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第10章 ムンバイへの道(新7日目)
10ー3 未来の希望2(新7日目)
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「話がまとまった。これからムンバイ警察本部へ移送する」
白髪交じりの警官は反り返って通告し牢の鍵を開けた。署内を通る時ちらりと見た時刻は四時三十五分。
「レイチェルは見つかりましたか」
「女は後で送る」
見つかったんだとロハンは思った。
「一緒には駄目ですか」
食い下がってみた。女の子をひとりここに置いて行くのは自分でも可哀想だと思う。
「黙ってとっとと歩け!」
駄目か。
(それだったら俺の女になってた方が良かったじゃねえか……ってレイチェルはねえわ)
ガキ過ぎる。変な趣味はない。
凹みが目立つ大型乗用車の後部座席に並んで座り、ロハンの隣と運転席、助手席に警官がひとりずつ乗って出発した。
「帰ったら何がしたい?」
「うちのベッドで手足ぐわーっと伸ばして熟睡したいです」
プラサットが答える。
様子を覗ったが車内でしゃべるのは構わないようだ。
ムンバイ警察本部ならすぐ家とも連絡を取ってもらえるだろう。警察官が自分に頭を下げ出すのも時間の問題だ。
「俺はダチと会いてえ。知事閣下の次男でな、ガキの頃からずっと一緒だったんだ。あいつやいつもの仲間とディスコで飲んで踊って騒ぎまくりたいぜ」
「彼女さんも心配しているんじゃないですか」
「ああ、あいつね」
今付き合っていることになっているのはどっちだったっけ?
「かもな。お前は彼女捜しからか」
「ですね」
プラサットは薄く微笑んだ。が顔の腫れで口元が上手く笑えない。
ロハンや友人に話す時は「好きだった子」と言っているが実際はまだ「好きな子」だ。プリントを集める時の姿、図書館へ向かい彼氏と階段を降りて行く時の弾けるような笑顔ー
就職したなら結婚出来る女の子としか付き合えないだろう。
宗教も他の何も考えずただドキドキして、見ていたいだけで好きになり付き合えるのは高校生のうちだけだ。
「……おれの青春は終わったんだな、って」
「何だよ急に」
「もうすぐ社会人ですから」
「社会人になっても青春続くだろ。ってか自分が稼いだ金で遊べる分もっと楽しいぞ」
「兄貴のところは何歳くらいで結婚するとかあるんですか」
「……学校出て一・二年したら親が話を持って来るだろ。ただ気に入らなきゃ蹴るけどな。親父とは女の趣味が違うんだよ」
深々とため息を吐く。
「丸顔の地味な女が好みなんだ。あそこにいた中ならアンビカさんが近いかな。で、おふくろも実はそっち系統。俺は面長の、派手な美人が好きなんだよ!!」
力説する。
(あの子は地味だけど貧相でない清楚タイプだな)
つい考えてしまう。
「女優さんだと誰の感じですか? シュラーダー?」
「華やかさが足りない! 機械フェチとは趣味が違えよ!」
「じゃあウルヴァシ・ラウテラも駄目ですか」
「どっちかって言ったらウルヴァシの方がいいかな。って名前言うとあの潜入女思い出して腹が立つじゃねえか」
「済みません。……スンダルさんも怒ってましたね」
『「ウルヴァシ」なんて偽名使うんじゃねえ!』
「俺はあいつほどウルヴァシー女優の方なーに思い入れはねえけど……偽名だったのか」
「だそうです」
インド神話の天女の名で一般的な女性名だから女優から取ったとは限らない。怒らなくてもと思うが、
(おれだって、あの人があの子と同じ名前使ってたら腹立つもんな)
酷い場所から逃げ出して、今度は殴り蹴られてあちらこちら痛いが警察はやっと保護モードに入ってくれた。早く家に帰りたい。
「結局おれ、ゲームで何の役にも立ちませんでしたね」
プラサットが低い車の天井を見上げたのに隣から目を流す。
「役に立っても仕方ねえだろう」
「俺は『役あり』だったのになって」
ロハンとプラサットは互いに自分の配役を打ち明けていた。ロハンは平の村人だったがプラサットは、
「最初の相手はすぐ死んじまって、二回目は真っ先に殺されちまって投票の時にはもういなかった」
「『兄弟』は疑われた時に強いって話だったろ? お前最後までほとんど疑われなかったじゃねえか。投票だってよ」
あの狂った場所で活躍する必要はない。安全に逃げ延びれば良く彼は上手くふるまった。言うとプラサットは小さく頭をかいた。
「降りろ」
林に沿った小道で止まった車に小用休憩かと望みを託したが三方から突き付けられた銃に希望は0.5秒で粉砕された。
ライトを持った警官が先導し、他の連中に銃でつつかれ林へ分け入る。木の根を踏み越え数メートル入ったところで
「ひざまずけ」
何を示しているのかわからないほど馬鹿ではない。
俺の家に背いたらそうされてもおかしくはない。だが何故自分がー
「バー……」
心配そうな目を向けたプラサットが兄貴と言い終わらないうちにロハンは駆け出した。
ドン!
ドン、ドン!
木の後ろを回り、銃弾が当たらないよう出来る限り不規則に動きながら夜の林を手探りで逃げる。
後方では何度も銃声が鳴り足音も追ってー
(うわっ!)
すねに痛みが走りよろけた途端足元から大地が消えた。
(崖っ?)
思い当たった時にはロハンの体は叩き付けられていた。
白髪交じりの警官は反り返って通告し牢の鍵を開けた。署内を通る時ちらりと見た時刻は四時三十五分。
「レイチェルは見つかりましたか」
「女は後で送る」
見つかったんだとロハンは思った。
「一緒には駄目ですか」
食い下がってみた。女の子をひとりここに置いて行くのは自分でも可哀想だと思う。
「黙ってとっとと歩け!」
駄目か。
(それだったら俺の女になってた方が良かったじゃねえか……ってレイチェルはねえわ)
ガキ過ぎる。変な趣味はない。
凹みが目立つ大型乗用車の後部座席に並んで座り、ロハンの隣と運転席、助手席に警官がひとりずつ乗って出発した。
「帰ったら何がしたい?」
「うちのベッドで手足ぐわーっと伸ばして熟睡したいです」
プラサットが答える。
様子を覗ったが車内でしゃべるのは構わないようだ。
ムンバイ警察本部ならすぐ家とも連絡を取ってもらえるだろう。警察官が自分に頭を下げ出すのも時間の問題だ。
「俺はダチと会いてえ。知事閣下の次男でな、ガキの頃からずっと一緒だったんだ。あいつやいつもの仲間とディスコで飲んで踊って騒ぎまくりたいぜ」
「彼女さんも心配しているんじゃないですか」
「ああ、あいつね」
今付き合っていることになっているのはどっちだったっけ?
「かもな。お前は彼女捜しからか」
「ですね」
プラサットは薄く微笑んだ。が顔の腫れで口元が上手く笑えない。
ロハンや友人に話す時は「好きだった子」と言っているが実際はまだ「好きな子」だ。プリントを集める時の姿、図書館へ向かい彼氏と階段を降りて行く時の弾けるような笑顔ー
就職したなら結婚出来る女の子としか付き合えないだろう。
宗教も他の何も考えずただドキドキして、見ていたいだけで好きになり付き合えるのは高校生のうちだけだ。
「……おれの青春は終わったんだな、って」
「何だよ急に」
「もうすぐ社会人ですから」
「社会人になっても青春続くだろ。ってか自分が稼いだ金で遊べる分もっと楽しいぞ」
「兄貴のところは何歳くらいで結婚するとかあるんですか」
「……学校出て一・二年したら親が話を持って来るだろ。ただ気に入らなきゃ蹴るけどな。親父とは女の趣味が違うんだよ」
深々とため息を吐く。
「丸顔の地味な女が好みなんだ。あそこにいた中ならアンビカさんが近いかな。で、おふくろも実はそっち系統。俺は面長の、派手な美人が好きなんだよ!!」
力説する。
(あの子は地味だけど貧相でない清楚タイプだな)
つい考えてしまう。
「女優さんだと誰の感じですか? シュラーダー?」
「華やかさが足りない! 機械フェチとは趣味が違えよ!」
「じゃあウルヴァシ・ラウテラも駄目ですか」
「どっちかって言ったらウルヴァシの方がいいかな。って名前言うとあの潜入女思い出して腹が立つじゃねえか」
「済みません。……スンダルさんも怒ってましたね」
『「ウルヴァシ」なんて偽名使うんじゃねえ!』
「俺はあいつほどウルヴァシー女優の方なーに思い入れはねえけど……偽名だったのか」
「だそうです」
インド神話の天女の名で一般的な女性名だから女優から取ったとは限らない。怒らなくてもと思うが、
(おれだって、あの人があの子と同じ名前使ってたら腹立つもんな)
酷い場所から逃げ出して、今度は殴り蹴られてあちらこちら痛いが警察はやっと保護モードに入ってくれた。早く家に帰りたい。
「結局おれ、ゲームで何の役にも立ちませんでしたね」
プラサットが低い車の天井を見上げたのに隣から目を流す。
「役に立っても仕方ねえだろう」
「俺は『役あり』だったのになって」
ロハンとプラサットは互いに自分の配役を打ち明けていた。ロハンは平の村人だったがプラサットは、
「最初の相手はすぐ死んじまって、二回目は真っ先に殺されちまって投票の時にはもういなかった」
「『兄弟』は疑われた時に強いって話だったろ? お前最後までほとんど疑われなかったじゃねえか。投票だってよ」
あの狂った場所で活躍する必要はない。安全に逃げ延びれば良く彼は上手くふるまった。言うとプラサットは小さく頭をかいた。
「降りろ」
林に沿った小道で止まった車に小用休憩かと望みを託したが三方から突き付けられた銃に希望は0.5秒で粉砕された。
ライトを持った警官が先導し、他の連中に銃でつつかれ林へ分け入る。木の根を踏み越え数メートル入ったところで
「ひざまずけ」
何を示しているのかわからないほど馬鹿ではない。
俺の家に背いたらそうされてもおかしくはない。だが何故自分がー
「バー……」
心配そうな目を向けたプラサットが兄貴と言い終わらないうちにロハンは駆け出した。
ドン!
ドン、ドン!
木の後ろを回り、銃弾が当たらないよう出来る限り不規則に動きながら夜の林を手探りで逃げる。
後方では何度も銃声が鳴り足音も追ってー
(うわっ!)
すねに痛みが走りよろけた途端足元から大地が消えた。
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思い当たった時にはロハンの体は叩き付けられていた。
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