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第1章 リアル人狼ゲームへようこそ(1日目)
1ー2 Ⅰ日目ディナー
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恐れていたことはすぐに起きてしまった。
酷い気持ちのまま割り当てられた部屋へ入り中を点検する。奥の窓際に大きなベッド、足元の台の上に黒いモニター。ベッドの手前に白い半円形のテーブルと木の椅子が置かれ、手前の入口側には白塗りのクローゼットがある。内装は綺麗だったが、暗い緑のタイル敷きのシャワールーム兼トイレはだけ手を抜いたような古めかしさだった。
窓の外は木々の梢と闇が広がるだけ、あたりに人家の類いは無いようだ。
と廊下から声がした。
「ノンベジで料理作れる人、八時に食堂に集まって!」
パンパンパン!
「ノンベジで料理作れる人ー」
手を叩き歩きながら繰り返す声が遠ざかる。ルールブックにはこうあった。
『食事の提供はありません。菜食・非菜食それぞれの食堂を用意しており、プレイヤーは自由に使うことが出来ます』
八時までそう時間はない。
『個室の外ではかならず腕章をしていてください』
思い出しテーブルに放った14番の腕章をはめ直した。
「ラムキーマとダル(豆のカレー)、おかず三品を十五人分くらい作るつもり。それくらいなら出来る」
ノンベジ食堂前に集まった五人にサリーの女が言った。三つ編みを後ろに垂らした彼女は腕章5番。名前はアンビカ、主婦をしていて夫は店を持つ絨毯職人、息子がひとりと自己紹介した。
「避けたいものとかあるかもしれないし、わたしじゃなくて自分が調理したいって人もいるかもしれない。だから集まってもらったの」
丸顔の中、愛嬌のある目を寝起きの猫のように細める。異論は出なかったが、
「これからどうなるかわからないのに?……」
26番、ショートカットが似合う細面の女が揺れる高い声を絞り出した。
「わたしもこれからのことは凄く心配。だからこそいつも通りに……ううん! いつも以上にしっかり食べて体を維持しよう!」
穏やかな話しぶり、力こぶを作る仕草は愛らしい。
「それともあなたなら、これからどうなるかわかるのかしら?」
不意に振られた。
「わからない」
注目の中、首を横に振った。
ーーーーー
先ほど説明の声は、人狼ゲームそのものについて説明に取りかかる前に尋ねた。
『皆さんの中で「人狼ゲーム」や「汝は人狼なりや」を知っている人はいますか?』
テンキーで自分の前の番号を入力するようにとの指示に、反射的に14とエンターを押した。ざっとタブレットの画面が変わり、
『6 14』
白い画面にふたつの数字だけが表示される。伏せた方が良かったか、と迷い出してももう意味はない。自分と前方の6番に代わる代わる視線が注がれる。人狼では目立つことはおおよそ不利、知っていたのにとため息を吐いても今更だ。
すれ違う際に、広間など視界の効く場所にいる時にしばしば14番の腕章に目を止められた。
(……)
目立ってしまったなら開き直って有利に使うだけだ。
ーーーーー
ノンベジ食堂前に来たうち男性は6番と8番。
彼女が目を向けるより早く皆6番に視線を移した。黒い豊かな髪がくるくる頭上でカールする学生風の彼は、
「僕もわかりません」
と目を伏せた。
アンビカは水色に塗られた木の扉を開けて皆を食堂に促す。本人は既に一通り見て回ったらしい。
「見ての通り、変な食堂なんだけどー」
確かにと眉をひそめた。
小さな講義室ほどの広さで白い横長のテーブルが二列に並んでいる。奥のキッチンまで素通しで仕切りがない。壁に沿ったステンレス製のキッチンは日本にあってもおかしくない西洋式の立派なものだ。視線少し上あたりの細い窓は全て板で塞がれている。
左手側にこれまた仕切りもなく食材庫らしい金属の棚が壁に沿って並んでいる。手前の棚上部にはミネラルウォーターのペットボトルがぎっしり並んでいた。8番が進み出て手に取り勢い良く二三口飲んだ。習うようにふたりもミネラルウォーターに手を伸ばす。よくある国内メーカーのペットボトルだ。
普通この広さなら台所と食堂、食材庫は分ける。これではまるで部屋数の無い貧乏人の台所だ。自分が育った村の家のように。
「神様の像も無いんだけど……ここから先を台所としましょう」
キッチンの手前、床石の線をざっと示すとアンビカは合掌し祈りの言葉を口にしてから奥に進む。皆もおよそそれにならった。
「お肉は全部ハラルマーク付きだった。念の為ムスリムの人見てもらえる?」
腕章9番、赤い柄のサルワール・カミーズの女が冷凍庫を確かめOKを出す。
アンビカは次々と指示を出した。
「圧力鍋は二つ使う。うちひとつはご飯と豆を炊きます」
「それ私がやる」
引き受けた。
「あなたたち料理出来るの?」
男たちにアンビカが尋ねる。ひとりは家で母の手伝いをしていて、ひとりは母が病弱で実家で台所をやってきたと答えた。
「チャパティやってもらったら?」
提案の声がする。確かに力仕事のチャパティ作りを男の子にやってもらえればありがたい。
「寝かせる時間が短いからおいしく出来ないかもしれない……。よし、あなたはチャパティ、あなたはパロータで分担して!」
食べ物は神さまからのお恵みだから、食事中は他のことをしてはいけないー昔おばあちゃんに言われた。
『ならおじいちゃんも駄目だよね?』
『年を取るといっぺんにご飯が食べられなくなるんだよ。休みながら少しずつ取るんだ』
年寄りには優しくしてやってくれーおばあちゃんは歌うようにゆっくりと告げる。古新聞を読み返しながらご飯を摘まむおじいちゃんは、困り顔の彼女に相好を崩したー
アンビカはさすがの手際の良さだった。自分もいつか結婚したらああ出来るようになるのだろうか。いや、
(「いつか」より今ここで生き延びることが大切だ)
予定通り九時には食事が出来上がり、よく知らない者同士テーブルにぽつぽつ分かれて座って食べる。ラムキーマもダルも辛さは物足りないが味は美味しかった。ターリー皿の上に手を動かしながらも彼女はタブレットから目を離さない。
「何してるの?」
しばらくの後、9番の女が覗き込んできた。
「『チュートリアル』を確認してる。日本語がわかるの、ここでは私だけみたいだから」
説明の際「チュートリアル」と冒頭の三分ほどが流された動画は、計十五分の長さで各タブレットに収められていた。
『韓国かな?』
『違う、日本。この人たちは日本の男性アイドル』
メンバーがパイプ椅子に並んで人狼ゲームをやっている、ゲーム性よりアイドルが緩く遊ぶ姿を楽しむバラエティの類いだ。全く参考にならない。
(かといってデスゲーム人狼映画とか映したら阿鼻叫喚だ)
地獄の蓋はもう開いた。不安と疑問が渦巻くこの場所が殺伐とした地獄に落とされてしまうのが恐い。自分たちがあきらめてそれを許してしまうことがもっと恐い。
「今のところ字幕に問題はないな」
顔を上げ聞きたいだろうことを答えた。動画下部に入ったごく短いヒンディー語の文は「字幕」とは言えないほど乱暴な要約だが、誤訳や文意を曲げたところは見当たらない。
「その動画私も見たけどよくわからなかった。書き出してくれるとありがたいけど……」
26番も寄ってきた。
「さすがにそれは……どれくらい時間がかかるかわからないから、すぐには無理。どのあたりが知りたいとかあれば見ながら訳すよ」
パロータを千切りダルをすくって口に放り込む。
「ここ、いいかな」
女性ばかりのテーブルの方へターリー皿を手に割り込んできた男に周りがざわめくが、
「情報交換したいと思って。それとも食事を済ませてからの方がいい?」
「どうぞ」
6番に向かい手のひらで前を示す。今は時間を惜しむべきだ。
「クリスティーナ」
「アビマニュ」
互いに名乗り彼は微笑んでぽさっと腰を下ろした。
腕章6番、アビマニュはカナダの大学で経営学を専攻している。インドの小企業経営についてレポートを書くためムンバイの親戚宅に滞在していた。訪問先からの帰途カフェでチャイを飲んで以降記憶が途切れ、気が付いたらここにいた。
「汝は人狼なりや」のカードゲームは高校や大学の友人と遊んできたそうだ。
(プレイ経験者か)
「私は自分でプレイをしたことはないの。アプリやWebのネットゲームで友達が遊ぶのを見ていただけ」
クリスティーナはカレッジで語学講師をしながらムンバイの大学院に通っている。専門は日本文学。日本留学中に人狼ゲームを知った。
その日は同僚三人と上司宅での夕食に呼ばれた。オートリクシャーに乗せてもらって回る帰宅の順番は自分が最後で、大学の門の前でリクシャーから降りた記憶はある。
いつも門番のおじさんの顔を見るとほっとして挨拶する。そこから構内をしばらく歩いて寮に戻るのだが、あの夜はおじさんの顔を見た覚えがない。素早く動くものが後ろを通った気がして以降記憶が無くなっている。
「すみません……。随分お姉さんだったみたいで」
アビマニュはうなだれた。彼は多分自分より数歳若い。
「気にしないで。良くあるから」
伸びなかった背丈に加えて童顔でカレッジでも生徒と間違えられる体たらく、留学時代褒められた焦げ茶ががったロングヘアを肩上で切り、日本仕込みの造り込んでも厚化粧に見えないハイテクメイクを決めてもまだ駄目だ。
「日本には『リアル人狼ゲーム』を題材にした映画とか漫画とかが結構あって、そっちも結構見た。友達が好きでね。だけどあくまで『お話』だったんだよ!」
強調する。
「現実に日本でこういうのが開催されているとかじゃない」
悪夢の中に引きずり込まれたみたいだと本音を零す。
ラムキーマを頬張りながらアビマニュは頷いた。
「でもそれってかなり有利じゃない」
9番が顔を向ける。
「……『バーフバリ』を何度も見たら良い王様や政治家に成れる? そういう話」
手を振ると9番だけでなく何人かが笑った。
「それで、この『リアル人狼ゲーム』のルール、どう思いました?」
年上への丁寧な話し方に変えてアビマニュが尋ねた。
「私が知っているのとは違う。随分変で、複雑」
いつの間にか食堂に居る皆がこちらに注目していた。
「あなたから見てもそうですか」
周りを気にしない風でアビマニュは考え込んだ。
「『占星術師』と『武士』はほとんど同じ。だけどタントラは他の要素が入ってきている。『象』は『狐』から名前を変えただけじゃなくて霊能者ー『タントラ』から『武士』との関係に変わっている。『聖者』となるとー」
お手上げだと肩をすくめた。
「『狼』陣営は『汝は人狼なりや』と同じですが『村人』「象」陣営がかなり違いますね」
彼はタブレットを叩き「ルールブック」から「配役表」のページを出した。
酷い気持ちのまま割り当てられた部屋へ入り中を点検する。奥の窓際に大きなベッド、足元の台の上に黒いモニター。ベッドの手前に白い半円形のテーブルと木の椅子が置かれ、手前の入口側には白塗りのクローゼットがある。内装は綺麗だったが、暗い緑のタイル敷きのシャワールーム兼トイレはだけ手を抜いたような古めかしさだった。
窓の外は木々の梢と闇が広がるだけ、あたりに人家の類いは無いようだ。
と廊下から声がした。
「ノンベジで料理作れる人、八時に食堂に集まって!」
パンパンパン!
「ノンベジで料理作れる人ー」
手を叩き歩きながら繰り返す声が遠ざかる。ルールブックにはこうあった。
『食事の提供はありません。菜食・非菜食それぞれの食堂を用意しており、プレイヤーは自由に使うことが出来ます』
八時までそう時間はない。
『個室の外ではかならず腕章をしていてください』
思い出しテーブルに放った14番の腕章をはめ直した。
「ラムキーマとダル(豆のカレー)、おかず三品を十五人分くらい作るつもり。それくらいなら出来る」
ノンベジ食堂前に集まった五人にサリーの女が言った。三つ編みを後ろに垂らした彼女は腕章5番。名前はアンビカ、主婦をしていて夫は店を持つ絨毯職人、息子がひとりと自己紹介した。
「避けたいものとかあるかもしれないし、わたしじゃなくて自分が調理したいって人もいるかもしれない。だから集まってもらったの」
丸顔の中、愛嬌のある目を寝起きの猫のように細める。異論は出なかったが、
「これからどうなるかわからないのに?……」
26番、ショートカットが似合う細面の女が揺れる高い声を絞り出した。
「わたしもこれからのことは凄く心配。だからこそいつも通りに……ううん! いつも以上にしっかり食べて体を維持しよう!」
穏やかな話しぶり、力こぶを作る仕草は愛らしい。
「それともあなたなら、これからどうなるかわかるのかしら?」
不意に振られた。
「わからない」
注目の中、首を横に振った。
ーーーーー
先ほど説明の声は、人狼ゲームそのものについて説明に取りかかる前に尋ねた。
『皆さんの中で「人狼ゲーム」や「汝は人狼なりや」を知っている人はいますか?』
テンキーで自分の前の番号を入力するようにとの指示に、反射的に14とエンターを押した。ざっとタブレットの画面が変わり、
『6 14』
白い画面にふたつの数字だけが表示される。伏せた方が良かったか、と迷い出してももう意味はない。自分と前方の6番に代わる代わる視線が注がれる。人狼では目立つことはおおよそ不利、知っていたのにとため息を吐いても今更だ。
すれ違う際に、広間など視界の効く場所にいる時にしばしば14番の腕章に目を止められた。
(……)
目立ってしまったなら開き直って有利に使うだけだ。
ーーーーー
ノンベジ食堂前に来たうち男性は6番と8番。
彼女が目を向けるより早く皆6番に視線を移した。黒い豊かな髪がくるくる頭上でカールする学生風の彼は、
「僕もわかりません」
と目を伏せた。
アンビカは水色に塗られた木の扉を開けて皆を食堂に促す。本人は既に一通り見て回ったらしい。
「見ての通り、変な食堂なんだけどー」
確かにと眉をひそめた。
小さな講義室ほどの広さで白い横長のテーブルが二列に並んでいる。奥のキッチンまで素通しで仕切りがない。壁に沿ったステンレス製のキッチンは日本にあってもおかしくない西洋式の立派なものだ。視線少し上あたりの細い窓は全て板で塞がれている。
左手側にこれまた仕切りもなく食材庫らしい金属の棚が壁に沿って並んでいる。手前の棚上部にはミネラルウォーターのペットボトルがぎっしり並んでいた。8番が進み出て手に取り勢い良く二三口飲んだ。習うようにふたりもミネラルウォーターに手を伸ばす。よくある国内メーカーのペットボトルだ。
普通この広さなら台所と食堂、食材庫は分ける。これではまるで部屋数の無い貧乏人の台所だ。自分が育った村の家のように。
「神様の像も無いんだけど……ここから先を台所としましょう」
キッチンの手前、床石の線をざっと示すとアンビカは合掌し祈りの言葉を口にしてから奥に進む。皆もおよそそれにならった。
「お肉は全部ハラルマーク付きだった。念の為ムスリムの人見てもらえる?」
腕章9番、赤い柄のサルワール・カミーズの女が冷凍庫を確かめOKを出す。
アンビカは次々と指示を出した。
「圧力鍋は二つ使う。うちひとつはご飯と豆を炊きます」
「それ私がやる」
引き受けた。
「あなたたち料理出来るの?」
男たちにアンビカが尋ねる。ひとりは家で母の手伝いをしていて、ひとりは母が病弱で実家で台所をやってきたと答えた。
「チャパティやってもらったら?」
提案の声がする。確かに力仕事のチャパティ作りを男の子にやってもらえればありがたい。
「寝かせる時間が短いからおいしく出来ないかもしれない……。よし、あなたはチャパティ、あなたはパロータで分担して!」
食べ物は神さまからのお恵みだから、食事中は他のことをしてはいけないー昔おばあちゃんに言われた。
『ならおじいちゃんも駄目だよね?』
『年を取るといっぺんにご飯が食べられなくなるんだよ。休みながら少しずつ取るんだ』
年寄りには優しくしてやってくれーおばあちゃんは歌うようにゆっくりと告げる。古新聞を読み返しながらご飯を摘まむおじいちゃんは、困り顔の彼女に相好を崩したー
アンビカはさすがの手際の良さだった。自分もいつか結婚したらああ出来るようになるのだろうか。いや、
(「いつか」より今ここで生き延びることが大切だ)
予定通り九時には食事が出来上がり、よく知らない者同士テーブルにぽつぽつ分かれて座って食べる。ラムキーマもダルも辛さは物足りないが味は美味しかった。ターリー皿の上に手を動かしながらも彼女はタブレットから目を離さない。
「何してるの?」
しばらくの後、9番の女が覗き込んできた。
「『チュートリアル』を確認してる。日本語がわかるの、ここでは私だけみたいだから」
説明の際「チュートリアル」と冒頭の三分ほどが流された動画は、計十五分の長さで各タブレットに収められていた。
『韓国かな?』
『違う、日本。この人たちは日本の男性アイドル』
メンバーがパイプ椅子に並んで人狼ゲームをやっている、ゲーム性よりアイドルが緩く遊ぶ姿を楽しむバラエティの類いだ。全く参考にならない。
(かといってデスゲーム人狼映画とか映したら阿鼻叫喚だ)
地獄の蓋はもう開いた。不安と疑問が渦巻くこの場所が殺伐とした地獄に落とされてしまうのが恐い。自分たちがあきらめてそれを許してしまうことがもっと恐い。
「今のところ字幕に問題はないな」
顔を上げ聞きたいだろうことを答えた。動画下部に入ったごく短いヒンディー語の文は「字幕」とは言えないほど乱暴な要約だが、誤訳や文意を曲げたところは見当たらない。
「その動画私も見たけどよくわからなかった。書き出してくれるとありがたいけど……」
26番も寄ってきた。
「さすがにそれは……どれくらい時間がかかるかわからないから、すぐには無理。どのあたりが知りたいとかあれば見ながら訳すよ」
パロータを千切りダルをすくって口に放り込む。
「ここ、いいかな」
女性ばかりのテーブルの方へターリー皿を手に割り込んできた男に周りがざわめくが、
「情報交換したいと思って。それとも食事を済ませてからの方がいい?」
「どうぞ」
6番に向かい手のひらで前を示す。今は時間を惜しむべきだ。
「クリスティーナ」
「アビマニュ」
互いに名乗り彼は微笑んでぽさっと腰を下ろした。
腕章6番、アビマニュはカナダの大学で経営学を専攻している。インドの小企業経営についてレポートを書くためムンバイの親戚宅に滞在していた。訪問先からの帰途カフェでチャイを飲んで以降記憶が途切れ、気が付いたらここにいた。
「汝は人狼なりや」のカードゲームは高校や大学の友人と遊んできたそうだ。
(プレイ経験者か)
「私は自分でプレイをしたことはないの。アプリやWebのネットゲームで友達が遊ぶのを見ていただけ」
クリスティーナはカレッジで語学講師をしながらムンバイの大学院に通っている。専門は日本文学。日本留学中に人狼ゲームを知った。
その日は同僚三人と上司宅での夕食に呼ばれた。オートリクシャーに乗せてもらって回る帰宅の順番は自分が最後で、大学の門の前でリクシャーから降りた記憶はある。
いつも門番のおじさんの顔を見るとほっとして挨拶する。そこから構内をしばらく歩いて寮に戻るのだが、あの夜はおじさんの顔を見た覚えがない。素早く動くものが後ろを通った気がして以降記憶が無くなっている。
「すみません……。随分お姉さんだったみたいで」
アビマニュはうなだれた。彼は多分自分より数歳若い。
「気にしないで。良くあるから」
伸びなかった背丈に加えて童顔でカレッジでも生徒と間違えられる体たらく、留学時代褒められた焦げ茶ががったロングヘアを肩上で切り、日本仕込みの造り込んでも厚化粧に見えないハイテクメイクを決めてもまだ駄目だ。
「日本には『リアル人狼ゲーム』を題材にした映画とか漫画とかが結構あって、そっちも結構見た。友達が好きでね。だけどあくまで『お話』だったんだよ!」
強調する。
「現実に日本でこういうのが開催されているとかじゃない」
悪夢の中に引きずり込まれたみたいだと本音を零す。
ラムキーマを頬張りながらアビマニュは頷いた。
「でもそれってかなり有利じゃない」
9番が顔を向ける。
「……『バーフバリ』を何度も見たら良い王様や政治家に成れる? そういう話」
手を振ると9番だけでなく何人かが笑った。
「それで、この『リアル人狼ゲーム』のルール、どう思いました?」
年上への丁寧な話し方に変えてアビマニュが尋ねた。
「私が知っているのとは違う。随分変で、複雑」
いつの間にか食堂に居る皆がこちらに注目していた。
「あなたから見てもそうですか」
周りを気にしない風でアビマニュは考え込んだ。
「『占星術師』と『武士』はほとんど同じ。だけどタントラは他の要素が入ってきている。『象』は『狐』から名前を変えただけじゃなくて霊能者ー『タントラ』から『武士』との関係に変わっている。『聖者』となるとー」
お手上げだと肩をすくめた。
「『狼』陣営は『汝は人狼なりや』と同じですが『村人』「象」陣営がかなり違いますね」
彼はタブレットを叩き「ルールブック」から「配役表」のページを出した。
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