支配者の刻印〜愛を知らない獣が、借金オメガを溺愛する〜

ひなた翠

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第六章:本当の絆

お預けの日々

 父さんは妹の父親でもある恋人と別れた。

 いくら好きでも、拉致監禁する人とはこの先一緒にいたくないと父さんは話していた。病院のベッドで、涙を流しながら決意を語る父さんの横顔が忘れられない。妹のゆりを抱いて、これからは一人で育てると宣言した父さんの声は震えていたが、強かった。

 そういうことなら、と鷹臣さんは、父さんの恋人を容赦なく遠い所へと送ったらしい。

 確実に稼げる厳しい場所らしいが、僕たちには教えてくれなかった。どこに送られたのか聞いても、鷹臣さんは「知らないほうがいい」と言うだけだった。北の方だという噂を鉄平さんから聞いたが、本当かどうかはわからない。

 父さんは生活費を稼ぐために、ホストに復帰した。

 産後の体調が戻ってきたタイミングで、以前働いていた店に相談したらしい。店長が快く迎えてくれて、すぐに復帰が決まった。夜の仕事だから、ゆりをどうするのかと聞いたら、二十四時間営業の保育園を探してどうにかすると話していた。僕が預かると言うと、夜泣きもまだあるからと一度は断られた。

 まだ生まれたばかりのゆりを保育園に預けるのが、僕にはどうしても我慢できなくて、もう一度父にお願いをした。

 そしたらやっと父が頷いてくれて、父が仕事の日は僕が預かることになった。
 夜になると、父さんがゆりを連れてくる。

 鷹臣さんのマンションに父さんが現れて、ゆりを僕に預ける。哺乳瓶やおむつ、着替えは鷹臣さんが一式揃えてくれていて、僕の部屋にベビーベッドも用意されていた。父さんは「ごめんね、柊。よろしくね」と頭を下げて、仕事に向かっていく。

 四ヶ月になったゆりは、夜中に一回から二回ほど夜泣きをする。大抵は、ミルクで飲み終わるとすぐに寝てくれた。

 ベビーベッドでは寝てくれずに、僕のベッドで一緒に横になるとすやすやと気持ちよく寝てくれるいい子だ。
 ゆりを預かるようになってお預けの日々が続く鷹臣さんだが、意外と機嫌がそこまで悪くはない。

 ある夜、ゆりと一緒にベッドで眠っていると、ドアが静かに開く音がした。

 薄目を開けると、鷹臣さんが部屋に入ってくるのが見えた。月明かりが窓から差し込んでいて、鷹臣さんのシルエットが浮かび上がっている。ベッドに近づいてきて、僕の隣に座った。

「起きてるか?」

 低く囁かれて、僕は目を開けた。鷹臣さんが僕を見つめていて、欲望に染まった瞳が月明かりに照らされている。

「鷹臣さん……」
 小さく囁くと、鷹臣さんが僕の唇に指を当てた。静かにしろという合図だった。

「もうすぐ起きる時間だから、口でするだけでいい?」
 僕が申し訳なさそうに告げると、鷹臣さんが僕の頬を撫でた。

「ああ」

 優しく囁かれて、僕は身体を起こした。ゆりが隣で静かに眠っている。起こさないように、そっとベッドから降りようとすると、鷹臣さんが僕の手を掴んだ。

「ここで」

 低く囁かれて、僕の心臓が跳ね上がる。鷹臣さんがズボンのベルトを外す音が聞こえて、僕の顔が熱くなった。
 鷹臣さんの熱が目の前に現れて、月明かりに照らされている。すでに硬くなっていて、先端から透明な液体が滲んでいた。僕は舌を出して、先端を舐める。

「んっ……」

 鷹臣さんが小さく呻いた。僕は先端をゆっくりと舐めて、滲んだ液体を舌で掬い取る。苦くて、少ししょっぱい味が口の中に広がった。

 舌で先端を何度も舐めて、唾液を塗りつけていく。濡れた先端が光を反射して、艶やかに輝いた。僕は口を開けて、先端を含む。温かく、硬い感触が口の中に入ってきて、舌に熱が触れる。

「ああ……柊……」

 鷹臣さんの声が甘く震えた。大きな手が僕の髪を掴んで、優しく撫でてくる。僕は口を動かして、ゆっくりと奥まで含んでいった。喉の奥に触れそうになって、反射的に吐き出しそうになる。深呼吸をして、鼻で息をしながら飲み込んでいく。

 口の中いっぱいに熱が広がって、頬が押し広げられた。鷹臣さんの味が口の中に満ちて、唾液が溢れてくる。僕は頭を動かして、出し入れを繰り返した。

「気持ちいい……」

 鷹臣さんの声が蕩けるように甘くなる。髪を撫でる手が震えていた。僕は舌を這わせながら、吸い上げるように口を動かす。

 くちゅ、くちゅと水音が響いた。小さな音だが、静かな部屋では大きく聞こえる。唾液が溢れて、顎を伝って落ちていく。僕は構わずに、さらに深く飲み込んだ。

「柊……イク……っ」

 鷹臣さんの声が切羽詰まった響きになる。僕は口を離さずに、吸い上げるように動かし続けた。鷹臣さんの身体が強張って、熱いものが喉の奥に注がれた。苦くて、濃い味が口の中に広がる。

 ようやく口を離すと、僕の唇から透明な糸が引いた。鷹臣さんが荒い息を整えながら、僕の頭を撫でてくれる。

「ありがとう」

 優しく囁かれて、僕の胸が温かくなった。鷹臣さんが立ち上がって、部屋を出ていく。ドアが静かに閉まる音が聞こえて、僕はベッドに戻った。


     ◇◇◇


 三ヶ月後の夜、同じようにゆりと眠っていると、布団が持ち上げられた。

 鷹臣さんが布団の中に入ってきて、僕の身体を抱きしめる。温かい体温が背中に伝わってきて、心臓が激しく跳ねた。

「鷹臣さん……」

 小さく囁くと、鷹臣さんの手が僕の身体を撫でた。パジャマの上から胸に触れられて、敏感な突起を指で転がされる。

「んっ……」

 声が漏れそうになって、慌てて口を塞いだ。鷹臣さんの手がパジャマの中に侵入してきて、直接肌に触れる。

「だめ……ゆりが起きちゃう……」
 抗議すると、鷹臣さんが耳元で囁いた。

「さっき寝たばかりだろ。静かにしてれば大丈夫」

 低く、甘い声だった。鷹臣さんの手が下腹部を撫でて、パジャマのズボンの中に入ってくる。敏感な場所に触れられて、僕の身体が震えた。

「柊と、もう三ヶ月もしていない」

 苦しそうな声で囁かれて、僕の胸が痛む。鷹臣さんの指が割れ目をなぞって、入口を探っている。

「無理……我慢できない……」

 懇願するような声に、僕は抵抗できなくなった。鷹臣さんの指が中に入ってきて、内壁を擦る。三ヶ月も触れられていなかった場所が、敏感に反応してしまう。

「もう濡れてる」

 鷹臣さんが嬉しそうに囁いた。指が奥を擦って、敏感な場所を刺激してくる。快感が全身を駆け巡って、膝が震えた。

 鷹臣さんが僕のパジャマを脱がせて、熱いものが入口に触れた。ゆっくりと押し込まれてきて、身体の奥が押し広げられる。息を殺して堪えながら、鷹臣さんを受け入れていく。

 半分ほど入ったところで、ゆりが泣き出した。

「ふぇ……えーん……」

 小さな泣き声が聞こえて、鷹臣さんの動きが止まった。僕も息を飲んで、ゆりを見つめる。ゆりが目を開けて、泣き続けている。

「……すまん」

 鷹臣さんが小さく呟いて、僕から離れた。繋がりが切れて、空虚感が残る。鷹臣さんが布団から出て、パジャマを直しながら立ち上がった。

 鷹臣さんの後ろ姿が、寂しそうに見えた。

 肩を落として、ドアに向かって歩いていく。振り返ることもなく、部屋を出ていった。ドアが静かに閉まる音が聞こえて、僕は胸が痛くなった。

 ゆりを抱き上げて、あやし始める。
 ――僕も、鷹臣さんとしたいな。


     ◇◇◇


 ある日、朝から火照っている感覚はあった。
 夜になるにつれ、身体がどんどんと辛くなっていく。

 火照りが強まって、汗が止まらなくなった。服が肌に張り付いて、息が苦しい。下腹部が疼いて、鷹臣さんの匂いを求めてしまう。気がついた時点で、強めの抑制剤を飲んだのだが、効いている気がしなかった。

 ゆりを抱っこしながら、哺乳瓶でミルクを飲ませる。

 ゆりの柔らかい身体が僕の腕の中で温かくて、小さな口が哺乳瓶を吸っている。可愛い顔を見つめながら、僕は自分の心のどこかで鷹臣さんとの子を欲しているのだろうかと考えた。だから今回のヒートは、いつもよりも症状が強く、つらいのかもしれないと感じた。

 鷹臣さんがまだ仕事だとわかってはいるものの、身体が耐えられずに電話してしまった。
 携帯を取り出して、震える指で鷹臣さんの番号を選ぶ。呼び出し音が三回鳴って、鷹臣さんが出た。

「どうした?」
 低い声が耳に響いた。僕は息を整えて、告げる。

「ヒートになって……身体がすごくつらいんです」
 声が震えた。鷹臣さんが息を飲む音が聞こえて、沈黙が降りる。

「すぐに帰る」
 きっぱりとした声だった。電話が切れて、僕は携帯を握りしめた。

 火照った身体で、ゆりを抱っこしていると玄関の鍵が開く音がした。

 鷹臣さんが帰宅した。後ろにはなぜか鉄平さんがいて、心配そうな顔で僕を見ている。鷹臣さんが僕に近づいてきて、ゆりを僕の腕から鉄平さんへと移動させた。

「あとは頼んだぞ」
 鷹臣さんが鉄平さんに告げる。鉄平さんがゆりを抱いて、優しく微笑んだ。

「歩くんも、ゆりちゃんも俺が面倒みるから」
 鉄平さんの言葉に、僕は安堵した。鷹臣さんが僕の手を引いて、玄関へと向かう。

「ホテルに行こう」

 鷹臣さんが囁いた。僕は頷くことしかできない。身体が熱くて、鷹臣さんの匂いを嗅ぐと下腹部がさらに疼いた。

 車でホテルへと移動した。

 鷹臣さんが運転していて、僕は助手席で身体を丸めていた。息が荒くて、汗が止まらない。鷹臣さんの匂いが車内に充満していて、本能がむき出しになっていくのがわかる。

 ホテルの部屋に入ると、鷹臣さんが僕を抱きしめた。

 服を脱がされて、ベッドに押し倒される。ヒートでとろとろになった身体が、鷹臣さんを求めていた。深く繋がり合うだけで、あっさりと頂点に達してしまう。

「柊……」
 鷹臣さんが僕の名前を呼んだ。低く、甘い声に、僕の心臓が大きく跳ねる。

「鷹臣さん……っ」

 久しぶりの鷹臣さんは激しく腰を動かした。奥を何度も突かれて、快感が途切れない。三ヶ月ぶりの感覚に、頭が真っ白になった。

 目が覚めると、頭と身体がすっきりしていた。

 知らない光景が目に入ってくる。白い天井、シンプルなカーテン、ホテルの部屋だと理解するのに少し時間がかかった。

 マンションでヒートになった記憶がある。それ以降は断片的で、鷹臣さんに抱かれた記憶が薄ぼんやりと残っているだけだった。

 全身に力が入らない。

 ぐったりとした身体を起こそうとするが、腕に力が入らなかった。隣を見ると、鷹臣さんが眠っている。穏やかな寝顔で、腕を僕の身体に回していた。

 首の後ろを触ると、ピリッと痛みが走った。

 指先がざらついている。噛まれた痕だと理解して、僕は息を飲んだ。番同士になったのだとわかる。鷹臣さんが僕の首筋を噛んで、番の印をつけてくれたようだ。

 記憶の中の自分はずいぶん乱れていた。今更だが恥ずかしくなって、顔が熱くなる。

「柊、起きたか?」
 鷹臣さんの声がした。目を開けると、鷹臣さんが優しく微笑んでいた。

「僕は何日くらい朦朧としてましたか?」
 声が掠れていた。喉が渇いていて、言葉を出すのが辛い。

「二日間」
 鷹臣さんが答えた。二日も経っていたなんて信じられなくて、僕は目を見開いた。

「妹のお世話を――」
 慌てて言いかけると、鷹臣さんが僕の唇に指を当てた。

「初日は鉄平、昨日は朔夜が仕事を休んだから大丈夫」
 優しく告げられて、僕は安堵した。ゆりの面倒を見てもらえていたなら良かった。

「僕たち、番同士になったんですね」
 僕が首筋を触ると、鷹臣さんが頷いた。

「噛んでって何度も言ってたが、まずかったか?」
 心配そうな顔で問いかけられて、僕は首を横に振った。

「嬉しいです」
 正直に告げると、鷹臣さんの表情が明るくなった。

「運命の番同士だって言うわりには、ヒートのときいつも噛んでくれなかったから」
 僕が続けると、鷹臣さんが申し訳なさそうに視線を逸らした。

「学生の間は――って思ってたけど」
 鷹臣さんが言い訳するように呟く。

「三ヶ月もお預けをくらった後のセックスだったから、つい……」
 恥ずかしそうに告げる鷹臣さんが可愛くて、僕は笑った。

「三ヶ月ぶりはどうでしたか?」
「すごく気持ちよかったが、三ヶ月ないのは耐えられない」

 鷹臣さんにぎゅうっと強く抱きしめられて、温かい体温が伝わってくる。

「頼むから週に一回は預からない日を作ってくれ」
 鷹臣さんが僕の耳元で囁いた。懇願するような声に、僕の心臓が跳ね上がる。

「わかりました」
 頷くと、鷹臣さんがさらに強く抱きしめてくれた。

「愛してる」
 囁かれて、僕の胸が温かくなった。

「僕も、愛しています」

 小さく囁き返すと、鷹臣さんが優しくキスをしてくれた。甘く、愛おしむような口づけに、僕は目を閉じる。

 番同士になった。

 鷹臣さんの腕の中で、僕は幸せを噛みしめた。
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