リアル人狼ゲーム in India

大友有無那

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第9章 生存への闘争(新6日目)

9ー5 現実2(新6日目夜)

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「手助けが欲しい」
 ラクシュミは切り出した。
 自分たちは誘拐されて隣に監禁されていた。やっと逃げ出したが、
「警察に保護を求めるのに車を必要としています。貸してもらえません?」

 建物の骨格は同じで壁パネルはない。一部柱間でシャッターが閉じている以外は太い柱が目立つだけでコンクリートの床も駐車場を思わせる、部屋といっていいのか微妙なだだっ広い空間だ。扇風機も天井にはなく古めかしい二機が置いてあるのが見える。
 おかげで外気の暑さがよくわかる。夜ならまだそこまで酷暑には入ってはいない。
 自分たちが居た建物内よりなお暗く小さな照明の下に古い事務机がふたつ。手前にカジュアルな服装の男三人が思い思いに事務椅子に座っていた。
「いや……危ないんで中に入っていた方がいいですよ」
 一番手前の癖毛の男が卑屈な笑いで手を振り頼みを断る。

 ラクシュミが先頭に立って進み出た時、男たちがにやにや笑いで眺めてきた時から駄目だと思った。仕事先回りや街中でたまたまひとりでいると男たちのグループがよく投げてくる視線だ。獲物がひとりでほっつき歩いているがいいのかな? とでもいう、性的ニュアンスはありながら直接的ではなくむしろ立場の差をわからせようとでもする、不快だがわが国インドではよくあるまなざしだ。

 男の笑いには侮蔑の色も混じっていた。
 確か彼は電話中だった、と構わず大股で進んで机上の携帯を取り耳を付ける。無言で様子を窺う気配に切り、かかってきたものも即座に切断した。
 と電気が消えた。

 二秒ほどだったが、右から寄ってきた気配にざっと身を引く。再び点灯するとすぐそばに男が迫っていた。
 ザッ!
 肘を支点に腕を回し鼻の上を振り抜く。
「うおおっ!」
 向こうでひとり床に叩き付けた勢いのままロハンはラクシュミに迫る男にも回し蹴りを喰らわせた。顔面とダブルで攻撃を受けた彼はばたんと卒倒、これで二人の男が床にのびた。

「車のキーを寄越しなさい」
 椅子を持ったまま後退しようとした三人目の男の額を小銃で狙い定める。
「悪い人間の方に味方するなら救いようがない」
「ま、マダム……どうか落ち着いて……」
 両手をこちらに向けて宥めようとする男の声が震える。
「キーボックスをここに。車のキーが入っているものを直ちに寄越しなさい」

 一番年かさだと思われる彼はわたわたと室内を走り灰色の大きなボックスを運んで来た。ロハンが数字パネルに暗証番号を入れる。開かない。
「あ、今の手が滑っただけです」
 二度目の入力でボックスは難なく開いた。男たちが目を丸くする。
(1017。会社の創立記念日だそうね)

「あなたたちを雇っているのは誰」
「しっ、知らないです」
「正直に白状しなさい」
 身を起こし始めた手前の男の額に銃口を当て、ロハンが同じく這い出した二番目の男に容赦ない蹴りを入れる。だが彼らは親方から行けと言われた場所で仕事をするだけでわからないと必死で言い募った。
「会社の本拠地はどこ? ムンバイ?」
 訊けば親方はプネー、作業員の彼らはここからそう遠くない町の住民だという。
「この村の名前は」
 建物間を移動する間眼下に森が広がっているのが見えた。ここは高台だ。
 人家の灯りは見えず近くに集落の気配はない。遠い道路に点々と続く街灯の明かり以外は闇に包まれている。

 また電気が消えた。デスク上を軽く左手で探り懐中電灯を点灯すればロハンも同じく手に取る。
 バタバタバタ。
 後方からスンダルが走って来た。
「良い知らせ! 機械室も発電機も破壊が完了しました。悪い知らせは機械室にルーターが見当たらなかったこと。車に移動済みかもしれません」
 眉を寄せる。

 投票終了までに首輪とネットワークの繋がりを止める。
 ただしこれは原因が判明次第彼らにネットから直されてしまう程度の一時的措置に過ぎない。
 「ミッション」開始後スンダルは最初に二階空室に設置のルーターを破壊、続いてこの隣棟の機械室でブレーカーを落としサブルーターのスイッチを切り、予備の自家発電も破壊、計画通りならもう一度機械室に戻ってルーターを含む重要箇所を破壊後に合流予定だった。
 サブルーターは明日、万一「プレイヤー」の脱出計画が成功して逃げられた場合、追跡と首輪による「始末」のため車に乗せておく予定ーとの情報が入っていた。
 彼らは前倒しでルーターを移動させたのだろうか。
 焦りと暑さで汗が首元に滲む。
 空調漬けの日々には得られなかった感覚。これが「ゲーム」ではない現実だ。

 ポータブルルーターなら電気を遮断しても封じ手にはならない。ネットワークとの繋がりを無効化すればひとまず首輪攻撃の危機から逃れられるが時間との闘いだ。
 切迫度合いをラクシュミは正確に理解していた。
「ルーターは? どこに動かした」
 銃を構え直し睨み付ける。三つのライトで照らされただけの暗く広い空間に頼りない命乞いの声が響く。
「し、知りません……あわわマダム、助けて」
「細かいことは向こうの人が……本当です」
 口々に手を合わせる。スンダルがこういう形状かもしれないといくつか例を出し、未明に物資補給にやってきた雇い主側の人間が外に持ち出したのがそうかもとの証言を引き出した。

 タブレットで明かりを採っていたスンダルに机上にあった最後のライトを手渡す。
 彼はロハンに細長い木のホルダーのキーを、ラクシュミに青いホルダーの付いたキーを示し彼女に向かって言った。
「そっちがそこの乗用車の方だと思います。早く」
 この建物に乗り込む前、向かって左の東側に車とバイクが止まっているのが見えた。そちらが警備員の車でルーターを忍ばせたのは別の、近くの木陰に隠したという「彼ら」の車の方だろうとスンダルが言う。
 ルーターから離れ通信の届かない場所へ脱出すればひとまずの安心は得られる。キーをポケットに入れ運転手として第一陣を脱出させるべく踵を返した時、

「敵襲!」

 叫びが響いた。
 元の建物から見張るイムラーンの声だ。

「二人!」



<注>
・プネー ムンバイ南東、マハーラーシュトラ州内の大都市。
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