リアル人狼ゲーム in India

大友有無那

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第10章 ムンバイへの道(新7日目)

10ー3 モニター室3(新7日目)

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 午前五時。事態はまだ収拾していない。
 センター長、通称ボスは自席でタブレットに出した地図を睨み付けていた。

 一報は確か二時半頃。
 つてをたどっていくつかの署に話を回したところ、ロナヴァラ少し先の町の警察署に首輪をしたグループが出頭したとの話が持ち込まれた。
 当施設からの逃亡者なので回収に行くまで「保管」してくれと頼み、車や人員の手配にかかる。
 ぐりぐりり。スタイラスペンで地図の一点を丸く囲んだ。町の警察署の場所だ。

 その後間もなく、三時前に、技術部が断続的な接続で首輪がムンバイ中心街に近づいているようだと報告してきた。
 人の手配は間に合わず辛うじてチンピラ共に捕獲を命じたが、見つけることすら出来ず10・12・19番の三つの首輪はムンバイ南部を最後に沈黙した。
 「観客」から地味に人気のあった「タントラ」、10番の看護師。
 賭ける者も多ければ殺せとのコメントも続出した12番。脱出劇首謀者のひとりだ。
 最年少という以外はあまり目立ずゲームでの役割はチャンドリカの弾除けくらいしかなかったカルナータカ州在住の19番。大人びた雰囲気の彼女は「負け」たら入手したいという顧客も何人かいたがそれは叶わなくなった。

『接続したらすぐ赤3ラールティーンをかけますか』
 「爆弾魔」に止められた赤コマンドは復旧し、接続次第の制圧が可能だと技術部が伺いを立ててきた。
『止めろ』
 街の中で首輪をした人間が何人も死ねば騒ぎになる。遺体回収の目途がつかなければその手は使えない。
 ぐりぐりぐりっ。
 ムンバイ市内へ入るオールド・バシー橋のたもとから市内へいくつかの印を付ける。
 チャットでは国道にそって北部の署に逃げ込むと話していたがそれも偽装だったのだろうか。首輪の反応のあったルートからは彼らが国道を外れて南に回り、おそらくはムンバイ警察本部を目指したと思われる。
 三人には逃げ切られたと見ていいだろう。
 自分の国内のコネはデリーに多くムンバイ社会の上層部にすぐの圧はかけられない。


 そう、最初は全員が町の警察署に飛び込んだと思っていた。
 だが奴らはかなり分散した。小さい集団ほど弱いのに何故そうしたのか。リスク分散かまたは仲間割れか。(車にカメラを載せていたらかなり面白いコンテンツになっただろう。本気で残念だ)
 インドの地理に暗い顧客へのサービスとしてこの地図画面も共有している。正面カメラからの、憮然として印を付ける自分の映像と見比べつつ楽しんでいるだろう。

 武装警備員の会社に依頼し後発の軽トラックを捉えたが、またも返り討ちされて連中は逃げ切った。あらかじめ打合せたのか先発組同様に国道を離れ南を回ったものの、最後に待ち伏せ人員を置いたオールド・バシー橋には姿を現さなかった。より北のどちらかの橋を渡ったようで、南部の街の中で反応を見せた後やはり警察本部近くで沈黙した。
 これが5番と8番。
 料理の腕でしたたかに逃げ切った5番の主婦。
 次に、こいつのことは考えるだけでも怒りが煮えたぎる、8番。
 高額で買い取った大邸宅を爆破で使用不能にし、場所を移せばチャット連絡を組織した挙げ句一時的にでも首輪を制御不能にして脱出を成功させた「爆弾魔」。たいしたことのない大学の学生だ。
 18番は生命反応がないと技術部が報告してきた。
 バイクでの襲撃でひとりくらいは殺害出来たのか。
 あれだけの人員を使ってたった一人射殺なら相当無能だ。あの会社はもう駄目だ。


 例の町の署から連絡係の部下のところへ連絡が入ったのは四時半頃だった。
 ムンバイ警察本部より、首輪付きの誘拐被害者が保護を求めて来たら直ちに報告するように、扱いに注意が必要なので指示する、と国道近くの署に触れが回ったという。

『来なかったんですよ、誰も』
 そちらで始末すればいいだろうに。
『ご迷惑の件は改めてご挨拶に行きますので』
 先に約束した以上に「礼」は上乗せする。
『首輪はうちの企業秘密なのでそこだけは漏れないようにお願いします』
 首輪付きのまま遺体が発見されてニュースになることがないようにー
『大事になりますよ』
 面倒がっていた署の幹部にはそれなりの代価を約束して彼らの存在を消すことを勧めた。面倒な素振りすら金を引き出すためのポーズかもしれないがこちらには関係ない。
 精神的に問題のある若者のリハビリ施設だと称したが信じていようがいなかろうが、それもどうでもいい。


 つい先ほど、署の幹部から三人とも始末したと連絡が入った。
 ここは首輪で反応が見られないが残りは三人。
 某州知事最大支援者の息子、24番。
 生きて戻られたら面倒な存在だった。遺体で見つかっても親心で政治力を使い追及されたら煩わしい。始末出来て良かった。

 あとは高校生が男女ひとりずつで男が25番。
 目立たず疑われずという点では上手い立ち位置だったが、「兄弟」の役を使う知恵もなくゲームを盛り上げもしなかった。賭けのオッズも低く使えないプレイヤーだ。
 女は「人狼」としては上手く潜伏したが、仲間が告発されてすぐ隠す努力を放棄した頭と忍耐力、おまけに容姿も足りず(というより子ども過ぎて画面上での魅力に欠け)やはり使い物にならなかった7番。

(それでも女は生きていれば売れたんだが……)
 深く息を吐く。ガラス向こうではチーフたちがPCにかじり付いている。

 プレイヤーのうち逃亡経路で始末出来たのが四人。
 残り五人には警察に駆け込まれた。
 後はこの五人と捜査関係者を如何にどこまで黙らせるかだ。

 ぐびりと口にしたコーヒーは苦くかつ冷めていた。
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