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第9章 生存への闘争(新6日目)
9ー5 現実1(新6日目夜)
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『こんな危険だとは聞いていない! 銃弾が飛んで来るんだぞ』
「待て!」
『とにかく帰らせてもらう』
「待てと言っただろう! 危険手当なら払う」
今帰ったら契約不履行で給料は一切出せないと飴と鞭をぞんぶんに使う。
モニター室の男性チーフは、透明なガラス壁に囲まれたセンター長席の電話で作業員への対応に追われていた。
チャンドリカが死んだ、いやプレイヤーたちに殺された。
ショックに打ちひしがれる暇も後始末にかかる隙もなかった。
電話口で女の子に撃たれたと騒ぐ作業員だが、銃を向けたのは7番「人狼」女子高生でも撃ったのは18番の少年の方で、しかも臆病風に吹かれたのか的外れな方向への警告程度だったのは映像で確認している。大袈裟だ。
「警備員がいるだろう。彼らを呼べ」
言えば騒ぎの数分前から三人で事務所を出て行ったとごねる。
「今日の日給は二倍! それで危険手当代わりだ。どうだ? とにかくそこに留まれ」
こちらからも警備員の動きを確かめると監視映像を次々と切り替えていく。
現場作業員の日給は、自分たちが時々行く中級レストランのバトゥーラ一枚の値段と丁度同じだと知っている。もしボスの承諾が得られなくてもポケットマネーで支払える。それ以上となれば、
「後はうちのボスとそっちとの話し合いだ。言い分はそちらの上に言ってくれ。仕事中に騒がれても困る!」
ガラス向こうの動きにせわしなく目を上げれば、女性チーフの指図に従い監視人たちが移動している。皆一様に顔が強ばっている。当然だ。
今まで映像の中の死は作り物だと強調してきた。今は有効な言い訳を見いだせず脅し黙らせることしか出来ない。
『後からボスが対応なさるかもしれないので』
監視人たちは今夜帰寮させない。先ほど女性チーフがチャットを飛ばしてきた。
今着いた深夜シフト組は乗ってきたバスでそのままとんぼ返り、間もなく勤務が終わる現シフトの監視人について男は食堂、女は仮眠室で泊まらせる。
今はモニター室外、食堂で眠る男性たちへのシーツを女性たちが運び出しているようだ。
今回の監視人説得は頭が痛い。ボスが直接やってもらえれば有り難い。
潜入時の怪我から回復したハリーは復帰を希望したが、顔の状態が酷く監視人らを動揺させるとのボス判断で休んでいる。このプロジェクト中はそのままとの意向だ。
そしてチャンドリカを復帰させることは出来なくなった。
どうやって監視人たちを落ち着かせ納得させるかー
今も左端に小さく開けたままの「風の部屋」映像ウインドウをちらりと見る。
『奴らがっ!』
叫びと共に電話の声が途絶えた。
「どうかしたのか? おい、Hello! HELLO!……」
反応はない。小さな物音の向こうに女の声らしきものを拾った。
(まさか)
あの場所に女はいない。その筈だ。ボリュームを上げ終わらないうちに電話が切れた。かけ直してもぶちりと切断される。
(いやそんな……)
血の気が引き息が荒くなる。
よりによって自分の当番の時にそれほどの大事が起こるわけがない。
前回館の当番時に爆破事件を察知出来ず潜入させられたハリーとチャンドリカを思う。まさか自分もー
カタカタと小さく足が震える。尿意を覚えるが今は席を立つ余裕もない。
派手に音を立ててキーボードを叩き、首輪サーチでプレイヤーの居場所を確認する。
死者、死者、死者……ああ違う生者スートを忘れた、落ち着けと自らに言い聞かせ現時点生存者で絞り込んで建物見取り図に現れる光の点を確認する。
三度数え直しても六人分しか確認出来ない。
チャンドリカは死んだからー思うと胸が重くなるー現在プレイヤーは九人。あとの三人は……そもそも誰がいない?
光の点をクリックし腕章番号を確認する。
8番の機械フェチ、24番の州知事閣下お付きの息子、そして女では、英語演説で度々ゲームをかき回す要注意人物、職業詐称の12番の所在が確認出来なかった。
手先まで覚束ない。ガラス向こうに行き来する監視人や女性チーフに動揺を気付かれたらと思うそばから視界まで揺れて定まらない。
しっかりしろ、自分!
建物の外観映像が見られることに気付いて次々と映像ウインドウを開く。
最初に北側。攪乱のため切断してから板で塞いだシャッターがある面だ。
外壁に付けたLED電球の光の下で三人の武装警備員が何やら話しているのが小さく見えた。
(こっちに居たか)
プレイヤーたちが逃亡に利用すると明記していた場所で、計画前夜でも念の為危険度の高い方で待機するのは理解出来る。
「作業員たちにトラブルが起こったようだ。事務所に回ってくれ」
電話で指示すれば、
『作業員の保護は仕事に入っていないが』
ひとりが携帯を取り話し始めたのが映像でも見える。
全身アーマーのどこに携帯を入れているのだろうとちらりと思った。
「収容者を逃がさないことは仕事に入っているだろう」
未確認だが逃亡者が出た可能性があると告げる。
「凶悪な連中だ。人里に入り込まれでもしたら大変なことになる」
『この北壁付近で爆発があったのか? そちらで確認しているか』
「何の話だ?」
『今さっき大きな音がシャッター側で聞こえた。今のところ損傷は発見出来ない』
しまった。作業員らと話していたため映像だけ監視し音のモニターはしていなかった。
(爆弾魔の奴が失敗したのか)
内部で爆発させてしまいシャッターを壊せなかったとか? いや。
「北側シャッターを内側から見ているがー」
角度を変え、アップと引きを繰り返し、
「特に異常はないぞ。収容者もこの近くにはいないようだが」
『人がいない? 話し声は聞こえるが』
「内部のもう少し奥になら男がいる」
看護師の10番が倉庫の医薬品を素早く下ろしている。怪我人でも出たのか?
話しながら次は東外壁カメラの映像を次々とチェックしていく。
集合住宅として造られたこの放棄建物は南北に馬鹿長い。東3カメラ、2カメラ、1カメラー何か気にかかるが普段との違いがよくわからない。
続いて処刑室が並び、事務所棟と向かい合う南外壁。
(!)
「シャッターが開いている!」
叫んだ。
階段室の横のシャッターが全開だ。中に人の顔が見え隠れする。
ならばやはり三人は建物外に脱走したのか。まずい、ただでは済まない。
12番を指定し躊躇なく赤3を押す。ルール違反なら遠慮はいらない。こいつの演説でうるさくなった顧客も文句を言うどころか逆に厳格に運用しなければクレームレベルの基本ルールだ。
反応はわからない。
技術部から赤コマンド復帰の知らせはまだないのだ。
ネットワーク上の問題と思われ、数分で回復予定とのチャットが入っているが、まだだろうか。やけになったように8番、24番にも赤3を押しつつ、
「逃亡は三人の可能性。うち一人は女。そいつと男の一人は武術の経験者だ。気を付けろ」
すぐに向かうと低い一言で電話は切れ、北側映像から警備員ふたりが左右に分かれ東と西からそれぞれ疾走していくのが見えた。ひとりはその場に残って警戒を続けるらしい。
三人を処分出来たら建物内には計六人、「人狼」はまだ含まれ「リアル人狼ゲーム」は続行可能だ。だがこの建物は使い続けられるのか。さすがに次の予備会場を引っ張り出すのはきついが、念の為整備にかけた方がいいだろうかー
それ以前に「ゲーム会場」で今起こっていることを彼は把握出来ていなかった。
大事になっていると信じたくなかった。
<注>
・バトゥーラ 揚げパン。小麦粉とヨーグルトなどの材料を練ったタネを揚げふっくらとふくらんだ形(中は空洞)となったもの。ナンやチャパティ同様カレーなどのおかずと合わせて食べる。
「待て!」
『とにかく帰らせてもらう』
「待てと言っただろう! 危険手当なら払う」
今帰ったら契約不履行で給料は一切出せないと飴と鞭をぞんぶんに使う。
モニター室の男性チーフは、透明なガラス壁に囲まれたセンター長席の電話で作業員への対応に追われていた。
チャンドリカが死んだ、いやプレイヤーたちに殺された。
ショックに打ちひしがれる暇も後始末にかかる隙もなかった。
電話口で女の子に撃たれたと騒ぐ作業員だが、銃を向けたのは7番「人狼」女子高生でも撃ったのは18番の少年の方で、しかも臆病風に吹かれたのか的外れな方向への警告程度だったのは映像で確認している。大袈裟だ。
「警備員がいるだろう。彼らを呼べ」
言えば騒ぎの数分前から三人で事務所を出て行ったとごねる。
「今日の日給は二倍! それで危険手当代わりだ。どうだ? とにかくそこに留まれ」
こちらからも警備員の動きを確かめると監視映像を次々と切り替えていく。
現場作業員の日給は、自分たちが時々行く中級レストランのバトゥーラ一枚の値段と丁度同じだと知っている。もしボスの承諾が得られなくてもポケットマネーで支払える。それ以上となれば、
「後はうちのボスとそっちとの話し合いだ。言い分はそちらの上に言ってくれ。仕事中に騒がれても困る!」
ガラス向こうの動きにせわしなく目を上げれば、女性チーフの指図に従い監視人たちが移動している。皆一様に顔が強ばっている。当然だ。
今まで映像の中の死は作り物だと強調してきた。今は有効な言い訳を見いだせず脅し黙らせることしか出来ない。
『後からボスが対応なさるかもしれないので』
監視人たちは今夜帰寮させない。先ほど女性チーフがチャットを飛ばしてきた。
今着いた深夜シフト組は乗ってきたバスでそのままとんぼ返り、間もなく勤務が終わる現シフトの監視人について男は食堂、女は仮眠室で泊まらせる。
今はモニター室外、食堂で眠る男性たちへのシーツを女性たちが運び出しているようだ。
今回の監視人説得は頭が痛い。ボスが直接やってもらえれば有り難い。
潜入時の怪我から回復したハリーは復帰を希望したが、顔の状態が酷く監視人らを動揺させるとのボス判断で休んでいる。このプロジェクト中はそのままとの意向だ。
そしてチャンドリカを復帰させることは出来なくなった。
どうやって監視人たちを落ち着かせ納得させるかー
今も左端に小さく開けたままの「風の部屋」映像ウインドウをちらりと見る。
『奴らがっ!』
叫びと共に電話の声が途絶えた。
「どうかしたのか? おい、Hello! HELLO!……」
反応はない。小さな物音の向こうに女の声らしきものを拾った。
(まさか)
あの場所に女はいない。その筈だ。ボリュームを上げ終わらないうちに電話が切れた。かけ直してもぶちりと切断される。
(いやそんな……)
血の気が引き息が荒くなる。
よりによって自分の当番の時にそれほどの大事が起こるわけがない。
前回館の当番時に爆破事件を察知出来ず潜入させられたハリーとチャンドリカを思う。まさか自分もー
カタカタと小さく足が震える。尿意を覚えるが今は席を立つ余裕もない。
派手に音を立ててキーボードを叩き、首輪サーチでプレイヤーの居場所を確認する。
死者、死者、死者……ああ違う生者スートを忘れた、落ち着けと自らに言い聞かせ現時点生存者で絞り込んで建物見取り図に現れる光の点を確認する。
三度数え直しても六人分しか確認出来ない。
チャンドリカは死んだからー思うと胸が重くなるー現在プレイヤーは九人。あとの三人は……そもそも誰がいない?
光の点をクリックし腕章番号を確認する。
8番の機械フェチ、24番の州知事閣下お付きの息子、そして女では、英語演説で度々ゲームをかき回す要注意人物、職業詐称の12番の所在が確認出来なかった。
手先まで覚束ない。ガラス向こうに行き来する監視人や女性チーフに動揺を気付かれたらと思うそばから視界まで揺れて定まらない。
しっかりしろ、自分!
建物の外観映像が見られることに気付いて次々と映像ウインドウを開く。
最初に北側。攪乱のため切断してから板で塞いだシャッターがある面だ。
外壁に付けたLED電球の光の下で三人の武装警備員が何やら話しているのが小さく見えた。
(こっちに居たか)
プレイヤーたちが逃亡に利用すると明記していた場所で、計画前夜でも念の為危険度の高い方で待機するのは理解出来る。
「作業員たちにトラブルが起こったようだ。事務所に回ってくれ」
電話で指示すれば、
『作業員の保護は仕事に入っていないが』
ひとりが携帯を取り話し始めたのが映像でも見える。
全身アーマーのどこに携帯を入れているのだろうとちらりと思った。
「収容者を逃がさないことは仕事に入っているだろう」
未確認だが逃亡者が出た可能性があると告げる。
「凶悪な連中だ。人里に入り込まれでもしたら大変なことになる」
『この北壁付近で爆発があったのか? そちらで確認しているか』
「何の話だ?」
『今さっき大きな音がシャッター側で聞こえた。今のところ損傷は発見出来ない』
しまった。作業員らと話していたため映像だけ監視し音のモニターはしていなかった。
(爆弾魔の奴が失敗したのか)
内部で爆発させてしまいシャッターを壊せなかったとか? いや。
「北側シャッターを内側から見ているがー」
角度を変え、アップと引きを繰り返し、
「特に異常はないぞ。収容者もこの近くにはいないようだが」
『人がいない? 話し声は聞こえるが』
「内部のもう少し奥になら男がいる」
看護師の10番が倉庫の医薬品を素早く下ろしている。怪我人でも出たのか?
話しながら次は東外壁カメラの映像を次々とチェックしていく。
集合住宅として造られたこの放棄建物は南北に馬鹿長い。東3カメラ、2カメラ、1カメラー何か気にかかるが普段との違いがよくわからない。
続いて処刑室が並び、事務所棟と向かい合う南外壁。
(!)
「シャッターが開いている!」
叫んだ。
階段室の横のシャッターが全開だ。中に人の顔が見え隠れする。
ならばやはり三人は建物外に脱走したのか。まずい、ただでは済まない。
12番を指定し躊躇なく赤3を押す。ルール違反なら遠慮はいらない。こいつの演説でうるさくなった顧客も文句を言うどころか逆に厳格に運用しなければクレームレベルの基本ルールだ。
反応はわからない。
技術部から赤コマンド復帰の知らせはまだないのだ。
ネットワーク上の問題と思われ、数分で回復予定とのチャットが入っているが、まだだろうか。やけになったように8番、24番にも赤3を押しつつ、
「逃亡は三人の可能性。うち一人は女。そいつと男の一人は武術の経験者だ。気を付けろ」
すぐに向かうと低い一言で電話は切れ、北側映像から警備員ふたりが左右に分かれ東と西からそれぞれ疾走していくのが見えた。ひとりはその場に残って警戒を続けるらしい。
三人を処分出来たら建物内には計六人、「人狼」はまだ含まれ「リアル人狼ゲーム」は続行可能だ。だがこの建物は使い続けられるのか。さすがに次の予備会場を引っ張り出すのはきついが、念の為整備にかけた方がいいだろうかー
それ以前に「ゲーム会場」で今起こっていることを彼は把握出来ていなかった。
大事になっていると信じたくなかった。
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