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第9章 生存への闘争(新6日目)
9ー5 闇の声(新6日目夜)
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「あなたたちも逃げなさい。機械室から火事になるかも」
言うとキーボックスを運んだ男がわたわた抜け出たのよりは奥、スンダルたちを追って四番目の柱間で出ようとしたが足音と黒い影まで見え、三番目から外へ出る。
残り二人の男はすぐ動けなかったらしく何やら話し声がし出した。壁際を離れ木々の奥に進めばそれも聞こえなくなる。
(そこで時間を稼いで)
以前壁上に現れた武装姿を思い出す。
暗い。風はあまりなく木々のざわめきは小さい。
土を進む足音は忍ばせても葉を踏んでしまえばやたら大きく聞こえる。
小走りに進む男の後を追うが、ライトを消し左ポケットに入れた現状闇に覆われている。
(っっ!)
いくつかの枝にぶつかり、次いで木の根が何かに躓いた。その腕が取られ、
「早く」
近づいた低い声はスンダルだ。一瞬ポケット内で懐中電灯を点け無言で男の背を指し、すぐ消して後を追う。
「!」
(やはりね)
逃げろと言って車の方向へ誘導させたかった。
二三本まとめ生えている木の向こう側に軽トラックが止まっていた。ラクシュミが点灯しつつ姿を現ししっしっと手を振れば後ずさる。
「ここのどこにルーターがあるかわからない? さっき言った奴」
荷台には幾つもの木箱が無造作に積み重なっている。青くなる。
スンダルの問いに男は首をぶんぶん横に振った。
「あのマダム、どうか水だけはー」
荷台外側にミネラルウォーターの入った箱があった。一本渡し、
「安全な所まで行ったら警察に連絡して。それでさっきのは帳消し。私はー」
と身分を明かす。スンダルの動きは一瞬止まったがすぐ箱を改め続ける。ぱたぱた逃げる男を見送る運転台の陰からライフルが突き出された。
「俺です!」
先に脱出したロハンだ。
「机の上にありましたよ」
肩にかけたライフルに目を剥くラクシュミたちに言う。
「声を落とせ。お前見張り」
聞いたラクシュミはすぐさま荷台に手を延ばしスンダルの助けで這い上がった。
ばさり。
ビニールシートを自分たちにかけ気持ち程度ながら光を隠し、一つ点けた懐中電灯も建物反対側に向ける。
この箱は……何だ。木の葉と枝だけ。こちらはー
早くしなくては。ルーターの破壊前に首輪のネットワークが正常化したらー
「なあ見張りって何するんだよ」
ロハンだ。
「プラサットを撃った連中だろ? 武装してるんだぞ」
「静かにしろ」
低く重くスンダルは声を抑える。
「来たら警告して」
ラクシュミも呟き程度で投げ、スンダルと争い争いライト前に物をかざしては放り出す。
「お前ら人殺した奴と戦ったことねえだろ」
声が上ずり上がった。
「交替」
手を止めた。この作業は緊急だが、
「腰の引けた人間が見張っても仕方ない。ひとつだけ。それは引き金を引けば撃てるの」
アメリカの射撃場で撃ったことがあるとロハンは書いていた。
「強く引いてください」
巻き添えにしないため数歩離れた場所でライフルを構える。と、
「ひゃあああ!」
何とか声をあげられてよかった。気配に気付いた時には男に飛びかかられすぐ口を塞がれた。肘鉄を打った右腕をそのまま握られ、
「うぎゃああああああっ!」
ねじ上げられる痛みに悲鳴を隠せない。
女が悲鳴をあげて良い事はその間何も出来ないと勘違いされるところだ。痛みに耐えつつ足を踏ん張り構えた、その瞬時の変化も男は嗅ぎ取った。新たに左腕を伸ばしー
ひゅっ!
無理に胴をねじり膝で股間を蹴った。
ぽかーん。
間の抜けた軽い音に、
(サポーター!)
男性の急所を狙ったが当然防護されていた。と男は背中からのしかかり地面に押し潰してくる。土の匂いと味。重い。
「効かねえ!」
ロハンだ。技をかけたが思った効果が出なかったのだろう。
立ち上がりロハンに向かう男に、
「っっ」
ラクシュミは左腕でその右手を抱えぐいぐいと力をこめた。
圧倒的な体力差、ならライフルを撃たせないことだけに全力を尽くす。
(また命が失われてしまう)
少しの揉み合いの後、
「!」
いきなり体が宙に浮いた。
土の上に右手を付くが激痛で支えられず腹ばいで潰れる。目の前でロハンの体がくるりと回され地面に叩き付けられー
(え?!)
寸前、今度は男が投げられ横に回転する。
ざくん、ドスッ。
丁度ラクシュミの目の前にうつ伏せで着地した。
「……はあっ!」
動かない右腕に左腕を添え首の上から叩き落とした。
(殺した?)
男は動かない。延髄は急所、自覚しつつ技をかけた。
(Om Namoー)
神の名を無言で唱える。
(いえ)
手先が少し動いている。力が入りきらなかったか無意識に抜いたかまたは防護服のせいか。
肩にかけたスカーフを急いで外し腕と手をまとめて縛る。日中移動になれば日よけが必要、と布巾とチャット双方に書いたのは多分アンビカだ。
洋装の際ドゥパタのように肩から布を掛ける趣味はない。が今回は実用だ、クローゼットから大判のスカーフを選んでいて良かった。馬具が描いてあった気がするがどうでもいい。
左胸の外付ポケットから覗いていた男の携帯を遠くへ投げやる。意識を取り戻して仲間を呼ばれたら適わない。
タンッ!
前方で軽い銃声。ふたり同時に頭を上げる。
(イムラーン?)
レイチェルから提供された小銃はラクシュミが、一回り大きいリボルバーは見張りの彼が持っている筈だった。
言うとキーボックスを運んだ男がわたわた抜け出たのよりは奥、スンダルたちを追って四番目の柱間で出ようとしたが足音と黒い影まで見え、三番目から外へ出る。
残り二人の男はすぐ動けなかったらしく何やら話し声がし出した。壁際を離れ木々の奥に進めばそれも聞こえなくなる。
(そこで時間を稼いで)
以前壁上に現れた武装姿を思い出す。
暗い。風はあまりなく木々のざわめきは小さい。
土を進む足音は忍ばせても葉を踏んでしまえばやたら大きく聞こえる。
小走りに進む男の後を追うが、ライトを消し左ポケットに入れた現状闇に覆われている。
(っっ!)
いくつかの枝にぶつかり、次いで木の根が何かに躓いた。その腕が取られ、
「早く」
近づいた低い声はスンダルだ。一瞬ポケット内で懐中電灯を点け無言で男の背を指し、すぐ消して後を追う。
「!」
(やはりね)
逃げろと言って車の方向へ誘導させたかった。
二三本まとめ生えている木の向こう側に軽トラックが止まっていた。ラクシュミが点灯しつつ姿を現ししっしっと手を振れば後ずさる。
「ここのどこにルーターがあるかわからない? さっき言った奴」
荷台には幾つもの木箱が無造作に積み重なっている。青くなる。
スンダルの問いに男は首をぶんぶん横に振った。
「あのマダム、どうか水だけはー」
荷台外側にミネラルウォーターの入った箱があった。一本渡し、
「安全な所まで行ったら警察に連絡して。それでさっきのは帳消し。私はー」
と身分を明かす。スンダルの動きは一瞬止まったがすぐ箱を改め続ける。ぱたぱた逃げる男を見送る運転台の陰からライフルが突き出された。
「俺です!」
先に脱出したロハンだ。
「机の上にありましたよ」
肩にかけたライフルに目を剥くラクシュミたちに言う。
「声を落とせ。お前見張り」
聞いたラクシュミはすぐさま荷台に手を延ばしスンダルの助けで這い上がった。
ばさり。
ビニールシートを自分たちにかけ気持ち程度ながら光を隠し、一つ点けた懐中電灯も建物反対側に向ける。
この箱は……何だ。木の葉と枝だけ。こちらはー
早くしなくては。ルーターの破壊前に首輪のネットワークが正常化したらー
「なあ見張りって何するんだよ」
ロハンだ。
「プラサットを撃った連中だろ? 武装してるんだぞ」
「静かにしろ」
低く重くスンダルは声を抑える。
「来たら警告して」
ラクシュミも呟き程度で投げ、スンダルと争い争いライト前に物をかざしては放り出す。
「お前ら人殺した奴と戦ったことねえだろ」
声が上ずり上がった。
「交替」
手を止めた。この作業は緊急だが、
「腰の引けた人間が見張っても仕方ない。ひとつだけ。それは引き金を引けば撃てるの」
アメリカの射撃場で撃ったことがあるとロハンは書いていた。
「強く引いてください」
巻き添えにしないため数歩離れた場所でライフルを構える。と、
「ひゃあああ!」
何とか声をあげられてよかった。気配に気付いた時には男に飛びかかられすぐ口を塞がれた。肘鉄を打った右腕をそのまま握られ、
「うぎゃああああああっ!」
ねじ上げられる痛みに悲鳴を隠せない。
女が悲鳴をあげて良い事はその間何も出来ないと勘違いされるところだ。痛みに耐えつつ足を踏ん張り構えた、その瞬時の変化も男は嗅ぎ取った。新たに左腕を伸ばしー
ひゅっ!
無理に胴をねじり膝で股間を蹴った。
ぽかーん。
間の抜けた軽い音に、
(サポーター!)
男性の急所を狙ったが当然防護されていた。と男は背中からのしかかり地面に押し潰してくる。土の匂いと味。重い。
「効かねえ!」
ロハンだ。技をかけたが思った効果が出なかったのだろう。
立ち上がりロハンに向かう男に、
「っっ」
ラクシュミは左腕でその右手を抱えぐいぐいと力をこめた。
圧倒的な体力差、ならライフルを撃たせないことだけに全力を尽くす。
(また命が失われてしまう)
少しの揉み合いの後、
「!」
いきなり体が宙に浮いた。
土の上に右手を付くが激痛で支えられず腹ばいで潰れる。目の前でロハンの体がくるりと回され地面に叩き付けられー
(え?!)
寸前、今度は男が投げられ横に回転する。
ざくん、ドスッ。
丁度ラクシュミの目の前にうつ伏せで着地した。
「……はあっ!」
動かない右腕に左腕を添え首の上から叩き落とした。
(殺した?)
男は動かない。延髄は急所、自覚しつつ技をかけた。
(Om Namoー)
神の名を無言で唱える。
(いえ)
手先が少し動いている。力が入りきらなかったか無意識に抜いたかまたは防護服のせいか。
肩にかけたスカーフを急いで外し腕と手をまとめて縛る。日中移動になれば日よけが必要、と布巾とチャット双方に書いたのは多分アンビカだ。
洋装の際ドゥパタのように肩から布を掛ける趣味はない。が今回は実用だ、クローゼットから大判のスカーフを選んでいて良かった。馬具が描いてあった気がするがどうでもいい。
左胸の外付ポケットから覗いていた男の携帯を遠くへ投げやる。意識を取り戻して仲間を呼ばれたら適わない。
タンッ!
前方で軽い銃声。ふたり同時に頭を上げる。
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