異世界で大往生した私、現代日本に帰還して中学生からやり直す。~最強の補助魔法で、冴えないおっさんと最強美女を操って大金持ちになります~

タカノ

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第7話:新居は、出る(幽霊が)

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「……高い。高すぎるよ、日本の不動産事情は!」

私はアパートの傾いた畳の上で、不動産屋から貰ってきた物件案内図面をバシバシと叩いた。

「駅徒歩五分、築二十年、1DKで家賃八万!? 礼金二ヶ月!? 泥棒じゃないか!」

「しゃ、社長。これでも、この辺りでは相場より安い方でして……」

善さんが申し訳なさそうに言う。彼は昨日から、私の無茶振りな条件(広くて、頑丈で、駅から近くて、激安な物件)をクリアすべく、不動産屋を何軒も回らされていたのだ。

「こっちの物件は? 元ラーメン屋の居抜き。厨房設備付きで十五万」

「油臭そうだから却下」

「じゃあ、こっちは? 駅前の新築オフィスビル。五十坪で……」

「家賃五十万!? 馬鹿お言い、そんなの払ったら私の老後資金が消し飛ぶよ!」

私は頭を抱えた。異世界では国から土地も屋敷もタダで貰えていたから、この「場所代」という概念がどうにも腹立たしい。

「……ねえ。これ、何?」

それまで黙って私の横で柿ピーをかじっていたリオが、書類の束から一枚の図面を引っ張り出した。

「ん?」

見てみると、それは駅前の繁華街から少し外れた裏通りにある、築三十年の雑居ビルの情報だった。 3階建ての2階部分。広さは二十坪(約六十六平米)。今の六畳一間に比べれば天国のような広さだ。

で、家賃は――驚きの「五万円」。

「……は? 五万? 桁が一つ間違ってるんじゃないのかい?」

「あ、えっと……それはですね……」

善さんが急に言い淀んだ。視線を泳がせ、冷や汗をかいている。

「その物件、不動産屋さんも最初は隠してたんですけど、私がしつこく安いところって言ったら、渋々出してきて……。その、いわくつき、というか……」

「いわくつき?」

「……『出る』らしいんですよ」

善さんが声を潜めた。

「前のテナントは学習塾だったらしいんですが、生徒が『夜中に子供の泣き声がする』とか『トイレの花子さんを見た』とか言い出して、一ヶ月で夜逃げしたそうで……。その前も、その前も、長続きしないとかで……」

「へえ」

私は柿ピーを一つ摘み、ポリポリとかじった。

「……幽霊かい」

「ひっ! しゃ、社長、怖くないんですか!?」

「何言ってんだい。生きてる人間の方がよっぽど怖いよ。借金取りとか、税務署とかね」

私は鼻で笑い飛ばした。 八十八年も生きてりゃ、幽霊の類いなんて何度か遭遇したことがある。異世界にはアンデッドモンスターなんてのもウジャウジャいたしね。それに比べりゃ、日本の幽霊なんて可愛いもんさ。

「それに、家賃五万だよ? 礼金・敷金ゼロ。更新料なし。こんな好条件、幽霊の一人や二人出たって安いもんじゃないか」

「で、でも……!」

「決まりだ。善さん、すぐに内見の予約を入れな。明日見に行くよ」

「えええぇぇ……」

善さんの情けない声が、傾いた部屋に響いた。

***

翌日。 私たちは問題の雑居ビルの前に立っていた。 外壁は薄汚れたグレーで、窓ガラスは埃で曇っている。一階にはシャッターが閉まったままの古本屋があり、全体的にどんよりとした空気が漂っている。

「こちらです……。足元にお気をつけください……」

案内してくれた不動産屋の中年男性も、心なしか顔色が悪い。塩を撒きながら歩きたい気分なのだろう。

ギシギシと鳴る薄暗い階段を上り、二階のフロアへ。 ドアを開けた瞬間。

ゾワリ。

私の肌が粟立った。 (……なるほど。こりゃあ、いるね)

カビと埃の匂いに混じって、淀んだ、冷たい空気が肌にまとわりついてくる。私の【魔力感知】が、部屋の隅々から発せられる微弱な負のエネルギーを捉えた。

別に悪霊ってほどじゃない。この場所に染み付いた、過去の住人たちのネガティブな感情の吹き溜まりみたいなものだ。それが時々、ラップ音やら何やらの怪奇現象を引き起こすのだろう。

「ううっ……なんか、寒気がします……」

霊感ゼロのはずの善さんですら、ガタガタ震えている。リオは「カビ臭いな」と鼻をつまんでいるだけだが。

「ど、どうされますか? 正直、あまりおすすめはしませんが……」

不動産屋が早く帰りたそうに言った。

私は部屋の中央までスタスタと歩いていった。広さは十分だ。簡単な間仕切りを作れば、施術スペースと待合室を分けられる。トイレも小さいがある。

「……気に入ったよ。ここに決める」

「えっ!? ほ、本当ですか!?」

不動産屋が目を丸くした。

「ああ。ただし、条件がある。このカビ臭いのと、窓の汚れ。入居までにクリーニングしてくれるなら、即決するよ」

「も、もちろんです! 大家さんも喜びます!」

不動産屋は契約書を取りに戻るため、慌てて階段を駆け下りていった。

部屋に残されたのは、私と、震えるおっさんと、不機嫌なヤンキー女。そして――見えない「先客」たち。

「……さて」

私は誰もいない部屋の隅に向かって、声をかけた。

「悪いけど、ここ、私たちが借りるからね。出て行っとくれ」

当然、返事はない。代わりに、ピシッというラップ音が鳴った。威嚇かい? 生意気な。

「……社長、誰と話してるんですか……?」

善さんが涙目で後ずさる。

私はため息をつき、両手をパンと打ち鳴らした。

「仕方ないねえ。少し荒療治といこうか」

私は体内の魔力を練り上げ、部屋全体へと拡散させた。 使うのは、神聖魔法の一つ【浄化(ピュリファイ)】。アンデッドや呪いを消し去る、聖女の得意技だ。

(――悪しきものよ、去れ。ここは光が満ちる場所なり)

カッ!!

目に見えない、しかし強烈な清浄な光が、部屋の隅々まで炸裂した。

ギャアアァァァ……(という幻聴が聞こえた気がする)。

淀んでいた空気が、一瞬で弾け飛んだ。 ジメジメしていた湿気が消え、代わりにカラッとした、陽だまりのような温かい空気が満ちる。

「……あれ?」

善さんがキョロキョロと辺りを見回した。

「なんか、急に空気が美味くなったような……? 寒気も消えたぞ?」

「換気扇が回ったんじゃないの?」

リオが適当なことを言う。

私は満足げに頷いた。これで「出る」問題は解決だ。 ついでに、部屋全体に強力な【防虫・防カビ・抗菌結界】も張っておいた。これでゴキブリも寄り付かないクリーンな環境の出来上がりだ。

「……フフフ。相場の半額以下で、優良物件ゲットだぜ」

私は誰もいない空間に向かって、ニヤリと笑った。 幽霊さんたち、ありがとうよ。あんたたちのおかげで、私の老後資金がまた少し潤ったよ。

こうして私たちは、新たな「城」を手に入れた。 株式会社『コガネ』第二章、スタートだ!
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