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第12話 後編・願いと決意
空が夕焼け色に染まるまで
春は白鷺の力をコントロールし続けた。
白い靄は、意志に応えるように形を成し、
外側から守る膜のように、確かにそこに在る。
「……できてる」
思わず零れた声に、
蓮は小さく頷いた。
「今日のところは十分だ。
あとは、その感覚を忘れるな」
蓮を門扉の前まで見送りながら、
春は深く頭を下げた。
「蓮さん。
今日も、ありがとうございました」
「協力すると言ったのは俺だ。
礼を言う必要はない」
そう言いながらも、
蓮の視線は、春の周囲を取り囲む力を静かに追っていた。
「力を細く放出するイメージで使いこなせるようになれば、
彼方に吹き込む命の量も、いずれは調整できるようになる。
だが、それは次の段階でいい」
命を守ることが、最優先。
その意味が、今ははっきりと分かる。
けれど――
胸の奥に、どうしても引っかかるものがあった。
「……どうして、なんだろう」
不意に零れた春の言葉に、
蓮が視線を向ける。
「彼方の時だけなんです。
今まで、死者を視ることも、意図せずに触れてしまうこともあったのに。
……命を吹き込むなんて、そんなこと
一度も起こらなかった」
過去を探るように、
春は視線を落とす。
「……なんで、彼方の時だけ」
沈黙が落ちる。
しばらくして、蓮は静かに口を開いた。
「……彼方の思念は、他の死者と比べて、あまりにも強い」
春は顔を上げる。
「正確に言えば、
お前が命を与えていたわけじゃない」
一呼吸置いて、
蓮は続けた。
「――吸い取られていた、という方が近い」
その言葉に、
春の心がざわめいた。
「そんなこと……可能なんですか?」
「普通の死者には不可能だ。
だが、尋常ではない思念を抱えた彼方に、
お前の力が反応したとも考えられる」
蓮は、まっすぐ春を見る。
「白鷺の力は、宿主の意志に従い、
その選択に応じて動く。
お前が、彼方を想い願った。
その意志が、力を動かした可能性もある」
春の胸に、
ある想いが、静かに浮かび上がる。
――可哀想だと思った。
――彼方の願いを叶えられたら、と。
そう願ってしまった。
「……僕が、願ったから」
俯いた春の頭に、
大きな手がそっと乗せられる。
驚いて見上げると、
蓮に、くしゃりと髪を撫でられた。
「無知なまま力を使えば、
お前の命を危険にさらすだけでなく
彼方まで壊しかねない」
厳しい言葉。
けれど、その声音は、どこか柔らかい。
「……だが」
蓮は、はっきりと言った。
「決めたんだろう。
白鷺の力を使いこなして、
彼方の願いを叶えると」
その言葉に、春の瞳の奥に力強い光が宿る。
「はい。必ず」
決意に満ちた眼差しに、
蓮は、静かに春を見つめる。
やがて、その表情が、ふっと緩んだ。
口元に浮かんだのは、
春に向けて初めて見せる、柔らかな笑みだった。
傾いた夕日に垂らされたその顔は
恐ろしいほどに美しい。
春の瞳が驚きにゆっくりと見開かれていく。
蓮の瞳の奥には、優しい色が宿っていた。
その眼差しが、自分に向けられていることに、
春は胸の高鳴りを止めることが出来なかった。
「一つだけ、約束しろ」
蓮の声から、柔らかさが消える。
「お前は、まだ未熟だ。
俺の目の届かないところでは、
絶対に力を使うな」
それは、命令ではなく
蓮が、春を守ると決めた証だった。
「――約束だ」
蓮は、春が小さく頷くのを見ると、背を向けた。
夕暮れの中、
春は蓮の姿が見えなくなるまで、
その場に立ち尽くしているのだった。
春は白鷺の力をコントロールし続けた。
白い靄は、意志に応えるように形を成し、
外側から守る膜のように、確かにそこに在る。
「……できてる」
思わず零れた声に、
蓮は小さく頷いた。
「今日のところは十分だ。
あとは、その感覚を忘れるな」
蓮を門扉の前まで見送りながら、
春は深く頭を下げた。
「蓮さん。
今日も、ありがとうございました」
「協力すると言ったのは俺だ。
礼を言う必要はない」
そう言いながらも、
蓮の視線は、春の周囲を取り囲む力を静かに追っていた。
「力を細く放出するイメージで使いこなせるようになれば、
彼方に吹き込む命の量も、いずれは調整できるようになる。
だが、それは次の段階でいい」
命を守ることが、最優先。
その意味が、今ははっきりと分かる。
けれど――
胸の奥に、どうしても引っかかるものがあった。
「……どうして、なんだろう」
不意に零れた春の言葉に、
蓮が視線を向ける。
「彼方の時だけなんです。
今まで、死者を視ることも、意図せずに触れてしまうこともあったのに。
……命を吹き込むなんて、そんなこと
一度も起こらなかった」
過去を探るように、
春は視線を落とす。
「……なんで、彼方の時だけ」
沈黙が落ちる。
しばらくして、蓮は静かに口を開いた。
「……彼方の思念は、他の死者と比べて、あまりにも強い」
春は顔を上げる。
「正確に言えば、
お前が命を与えていたわけじゃない」
一呼吸置いて、
蓮は続けた。
「――吸い取られていた、という方が近い」
その言葉に、
春の心がざわめいた。
「そんなこと……可能なんですか?」
「普通の死者には不可能だ。
だが、尋常ではない思念を抱えた彼方に、
お前の力が反応したとも考えられる」
蓮は、まっすぐ春を見る。
「白鷺の力は、宿主の意志に従い、
その選択に応じて動く。
お前が、彼方を想い願った。
その意志が、力を動かした可能性もある」
春の胸に、
ある想いが、静かに浮かび上がる。
――可哀想だと思った。
――彼方の願いを叶えられたら、と。
そう願ってしまった。
「……僕が、願ったから」
俯いた春の頭に、
大きな手がそっと乗せられる。
驚いて見上げると、
蓮に、くしゃりと髪を撫でられた。
「無知なまま力を使えば、
お前の命を危険にさらすだけでなく
彼方まで壊しかねない」
厳しい言葉。
けれど、その声音は、どこか柔らかい。
「……だが」
蓮は、はっきりと言った。
「決めたんだろう。
白鷺の力を使いこなして、
彼方の願いを叶えると」
その言葉に、春の瞳の奥に力強い光が宿る。
「はい。必ず」
決意に満ちた眼差しに、
蓮は、静かに春を見つめる。
やがて、その表情が、ふっと緩んだ。
口元に浮かんだのは、
春に向けて初めて見せる、柔らかな笑みだった。
傾いた夕日に垂らされたその顔は
恐ろしいほどに美しい。
春の瞳が驚きにゆっくりと見開かれていく。
蓮の瞳の奥には、優しい色が宿っていた。
その眼差しが、自分に向けられていることに、
春は胸の高鳴りを止めることが出来なかった。
「一つだけ、約束しろ」
蓮の声から、柔らかさが消える。
「お前は、まだ未熟だ。
俺の目の届かないところでは、
絶対に力を使うな」
それは、命令ではなく
蓮が、春を守ると決めた証だった。
「――約束だ」
蓮は、春が小さく頷くのを見ると、背を向けた。
夕暮れの中、
春は蓮の姿が見えなくなるまで、
その場に立ち尽くしているのだった。
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