支配者の刻印〜愛を知らない獣が、借金オメガを溺愛する〜

ひなた翠

文字の大きさ
12 / 25
第四章:愛を知らない獣

新生活の始まり

 目覚まし時計が鳴る前に目が覚め、僕は布団から身体を起こす。カーテンの隙間から朝日が差し込んでおり、新しい一日の始まりを告げていた。時計を見ると、午前五時を少し過ぎたところだった。

 ベッドから降り、廊下を抜けてキッチンへと向かう。足音を立てないように気をつけながら歩き、リビングに入った。鬼頭さんのマンションは広く、キッチンも使いやすい。最新の調理器具が揃っており、料理をするのが楽しい。

 エプロンを身につけ、冷蔵庫を開ける。

 三人分の朝食を用意するために、食材を取り出していく。昨日の夜に下ごしらえしておいた材料もあり、手際よく調理を始める。フライパンが温まる音が静かなキッチンに響き、ベーコンの香ばしい匂いが鼻をついた。

 朝食を作りながら、お弁当も二つ作る。

 鬼頭さんの分と僕の分だ。最初は節約のために自分の分を作っていたら、それを見た鬼頭さんに、「俺の分も」とせがまれるようになった。

 それ以来、二つ作るようになり、鬼頭さんが毎日職場に持って行ってお昼に食べているらしい。
 朝食の準備が整った頃、時計の針は六時半を指していた。

 テーブルに三人分の食事を並べ、準備を終える。
 七時になると、歩が部屋から出てきた。

「おはよう、お兄ちゃん」

 眠そうな声で挨拶をしてきて、リビングに入ってくる。パジャマ姿で髪がぼさぼさになっており、可愛かった。

「おはよう。朝ごはんできてるよ」

 僕は優しく声をかけ、歩が洗面所へと向かうのを見送る。水が流れる音が聞こえ、やがて顔を洗った歩が戻ってきた。

 歩がテーブルにつくと僕も向かい側に座り、二人で朝食を食べ始めた。味噌汁の温かさが身体に染み渡り、焼き魚の塩気が舌に広がる。歩がご飯を頬張りながら、今日の予定を話してくれた。

「今日、算数のテストがあるんだ」
「勉強した?」
「うん、結構自信あるよ」

 歩が楽しそうに学校の話をしている姿を見ると、引っ越しを決めて良かったと思う。
 八時になると、歩がランドセルを背負って玄関へと向かった。

「行ってきます」
「行ってらっしゃい。気をつけてね」

 僕は手を振り、歩が玄関を出ていくのを見送る。ドアが閉まる音が響き、静寂が戻ってきた。

 キッチンに戻り、コーヒーを淹れ始める。豆を挽く音が静かな部屋に響き、芳醇な香りが広がっていく。ドリップしながら、湯気が立ち上るのを眺めた。淹れたてのコーヒーをカップに注ぎ、テーブルに置く。

(鬼頭さんを起こさないと)

ノックを三回してから鬼頭さんの寝室のドアをそっと開け、中を覗き込む。暗い部屋の中で、大きなベッドが見えた。鬼頭さんが裸で横になっており、規則正しい寝息を立てている。

 静かに部屋に入り、窓に近づく。

 カーテンを開けると、朝日が部屋に差し込んだ。明るい光が寝室を満たし、ベッドを照らしていく。鬼頭さんの黒い髪が枕に広がっており、筋肉質な背中が見えた。

「起きてください」
 声をかけると、鬼頭さんが僅かに身体を動かした。

「何時だ?」

 掠れた声で問いかけてきて、寝ぼけた様子で目を開ける。黒い瞳が僕を捉え、まだ焦点が合っていなかった。

「八時十五分です」

 僕が答えると、鬼頭さんがゆっくりと身体を起こした。シーツが滑り落ち、鍛えられた上半身が露わになる。胸板が厚く、腹筋が割れている。朝日に照らされた身体が美しく、思わず見惚れてしまった。

 鬼頭さんが手を伸ばしてきた。

 手首を掴まれ、ベッドへと引き込まれる。バランスを崩し、鬼頭さんの上に倒れ込む。起き上がった鬼頭さんの上に跨る形になり、顔が近づく。

「おはよう」
 低い声で囁かれ、唇が重なった。

 朝の鬼頭さんの唇は少し乾いており、舌が侵入してくると甘い吐息が混じり合う。濃厚なキスをせがまれ、舌が絡み合っていく。

 鬼頭さんの手が僕の身体を撫でた。

 背中から腰へ、そしてお尻へと手が滑っていく。いやらしく揉まれ、身体が熱くなっていく。お尻に鬼頭さんの大きな熱の塊を感じ、ズボン越しに硬さが伝わってきた。

 お互いの吐息が漏れ、キスが深くなっていく。唾液が混じり合い、舌が奥まで侵入してくる。息が苦しくなり、鼻で呼吸をしながらキスを続けた。

「……っ、だめです」

 僕は鬼頭さんの胸を押し、唇を離した。赤く腫れた唇が糸を引き、鬼頭さんが不満げな表情で僕を見つめてくる。

「これ以上は――。大学に行かないと。鬼頭さんだって仕事ですよね?」
 僕の問いかけに、鬼頭さんの顔が不満げになる。

「そんな顔をしてもだめですよ」
 僕が釘を刺すと、鬼頭さんが残念そうに口をへの字にする。

「弁当は?」
「作りました。キッチンにあります」

 鬼頭さんの腕の中から抜け出そうとするが、腰を掴まれて動けない。

「朝食もテーブルに置いてあります。コーヒーも淹れたてですから、温かいうちにどうぞ」
「あとは、柊を抱ければ最高なんだが?」

 鬼頭さんが囁き、僕の腰に手を這わせてくる。

「僕は授業があるので、もう行きます」
 再度、身体を起こそうとするが、鬼頭さんが離してくれない。

「五分だけ」
「だめです。そう言っていつも終わらなっ――」

 断る僕の身体を、いとも簡単に押し倒された。

 背中がベッドに沈み込み、鬼頭さんが覆い被さってくる。黒い瞳が僕を見下ろしており、欲望が宿っていた。
 鬼頭さんが僕のズボンに手をかけた。

 手早く脱がされ、下着も一緒に引き下ろされる。冷たい空気が肌に触れ、恥ずかしさで顔が熱くなった。鬼頭さんの指が秘所に触れ、すでに濡れているのを確認される。

「柊も期待してるんだろ? こんなにぐちゃぐちゃで」
 意地悪な声で囁かれ、顔がさらに熱くなる。

「いっ、やぁ……だ」
 抗議する間もなく、鬼頭さんの熱いものが押し当てられ、一気に奥まで貫かれる。

「ああああっん」
 痛みはなく、ただ満たされる感覚だけが身体を支配していく。鬼頭さんの熱が奥まで届き、内壁が押し広げられていく。

 最初から激しく奥を突いてくる。
 容赦ない動きにベッドが軋む音が響き、僕の身体が前後に揺さぶられる。

(悔しいけど――気持ちいいっ)

 弟と僕が鬼頭さんのマンションに引っ越してから、夜に抱かれることはなくなった。朝、弟が登校してから僕が大学に出発するまでの数分間で、どうにかしてこようとする。

「あっ、あっ、あっ」

 奥を突かれるたびに、甘い叫びがあがってしまう。
 堪えようとしても、声が勝手に漏れていく。鬼頭さんの動きは激しく、容赦なく弱いところを刺激してくる。

「……五分、だけ……あっ、あん、だからぁ……」

 腰が浮き、甘い疼きに我慢できずに揺れてしまう。身体が勝手に反応し、鬼頭さんのリズムに合わせて腰が動いていく。

 鬼頭さんが口の端を持ち上げた。

 嬉しそうに笑い、さらに激しく突き上げてくる。前後に身体が揺さぶられ、ベッドのシーツを掴んだ。白い布が指の中で皺になり、爪が食い込んでいく。

「柊、イキそうだ」
 鬼頭さんの低音ボイスが耳元で響いた。

 絶頂が近づいてくるのがわかる。身体の奥から、何かが込み上げてきた。熱が、快感が、全てが一点に集中していく。

「ああああっ……ああぁ」

 叫び声が口から漏れ、身体がビクビクと痙攣した。

 内壁が鬼頭さんの熱杭を貪るように激しく噛み付き、収縮を繰り返す。鬼頭さんも奥に熱を放ち、温かい液体が中に広がっていく感覚があった。

 乱れた呼吸を整えようと、肩で息をする。休む間もなく鬼頭さんが、また動き出した。

「ちょ……と、五分――」

 抗議する間もなく、激しく奥を突かれる。さっきイったばかりなのに、身体が敏感になっており、すぐに快感が押し寄せてきた。

「まだあと二分あるだろ」

 鬼頭さんが囁き、さらに奥を突き上げてくる。鬼頭さんは僕の中を堪能し、しっかり五分使って抱いてから解放してくれた。

「ほら、五分だ。遅刻するぞ」
 鬼頭さんが動けないでいる僕のお尻をぺちっと叩いた。

(動けなくさせたのは鬼頭さんのなのでは?)

 心の中で抗議しながら、僕はティッシュに手を伸ばした。

 中から出てくる鬼頭さんの精液を軽く拭い、下着を履く。ズボンも履き、乱れたシャツを整えた。鏡を見ると、顔が真っ赤になっており、唇も腫れている。髪も乱れていて、明らかに情事後とわかる顔だ。

(こんな顔で外に出たくないよ、もう!)

 軽く身支度を整え、玄関へと小走りで向かう。

 リビングを抜け、廊下を走る。玄関に用意しておいたリュックを背負っていると、ボクサーパンツ一枚の姿で鬼頭さんが見送りに出てきた。

「大学が終わったら、一度帰宅して、歩の夕飯を用意してからオフィスに行きますね」
 僕が予定を伝えると鬼頭さんが頷き、満足そうに微笑む。

「ああ、待ってる」
「じゃ、行ってきます」

 靴を履き、ドアに手をかける。

「柊、キスは?」
 鬼頭さんが寂しそうな声で問いかけてきた。

「――は? 無理です。遅刻します」

 鬼頭さんが寂しそうな表情を浮かべた。目を伏せ、唇を尖らせている。まるで子どものような仕草に、僕は勝てなかった。

「ああ、もう!」

 玄関のドアに手をかけていたのをやめて引き返す。背伸びをして、鬼頭さんの唇に触れるだけのキスをした。鬼頭さんが満足そうに微笑むのを目にすると、なんだか悔しい気持ちになる。

「もう行きますから」
 僕は言い残し、家を飛び出した。

 駅までの道を小走りで急ぐ。

「やばい」

 声に出しながら、足を速める。通勤途中の人たちとすれ違い、信号が変わる前に横断歩道を渡った。息が切れ、心臓が激しく跳ねている。

 ありがたいことに、今の生活へのシフトチェンジはスムーズにいった。

 鬼頭さんが歩に説明をしてくれた。父の仕事が遠方になったから預かることになったと。歩は素直に受け入れ、新しい学校にもすぐに馴染んだ。転校を不安に思っていたが、それも杞憂に終わった。

 駅に着き、改札を抜ける。

 ホームに滑り込むと、ちょうど電車が到着したところだった。ドアが開き、人が降りてくる。僕は電車に乗り込み、空いている席に座った。

 ぎりぎり間に合った。

 ホッと一安心し、深呼吸をする。電車が動き出し、窓の外の景色が流れていく。朝の光が車内に差し込み、乗客たちが静かに座っていた。

(朝からバタバタしたくないなあ)
 そう思いながら、僕は窓の外を眺めた。
感想 5

あなたにおすすめの小説

番を拒み続けるΩと、執着を隠しきれないαが同じ学園で再会したら逃げ場がなくなった話 ――優等生αの過保護な束縛は恋か支配か

雪兎
BL
第二性が存在する世界。 Ωであることを隠し、平穏な学園生活を送ろうと決めていた転校生・湊。 しかし入学初日、彼の前に現れたのは―― 幼い頃に「番になろう」と言ってきた幼馴染のα・蓮だった。 成績優秀、容姿端麗、生徒から絶大な信頼を集める完璧なα。 だが湊だけが知っている。 彼が異常なほど執着深いことを。 「大丈夫、全部管理してあげる」 「君が困らないようにしてるだけだよ」 座席、時間割、交友関係、体調管理。 いつの間にか整えられていく環境。 逃げ場のない距離。 番を拒みたいΩと、手放す気のないα。 これは保護か、それとも束縛か。 閉じた学園の中で、二人の関係は静かに歪み始める――。

【完結】愛されたかった僕の人生

Kanade
BL
✯オメガバース 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。 今日も《夫》は帰らない。 《夫》には僕以外の『番』がいる。 ねぇ、どうしてなの? 一目惚れだって言ったじゃない。 愛してるって言ってくれたじゃないか。 ねぇ、僕はもう要らないの…? 独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー ✻改稿版を他サイトにて投稿公開中です。

番解除した僕等の末路【完結済・短編】

藍生らぱん
BL
都市伝説だと思っていた「運命の番」に出逢った。 番になって数日後、「番解除」された事を悟った。 「番解除」されたΩは、二度と他のαと番になることができない。 けれど余命宣告を受けていた僕にとっては都合が良かった。 様々な形での応援ありがとうございます!

繋ぎの婚約を契約通り解消しようとしたら、王宮に溺愛軟禁されました

こたま
BL
エレンは子爵家のオメガ令息として産まれた。年上のアルファの王子殿下と年齢が釣り合うオメガ令息が少なく、他国との縁組も纏まらないため家格は低いが繋ぎとして一応婚約をしている。王子のことは兄のように慕っており、初恋の人ではあるけれど、契約終了時期か王子に想い人が現れた時には解消されるものと考えていた。ところが婚約解消時期の直前に王子宮に軟禁された。結婚を承諾するまでここから出さないと王子から溢れるほどの愛を与えられる。ハッピーエンドオメガバースBLです。

借金のカタで二十歳上の実業家に嫁いだΩ。鳥かごで一年過ごすだけの契約だったのに、氷の帝王と呼ばれた彼に激しく愛され、唯一無二の番になる

水凪しおん
BL
名家の次男として生まれたΩ(オメガ)の青年、藍沢伊織。彼はある日突然、家の負債の肩代わりとして、二十歳も年上のα(アルファ)である実業家、久遠征四郎の屋敷へと送られる。事実上の政略結婚。しかし伊織を待ち受けていたのは、愛のない契約だった。 「一年間、俺の『鳥』としてこの屋敷で静かに暮らせ。そうすれば君の家族は救おう」 過去に愛する番を亡くし心を凍てつかせた「氷の帝王」こと征四郎。伊織はただ美しい置物として鳥かごの中で生きることを強いられる。しかしその瞳の奥に宿る深い孤独に触れるうち、伊織の心には反発とは違う感情が芽生え始める。 ひたむきな優しさは、氷の心を溶かす陽だまりとなるか。 孤独なαと健気なΩが、偽りの契約から真実の愛を見出すまでの、切なくも美しいシンデレラストーリー。

運命の番は僕に振り向かない

ゆうに
BL
大好きだったアルファの恋人が旅先で運命の番と出会ってしまい、泣く泣く別れた経験があるオメガの千遥。 それ以来、ずっと自分の前にも運命の番があらわれることを切に願っていた。 オメガひとりの生活は苦しく、千遥は仕方なく身体を売って稼ぐことを決心する。 ネットで知り合った相手と待ち合わせ、雑踏の中を歩いている時、千遥は自分の運命の番を見つけた。 ところが視線が確かに合ったのに運命の番は千遥を避けるように去っていく。彼の隣には美しいオメガがいた。 ベータのような平凡な見た目のオメガが主人公です。 ふんわり現代、ふんわりオメガバース、設定がふんわりしてます。 完結しました!ありがとうございました。

白い結婚だと思っていたら、(溺愛)夫にガブガブされて、番になっていたようです

まんまる
BL
フレア王国の第3王子シルティ(18歳.Ω)は、王宮騎士団の団長を務める、キーファ侯爵家現当主のアリウス(29歳.α)に、ずっと片想いをしている。 そんなシルティは、Ωの成人王族の務めとして、自分は隣国のαの王族に輿入れするのだろうと、人生を半ば諦めていた。 だが、ある日突然、父である国王から、アリウスとの婚姻を勧められる。 二つ返事でアリウスとの婚姻を受けたシルティだったが、何もできない自分の事を、アリウスは迷惑に思っていないだろうかと心配になる。 ─が、そんなシルティの心配をよそに、アリウスは天にも登る気持ち(無表情)で、いそいそと婚姻の準備を進めていた。 受けを好きすぎて、発情期にしか触れる事ができない攻めと、発情期の記憶が一切ない受けのお話です。 拗らせ両片想いの大人の恋(?) オメガバースの設定をお借りしています。ぼんやり設定です。 Rシーンは※つけます。 1話1,000~2,000字程度です。 ※画像はpicrewさんよりお借りしました。 (Xアカウント@cerezalicor)

殿下に婚約終了と言われたので城を出ようとしたら、何かおかしいんですが!?

krm
BL
「俺達の婚約は今日で終わりにする」 突然の婚約終了宣言。心がぐしゃぐしゃになった僕は、荷物を抱えて城を出る決意をした。 なのに、何故か殿下が追いかけてきて――いやいやいや、どういうこと!? 全力すれ違いラブコメファンタジーBL! 支部の企画投稿用に書いたショートショートです。前後編二話完結です。