愛の物語を囁いて

ひなた翠

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イケない関係

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『英先生って、男子生徒に手を出して前の学校をクビになったんでしょ?』

『みんなには黙っててあげる。だから、僕を抱いて』

『教師の仕事はイメージが大切なんでしょ? 噂になったら、大変だよ』

『僕が英先生を守ってあげるから――』




 外からセミの鳴き声がうるさいくらいに聞こえてくる。

 きっと網戸にデカいセミがはりついて、鳴いているんだ。

「……ん、ん……あ、ああ、あっ」

 締めきった部屋の中で、うるさく鳴き続けるセミよりも大きな甘い声が僕の口から飛び出した。

 こんなセックス、初めてだ。

 ガンガンと奥にまで届く振動と感触に僕は何度、痙攣を起こしたことか。

「ん……っくぅ」と先生の感じる声が漏れ聞こえるだけで、僕はビクビクと震えてしまう。

「もう、ダメぇ」と僕は呟くと、シーツをぎゅっと掴んで、白濁の液を飛び散らせた。

 英先生のシングルベッドに僕の精液がぼたぼたと落ちる。

 正常位、バックを交互に繰り返し、三回目までは、ベッドを汚さないように気をつけていたけれど。四回目は、気持ち良さのあまりティッシュを取り忘れてしまった。

「ごめ……先生、僕、汚して……」

 荒い呼吸のまま、僕は慌ててティッシュへと手を伸ばした。

 2、3枚と手に取ると、濡れたシーツの上に置いた。

 ずるりと、僕の中から先生が出て行く。

「んあぁっ。駄目……まだ離れないで」

 僕は孔から抜きだそうとする先生の手首を慌てて掴んだ。

「先生がまだイッてない。お願い。僕の中で、イッて。中に出していいから」

「シャワーを浴びてくる」

 英先生が僕の制止も聞かずに、あっさりと離れて行った。

 ギシッとベッドが鳴り、先生が床に足をついた。

 素っ裸な先生の身体が、汗で光っている。スーツ姿ではわからなかったが、鍛え抜かれている締まった身体のラインがとても美しい。

 きっと常日頃から、身体を鍛えているのだろう。

「先生、待って。お願い……」

 僕の中で、イッて。

「四回イケば、満足だろ」

 先生は振り返らずに、浴室へと行ってしまった。

 すぐにシャワーの流れる水の音が聞こえてきた。

 英先生、一度もイッてくれなかった。

 僕はささっと汚れたシーツを拭きとると、ティッシュを丸めて小さなゴミ箱に投げ入れた。

 ベッドのスプリングに身体を預ける。

 先生が使っている柔軟剤の甘い香りが、ほのかに鼻についた。

 良い匂いだ。柔軟剤は何を使っているのだろう。

『四回イケば、満足だろ』

 先生の冷たい言葉が、頭の中で繰り返す。

 もしかして、先生は僕を怒っているのだろうか?

 なかば強制に近い形で、僕は先生と関係を持ったから。

 脅迫するつもりは無かった……はず、だったのに。

 夕日に佇む先生の寂しい横顔を見ていたら、ジッとしていられなくなった。

 なんとなく先生の噂は耳にしたことがあったから。事実かどうかは知らなかったけど、つい口から出ていた。

――英先生って、男子生徒に手を出して前の学校をクビになったんでしょ?――って。

 酷い生徒だと思ったよね。残酷な奴だって。

 先生の知られたくないだろう過去をいじくって、身体の関係を強要した。

 そりゃ、快感も得られないよね。

 シャワーの音が止まると、僕はパッと身体を起こした。

 気だるさの残る身体が、普段なら心地良いはずなのに。今日はただただ重いだけ。

 僕はベッドの下に散らばっている己の服をかき集めると、さくさくと着替え始めた。

 先生が、シャワーから出る前に姿を消さないと。

 きっと僕の顔なんか、見たくないだろうから。

 誰にも知られなくない先生の過去をいじろうとしている僕の顔なんて……。

 僕は最低人間だ。

 ガタガタンっと風呂場のドアが開く音がした。

 先生のシャワーが終わったんだ。急がないと。脱衣所兼洗面所で身体を拭いている間に、僕は姿を消すんだ。

 月曜日から、僕は先生と関係を持つ前までと同じ生徒に戻らない、と。

 僕は鞄のストラップを引っ掴むと、玄関へと足を向けた。

 ごめんなさい。週明けの月曜日には、今日のことは無かったことにしますから……。

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