リアル人狼ゲーム in India

大友有無那

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第9章 生存への闘争(新6日目)

9ー5 痛み(新6日目夜)

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 ダン、ダン!
 今度は重い音。警備員のライフル応戦だろう。
(馬鹿が!)

「気を引けます? 俺が組み付きます」
 倒れた男からロハンはライフルを剥ぎ取った。これで二丁揃ったことになる。ラクシュミは頷き、
「その角から右は撃たないから」
 自分たちが居た建物の角を指す。
 ロハンの実力は見た。腕にすがりついた自分共々男を背負い投げ、相手に投げ返されたならさらに横に投げ飛ばした。十分だ。
 イムラーンは自分たちを心配して撃ったのだろうが建物内からの攻撃で中に侵入されたら困る。丸腰の女たちもいるのだ。

 ダン! 先に撃ったのはロハン。
 並んで一足遅れてライフルの引き金を引いたラクシュミは、
 ダン!
 体勢を崩す。銃が跳ね上がり取り落としそうになったのをやっと左手で掴んだ。
 これが反動というものか。

 ダン、ダン! 
 階段室への入口、シャッターが上がったあたりから覗き込んでいた武装警備員は身を翻しざま打ち返してきた。既にロハンは後方に姿を消している。
 ダン! 
 木を背にしてやっと撃ち転がるように移動してしゃがんだところで射撃、
 ダン!
 ダダダン!
「うっっ!」
(実力が違い過ぎる)
 こちらは狙ったつもりでも「そっちの方」に着弾するだけだが向こうは確実に自分が居た場所を狙ってくる。続けて二発は撃てない。その時間で自分がやられる。
 ダン!
 一発撃てば、
 ダンダンダン!
 土煙を被るほど近くで銃弾が跳ねる。
 視界の効かない中無闇に動き何度も木や枝にぶつかり体の痛みが増える。
 あと何弾このライフルで撃てるかも知らない。
 軍人やテロリストでもない、たまたま銃を持っただけの一般人、しかも腕力が足りない女を想定した訓練はやっていない筈。それだけがラクシュミのアドバンテージだ。とにかくこまめにくるくる動き回った。
 いっそ木に登るかと左手を下方の枝に伸ばせばポキンと折れる。
「うっ」
 勢いで根元に転がりそのまましゃがんで発射。
 寝転がってまた一弾。なるほど地面に伏せると反動を抑えやすい。軍人がこの姿勢で構える映像は見たことがあるが腑に落ちる。と、
 ロハンが警備員の後ろから組み付いた。
 見えたのはすぐ近く、建物出口からおそらくタブレットの光が外を照らしているからだ。
(!)
 ラクシュミは銃口の死角方向から馳せ寄った。
(うわっ)
 ロハンが飛び上がって後方から相手の首を跳び蹴りにする。
 まともに喰らった男はバタンと伏せ倒れた。
 ズシッ!
 うつ伏せになった男の右膝裏をロハンが、
 ガッ!
 半呼吸後に左をラクシュミが踏みつけた。続いて彼が銃口を付けるのに、
「不用意に撃たない。もう一人いる」
 増員されていなければ常駐警備は三人、との情報だ。
 信じていいのか熟考を重ねた。だがルーターが機械室になかった以外爆弾魔の寄越した情報は正確だ。
 ならば良くてあとひとり武装警備員がいる。
 銃声はその男を確実に呼び寄せている。
「縛るものない?」
 ロハンは一旦首を横に振ったが、不意にシャツを脱ぎうつ伏せのままうめく男の胴を縛った。
「私達は監禁されていたのをやっと逃げ出した。どうして犯罪者の味方をするの」
 頭上でささやきながらやはり左胸のホルダーから携帯を投げ捨てる。
「仕事だ」
 男がマスクの裏からくぐもった声を出す。とロハンが首を踏み男は沈黙した。


「ラクシュミさんは早く」
 顔を建物内へ向ける。
(こんな所で名前を呼ばないで)
 苛立ちは抑え首を横に振る。
「右腕をやられた。今は運転出来ない」
「え……大丈夫ですか?」
「命に別状はない」
 多分。
「けど」
 壁に寄りかかる。ねじ上げられた腕はまともに動かず、時間が経つにつれ上部から焼け付くような痛みが広がり酷くなっていく。今は左手で右上腕を抱いてやっと耐えている状態だ。
「代わりに第一陣の運転を」
 左腕でワンピースの裾をたぐり青いホルダーのキーを差し出す。が何故か彼は元の木陰の方へたったっと駆け戻った。
(何なの?)


「俺は自分が立てた計画の完遂を見届ける責任があります」
 軽トラックの荷台に立ってスンダルがロハンを見下ろしていた。
「俺が『爆弾魔』です」
 影が揺れる中厳かに宣言される。

「……ああ……」
 ロハンが軽く声を漏らし、わずかで奇妙な沈黙の後に、
「知ってた」
 ラクシュミも加えた。
「へ?」
 俺否定しましたよね、と素っ頓狂な声を出すのをおいて再度キーをロハンに突き付ける。
「早く。女の子が嫌がったなら男を乗せなさい! とにかく出来る限り早く出来るだけ多くの人間をここから離れさせて!」
 自分との同乗を女子が嫌がるのではとロハンはスンダルに運転を頼んだ。が揉めている余裕はない。
 今度は素直にラクシュミとキーを交換、建物の方へ走り去る。


「ルーター、見つかったんですが」
 荷台から見送ったスンダルが右手に持った小さな板をかざし、次に叩き付ける。
 足で踏んで、
「壊れないんです」
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