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定時で帰れと言われても、仕事を切りのいいところまで進めないと自分的にいろいろ気持ち悪いんだけどなあ。
デスクに戻って続きの仕事にとりかかろうとすると、机の上にあったはずの大量のファイルが消えていた。
「……え? ない?」
顔をあげると周りの弁護士たちが冷たい目で僕を見ていた。
「告げ口されちゃたまらねえし」
「あいつ……美作所長の下僕なんじゃね?」
「採用の募集もかかってないのにいきなり中途採用って。訳アリだしな」
「毎晩、美作所長を組み敷いてるんじゃん?」
クスクスっと誹謗中傷のあと、クスクスと笑い声が聞こえた。
そうか……僕はずっと馬鹿にされていたんだ。新卒でストレートに就職した奴より僕は劣っている中途採用だと。募集されてもいない枠に僕が入ってきたことで、この部屋のバランスが崩れたのか。人はなんて……醜いんだろう。人を助けるための弁護士資格なのに。どうして……弁護士同士が争うのか。
まあ、これなら僕は仕事がなくなったから、定時であがれるけれど。胸が苦しいよ。
「あることないこと囁いて、新人潰しをしてくるのは変わらねえよな」
「岡田……書類に不備、あった?」
「いや。通りがかったら、グチグチ言ってるのが聞こえたから。これを小林が見たら、どんなに激怒するだろうか……って考えたらちょっと面白くて」
「は?」
「会議のとき佐藤さんがちょっと弄っただけで、すごい食いつきようだったから。大学の先輩だからってあそこまで……って。それにお前に資料集めを松本から押し付けられただろ? それがバレて、小林に絶賛叱られ中。秘書の美鈴さんも止めに入るくらいのヒートアップさ。見に行く?」
岡田がくいっと眉をあげて楽しそうに笑った。逆に僕は眉間に皺を寄せて立ち上がると、廊下に飛び出した。
速足で小林のオフィスに近づいていくと、美鈴さんが僕の胸倉をつかんできた。
「ちょっと!」
「はい? ああ……麗香さんにはオフィスに近づくなって言われてるけど……僕のことで怒ってるって」
「止めて!」
「ええ?」
麗香さんとの約束だから来るなとてっきり言われるかと思ったら……まさかの「止めて」に僕は驚いた。しかもかなり必死な表情だ。余裕の笑みで仕事をこなす美鈴さんらしくない。
「はやくっ!」
「はいはい!」
僕は美鈴さんに思い切り背中を押されて、ノックも出来ずに小林のオフィスのドアを開けていた。というより、押された勢いで手をついたドアを押していた。
「……ノックをしろ……って先輩?」
「ごめ。ノックの前に美鈴さんに思い切り押されちゃったから」
僕は振り返り美鈴さんを見ると、小林の視線も動いた。
「あとよろしくぅ」と美鈴が苦笑すると、勢いよくドアを閉められてしまう。
「ちょ……!」
僕は閉じていくドアに手を伸ばすが、美鈴がバイバイっと手を振ってさっさと自分のデスクに戻っていく。ウインクをして、イヤホンを片耳につけると、「さあ話して」と言わんばかりに手を差し伸べた。
また……盗聴する気だ、あの人……。
デスクに戻って続きの仕事にとりかかろうとすると、机の上にあったはずの大量のファイルが消えていた。
「……え? ない?」
顔をあげると周りの弁護士たちが冷たい目で僕を見ていた。
「告げ口されちゃたまらねえし」
「あいつ……美作所長の下僕なんじゃね?」
「採用の募集もかかってないのにいきなり中途採用って。訳アリだしな」
「毎晩、美作所長を組み敷いてるんじゃん?」
クスクスっと誹謗中傷のあと、クスクスと笑い声が聞こえた。
そうか……僕はずっと馬鹿にされていたんだ。新卒でストレートに就職した奴より僕は劣っている中途採用だと。募集されてもいない枠に僕が入ってきたことで、この部屋のバランスが崩れたのか。人はなんて……醜いんだろう。人を助けるための弁護士資格なのに。どうして……弁護士同士が争うのか。
まあ、これなら僕は仕事がなくなったから、定時であがれるけれど。胸が苦しいよ。
「あることないこと囁いて、新人潰しをしてくるのは変わらねえよな」
「岡田……書類に不備、あった?」
「いや。通りがかったら、グチグチ言ってるのが聞こえたから。これを小林が見たら、どんなに激怒するだろうか……って考えたらちょっと面白くて」
「は?」
「会議のとき佐藤さんがちょっと弄っただけで、すごい食いつきようだったから。大学の先輩だからってあそこまで……って。それにお前に資料集めを松本から押し付けられただろ? それがバレて、小林に絶賛叱られ中。秘書の美鈴さんも止めに入るくらいのヒートアップさ。見に行く?」
岡田がくいっと眉をあげて楽しそうに笑った。逆に僕は眉間に皺を寄せて立ち上がると、廊下に飛び出した。
速足で小林のオフィスに近づいていくと、美鈴さんが僕の胸倉をつかんできた。
「ちょっと!」
「はい? ああ……麗香さんにはオフィスに近づくなって言われてるけど……僕のことで怒ってるって」
「止めて!」
「ええ?」
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「はやくっ!」
「はいはい!」
僕は美鈴さんに思い切り背中を押されて、ノックも出来ずに小林のオフィスのドアを開けていた。というより、押された勢いで手をついたドアを押していた。
「……ノックをしろ……って先輩?」
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僕は振り返り美鈴さんを見ると、小林の視線も動いた。
「あとよろしくぅ」と美鈴が苦笑すると、勢いよくドアを閉められてしまう。
「ちょ……!」
僕は閉じていくドアに手を伸ばすが、美鈴がバイバイっと手を振ってさっさと自分のデスクに戻っていく。ウインクをして、イヤホンを片耳につけると、「さあ話して」と言わんばかりに手を差し伸べた。
また……盗聴する気だ、あの人……。
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