年下αの一途な愛〜離さない、諦めない〜

ひなた翠

文字の大きさ
14 / 22
第四章:神宮寺のお見合い

見合い相手の彼氏

しおりを挟む
 女性が携帯で話し終えると、少し落ち着いた様子でベッドに座る。震えが止まって、呼吸も整ってきた。抑制剤がしっかりと効いたようで良かったと安心した。

しばらくするとドアが激しく叩く音が鳴り響いた。ドンドンドンと連続して叩く音が部屋中に響いて、僕は驚いた。

「さくら! さくらー!」
 男性の声が廊下から聞こえてきて、必死に叫んでいる。女性の名前を呼んでいるのが分かった。

「恋人です。到着したいみたい……」
 女性が僕を見て、申し訳なさそうに言う。僕は頷いて、ドアに向かった。

 ドアノブを回してドアを開けた瞬間、拳が飛んできた。頬に強い衝撃が走って、僕の身体がよろめく。痛みが頬を走って、視界が一瞬揺れた。口の中が切れたのか、鉄の味が広がった。

(痛い――いきなり殴ることないじゃないか)

 それだけ恋人のことを大事に思っている証拠なのだろうが……。現状を把握してから、僕じゃなくて神宮寺を殴ってほしかった。

「お前のせいで!」

 男性が怒鳴って、僕の襟を掴む。壁に押し付けられて、背中が硬い壁に当たった。男性の息が荒く、顔が真っ赤になっている。首元を掴まれて、強い力で締め上げられる。呼吸が苦しくなって、僕は男性の手首を掴んだ。

「誤解です! 僕は医師です」
 僕が掠れた声で言うと、男性の手が緩んだ。

「彼女に抑制剤を打ちました。ベッドにいるから、二人でさっさと帰宅してください」
 僕が冷静に言うと、男性の手が少しだけ緩む。僕は男性の手を振り払って、一歩下がった。

「さくら! 無事か!」
 男性が部屋の中を覗き込んで、ベッドにいる女性を見つける。

「陸!」
 女性が立ち上がって、男性の元に駆け寄った。ベッドから飛び出してきて、男性に抱きつく。

「ごめんなさい。ちゃんと断ろうと思って、行ったらこんなことに。両親が料理か飲み物に誘発剤を入れてたみたいで――見合い相手の人が、助けてくれて。先生まで呼んでくれたの」

 女性が男性の腕を掴んで、必死に説明する。彼女の説明を聞いて理解したのか、僕を見て申し訳なさそうな表情になった。

「すみません、あの――」
「大丈夫です。それだけ女性の方を愛してるんだって伝わってきましたから。見合い相手なら浴室にいるんで、殴りなり蹴るなりしてください」

 男性の視線が浴室のドアへと注がれる。

「陸、待って! 彼も悪くないから」
 そう言って、ぐいぐいと腕を引っ張った。

「ヒート状態になっても、彼は私を襲わなかった。腕を噛んで、正気を保って先生の手配をしてくれたの」
 女性が浴室の方を見て、涙が溢れる。

「本当なのか?」
 男性が女性を見つめて、女性が頷く。涙で濡れた顔で、男性を見上げた。

「本当。陸、私は無事だから。何もされてない。彼は優しい人で、私を守ってくれた」

 女性が男性の手を取って、強く握りしめる。男性が女性を抱き締めて、安堵の息を吐いた。女性の頭を胸に抱いて、髪を撫でる。

「良かった……本当に良かった」
 男性の声が震えて、女性をさらに強く抱き締める。

「さくら、怖かっただろう。もう大丈夫だから」

 男性が優しく囁いて、女性の背中を撫でる。二人が抱き合っている姿を見て、僕は視線を逸らした。愛し合う二人の姿が、眩しくて見ていられない。

 男性が女性から離れて、僕の方を向く。さっきまでの怒りは消えていて、申し訳なさそうな表情だ。

「すみません」
 男性が深く頭を下げて、僕に謝る。

「さくらを助けてくださって、ありがとうございます」
 男性が顔を上げて、僕を見つめる。真摯な眼差しで、感謝の気持ちが伝わってきた。

「いえ、医師として当然のことをしただけです」
 僕が答えると、男性が再び頭を下げる。

「陸、早く帰ろう」
 女性が男性の手を引いて、ドアに向かう。

「先生、本当にありがとうございました」
 女性が振り返って、僕に微笑む。涙の跡が残っているが、安心した表情だ。

「お大事に」

 僕が言うと、女性が頷いた。男性が女性の肩を抱いて、二人で部屋を出ていく。廊下に出て、エレベーターに向かう後ろ姿が見えた。男性が女性を守るように抱いていて、女性が男性に寄り添っている。

 ドアが閉まって、静寂が戻ってきた。

 僕は頬に手を当てて、痛みを確認する。まだ痛みが残っていて、殴られた場所が熱い。腫れてきているのか、触ると鈍い痛みが走った。口の中の切れた場所も、まだ痛む。

 部屋を見回すと、ベッドが乱れたままだ。女性が座っていた場所に、濡れたティッシュが散らばっている。
 浴室から水の音が聞こえて、今度は神宮寺の治療をしないといけないと浴室へと足を向けた。
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

若頭の溺愛は、今日も平常運転です

なの
BL
『ヤクザの恋は重すぎて甘すぎる』続編! 過保護すぎる若頭・鷹臣との同棲生活にツッコミが追いつかない毎日を送る幼なじみの相良悠真。 ホットミルクに外出禁止、舎弟たちのニヤニヤ見守り付き(?)ラブコメ生活はいつだって騒がしく、でもどこかあったかい。 だけどそんな日常の中で、鷹臣の覚悟に触れ、悠真は気づく。 ……俺も、ちゃんと応えたい。 笑って泣けて、めいっぱい甘い! 騒がしくて幸せすぎる、ヤクザとツッコミ男子の結婚一直線ラブストーリー! ※前作『ヤクザの恋は重すぎて甘すぎる』を読んでからの方が、より深く楽しめます。

余命半年の俺を、手酷く振ったはずの元カレ二人が手を組んで逃がしてくれません

スノウマン(ユッキー)
BL
半年以内に俺は一人寂しく死ぬ。そんな未来を視た。きっと誰も悲しむ人は居ないだろう。そう思っていたから何も怖くなかった。なのにそんな俺の元に過去手酷く振り、今では世界的スターとなった元カレ二人がやってきた。彼らは全てを知っていた。俺がどうして彼らを振ったのか、そして俺の余命も。 全てを諦めた主人公と、主人公を諦めきれないイケメンサッカー選手とシンガーソングライターの再会が導く未来は?

こわがりオメガは溺愛アルファ様と毎日おいかけっこ♡

なお
BL
政略結婚(?)したアルファの旦那様をこわがってるオメガ。 あまり近付かないようにしようと逃げ回っている。発情期も結婚してから来ないし、番になってない。このままじゃ離婚になるかもしれない…。 ♡♡♡ 恐いけど、きっと旦那様のことは好いてるのかな?なオメガ受けちゃん。ちゃんとアルファ旦那攻め様に甘々どろどろに溺愛されて、たまに垣間見えるアルファの執着も楽しめるように書きたいところだけ書くみたいになるかもしれないのでストーリーは面白くないかもです!!!ごめんなさい!!!

のほほんオメガは、同期アルファの執着に気付いていませんでした

こたま
BL
オメガの品川拓海(しながわ たくみ)は、現在祖母宅で祖母と飼い猫とのほほんと暮らしている社会人のオメガだ。雇用機会均等法以来門戸の開かれたオメガ枠で某企業に就職している。同期のアルファで営業の高輪響矢(たかなわ きょうや)とは彼の営業サポートとして共に働いている。同期社会人同士のオメガバース、ハッピーエンドです。両片想い、後両想い。攻の愛が重めです。

年下幼馴染アルファの執着〜なかったことにはさせない〜

ひなた翠
BL
一年ぶりの再会。 成長した年下αは、もう"子ども"じゃなかった――。 「海ちゃんから距離を置きたかったのに――」 23歳のΩ・遥は、幼馴染のα・海斗への片思いを諦めるため、一人暮らしを始めた。 モテる海斗が自分なんかを選ぶはずがない。 そう思って逃げ出したのに、ある日突然、18歳になった海斗が「大学のオープンキャンパスに行くから泊めて」と転がり込んできて――。 「俺はずっと好きだったし、離れる気ないけど」 「十八歳になるまで我慢してた」 「なんのためにここから通える大学を探してると思ってるの?」 年下αの、計画的で一途な執着に、逃げ場をなくしていく遥。 夏休み限定の同居は、甘い溺愛の日々――。 年下αの執着は、想像以上に深くて、甘くて、重い。 これは、"なかったこと"にはできない恋だった――。

氷の支配者と偽りのベータ。過労で倒れたら冷徹上司(銀狼)に拾われ、極上の溺愛生活が始まりました。

水凪しおん
BL
※この作品には、性的描写の表現が含まれています。18歳未満の方の閲覧はご遠慮ください。 オメガであることを隠し、メガバンクで身を粉にして働く、水瀬湊。 過労と理不尽な扱いで、心身ともに限界を迎えた夜、彼を救ったのは、冷徹で知られる超エリートα、橘蓮だった。 「君はもう、頑張らなくていい」 ――それは、運命の番との出会い。 圧倒的な庇護と、独占欲に戸惑いながらも、湊の凍てついた心は、次第に溶かされていく。 理不尽な会社への華麗なる逆転劇と、極上に甘いオメガバース・オフィスラブ!

αに軟禁されました

雪兎
BL
支配的なαに閉じ込められたΩ。だがそれは、愛のはじまりだった――。

アルファのアイツが勃起不全だって言ったの誰だよ!?

モト
BL
中学の頃から一緒のアルファが勃起不全だと噂が流れた。おいおい。それって本当かよ。あんな完璧なアルファが勃起不全とかありえねぇって。 平凡モブのオメガが油断して美味しくいただかれる話。ラブコメ。 ムーンライトノベルズにも掲載しております。

処理中です...