いている。
さらにシオンの琥珀の瞳が僕を見つめていた。熱に浮かされたような瞳で、渇望に満ちた視線。今まで見たことのない表情だ。
(これはこれで――まずい気がする)
僕はシオンの腕の中で、必死にもがいた。身体をねじり、腕を押す。びくともしなかった。
シオンの腕は鋼鉄のように硬く、僕の華奢な力では動かせない。人目も憚らず、今にも服を脱がされて抱かれそうで怖い。シオンの手が背中を撫で、腰に沿って下へと滑っていく。
「やめ――」
声が震える。シオンの手が臀部を掴み、僕の身体を更に引き寄せる。シオンの下腹部の硬さが僕の腹に押し付けられ、僕は目を見開いた。
逃げようともがく僕に気づいて、シオンの腕に更に力が入る。強く抱きしめられ、息が苦しくなった。肋骨が軋む音がする。
「殿下、何をしているんですか!」
家臣の声が再び響く。今度は強い口調だった。
「ルナ様がお待ちですよ」
「早く大広間へ」
シオンが僕から視線を外し、家臣たちの方を向いた。瞬間、腕の力が緩む。
(チャンスだ)
今しかない。僕は必死に身体をねじった。シオンの腕から抜け出す。全身の力を振り絞り、一歩踏み出す。
「ごめんなさい!」
叫ぶように謝り、僕は走り出した。廊下を全力疾走する。足音が響く。靴底が床を叩く音。息が荒くなり、喉が痛い。
「待て!」
後ろでシオンが叫んだ。低く、命令口調の声。背筋が凍る。足音が追いかけてくる。重く、速い足音。シオンの足音だった。
「殿下、お待ちください」
家臣の声が響く。慌てた様子の声。
「ユーリを捕まえろ」
シオンの命令が廊下に響いた。冷たく、絶対的な声。僕の心臓が跳ね上がる。このままでは簡単に捕まってしまう。
(どこかに隠れないと。やり過ごして、それから城を出る)
思考が高速で回転する。足が痛い。息が上がる。視界が滲み、涙が溢れてきた。必死に瞬きをして、前を見つめる。
今は泣いている場合じゃない。走り続けないと。
角を曲がると、廊下が続いている。窓の外に中庭が見えてきた。扉がいくつか並んでいる。僕は一番近い扉に手をかけた。重い木製の扉。資料室のようだ。押し開けて中に滑り込み、素早く扉を閉める。
暗闇が僕を包んだ。窓から差し込む月明かりだけが、部屋をぼんやりと照らしている。資料室には本棚が並び、古い書物が積まれている。埃の匂いがする。
僕は息を殺し、棚と壁の隙間に身を潜めた。華奢な身体を小さく丸める。膝を抱え、顔を埋める。
(シオンと家臣たちの気配が消えたら、別の場所に移動しよう。ずっと僕を探していることはないはず。ルナに会いに大広間に行くはずだから、その間に城から脱出すればなんとかなるはず)
即興の計画だった。穴だらけかもしれない。でも、今は考えている余裕がなかった。
足音が響く。
僕の心臓が激しく鳴り響き、呼吸を止めた。身体を更に縮める。足音が近づいてくる。
「ユーリ」
シオンの声が聞こえた。低く、甘く、優しい声だった。今まで聞いたことのない声。今までシオンは僕を蔑むような目で見ていた。
男のくせに、オメガで守られる位置にいるのを軽蔑するような視線。言葉を交わしたことさえほとんどなかった。なのに、名前を呼ぶ声は優しかった。
足音が更に近づいてくる。廊下を歩く音。ゆっくりと、探すように。
「どこにいる、ユーリ」
囁くような声。僕は呼吸を止めたまま、身を縮める。心臓の音が大きすぎる。シオンに聞こえてしまいそうだった。鼓動が耳元で響き、全身に血液が駆け巡る。
(早く通り過ぎてほしい)
足音が資料室の扉の前で止まった。
やばい。冷や汗が額に滲む。背中が汗でびっしょりになる。心臓がありえない速さで鼓動を打っていた。
(なんで僕を追いかけるんだ。さっさとルナのところに行けばいいのに。婚約者はルナで決まりなんだから)
心の中で叫ぶ。理解できなかった。原作通りならシオンはルナを選ぶ。
(なぜ僕を追いかけている?)
ぶつかったことを怒っているのだろうか。男のオメガのくせに、ぶつかって謝りもしないと激怒したのか。
そういえば僕は謝っていない。
逃げる際に思わず、「ごめんなさい」と叫んだが――あれは別に、ぶつかったことを謝ったわけではない。
血の気が下がる。顔から色が失せていくのが分かる。男のオメガに一方的にぶつかられ、謝りもしない。
嫌がらせでキスをしたのか。逃げ出そうとする僕を強く抱いて逃さないようにしたのは、謝らなかったからか。いやらしく触ったのも、嫌がらせか。
(でも、今更謝りに出ていけない。こんな状況になったら、余計に謝りにくい)
僕は心の中で強く念じた。早く立ち去ってくれ。ルナのところに行ってくれ。僕のことは忘れてくれ。
足音が遠ざかっていった。
ゆっくりと、廊下の向こうへ。シオンの気配が薄れていく。僕は耳を澄ませ、足音が完全に消えるのを待つ。静寂が戻ってきた。
(――助かった)
肩の力が抜ける。緊張が解け、身体がぐったりとする。息をゆっくりと吐き出す。深く、長く。酸素が肺に入り込み、頭がクリアになる。
(でも、これからどうしよう。一度、場所を移動して、それから警備兵の目を盗んでなんとか城外に出ないと)
僕が会場を飛び出したことで原作と全然違う展開になってる。シオンにぶつかって逃走した罪での幽閉ルートが始まってしまったのだろうか。
(どっちに転んでも幽閉じゃないか)
不安が押し寄せてくる。計画が崩れている。これではもう原作の知識が役に立たない。
僕はどうすればいい?
何をすれば幽閉を回避できる?
足音が去ったから、場所を移動しよう。僕は身体を動かそうとした。膝を伸ばし、立ち上がろうとする。棚に手をついて、身体を支える。
四つん這いになり、そっと動き出そうとした瞬間だった。
「――ユーリ」
耳元で囁かれた。
背後から、腰を強く掴まれる。引き寄せられ、強く抱きしめられた。硬い胸板が背中に押し付けられ、シオンの腕が僕の身体を包み込む。
(なんで?)
逃げられない。身動きが取れない。
「つかまえた」
「――っ!」
シオンの低く、満足げな声に僕は声にならない悲鳴を上げた。喉が詰まり、声が出ない。身体が震えだした。
(やばい――幽閉ルートの回避のはずが……)
シオンの腕の中で、僕は囚われの身となった――。
シオンに、大勢の前で、堂々と濃厚なキスをされた。唇が熱い。舌が侵入してきた感触がまだ残っている。口の中に残る蜜のような味が広がる。
何が起きているのか……脳が混乱し、思考が追いつかない。心臓が胸の中で暴れている。バクバクと音を立ていた。
周囲がざわめいている。僕と同じように、シオンの行動に思考が追いつかないのだろう。
「まさか」
「シオン様が、ユーリ様に」
恥ずかしさが込み上げてくる。顔が熱い。燃えるように熱い。
全身から汗が噴き出し、何が起きているのか分からない。思考が停止し、ただシオンに抱きしめられるがままだった。
(なんで?)
一体、何が起きているのだろう。
「し、シオン様」
家臣の声が響いた。驚愕に満ちた声。僕は現実に引き戻される。
(何が起きてるんだ――原作と違う)
頭の中で叫ぶ。原作のシオンは、ルナを選ぶ。僕を見下し、軽蔑し、男のオメガなど眼中にないはずだ。
なのに、なぜキスをした?
なぜ僕を抱きしめている?
なんでいやらしく僕を触っているんだ?
どうしてそんな熱っぽい視線で僕をみている?
強く、逃がさないように、シオンの腕が僕の腰を抱いている。
さらにシオンの琥珀の瞳が僕を見つめていた。熱に浮かされたような瞳で、渇望に満ちた視線。今まで見たことのない表情だ。
(これはこれで――まずい気がする)
僕はシオンの腕の中で、必死にもがいた。身体をねじり、腕を押す。びくともしなかった。
シオンの腕は鋼鉄のように硬く、僕の華奢な力では動かせない。人目も憚らず、今にも服を脱がされて抱かれそうで怖い。シオンの手が背中を撫で、腰に沿って下へと滑っていく。
「やめ――」
声が震える。シオンの手が臀部を掴み、僕の身体を更に引き寄せる。シオンの下腹部の硬さが僕の腹に押し付けられ、僕は目を見開いた。
逃げようともがく僕に気づいて、シオンの腕に更に力が入る。強く抱きしめられ、息が苦しくなった。肋骨が軋む音がする。
「殿下、何をしているんですか!」
家臣の声が再び響く。今度は強い口調だった。
「ルナ様がお待ちですよ」
「早く大広間へ」
シオンが僕から視線を外し、家臣たちの方を向いた。瞬間、腕の力が緩む。
(チャンスだ)
今しかない。僕は必死に身体をねじった。シオンの腕から抜け出す。全身の力を振り絞り、一歩踏み出す。
「ごめんなさい!」
叫ぶように謝り、僕は走り出した。廊下を全力疾走する。足音が響く。靴底が床を叩く音。息が荒くなり、喉が痛い。
「待て!」
後ろでシオンが叫んだ。低く、命令口調の声。背筋が凍る。足音が追いかけてくる。重く、速い足音。シオンの足音だった。
「殿下、お待ちください」
家臣の声が響く。慌てた様子の声。
「ユーリを捕まえろ」
シオンの命令が廊下に響いた。冷たく、絶対的な声。僕の心臓が跳ね上がる。このままでは簡単に捕まってしまう。
(どこかに隠れないと。やり過ごして、それから城を出る)
思考が高速で回転する。足が痛い。息が上がる。視界が滲み、涙が溢れてきた。必死に瞬きをして、前を見つめる。
今は泣いている場合じゃない。走り続けないと。
角を曲がると、廊下が続いている。窓の外に中庭が見えてきた。扉がいくつか並んでいる。僕は一番近い扉に手をかけた。重い木製の扉。資料室のようだ。押し開けて中に滑り込み、素早く扉を閉める。
暗闇が僕を包んだ。窓から差し込む月明かりだけが、部屋をぼんやりと照らしている。資料室には本棚が並び、古い書物が積まれている。埃の匂いがする。
僕は息を殺し、棚と壁の隙間に身を潜めた。華奢な身体を小さく丸める。膝を抱え、顔を埋める。
(シオンと家臣たちの気配が消えたら、別の場所に移動しよう。ずっと僕を探していることはないはず。ルナに会いに大広間に行くはずだから、その間に城から脱出すればなんとかなるはず)
即興の計画だった。穴だらけかもしれない。でも、今は考えている余裕がなかった。
足音が響く。
僕の心臓が激しく鳴り響き、呼吸を止めた。身体を更に縮める。足音が近づいてくる。
「ユーリ」
シオンの声が聞こえた。低く、甘く、優しい声だった。今まで聞いたことのない声。今までシオンは僕を蔑むような目で見ていた。
男のくせに、オメガで守られる位置にいるのを軽蔑するような視線。言葉を交わしたことさえほとんどなかった。なのに、名前を呼ぶ声は優しかった。
足音が更に近づいてくる。廊下を歩く音。ゆっくりと、探すように。
「どこにいる、ユーリ」
囁くような声。僕は呼吸を止めたまま、身を縮める。心臓の音が大きすぎる。シオンに聞こえてしまいそうだった。鼓動が耳元で響き、全身に血液が駆け巡る。
(早く通り過ぎてほしい)
足音が資料室の扉の前で止まった。
やばい。冷や汗が額に滲む。背中が汗でびっしょりになる。心臓がありえない速さで鼓動を打っていた。
(なんで僕を追いかけるんだ。さっさとルナのところに行けばいいのに。婚約者はルナで決まりなんだから)
心の中で叫ぶ。理解できなかった。原作通りならシオンはルナを選ぶ。
(なぜ僕を追いかけている?)
ぶつかったことを怒っているのだろうか。男のオメガのくせに、ぶつかって謝りもしないと激怒したのか。
そういえば僕は謝っていない。
逃げる際に思わず、「ごめんなさい」と叫んだが――あれは別に、ぶつかったことを謝ったわけではない。
血の気が下がる。顔から色が失せていくのが分かる。男のオメガに一方的にぶつかられ、謝りもしない。
嫌がらせでキスをしたのか。逃げ出そうとする僕を強く抱いて逃さないようにしたのは、謝らなかったからか。いやらしく触ったのも、嫌がらせか。
(でも、今更謝りに出ていけない。こんな状況になったら、余計に謝りにくい)
僕は心の中で強く念じた。早く立ち去ってくれ。ルナのところに行ってくれ。僕のことは忘れてくれ。
足音が遠ざかっていった。
ゆっくりと、廊下の向こうへ。シオンの気配が薄れていく。僕は耳を澄ませ、足音が完全に消えるのを待つ。静寂が戻ってきた。
(――助かった)
肩の力が抜ける。緊張が解け、身体がぐったりとする。息をゆっくりと吐き出す。深く、長く。酸素が肺に入り込み、頭がクリアになる。
(でも、これからどうしよう。一度、場所を移動して、それから警備兵の目を盗んでなんとか城外に出ないと)
僕が会場を飛び出したことで原作と全然違う展開になってる。シオンにぶつかって逃走した罪での幽閉ルートが始まってしまったのだろうか。
(どっちに転んでも幽閉じゃないか)
不安が押し寄せてくる。計画が崩れている。これではもう原作の知識が役に立たない。
僕はどうすればいい?
何をすれば幽閉を回避できる?
足音が去ったから、場所を移動しよう。僕は身体を動かそうとした。膝を伸ばし、立ち上がろうとする。棚に手をついて、身体を支える。
四つん這いになり、そっと動き出そうとした瞬間だった。
「――ユーリ」
耳元で囁かれた。
背後から、腰を強く掴まれる。引き寄せられ、強く抱きしめられた。硬い胸板が背中に押し付けられ、シオンの腕が僕の身体を包み込む。
(なんで?)
逃げられない。身動きが取れない。
「つかまえた」
「――っ!」
シオンの低く、満足げな声に僕は声にならない悲鳴を上げた。喉が詰まり、声が出ない。身体が震えだした。
(やばい――幽閉ルートの回避のはずが……)
シオンの腕の中で、僕は囚われの身となった――。
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