リアル人狼ゲーム in India

大友有無那

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第5章 疑惑へようこそ(新2日目)

5ー4 男たちの密談(新2日目午後)

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「俺の息子が元気出なくなっちゃったんだけど」
 
(はあっ?)
 アビマニュは声には出さなかった。
「ああ?」
 ジョージは口に出した。
「こ、このまま使い物にならなくなったらどうしようかと」
 悲壮な表情でロハンは訴えかけた。冗談でなく声が震えている。
「使わなきゃいいだろ」
 アビマニュは叩き返した。

 「汝は人狼なりや」の経験者だと注目を集めたのに当初焦った。だが頼りにされ、早々とシドが消えたこともありーこれ自体は大きな損失だがー自然に場を舵取りする役目となった。占いも白で今では結構信頼を集めていると自負している。
 ポジションのせいでちょっとばかりヒーロー的な善人キャラに納まっているが、本来アビマニュはそこまで「いい人」ではない。こいつロハンや誘拐犯たちのような「悪い奴」でもなくごく「ふつう」の人間だ。
 あまりの内容に思わずいい人仮面が外れて吐き捨てたが、
「使うな」
「むしろ使わないでくれた方がありがたいな、ここにいる間は」
 ジョージとマーダヴァンも同様で特に気を引くことはなかった。

 ロハンが最初に相談をもちかけたのはジョージだった。だがふたりきりの密談で
『あらぬ疑いをかけられるのは嫌だ』
 占いで白が出たとは言え昨夜の会議で攻撃され票も集めた彼は慎重で、アビマニュに声をかければ体のことらしいと聞いたアビマニュがマーダヴァンを連れて来た。
 待ち合わせ場所の二階ロビーに連れだって現れた三人にロハンは憮然とした。
 だが話を聞いて言葉と表情を失ったのはこちらだ。

 アビマニュはここでも時々「元気に」なる。こんな時にという苛立ちと少しの後ろめたさを、命の危険を感じるからこそ子孫を残したいのは本能だと理屈でなだめている。欲求など沸かない方が余程楽だ。
「使い物にならなかったら『先祖供養』してもらえないだろ! どうするんだよ!」
 ヒンドゥー教徒のアビマニュとマーダヴァンに顔を向けロハンは泣きつく。
「静かにしろよ。ここ、階段そばだぞ」
 三階の女性フロアに声が通ったら洒落にならない。
 洗濯機の前に三脚の椅子を持って座り声を低めて密談していたところだ。
「……そう思うんなら、供養されるのにふさわしい行動をしたらどうなの?」
 マーダヴァンの説教にだからもうしないとロハンはぼそぼそ言い訳をした。

 ロハン曰く時々ちょっと元気になるかも? との予兆があっても、
「クリスティーナさんやラクシュミさんの恐い顔が思い浮かんで、すぐ力がなくなっちまって……」
「あのふたり顔は恐くないだろ」
 ジョージは言うが、いやあの時は凄い顔だったとロハンが反論する。
(話にならないな)
 自分が「死ね」と的にされたことに脅えているだけで、最初に恐い思いをした被害者ラディカのことは全く考えていない。反省していないというより何が悪いのか理解していない、もっと酷い状態だ。
「正直言えば、嫁入り前の娘なんだからあそこまでキリキリしなくても、と普段ならおれも思うところだが、ここではあのふたりの知識と提案が役立っている。いいんじゃないか」
 ラクシュミの攻撃には閉口するが、クリスティーナの占い結果でそれも止まるだろうとジョージは独り言のように話す。
 このあたり自分とは全く感覚が違う。性別関係なく人と話す場では自己主張出来て当たり前と思う自分はやはり「カナダ人」だ。
 今回、初めて家族と一緒ではなくインドに滞在して、家の中の文化と同じはずなのにかなり戸惑った。好意での調査や滞在受け入れだからと我慢するばかりで疲れていた時に拐かされた。
「アンビカさんの優しいお顔でも思い出したら中和されるんじゃないの」
 捨て鉢に言うとロハンは千切れんばかりに目を見開いた。
「とんでもねえよ! アンビカさん、あの時はサンジャイ・ダットみたいな目で俺を見てた」
 がっしりした肩を縮める。
「アンビカさんがサンジャイ・ダット……」
「……」
「……」
 三人はしばし無言で、静かな笑顔のアンビカと、サンジャイの悪役の中の悪役の凄みを帯びた容貌を脳内で比べた。
(あの人にそこまでの顔をさせるお前が悪いってことだろ!)


「……ロハン。真面目に返すなら、ここにいる間お前のソレは使う必要はない。おれたちも女の人たちもその方が助かる。無事に帰れたら病院のED外来にでも行けばいい」
「限られた病院にしかありませんけどね」
「こいつなら病院へのつてなんぞいくらでもあるだろう」
 ジョージとマーダヴァンが交わすのを相変わらず泣き出す直前の兎のような目でロハンは見守る。がたいが良い分可愛げもなく情けなさが倍増するだけだ。
「あのさ。お前のせいでこっちは命に関わる迷惑を被ってるってわかっているのか?!」
 女性には彼女たちなりの理屈があり、「人狼」を減らす「仕事」を一回分遠回りにしてもこいつを殺そうとした。その晩に「狼」に自分が噛まれたとしたら、
「お前のこと、恨んでも恨みきれなくなるー」
「……アビマニュ、終わったことを言っても仕方ない」
 ジョージは割って入ってこうまとめた。
「とにかくお前は大人しくしていればいい」

 間もなく上の女性フロアから話題のふたりの言い争いが聞こえてきた。内容まで全てわかるわけではないが、
「声は確かに恐いな」
 ジョージが低く呟いた。
 ただ、彼女らはどれほどぶつかろうとも会議やこの場の運営で必要だと思えば協力する。心配ないだろう。
 それこそロハンを排斥しようとした時ふたりは強力なタッグを組んだ。
 「人狼ゲーム」を理解しつつ人を殺すことをあらゆる手で避けようとしていたクリスティーナが、ロハンになると迷いを見せず殺せと主張してきたのには驚いたが、彼女がこの国で見てきた「現実」がそうさせるのだろう。
(……)

 上階の気配が消え、先にマーダヴァンが去ってジョージとアビマニュはそのまま見張りとして残る。
 アビマニュは毒づいた。
「気付いているかわからないけど、今夜からお前、危険が増すぞ」
 「狼」役の連中だって死にたくない。なるだけ無難に「人狼」仕事をこなしたいはずだ。
「単純な腕力勝負ならお前はここの中で一番強い」
 大柄で武術をたしなむと知られるロハンは、余程の必要性がない限り「噛み」対象にはならないと思っていた。だが、
「毒を利用して殺したのか、『上』が『ルール違反』でサラージを始末したのかはわからないけど、どれほど強くてもここでの『ルール』なら処理出来るってわかっちまった。今夜から気を付けておけよ」
「気を付けろってどうすればいいんだよお!?」
「そんなの人前で言う訳ないだろ。皆、個人個人で工夫している」
 横でジョージも頷いている。
 多分ロハンは平「村人」でジョージも「白」だ。だがジョージは「象」陣営か「狼」陣営の「漂泊者」の可能性はあり、「人狼」に味方することがないとはいえない。用心に越したことはない。
 服を細く巻いて紐状にして足元、テーブルとベッドに結んで中くらいの高さ、電球のコードから降ろして首レベルと毎夜自室にトラップを張り巡らせているが、気休め程度だと自覚している。
 午後の時間は刻々と過ぎ一歩ずつ夜が近づく。

(ゴパルは新しい「人狼」だ)
 その前確実に「噛まれた」のはシドのみ。彼はベッドにいるところを銃撃された。
 前の館の「武器庫」には銃以外にも豊富な鈍器類や縄まであったのを覚えている。それらに頼らず銃を選んだとしたらー
(こっちの「人狼」はもしかしたら女性……?)


「アビマニュ、ひとつ違うと思う」
 ロハンはゆっくりと太い首をもたげた。
「俺の通う 道場アシュラムの 先生グルは、銃とは闘うな逃げろ! と口うるさくおっしゃっている」
 ちょっと腕っ節が強くなったと思って勘違いしてはいけない。
 この古武術が出来た頃には銃はなかったし、その頃でも弓と闘うのにこの技は使われなかった。
「サラージが銃を奪い取って寝付くほどの反撃をゴパルにしたのが本当なら、あいつはもの凄く強い」
 ここで一番強いのは自分ではなくサラージだ。
 その目つきに、アビマニュは初めてロハンに武術家の片鱗を感じ取った。





<注>
・サンジャイ・ダット 
 ボリウッドのみならず近年はインド南部の映画でも活躍するスター。
 敵役を演じる「K.G.F」は近々日本で封切りのため予告編が出ている。そちらを見れば容貌の凄さはわかりやすいかと(顔に文字入れ墨のあるキャラです)


 
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