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第46話:聖女アリスの『異端審問』! 学園祭は断罪のステージ!?
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「……やっと見つけましたわ。『先代聖女』様?」
教室の空気が凍りついた。 転校生、アリス・サンクチュアリ。 彼女の放った言葉は、クラスメイトたちには「イタイ中二病発言」に聞こえただろう。 だが、私にとっては死刑宣告にも等しい一言だった。
「……何の冗談かな? アリスさん」
私は頬を引きつらせながら、精一杯の「無垢な中学生」スマイルを返した。
「聖女? ゲームの話? 私、そういうの詳しくなくて……」
「とぼけても無駄です」
アリスは私の机に歩み寄り、至近距離で私の瞳を覗き込んだ。 その碧眼(へきがん)は、透き通るように美しいが、同時に底知れない狂信的な光を宿している。
「私には視(み)えます。あなたの魂に刻まれた、かつて世界を救った『聖なる光』の残滓が。……そして、その光が今、どす黒い『欲望(カネ)』と『邪悪(魔王)』にまみれて濁っていることも!」
「……失敬な。濁ってるんじゃないよ、熟成されたんだよ」
おっと、本音が漏れた。
「えーっと、アリスちゃん? いきなり何の話?」 クラスの女子が戸惑って声をかける。
アリスはパッと笑顔になり、クラスメイトに向き直った。
「ごめんなさい! 私、日本の『アニメ』にすごく興味があって……つい、なりきってしまいましたの! テヘッ☆」
「なーんだ、ビックリしたー!」 「可愛い~! オタクなんだ!」
クラスの空気が一瞬で緩んだ。 ……こいつ、デキる。 「聖女の愛嬌(広範囲バフ)」というスキルを完璧に使いこなしている。外面の良さなら私も負けないが、彼女のそれは天然モノだ。
だが、私に向ける視線だけは、冷徹な異端審問官のそれだった。
***
昼休み。屋上。 私はアリスに呼び出された。 レオナルド(勇者)も、心配そうについてきている。
「……単刀直入に言いますわ」
アリスは修道服のような制服のスカートを翻し、私を指差した。
「小金沢ヒナ。あなたは『堕ち』ましたね?」
「……人聞きが悪いね。私はただ、第二の人生をエンジョイしているだけさ」
「嘘です! あなたの家からは、禍々しい魔王の気配と、吸血鬼、そして魔獣の悪臭がプンプンします!」
アリスが鼻をつまむ。 まあ、昨日はバッファロー(牛男)も加わったからね。獣臭さは否定できない。
「かつての聖女が、あろうことか魔王を匿い、使役しているなど……これは重大な『教義違反(ヘレシー)』です。即刻、教会へ連行し、再教育を行います!」
アリスが懐から、分厚い聖書(鈍器)を取り出した。
「待ってください、アリス!」
レオナルドが割って入った。
「彼女は……確かに怪しいですが、今はまだ『監視対象』です。魔王も力を失っていますし、今のところ人間に害はなしていません」
「レオナルド様! あなた、この魔女にたぶらかされているのですか!?」
アリスが悲痛な叫びを上げる。
「魔女ではありません。彼女は……その、僕の『友達』です」
「と、と……!?」
アリスが絶句した。 そして、私をギロリと睨んだ。
「……なるほど。勇者様まで籠絡(ろうらく)するとは。恐ろしい『年増』のテクニックですわね」
「誰が年増だ。ピチピチの14歳だよ」 中身88歳だけど。
「よろしいでしょう」
アリスは聖書を閉じた。
「力ずくで連行するのは簡単ですが、それではレオナルド様の目が覚めないかもしれません。……そこで、決闘を申し込みます」
「決闘? 野蛮だねぇ。まさか殴り合いかい?」
「いいえ。……聖女たるもの、人望で勝負です」
アリスはニヤリと笑った。
「来週の『学園祭』。……それぞれのクラスの『出し物』で勝負です。もし私のクラスが、あなたのクラスより多くの『売上』と『集客』を稼いだら……あなたの負け。大人しく浄化されていただきます」
「……ほう」
私の目が光った。 魔力勝負なら分が悪いが、「売上」勝負? 商売で私に挑もうって言うのかい?
「面白い。受けて立つよ」
私は腕を組んだ。
「逆に私が勝ったら?」
「……その時は、あなたの『堕落』を一時的に黙認しましょう。そして、私があなたの監視役(メイド)として、その腐った性根を叩き直して差し上げます!」
「メイドはいらないけど……まあいい。契約成立だ」
聖女vs元聖女。 どちらも「支援職」ゆえに、自分一人では戦えない。 だからこそ、他人を巻き込んだ「集客バトル」になるのは必然だ。
***
放課後。コガネ・タワー。 私は緊急家族会議を招集した。
「……というわけで。来週の学園祭、絶対に負けられない戦いが始まった」
私がちゃぶ台を叩くと、ルシファー(着物)、ヴェルベット(ジャージ)、バッファロー(作業着)、リオ、鏡、善さんが顔を上げた。
「学園祭か……。我も行ってよいのか?」 ルシファーが目を輝かせる。
「行くも何も、あんたたちが『主力』だよ」
私はホワイトボードに作戦名を書きなぐった。
【オペレーション・マネー・イズ・パワー】
「私のクラスの出し物は『喫茶店』に決まった。……だが、ただの喫茶店じゃない。アリスのクラスは、聖女のカリスマを使った『正統派メイドカフェ』で来るはずだ。真っ向勝負じゃ勝てない」
「では、どうするのじゃ?」 ヴェルベットがポテチを食いながら聞く。
「……『コンセプト』で殴るんだよ」
私はニヤリと笑った。
「いいかい。あんたたちには、私のクラスの『特別ゲスト』として働いてもらう」
私はそれぞれの配役を発表した。
・ルシファー: 『イケオジ執事』。着物ではなく燕尾服を着せ、圧倒的覇気で客を沼らせる。
・ヴェルベット: 『生意気ロリ吸血鬼メイド』。罵倒接客でコアなファン層(ドM)を狙い撃ち。
・バッファロー: 『怪力着ぐるみマスコット』。中の人などいない設定で、子供と女性客を釣る。
・善さん: 『伝説の整体師による肩もみサービス』。疲れた保護者を根こそぎ癒やす。
・リオ&鏡: バックヤードでの調理と、SNSでのステルスマーケティング(情報操作)。
「……完璧だ」
私は自画自賛した。 魔王軍のカリスマと、現代のマーケティング理論の融合。 これで負ける要素はない。
「ヒナよ。……我は執事などせぬぞ。王だぞ」 ルシファーが不満げに言う。
「売上が一位になったら、最高級プリン『天国の口溶け(一個二千円)』を一年分やるよ」
「……『お帰りなさいませ、お嬢様』」 ルシファーが即座に膝をついた。 プライドの安売りだ。
「よし、準備開始だ! アリスの鼻を明かしてやるよ!」
***
そして、学園祭当日。
校門には『第XX回 文化祭』のアーチ。 だが、その空気は異様だった。
『いらっしゃいませ~! 聖女アリスの「奇跡のパンケーキ」はいかがですか~?』
校庭の一等地に、アリスのクラスが出店した巨大なテントがあった。 白を基調とした神聖な雰囲気。 アリス本人が、純白のエプロンドレスを着て、慈愛の微笑みで客引きをしている。
「……あ、アリス様……! 尊い……!」 「パンケーキを食べたら、なんか元気が出た!」 「疲れが吹き飛んだ! もう一皿!」
客たちが幸せそうな顔でパンケーキを食べている。 あれは……パンケーキに微弱な【体力回復】と【精神高揚】の支援魔法をかけているね。 ドーピングすれすれだが、聖女としては正しい力の使い方だ。
「……やるねぇ、現役聖女」
私は校舎の3階、自分たちの教室からそれを見下ろした。 アリスのテントには長蛇の列。 一方、ウチのクラスの喫茶店『魔界の誘惑』は……まだ客足が鈍い。
「……ヒナ。客が来ぬぞ。我の執事服が無駄になる」 ルシファーが暇そうに紅茶を淹れている。
「焦るんじゃないよ。……鏡、仕込みは?」
インカム越しに鏡の声。 『完了しました。……学園祭の公式SNS、および周辺の地域掲示板に、「ヤバい店がある」と拡散済みです』
「よし。……作戦開始だ!」
私が指を鳴らすと、教室の扉が開かれた。
「おい、人間ども! 妾の給仕を受けたい変態はどこじゃ!」
ヴェルベットが廊下に出て、通りがかりの男子生徒を指差した。
「そこの眼鏡! お前じゃ! さっさと入らぬか!」
「は、はいぃぃ! 入りますぅぅ!」 罵倒された男子が、幸せそうな顔で吸い込まれていく。
「グルルッ! モフモフシテモイイゾ!」 バッファロー(着ぐるみ設定だが、ほぼ生身)が、女子高生たちに囲まれて筋肉ポーズを決める。 「キャー! キモーい! でもすごーい!」
そして、極めつけは。
「……迷える子羊たちよ。癒やしを求めているかね?」
ルシファーが、低音ボイス(覇気マシマシ)で、PTAのマダムたちに微笑みかけた。
「……ッ!!」
ズキュゥゥゥン! マダムたちのハートが撃ち抜かれる音が聞こえた。
「す、素敵……!」 「あの方、誰なの!? 校長先生!?」 「いいえ、もっと高貴な……王族のオーラよ!」
マダムたちが雪崩のように教室に押し寄せる。
「いらっしゃいませー!!」 クラスメイトたちが悲鳴のような歓声を上げる。
私の作戦は的中した。 アリスの「回復」に対し、こちらは「支配」と「中毒性」で対抗する。 午後には、ウチのクラスの廊下は満員電車のような有様になった。
「……ぐぬぬ……! 何ですの、あの邪悪な行列は!」
グラウンドのアリスが、悔しそうにこちらを睨んでいる。 彼女のパンケーキも売れているが、こちらの「魔王執事の紅茶(一杯千円)」の利益率には勝てない。
勝負あったか。 そう思った時だった。
『キャアアアアアッ!!』
校庭から悲鳴が上がった。
「……なんだい!?」
窓から見下ろすと、アリスのテントの横で、地面が割れ、黒い煙が噴き出していた。
「……時空の亀裂!?」
煙の中から現れたのは、巨大な芋虫のような魔物。 『魔界ワーム』だ。 なぜこんな時に!? おそらく、ここに集まったルシファーたちの魔力に引き寄せられたんだ。
「……ふふっ。チャンスですわ!」
アリスが叫んだ。
「皆様! 逃げてください! 私が食い止めます!」
アリスがエプロンを脱ぎ捨て、修道服姿に戻る。 そして、光り輝く杖(本物)を取り出した。
「聖なる盾よ! 我らを守り給え!」
(――防御術式展開。【聖域の盾(サンクチュアリ・シールド)】!)
アリスの前に、巨大な光の障壁が出現した。 ワームが頭から突っ込むが、バィィィン! と弾かれる。
「……おおっ! すごい!」 「アリスちゃんが守ってくれた!」
生徒たちから歓声が上がる。 しかし。
「……くっ、重い……!」
アリスの顔が歪む。 ワームは巨大な体で、何度も何度も障壁に体当たりをしてくる。 ドガン! ドガン!
そう、聖女は「守る」ことはできても、「倒す」ことはできない。 攻撃魔法を持たない彼女には、決定打(DPS)がないのだ。 普段なら勇者(レオナルド)が剣を振るうところだが、彼は今、別の場所で警備に当たっていて間に合わない。
「……誰か! 攻撃を! 私の手が塞がっている間に!」
アリスが叫ぶが、周りにいるのはただの生徒たちだ。 ワームは障壁の下の土を掘り返し、アリスの足元から侵入しようとしている。
「……まずいね。あの子、食われるよ」
私は教室の窓から身を乗り出した。 私も聖女(元)だ。攻撃魔法は使えない。 アリスと同じく、私にも決定打はない。
だが、私には「手駒(筋肉)」がいる。
「……バッファロー! 善さん! 出番だよ!」
「ヒナ! どうするのじゃ!?」 ヴェルベットが聞く。
「……『人間砲弾』だ!」
私は善さんの背中をバシッと叩いた。
(――支援術式。【鋼鉄の肉体(アイアン・ボディ)】・【衝撃吸収(ショック・アブソーブ)】!)
「バッファロー! 善さんを投げろ! あのワームの眉間を狙え!」
「承知! 食ラエ!」
バッファローが、金色のオーラを纏ってカチカチになった善さんを、片手でひっつかんだ。
「ええええええええ!?」 善さんが手足をバタつかせる。
「パパ・ミサイル、発射!!」
ドヒュオオオオッ!!
バッファローの剛腕から放たれた善さんが、音速で空を飛んだ。
「ひぃぃぃぃぃぃ!!」
ドゴォォォォォン!!!
鋼鉄と化した善さんの頭突きが、ワームの眉間にクリーンヒットした。 アリスの障壁を越え、物理的な質量攻撃がワームの脳天を砕く。
ワームは「ギュエッ!?」と鳴き声を上げ、校庭の真ん中に落下して気絶した。 善さんは反動でバウンドし、花壇にスポッと埋まった。
静まり返る校庭。 土煙の中、アリスがへたり込む。
「……な、何ですの……今の……」
花壇から這い出した善さん(無傷)が、震えながら手を振った。
「……あ、あの……肩こり解消にいかがですか?」
『おおおおおーーーっ!!』
割れんばかりの拍手が巻き起こった。 「すげえ! あの整体師、体当たりで魔物を倒したぞ!」 「さすがゴッドハンド!」 「演出か!? すごいショーだ!」
アリスが、ポカンと口を開けてその光景を見ていた。 彼女の「守るだけの奇跡」よりも、善さんの「体を張った攻撃(?)」が、観客の心を掴んでしまったのだ。
「……勝負あり、だね」
私はニヤリと笑った。 聖女に必要なのは祈りじゃない。物理(タンクとアタッカー)を指揮する能力さ。
後日。 売上集計の結果、私たちのクラスが圧勝。 アリスは悔し涙を流しながら、約束通り私の元へやってきた。
「……約束ですわ。しばらくの間、あなたの『メイド』になって監視してあげます」
「だからいらないって」
「いいえ! 敵を知るには懐からです! ……それに」
アリスは私の部屋(コガネ・タワー)を見回し、ボソッと言った。
「……ここ、教会の寮よりご飯が美味しそうですし」
こうして。 勇者に続き、聖女までもが我が家に居候することになった。 魔王、四天王、マッドサイエンティスト、勇者、聖女。 ……これ、何のパーティだっけ?
だが、平穏(カオス)は束の間。 新たな脅威は、空からでも、異世界からでもなく。 「地下」から迫っていた。
コガネ・タワーの地下深層。 紫雲が掘り進めていた「魔力炉」のさらに奥で。 ついに「それ」が目を覚ます。
次回、「地下ダンジョン発見!? ヒナ、埋蔵金(あくま)を掘り当てて大儲け?」 お楽しみに!
教室の空気が凍りついた。 転校生、アリス・サンクチュアリ。 彼女の放った言葉は、クラスメイトたちには「イタイ中二病発言」に聞こえただろう。 だが、私にとっては死刑宣告にも等しい一言だった。
「……何の冗談かな? アリスさん」
私は頬を引きつらせながら、精一杯の「無垢な中学生」スマイルを返した。
「聖女? ゲームの話? 私、そういうの詳しくなくて……」
「とぼけても無駄です」
アリスは私の机に歩み寄り、至近距離で私の瞳を覗き込んだ。 その碧眼(へきがん)は、透き通るように美しいが、同時に底知れない狂信的な光を宿している。
「私には視(み)えます。あなたの魂に刻まれた、かつて世界を救った『聖なる光』の残滓が。……そして、その光が今、どす黒い『欲望(カネ)』と『邪悪(魔王)』にまみれて濁っていることも!」
「……失敬な。濁ってるんじゃないよ、熟成されたんだよ」
おっと、本音が漏れた。
「えーっと、アリスちゃん? いきなり何の話?」 クラスの女子が戸惑って声をかける。
アリスはパッと笑顔になり、クラスメイトに向き直った。
「ごめんなさい! 私、日本の『アニメ』にすごく興味があって……つい、なりきってしまいましたの! テヘッ☆」
「なーんだ、ビックリしたー!」 「可愛い~! オタクなんだ!」
クラスの空気が一瞬で緩んだ。 ……こいつ、デキる。 「聖女の愛嬌(広範囲バフ)」というスキルを完璧に使いこなしている。外面の良さなら私も負けないが、彼女のそれは天然モノだ。
だが、私に向ける視線だけは、冷徹な異端審問官のそれだった。
***
昼休み。屋上。 私はアリスに呼び出された。 レオナルド(勇者)も、心配そうについてきている。
「……単刀直入に言いますわ」
アリスは修道服のような制服のスカートを翻し、私を指差した。
「小金沢ヒナ。あなたは『堕ち』ましたね?」
「……人聞きが悪いね。私はただ、第二の人生をエンジョイしているだけさ」
「嘘です! あなたの家からは、禍々しい魔王の気配と、吸血鬼、そして魔獣の悪臭がプンプンします!」
アリスが鼻をつまむ。 まあ、昨日はバッファロー(牛男)も加わったからね。獣臭さは否定できない。
「かつての聖女が、あろうことか魔王を匿い、使役しているなど……これは重大な『教義違反(ヘレシー)』です。即刻、教会へ連行し、再教育を行います!」
アリスが懐から、分厚い聖書(鈍器)を取り出した。
「待ってください、アリス!」
レオナルドが割って入った。
「彼女は……確かに怪しいですが、今はまだ『監視対象』です。魔王も力を失っていますし、今のところ人間に害はなしていません」
「レオナルド様! あなた、この魔女にたぶらかされているのですか!?」
アリスが悲痛な叫びを上げる。
「魔女ではありません。彼女は……その、僕の『友達』です」
「と、と……!?」
アリスが絶句した。 そして、私をギロリと睨んだ。
「……なるほど。勇者様まで籠絡(ろうらく)するとは。恐ろしい『年増』のテクニックですわね」
「誰が年増だ。ピチピチの14歳だよ」 中身88歳だけど。
「よろしいでしょう」
アリスは聖書を閉じた。
「力ずくで連行するのは簡単ですが、それではレオナルド様の目が覚めないかもしれません。……そこで、決闘を申し込みます」
「決闘? 野蛮だねぇ。まさか殴り合いかい?」
「いいえ。……聖女たるもの、人望で勝負です」
アリスはニヤリと笑った。
「来週の『学園祭』。……それぞれのクラスの『出し物』で勝負です。もし私のクラスが、あなたのクラスより多くの『売上』と『集客』を稼いだら……あなたの負け。大人しく浄化されていただきます」
「……ほう」
私の目が光った。 魔力勝負なら分が悪いが、「売上」勝負? 商売で私に挑もうって言うのかい?
「面白い。受けて立つよ」
私は腕を組んだ。
「逆に私が勝ったら?」
「……その時は、あなたの『堕落』を一時的に黙認しましょう。そして、私があなたの監視役(メイド)として、その腐った性根を叩き直して差し上げます!」
「メイドはいらないけど……まあいい。契約成立だ」
聖女vs元聖女。 どちらも「支援職」ゆえに、自分一人では戦えない。 だからこそ、他人を巻き込んだ「集客バトル」になるのは必然だ。
***
放課後。コガネ・タワー。 私は緊急家族会議を招集した。
「……というわけで。来週の学園祭、絶対に負けられない戦いが始まった」
私がちゃぶ台を叩くと、ルシファー(着物)、ヴェルベット(ジャージ)、バッファロー(作業着)、リオ、鏡、善さんが顔を上げた。
「学園祭か……。我も行ってよいのか?」 ルシファーが目を輝かせる。
「行くも何も、あんたたちが『主力』だよ」
私はホワイトボードに作戦名を書きなぐった。
【オペレーション・マネー・イズ・パワー】
「私のクラスの出し物は『喫茶店』に決まった。……だが、ただの喫茶店じゃない。アリスのクラスは、聖女のカリスマを使った『正統派メイドカフェ』で来るはずだ。真っ向勝負じゃ勝てない」
「では、どうするのじゃ?」 ヴェルベットがポテチを食いながら聞く。
「……『コンセプト』で殴るんだよ」
私はニヤリと笑った。
「いいかい。あんたたちには、私のクラスの『特別ゲスト』として働いてもらう」
私はそれぞれの配役を発表した。
・ルシファー: 『イケオジ執事』。着物ではなく燕尾服を着せ、圧倒的覇気で客を沼らせる。
・ヴェルベット: 『生意気ロリ吸血鬼メイド』。罵倒接客でコアなファン層(ドM)を狙い撃ち。
・バッファロー: 『怪力着ぐるみマスコット』。中の人などいない設定で、子供と女性客を釣る。
・善さん: 『伝説の整体師による肩もみサービス』。疲れた保護者を根こそぎ癒やす。
・リオ&鏡: バックヤードでの調理と、SNSでのステルスマーケティング(情報操作)。
「……完璧だ」
私は自画自賛した。 魔王軍のカリスマと、現代のマーケティング理論の融合。 これで負ける要素はない。
「ヒナよ。……我は執事などせぬぞ。王だぞ」 ルシファーが不満げに言う。
「売上が一位になったら、最高級プリン『天国の口溶け(一個二千円)』を一年分やるよ」
「……『お帰りなさいませ、お嬢様』」 ルシファーが即座に膝をついた。 プライドの安売りだ。
「よし、準備開始だ! アリスの鼻を明かしてやるよ!」
***
そして、学園祭当日。
校門には『第XX回 文化祭』のアーチ。 だが、その空気は異様だった。
『いらっしゃいませ~! 聖女アリスの「奇跡のパンケーキ」はいかがですか~?』
校庭の一等地に、アリスのクラスが出店した巨大なテントがあった。 白を基調とした神聖な雰囲気。 アリス本人が、純白のエプロンドレスを着て、慈愛の微笑みで客引きをしている。
「……あ、アリス様……! 尊い……!」 「パンケーキを食べたら、なんか元気が出た!」 「疲れが吹き飛んだ! もう一皿!」
客たちが幸せそうな顔でパンケーキを食べている。 あれは……パンケーキに微弱な【体力回復】と【精神高揚】の支援魔法をかけているね。 ドーピングすれすれだが、聖女としては正しい力の使い方だ。
「……やるねぇ、現役聖女」
私は校舎の3階、自分たちの教室からそれを見下ろした。 アリスのテントには長蛇の列。 一方、ウチのクラスの喫茶店『魔界の誘惑』は……まだ客足が鈍い。
「……ヒナ。客が来ぬぞ。我の執事服が無駄になる」 ルシファーが暇そうに紅茶を淹れている。
「焦るんじゃないよ。……鏡、仕込みは?」
インカム越しに鏡の声。 『完了しました。……学園祭の公式SNS、および周辺の地域掲示板に、「ヤバい店がある」と拡散済みです』
「よし。……作戦開始だ!」
私が指を鳴らすと、教室の扉が開かれた。
「おい、人間ども! 妾の給仕を受けたい変態はどこじゃ!」
ヴェルベットが廊下に出て、通りがかりの男子生徒を指差した。
「そこの眼鏡! お前じゃ! さっさと入らぬか!」
「は、はいぃぃ! 入りますぅぅ!」 罵倒された男子が、幸せそうな顔で吸い込まれていく。
「グルルッ! モフモフシテモイイゾ!」 バッファロー(着ぐるみ設定だが、ほぼ生身)が、女子高生たちに囲まれて筋肉ポーズを決める。 「キャー! キモーい! でもすごーい!」
そして、極めつけは。
「……迷える子羊たちよ。癒やしを求めているかね?」
ルシファーが、低音ボイス(覇気マシマシ)で、PTAのマダムたちに微笑みかけた。
「……ッ!!」
ズキュゥゥゥン! マダムたちのハートが撃ち抜かれる音が聞こえた。
「す、素敵……!」 「あの方、誰なの!? 校長先生!?」 「いいえ、もっと高貴な……王族のオーラよ!」
マダムたちが雪崩のように教室に押し寄せる。
「いらっしゃいませー!!」 クラスメイトたちが悲鳴のような歓声を上げる。
私の作戦は的中した。 アリスの「回復」に対し、こちらは「支配」と「中毒性」で対抗する。 午後には、ウチのクラスの廊下は満員電車のような有様になった。
「……ぐぬぬ……! 何ですの、あの邪悪な行列は!」
グラウンドのアリスが、悔しそうにこちらを睨んでいる。 彼女のパンケーキも売れているが、こちらの「魔王執事の紅茶(一杯千円)」の利益率には勝てない。
勝負あったか。 そう思った時だった。
『キャアアアアアッ!!』
校庭から悲鳴が上がった。
「……なんだい!?」
窓から見下ろすと、アリスのテントの横で、地面が割れ、黒い煙が噴き出していた。
「……時空の亀裂!?」
煙の中から現れたのは、巨大な芋虫のような魔物。 『魔界ワーム』だ。 なぜこんな時に!? おそらく、ここに集まったルシファーたちの魔力に引き寄せられたんだ。
「……ふふっ。チャンスですわ!」
アリスが叫んだ。
「皆様! 逃げてください! 私が食い止めます!」
アリスがエプロンを脱ぎ捨て、修道服姿に戻る。 そして、光り輝く杖(本物)を取り出した。
「聖なる盾よ! 我らを守り給え!」
(――防御術式展開。【聖域の盾(サンクチュアリ・シールド)】!)
アリスの前に、巨大な光の障壁が出現した。 ワームが頭から突っ込むが、バィィィン! と弾かれる。
「……おおっ! すごい!」 「アリスちゃんが守ってくれた!」
生徒たちから歓声が上がる。 しかし。
「……くっ、重い……!」
アリスの顔が歪む。 ワームは巨大な体で、何度も何度も障壁に体当たりをしてくる。 ドガン! ドガン!
そう、聖女は「守る」ことはできても、「倒す」ことはできない。 攻撃魔法を持たない彼女には、決定打(DPS)がないのだ。 普段なら勇者(レオナルド)が剣を振るうところだが、彼は今、別の場所で警備に当たっていて間に合わない。
「……誰か! 攻撃を! 私の手が塞がっている間に!」
アリスが叫ぶが、周りにいるのはただの生徒たちだ。 ワームは障壁の下の土を掘り返し、アリスの足元から侵入しようとしている。
「……まずいね。あの子、食われるよ」
私は教室の窓から身を乗り出した。 私も聖女(元)だ。攻撃魔法は使えない。 アリスと同じく、私にも決定打はない。
だが、私には「手駒(筋肉)」がいる。
「……バッファロー! 善さん! 出番だよ!」
「ヒナ! どうするのじゃ!?」 ヴェルベットが聞く。
「……『人間砲弾』だ!」
私は善さんの背中をバシッと叩いた。
(――支援術式。【鋼鉄の肉体(アイアン・ボディ)】・【衝撃吸収(ショック・アブソーブ)】!)
「バッファロー! 善さんを投げろ! あのワームの眉間を狙え!」
「承知! 食ラエ!」
バッファローが、金色のオーラを纏ってカチカチになった善さんを、片手でひっつかんだ。
「ええええええええ!?」 善さんが手足をバタつかせる。
「パパ・ミサイル、発射!!」
ドヒュオオオオッ!!
バッファローの剛腕から放たれた善さんが、音速で空を飛んだ。
「ひぃぃぃぃぃぃ!!」
ドゴォォォォォン!!!
鋼鉄と化した善さんの頭突きが、ワームの眉間にクリーンヒットした。 アリスの障壁を越え、物理的な質量攻撃がワームの脳天を砕く。
ワームは「ギュエッ!?」と鳴き声を上げ、校庭の真ん中に落下して気絶した。 善さんは反動でバウンドし、花壇にスポッと埋まった。
静まり返る校庭。 土煙の中、アリスがへたり込む。
「……な、何ですの……今の……」
花壇から這い出した善さん(無傷)が、震えながら手を振った。
「……あ、あの……肩こり解消にいかがですか?」
『おおおおおーーーっ!!』
割れんばかりの拍手が巻き起こった。 「すげえ! あの整体師、体当たりで魔物を倒したぞ!」 「さすがゴッドハンド!」 「演出か!? すごいショーだ!」
アリスが、ポカンと口を開けてその光景を見ていた。 彼女の「守るだけの奇跡」よりも、善さんの「体を張った攻撃(?)」が、観客の心を掴んでしまったのだ。
「……勝負あり、だね」
私はニヤリと笑った。 聖女に必要なのは祈りじゃない。物理(タンクとアタッカー)を指揮する能力さ。
後日。 売上集計の結果、私たちのクラスが圧勝。 アリスは悔し涙を流しながら、約束通り私の元へやってきた。
「……約束ですわ。しばらくの間、あなたの『メイド』になって監視してあげます」
「だからいらないって」
「いいえ! 敵を知るには懐からです! ……それに」
アリスは私の部屋(コガネ・タワー)を見回し、ボソッと言った。
「……ここ、教会の寮よりご飯が美味しそうですし」
こうして。 勇者に続き、聖女までもが我が家に居候することになった。 魔王、四天王、マッドサイエンティスト、勇者、聖女。 ……これ、何のパーティだっけ?
だが、平穏(カオス)は束の間。 新たな脅威は、空からでも、異世界からでもなく。 「地下」から迫っていた。
コガネ・タワーの地下深層。 紫雲が掘り進めていた「魔力炉」のさらに奥で。 ついに「それ」が目を覚ます。
次回、「地下ダンジョン発見!? ヒナ、埋蔵金(あくま)を掘り当てて大儲け?」 お楽しみに!
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両親に、友達に、恋人に、嫁に裏切られ続けた男、神室千照は絶望して自ら命を絶った。
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千照は知らなかった。彼を裏切らないものはとてつもない人格の持ち主であることを。
異世界転生~チート魔法でスローライフ
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【あらすじ⠀】都会で産まれ育ち、学生時代を過ごし 社会人になって早20年。
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都会の生活に疲れた主人公が、
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恋愛は多分ありません。
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※挿絵有りますが、自作です。
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ゴミ扱いされた俺、再利用率が見えるので異世界で工房を始めます 〜村から始まる職人成り上がり〜
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目を覚ますと、そこは異世界のゴミ捨て場だった。
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『追放された底辺付与術師、実は【全自動化】のチートスキル持ちでした〜ブラックギルドを追い出されたので、辺境で商会を立ち上げたら勝手に世界規
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