リアル人狼ゲーム in India〈リターン&リベンジ!〉

大友有無那

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第2章 これは生き残りのゲーム(2日目)

2ー6 ダンス!

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 One Two Three Four!
 リズムに乗るようではまだ甘い。体がリズムを刻めば流れるダンスが世界を震わせる。
 骨と筋肉の位置が、大地と天の間で動く体の流れが手に取るようにわかる。

 ♪lose~

 弾むリズムが突然流れて伸びる音、全身で描くウェイブが好き。

 Ra-ta-ta-ta

 今度はリズムをー
(あああ、体が固い)
 女子棟の行き止まり。男子によると階段への通路だそうだが木の板で塞がれた8号室と9号室の間。四つの部屋の間にあるロビーのソファーでアディティとシュルティが寄り添ってニルマラの踊りを見ている。彼女らの前でストレッチをしてから基礎練習、そして自分で歌を口ずさみながら踊り出した。
 通りかかったカマリから文句を言われたが、
『一日さぼれば自分にわかる。二日さぼれば仲間に、三日さぼれば観客にわかる。ダンスってのはそういうものなの。昨日ろくに練習できなかったんだから今日はやるに決まってるでしょ!』
 バレエで言われているらしいセリフで乗り切った。

 昨日と今日のありえない恐怖。それでもニルマラは踊る。
 今もふたり、いや向こうのソファーで服を物色しながらこちらを見ているマリアたちを含めればもっと観客がいる。
 女子棟ロビーのテーブルと一部のソファーは、各自が好みと違う服を供出した服屋か市場状態。

 誰が何と言おうとニルマラには目標がある。

 ー韓国ならダンスでスターになれる!!

 物心ついた時からダンスが好きだった。
 親戚の結婚式でお尻をふりふり踊っていた三歳の動画が残っている。それからずっと踊り続け、将来の夢はボリウッドでタイガーの相手役、リティクSir.の近くで踊れたら最高だ! とずっと言っていた。

 ダンスを習いたいとねだったら古典舞踊ならとカタックを習わせてくれた。
 これは本当に良かった。
 大地に着いた足からの感覚を覚え、腕や足・体の制御、そして思いを表現することを学んだ。
 考えることは同じでお姉さんたちの中にはムンバイで映画出演のオーディションに出る者もいた。

『本当にいいの? ダンサーで出演したら俳優では出られなくなる』

 先生が真剣な顔で尋ねていた。
 ダンサーと俳優との間には「差」がある。
 ダンサーからはスターになれない。
 天才的なダンスを踊るタイガーもリティクも俳優デビューでダンサーは通っていない。
(その前にふたりともフィルミーカースト出身だけどね)

 K-POPは動画のお勧めで流れてきたのを何気なく見た。楽しげにダンスを踊る少女たちの喜びがニルマラにもわかった。
 ステージで、移動の空港でと彼女らはファンの歓声を浴びていた。
 いくつかの動画を真似し、お気に入りのアーティストが出来、応援し、そして彼女たちのようになりたいと思った。
 
 韓国アイドルならダンスでスターになれる。
 ただし歌も歌わなくてはならない。
 プレイバックシンガーを使わずに踊って歌うと知った時、ありえないと思った。
 現実のようなのでこちらもダンス同様動画を真似して練習し始めた。
 今では息が切れるのも抑えて結構いける。

 柔らかく腕を広げる動きがオリジナルのアーティストのようには出来ず濡れた羽の鳥のようになってしまう。このグループ、パフォは好きだけどダンスレベルはそれほど高くないのに。

 何気ない、フリーに見える動きこそいつだって難しい。
 それを易しく見せて。傷ついたってわたしは進む。
 だって見てくれる人がいる。今も、未来のステージを取り囲む人々も。

 ーわたしは韓国で踊ってスターになる!

 共和国記念日の祝日に、今踊っているアーティストのところのような大手ではないが韓国のプロダクションがムンバイでオーディションを開催する。ニルマラはこれに参加する。父の方が自分に甘いのでそちらから先に頼んで許可をもらった。
 体を鈍らせる訳にはいかない。
 他の子たちは来月からの試験に人生を賭けているが自分にはその前に運命の岐路が来る。

『僕は賛成しない』

 ニルマラが踊ることを応援してくれていた兄が今回初めて反対した。
 ノートパソコンを持って厳しい顔で部屋に来て、

『お前は韓国ならダンスでスターになれるって言う』 
 コクコクと頷く。
『調べてみたけど、韓国のアイドルスターたちの大学進学率はもの凄く低いんだよね。それどころか活動が忙しくて高校を中退する子までいる』
 そうみたい。だけどスターになったら学校なんて必要ない。
『お前さ、うちが大学に行かなくて済むような家だと思ってんの?』

 父は成績優秀で苦学して公務員になった。お給料で買った土地を貸して副収入も得ている。だから病気がちな母も問題なく治療を受けられるし、自分もずっとイングリッシュ・ミディアムの私立校に通ってきた。

『そうだよ、父さんが頑張ってひとりでここまで押し上げたんだ。それ以外に何もないんだよ』
 何不自由なく暮らさせてもらって勘違いしてる? 
 この頃聞かなかった厳しい声に身が凍る。

『韓国はかなりの学歴社会で教育レベルも高いそうだ』
 パソコンのデータを見ながら兄は続ける。
 インドではダンサーと俳優は違う、だが韓国ならダンサーのままでスターに成れる。ニルマラは言ってきたが、

『韓国では、芸能人の社会的地位そのものが低いだけじゃないか?』

 殴られたようなショックを受けた。
 儒教社会なら上下関係は厳しいだろう。その中で外国人の女の子がやっていけるのかと兄は畳み掛ける。
 (何言ってるの?)
 SriyaもAriaも活躍中だ。ふたりともダンスメンとして評価されている。母なるインドの大地はわたしたちに踊れる体をお与えくださった。
(上下にうるさいのはインドうちだって同じじゃない)
 だから父さんが頑張って……
『!』
 はっとする。そのための武器が公務員試験を突破する実力、そして学歴だった。

『韓国でアイドルとしてある程度の業績をあげたら、それを引っ提げてこっちの映画界に売り込むって手もある。大学を出ていればな』
 K-POPアイドルを目標に定めてから映画スターへの夢は捨てていた。
 だが兄は覚えていた。
 映画俳優は大卒。ダンサーなら大卒でなくてもいい。これが「差」だ。

『父さんたちが反対してないのはお前が受かると思っていないからだ。僕は、韓国の動画を見ていてお前のダンスは遜色ないと思う』
 兄さんはわたしがやれると思っている。だからこその反対がきつい。

 兄はオーディションに受かっても必ず高校は続けること、芸能活動で多少の遅れはあっても二十一歳までに大学に入学することを条件としてきた。
 韓国の芸能高校でもインド系でもインターナショナルスクールでもいい。

『今は父さんたちに何も言わないよ。だけど受かったら全部話すからね。それまでに対応策を考えておきな!』

 可愛い妹のことだ心配はすると兄は出て行った。
 ひとりになったニルマラは幼い時のようにぼろぼろと泣いた。
(何が悪いのよおっ!)
 わたしは踊りのカルマと共にこの人生を与えられたの。踊ることはわたしの「仕事」で、神様への礼拝。
 誰がシヴァ神に踊りを止めろと言う?
 誰がクリシュナ様のリーラを止めようとする?

 校外学習だって正直時間が勿体ない、練習に充てようかと思った。そうしていればー
 オーディション前の大事な時にどうしてこんなことになるの?
 共和国記念日までに帰れなかったらー

 わたしは生き延びる。この人生、まだ全然踊り足りないから。
 自分に有利なカードをひとつふたつと拾い上げる。

 ダンス!
 
 石の床を強く踏みすぎると足を痛める。だが最後の着地にだけそれを許した。
 古典舞踊式に大地の女神への礼をして締める。
「ニルマラ最高っ!」
 シュルティがとととと駆け寄って抱きついてきた。アディティも拍手しながら近づいてくる。向こうでマリアが頬を紅潮させて手を叩く。
「ニルマラ、ニルマラ、ニルマラ!」
 両手を握ってぶんぶん上下に振り回し、そしてシュルティはリズムをとる。久々に目の焦点が合ってきた。アディティは腕を振り上げもう踊り始めている。
 間もなく女子棟の廊下はダンスフロアに変わった。


 渡り廊下から入ってきたコマラはきょとんと目を見開いた。



<注>と言い訳など
※韓国芸能界についてはニルマラ兄の偏見です。
 この中で確かなのはインドの映画スターが大卒ということくらいです
・タイガー タイガー・シュロフ アクションやダンスに定評がある若手スター
・リティクSir.   リティク・ローシャン ダンスに演技、容姿と揃った大スター
・フィルミーカースト 
  監督・俳優など代々映画産業人を輩出する一族を呼ぶあだ名のようなもの
  当然ながらカースト成立当時に映画はなかったので実際には「映画カースト」はない
・共和国記念日 1月26日 インド憲法発布を記念した祝日
・Sriya  外国人だけのK-POPグループBlackswanのインド人メンバー
・Aria    K-POPグループX:INのインド人メンバー
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