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第5話:太客(じいさん)がやってきた
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翌日。私は学校の教室で、退屈な授業を受けていた。 黒板の前で、数学教師が念仏のように数式を唱えている。二次方程式? 因数分解?
悪いけど、そんなものは異世界の王立アカデミーで五十年前に履修済みだよ。伊達に八十八年も生きてないっての。 補助魔法で脳ミソを強化するまでもない。前世の知識だけで十分、こんな問題、あくびしながらでも解けてしまう。
(……ああ、腰が痛い。この木の椅子、硬すぎるんだよ。クッションの一つでも持ってくるべきだったねぇ)
私は自分に回復魔法をかけられないもどかしさを感じながら、心の中で毒づき、頬杖をついた。 窓の外では、体育の授業で男子生徒たちがサッカーボールを追いかけて走り回っている。若いねえ。見ているだけで目が回るよ。
「――おい、小金沢!」
不意に、隣の席から小声で話しかけられた。 声の主は、犬井陸(いぬいりく)。クラスのお調子者で、年中ジャージを着ている体育会系男子だ。色黒で目がクリクリしていて、まさに「元気な子犬」って感じだ。
「……何?」
私は少しだけ顔を向けて、無表情で答えた。学校での私は「無口で大人しい美少女(自称)」という設定なのだ。
「お前さ、今日の放課後、暇か? 駅前に新しいクレープ屋ができたんだけど、一緒に行かね?」
陸が、顔を真っ赤にして誘ってきた。 ……ははん。なるほど。デートの誘いってやつかい。 十四歳の男子中学生が、なけなしの小遣いで好きな女の子をクレープに誘う。青春だねえ。甘酸っぱいねえ。
だが、断る。 私には、そんなガキんちょの遊びに付き合ってる暇はない。今、私の頭の中は、昨日の二万円でいっぱいなのだ。
「ごめん。私、用事があるから」
私はにべもなく断った。
「えっ……そ、そうか。忙しいんだな。じゃあ、また今度な!」
陸は分かりやすくしょんぼりと肩を落とした。尻尾が垂れ下がっているのが見えるようだ。 悪いね、ポチ。おばあちゃんは忙しいんだよ。
キーンコーンカーンコーン。 終業のチャイムが鳴った瞬間、私は誰よりも早く席を立ち、教室を飛び出した。
***
「お疲れ様です、社長!」
ボロアパートのドアを開けると、スーツ姿の善さんが直立不動で出迎えてくれた。 昨日とは打って変わって、スーツにはアイロンがかかり、髭も綺麗に剃られている。心なしか、背筋も伸びているようだ。自信というのは、人をここまで変えるもんかね。
「おっす、お疲れ」
畳の上でスマホゲームをしていたリオが、片手を上げる。こっちは相変わらずリラックスしすぎだ。受付係としての自覚が足りないね。
「準備はいいかい、善さん。今日は大事な客が来る予定だよ」
「はい! いつでも来いです! 昨日の部長の予約で、もう一件入ってますから!」
善さんが鼻息を荒くする。 昨日のパワハラ部長は、本当に取引先の社長を連れてくると連絡してきた。しかも、その社長というのが、この辺りでは有名な地元の名士、権藤(ごんどう)建設の会長だという。
(権藤厳山(ごんどうげんざん)……。噂じゃ、若い頃はかなりヤンチャしてたっていう、頑固一徹のジジイだ)
そんな大物が、こんなボロアパートの整体院に来るなんてね。あの部長も、よほど自分の手柄(良い整体師を見つけたこと)をアピールしたかったんだろう。
「リオ、お茶の用意は?」
「そこらのコンビニで買ってきた高級緑茶(ペットボトル)があるわよ。湯呑みは百均だけど」
「上等だ。……おっ、来たみたいだね」
私の【魔力感知】が、アパートの階段を上ってくる複数の足音を捉えた。 一つは、昨日の部長。もう一つは、重々しく、杖をつくようなリズムの足音。
コンコン。
「……どうぞ」
善さんが緊張した面持ちでドアを開ける。
「失礼するよ。……おい、本当にここなのか? 随分とまあ、風情のある場所だな」
低い、腹の底に響くような声とともに、一人の老人が入ってきた。 権藤厳山。七十歳過ぎだろうか。白髪の角刈りに、鋭い眼光。着ているのは高級なオーダーメイドスーツだが、その体からは隠しきれない「現場の男」のオーラが出ている。
後ろには、昨日の部長が揉み手をしながらついてきている。 「い、いやあ会長、場所は少々アレですが、腕は確かですから! 私の腰も、一発で治ったんですよ!」
「フン。お前の腰痛ごとき、マッサージ機でも治るだろう。ワシのこれは、年季が違うんだよ」
権藤会長は、不機嫌そうに杖で畳を突いた。
「……いらっしゃいませ。お待ちしておりました」
善さんが深々と頭を下げる。
「あんたが『ゴッドハンド』かい? 随分と若いな。まあいい。ワシの長年の神経痛、治せるもんなら治してみろ」
権藤会長はそう言うと、ドカッとシーツの上に座り込んだ。 右足を引きずっている。どうやら、古傷が神経痛となって痛むらしい。医者に見せても「加齢ですね」で片付けられてしまう、厄介なタイプの痛みだ。
(……なるほどね。これは、普通の整体じゃ絶対に治せないやつだ)
私は心の中でほくそ笑んだ。 最高の「実験台」が来たじゃないか。
「では、失礼します。うつ伏せになっていただけますか」
「チッ、面倒くさいのう……」
権藤会長がブツブツ言いながら、横になる。
私は善さんの背後に回り、いつものポジションについた。リオは受付の机(ミカン箱)で、興味なさそうにスマホをいじっているフリをしている。
善さんが、恐る恐る権藤会長の腰に手を置いた。
「……痛くしないでくれよ。今日は雨で、特に痛むんだ」
「は、はい。リラックスしてくださいねー……」
善さんが、ぎこちなく揉み始める。
(さあて、始めようかね)
私は権藤会長の体に意識を集中した。 右足の神経が、炎症を起こして赤く腫れ上がっているのが「視える」。神経の伝達異常だ。これじゃあ、常に痺れと痛みが走っているはずだ。
(――【神経修復(ナーブ・リペア)】、――【炎症鎮静(カーム・ダウン)】、仕上げに――【血行促進(ブラッド・ブースト)】!)
私の指先から、青白い魔力の光が糸のように伸び、善さんの体を通って、権藤会長の右足へと入り込んでいく。 損傷した神経を繋ぎ直し、炎症を抑え、滞っていた血流を一気に流す。
ピクリ、と権藤会長の体が反応した。
「……む?」
権藤会長が、訝しげな声を漏らす。 痛みがない。揉まれているのに、いつものような電気が走るような痛みがない。 それどころか、右足の先から、じんわりと温かいものが広がっていく感覚がある。
「……おい、若いの。あんた、今、何をした?」
「え? い、いや、普通に揉んでいるだけですが……?」
善さんが焦る。
権藤会長が、ゆっくりと体を起こした。 そして、恐る恐る、右足に体重をかけて立ち上がった。
いつもなら、立ち上がる瞬間に激痛が走るはずだった。杖なしでは一歩も歩けなかったはずだった。
それが。
「…………痛く、ない」
権藤会長が、自分の足を踏みしめた。 一度、二度。そして、軽くジャンプまでしてみせた。
「痛くない! 痛くないぞぉぉぉっ!」
権藤会長の声が、ボロアパートに響き渡った。 その顔は、驚きと、信じられないという表情で歪んでいる。
「馬鹿な……! 十年来の付き合いだったこの神経痛が、たった一度の施術で……!? どこの名医にかかっても治らなかったのに!」
権藤会長は、杖を放り投げ、スタスタと部屋の中を歩き回った。
「見える! 見えるぞ! 膝が笑っておらん! 足の裏に、畳の感触がある!」
まるでクララが立った時のような騒ぎだ。
後ろで見ていた部長が、腰を抜かした。「か、会長!? まさか、本当に……!?」
権藤会長は、善さんの目の前まで歩み寄ると、その両肩をガシッと掴んだ。
「……本物だ。あんたは、本物の『ゴッドハンド』だ!」
権藤会長の目には、うっすらと涙が浮かんでいた。長年の痛みから解放された喜びは、何物にも代えがたいのだろう。
「礼を言うぞ、板東先生! いやあ、素晴らしい! これなら、いくら払っても惜しくない!」
権藤会長は、懐から分厚い長財布を取り出すと、中身を確認もせずに、鷲掴みにした札束を善さんに押し付けた。
「こ、こんなに!? いえ、お代は五百円で……」
「馬鹿者! ワシの足を治したんだ、これくらい当然だろう! 受け取れ!」
善さんが助けを求めるように私を見る。 私は「貰っときな」と小さく頷いた。
権藤会長は上機嫌で、名刺を差し出した。
「板東先生、これからもワシの専属になってくれんか? 週に一度、いや、三日に一度は通わせてもらう! 会社の連中にも紹介してやるぞ!」
太客、ゲットだぜ。
権藤会長と部長が嵐のように去った後。 善さんの手には、十万円近い札束が握られていた。
「しゃ、社長……これ……」
善さんの手が震えている。
「やったね、善さん。これで、家賃が払えるじゃないか」
私は札束から半分を抜き取り、自分の懐に入れた。残りは善さんとリオの取り分だ。
「……すげえな。本当に治しちまったよ、あのジジイの足を」
リオが感心したように呟く。
「だから言っただろう? 私の魔法は本物だってね」
私はニヤリと笑った。 権藤会長のような地元の顔役を味方につけた意味は大きい。彼の口コミは、どんな広告よりも効果があるだろう。
「さあて、忙しくなるよ。明日はもっと客が増えるはずだ。善さん、予約表を作っておきな。リオ、お茶のランクをワンランク上げとくれ」
私は空っぽの貯金箱を振った。まだ軽い音がするが、すぐに札束でいっぱいになるはずだ。
(フフフ……待ってなさいよ、私の熱海のリゾートマンション!)
八十八歳の野望は、まだ始まったばかりだ。
悪いけど、そんなものは異世界の王立アカデミーで五十年前に履修済みだよ。伊達に八十八年も生きてないっての。 補助魔法で脳ミソを強化するまでもない。前世の知識だけで十分、こんな問題、あくびしながらでも解けてしまう。
(……ああ、腰が痛い。この木の椅子、硬すぎるんだよ。クッションの一つでも持ってくるべきだったねぇ)
私は自分に回復魔法をかけられないもどかしさを感じながら、心の中で毒づき、頬杖をついた。 窓の外では、体育の授業で男子生徒たちがサッカーボールを追いかけて走り回っている。若いねえ。見ているだけで目が回るよ。
「――おい、小金沢!」
不意に、隣の席から小声で話しかけられた。 声の主は、犬井陸(いぬいりく)。クラスのお調子者で、年中ジャージを着ている体育会系男子だ。色黒で目がクリクリしていて、まさに「元気な子犬」って感じだ。
「……何?」
私は少しだけ顔を向けて、無表情で答えた。学校での私は「無口で大人しい美少女(自称)」という設定なのだ。
「お前さ、今日の放課後、暇か? 駅前に新しいクレープ屋ができたんだけど、一緒に行かね?」
陸が、顔を真っ赤にして誘ってきた。 ……ははん。なるほど。デートの誘いってやつかい。 十四歳の男子中学生が、なけなしの小遣いで好きな女の子をクレープに誘う。青春だねえ。甘酸っぱいねえ。
だが、断る。 私には、そんなガキんちょの遊びに付き合ってる暇はない。今、私の頭の中は、昨日の二万円でいっぱいなのだ。
「ごめん。私、用事があるから」
私はにべもなく断った。
「えっ……そ、そうか。忙しいんだな。じゃあ、また今度な!」
陸は分かりやすくしょんぼりと肩を落とした。尻尾が垂れ下がっているのが見えるようだ。 悪いね、ポチ。おばあちゃんは忙しいんだよ。
キーンコーンカーンコーン。 終業のチャイムが鳴った瞬間、私は誰よりも早く席を立ち、教室を飛び出した。
***
「お疲れ様です、社長!」
ボロアパートのドアを開けると、スーツ姿の善さんが直立不動で出迎えてくれた。 昨日とは打って変わって、スーツにはアイロンがかかり、髭も綺麗に剃られている。心なしか、背筋も伸びているようだ。自信というのは、人をここまで変えるもんかね。
「おっす、お疲れ」
畳の上でスマホゲームをしていたリオが、片手を上げる。こっちは相変わらずリラックスしすぎだ。受付係としての自覚が足りないね。
「準備はいいかい、善さん。今日は大事な客が来る予定だよ」
「はい! いつでも来いです! 昨日の部長の予約で、もう一件入ってますから!」
善さんが鼻息を荒くする。 昨日のパワハラ部長は、本当に取引先の社長を連れてくると連絡してきた。しかも、その社長というのが、この辺りでは有名な地元の名士、権藤(ごんどう)建設の会長だという。
(権藤厳山(ごんどうげんざん)……。噂じゃ、若い頃はかなりヤンチャしてたっていう、頑固一徹のジジイだ)
そんな大物が、こんなボロアパートの整体院に来るなんてね。あの部長も、よほど自分の手柄(良い整体師を見つけたこと)をアピールしたかったんだろう。
「リオ、お茶の用意は?」
「そこらのコンビニで買ってきた高級緑茶(ペットボトル)があるわよ。湯呑みは百均だけど」
「上等だ。……おっ、来たみたいだね」
私の【魔力感知】が、アパートの階段を上ってくる複数の足音を捉えた。 一つは、昨日の部長。もう一つは、重々しく、杖をつくようなリズムの足音。
コンコン。
「……どうぞ」
善さんが緊張した面持ちでドアを開ける。
「失礼するよ。……おい、本当にここなのか? 随分とまあ、風情のある場所だな」
低い、腹の底に響くような声とともに、一人の老人が入ってきた。 権藤厳山。七十歳過ぎだろうか。白髪の角刈りに、鋭い眼光。着ているのは高級なオーダーメイドスーツだが、その体からは隠しきれない「現場の男」のオーラが出ている。
後ろには、昨日の部長が揉み手をしながらついてきている。 「い、いやあ会長、場所は少々アレですが、腕は確かですから! 私の腰も、一発で治ったんですよ!」
「フン。お前の腰痛ごとき、マッサージ機でも治るだろう。ワシのこれは、年季が違うんだよ」
権藤会長は、不機嫌そうに杖で畳を突いた。
「……いらっしゃいませ。お待ちしておりました」
善さんが深々と頭を下げる。
「あんたが『ゴッドハンド』かい? 随分と若いな。まあいい。ワシの長年の神経痛、治せるもんなら治してみろ」
権藤会長はそう言うと、ドカッとシーツの上に座り込んだ。 右足を引きずっている。どうやら、古傷が神経痛となって痛むらしい。医者に見せても「加齢ですね」で片付けられてしまう、厄介なタイプの痛みだ。
(……なるほどね。これは、普通の整体じゃ絶対に治せないやつだ)
私は心の中でほくそ笑んだ。 最高の「実験台」が来たじゃないか。
「では、失礼します。うつ伏せになっていただけますか」
「チッ、面倒くさいのう……」
権藤会長がブツブツ言いながら、横になる。
私は善さんの背後に回り、いつものポジションについた。リオは受付の机(ミカン箱)で、興味なさそうにスマホをいじっているフリをしている。
善さんが、恐る恐る権藤会長の腰に手を置いた。
「……痛くしないでくれよ。今日は雨で、特に痛むんだ」
「は、はい。リラックスしてくださいねー……」
善さんが、ぎこちなく揉み始める。
(さあて、始めようかね)
私は権藤会長の体に意識を集中した。 右足の神経が、炎症を起こして赤く腫れ上がっているのが「視える」。神経の伝達異常だ。これじゃあ、常に痺れと痛みが走っているはずだ。
(――【神経修復(ナーブ・リペア)】、――【炎症鎮静(カーム・ダウン)】、仕上げに――【血行促進(ブラッド・ブースト)】!)
私の指先から、青白い魔力の光が糸のように伸び、善さんの体を通って、権藤会長の右足へと入り込んでいく。 損傷した神経を繋ぎ直し、炎症を抑え、滞っていた血流を一気に流す。
ピクリ、と権藤会長の体が反応した。
「……む?」
権藤会長が、訝しげな声を漏らす。 痛みがない。揉まれているのに、いつものような電気が走るような痛みがない。 それどころか、右足の先から、じんわりと温かいものが広がっていく感覚がある。
「……おい、若いの。あんた、今、何をした?」
「え? い、いや、普通に揉んでいるだけですが……?」
善さんが焦る。
権藤会長が、ゆっくりと体を起こした。 そして、恐る恐る、右足に体重をかけて立ち上がった。
いつもなら、立ち上がる瞬間に激痛が走るはずだった。杖なしでは一歩も歩けなかったはずだった。
それが。
「…………痛く、ない」
権藤会長が、自分の足を踏みしめた。 一度、二度。そして、軽くジャンプまでしてみせた。
「痛くない! 痛くないぞぉぉぉっ!」
権藤会長の声が、ボロアパートに響き渡った。 その顔は、驚きと、信じられないという表情で歪んでいる。
「馬鹿な……! 十年来の付き合いだったこの神経痛が、たった一度の施術で……!? どこの名医にかかっても治らなかったのに!」
権藤会長は、杖を放り投げ、スタスタと部屋の中を歩き回った。
「見える! 見えるぞ! 膝が笑っておらん! 足の裏に、畳の感触がある!」
まるでクララが立った時のような騒ぎだ。
後ろで見ていた部長が、腰を抜かした。「か、会長!? まさか、本当に……!?」
権藤会長は、善さんの目の前まで歩み寄ると、その両肩をガシッと掴んだ。
「……本物だ。あんたは、本物の『ゴッドハンド』だ!」
権藤会長の目には、うっすらと涙が浮かんでいた。長年の痛みから解放された喜びは、何物にも代えがたいのだろう。
「礼を言うぞ、板東先生! いやあ、素晴らしい! これなら、いくら払っても惜しくない!」
権藤会長は、懐から分厚い長財布を取り出すと、中身を確認もせずに、鷲掴みにした札束を善さんに押し付けた。
「こ、こんなに!? いえ、お代は五百円で……」
「馬鹿者! ワシの足を治したんだ、これくらい当然だろう! 受け取れ!」
善さんが助けを求めるように私を見る。 私は「貰っときな」と小さく頷いた。
権藤会長は上機嫌で、名刺を差し出した。
「板東先生、これからもワシの専属になってくれんか? 週に一度、いや、三日に一度は通わせてもらう! 会社の連中にも紹介してやるぞ!」
太客、ゲットだぜ。
権藤会長と部長が嵐のように去った後。 善さんの手には、十万円近い札束が握られていた。
「しゃ、社長……これ……」
善さんの手が震えている。
「やったね、善さん。これで、家賃が払えるじゃないか」
私は札束から半分を抜き取り、自分の懐に入れた。残りは善さんとリオの取り分だ。
「……すげえな。本当に治しちまったよ、あのジジイの足を」
リオが感心したように呟く。
「だから言っただろう? 私の魔法は本物だってね」
私はニヤリと笑った。 権藤会長のような地元の顔役を味方につけた意味は大きい。彼の口コミは、どんな広告よりも効果があるだろう。
「さあて、忙しくなるよ。明日はもっと客が増えるはずだ。善さん、予約表を作っておきな。リオ、お茶のランクをワンランク上げとくれ」
私は空っぽの貯金箱を振った。まだ軽い音がするが、すぐに札束でいっぱいになるはずだ。
(フフフ……待ってなさいよ、私の熱海のリゾートマンション!)
八十八歳の野望は、まだ始まったばかりだ。
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