眠れる獅子と眠らない獅子

ひなた翠

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第一幕 ハイランドとローランドの締結

契りの紅き徴2

 だからって言葉がわからないわけじゃない。幼い頃から、教育に組み込まれているし。だけど面倒だ。遠まわしに言ってるのもわかってる。でもどうにもできない。

 カイトという男は、結婚初夜にちょろりと顔を見せた以来、この部屋に顔も見せに来ない。そんな奴にどう接しろと言うのか?

 それに大きな問題がある。俺が『男』だってことが、最大の問題点だ。女には処女膜っつうのがあって、それが破られるとたいてい血が出る。

 その血がシーツを汚し、『ああ、こいつらはエッチしたな』と判別され、結婚の契りが結ばれた……となる。さらに妊娠でもすれば、両家の繋がりが一層濃くなり、契約成立ってなるのが大抵の流れだ。

 俺は男だからな。契りの徴もつけられないし、妊娠なんてさらに出来ねえ。ドリュの苛つく気持ちもわかるが、俺にはどうにもできない。

「妻なら、妻の役目を果たしてください」
 面倒くせっ……と思わず口から飛びでそうになり、言葉を飲み込んだ。

「それなら私に言うのではなく、カイト様にお口添えして頂戴。私はこの部屋で待っています、と。来ないのは、夫の責任です。私ではありません。夫がいなければ、契れませんし」
 契る気もねえけど……なんて心の中で呟いてみる。

「貴方に女のとしての魅力がないから、来ないのでは? カイト様の気に触れられるよう少しは努力をしたらどうです」
 さらに面倒くせえ……とか言いたくなる気持ちをぐっと堪えた。

 なんで俺が、ヤツの気に留められるように努力しなくちゃいけないんだ。だいたいあいつが、ハイランドが欲しいとかっつう我儘を言うから、結婚ってなったんだろうが。

 俺はぎろっとドリュを睨む。
 やっぱ我慢できねえ。言われっ放しって嫌いなんだよな。

 俺は立ち上がると、ドリュに近づきながら口を開いた。

「言わせてもらうけど、そっちが欲しいって言ったんだろ。今さら、愚痴ぐちと言われても腹立たしいんだよ。女としての魅力ってなんだよ。胸の谷間でも見せて、城内を歩けって言ってんのか? それとも太腿を見せろってか? ああ?」
 
ドリュが驚きの眼で俺を見ながら、背中をそり返す。俺の勢いと荒々しい言葉遣いに、嫌悪を抱いているようだ。

「ハイランドは強気な女が多いと聞いていますが、言葉遣いも態度も下品だとは……」
「なら、『カイトⅢ世がこの部屋に近づかず、寄りつこうともしない気持ちが理解できましたぁ』…てか? ふざけんなっつうの」

 俺はドリュの額を指でばちんと弾いてやった。
 妹が嫁に行かなくて本当に良かったよ。こんな冷酷で非常な奴らの巣に一人で、送り込まれるなんて可哀想だ。男の俺で本当に良かった。
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