転生したら宗教テロリストだった。だけどオレ、推しのために闘うわ!

大友有無那

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2 時空を超えてららたむを守る

2ー8 証拠はない

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 ガブリエラもヒカルもアキラと自分たちの生存期間が重なる問題に気付いていなかった。やはりバカだ。

「おれはこういう仕事だから数年の間に何があってもおかしくないけど君たちは違うだろ?」
 恵まれた国の若者なら普通に21世紀を生きていけるはずだー切り出すともやっとした空気が広がった。そして、
「そんなこと言わないでくれよ」
 ヒカルの小さな嘆きが短い沈黙を破った。

「僕たちが生きていたら三内暉は生まれないのかな? あれ、だけど僕たちはアキラの記憶も持っているから……パラドックス? 時間の?」
 ヒカルは露骨に混乱している。
「それこそ並行宇宙じゃない?」
 アキラが生まれない世界にあたしたちは移行するのだとガブリエラは説いた。
(君、並行宇宙ネタ好きだな)
 一時そちら系のアニメにハマっていたことがあるが彼女はそこを色濃く継いでいるのだろうか。
アキラが存在しなくなるっていうのは、辛いね」
 ヒカルがぽそっと言う。同感だ。
「それとも……アキラが三人に分裂したんだからこの際もう一人増えてもおかしくないんじゃない。また別の人、っていうのか魂が三内暉になるのかも?」
 思いつきの軽い調子でガブリエラが続ける。
「それも嫌だな」
 アブドゥラは顔を歪めた。
「君たちもそうだってことは前提でさ、『俺は俺だ』って感覚があるだろ? 違う奴がアキラだって言われたら」
 共感が白いもやに浸み出し、
「乗っ取られた感じだよね」
 ヒカルが締めた。

「そうだ! あたし、日本大使館に匿名で手紙出したの。『シュンニャーの道』は新幹線へのテロを計画していてこの国から爆弾の材料を集めてるって」
 突然ガブリエラが切り出した。
「……そういうのは先に相談してからにしてくれないかな」
「何でよ! ならネットでググればいいんだけど、わざわざ地域の図書館へ行って重い電話帳めくって大使館の住所見つけたんだから!」
 ぼやくヒカルにガブリエラは得意げだ。
「指紋がつかないように手袋したし、切手を舐めるようなバカもやってない」
「そういうんじゃない」
 ヒカルは斬り捨てた。普段穏やかな語り口の彼らしくない。
 日本にいるとあの団体のヤバさを肌で感じるのだろうか。
「証拠も何もないのにそんなことして、たとえば警察が教団に接触して怪しんでいるってバレたら色々隠されちゃうかもしれないだろう?」
「え~? 悪いこと準備してるんだから教団内に証拠はあるでしょ? 犯行までそうないんだし」
(うーん?)
 アブドゥラは言い合いを聞きつつ唸った。

 国を揺るがす大事件といっても生まれる前のことだ、細かくは知らない。
「容疑をかなりしっかり証明できなければ警察は捜査令状を取れない。当然逮捕もできない。その間にそうだね、君がいう爆弾の材料はどこか別の道場アシュラムに隠されてしまうかもしれない。シュンニャーの海外支部はそっちの国だけじゃないから、爆弾の材料がそこから来ているとも限らない」
 ヒカルが説く。
 そっかとガブリエラの気の抜けた返事が聞こえた。
「じゃあ何で事件の後は逮捕できたんだ」
 単純な疑問。アブドゥラは投げた。
「証拠ができたから、かな? 現場にあれこれ残ったんじゃない? 爆弾の部品とか分析できる化学成分とか」
 ガブリエラが言うのに思い出した。テレビで見たことがある。
「後は人の動きか。カメラに映ってたってドキュメンタリーでやってたな」
 事件の舞台は新幹線、駅ならカメラも多いだろう。実行犯がホームのカメラに映っている映像を見た記憶が蘇った。

「僕はシュンニャーの雑誌を一通り調べたけど『纏向』って名前はなかった」
 ヒカルが淡々と告げる。それは仕方ない。偶然頼みの方策だ。
「今、信者の体験記がたくさん載ってる単行本をいくつか注文してるんでそれもチェックしてみる。届くまでに時間がかかって年末になっちゃうんだけどー」
「気をつけろよ。あまり危ない橋は渡るな」
 思わず言葉を挟んだ。心当たりがあったからだ。
 組織の布教本は国内では発禁だが協力者が頒布している。郵便で通販の申し込みが届けば近くの街の人間が警察や政府・スパイの可能性がないか確認に行く。本を送り読んだだろう頃にまた別の人間が近づき、組織に誘う。
 知っていたから心配になった。
 自分が正しいと確信している集団は何だって使う。

「本屋さんに注文しているだけだから大丈夫。ありがとう」
 アブドゥラの心配に礼が返る。雑誌の最新号に載っていたんだけどとヒカルは話を続けた。
「年明けに『祈願祭』って公開イベントが三日間あるんだ。顔を出してみるつもりだけど何を見てくればいいとかあるかな?」
「ららたむに顔が似ている人を探す!」
 アブドゥラは叫び、ふたりはそれぞれ同意する。
「そんなところに爆弾の材料とか毒ガスとか転がってる訳ないもんね。できるのはアブドゥラさんが言ったことくらいか。でも気をつけてね。スパイ映画じゃないんだからこっそり内部に忍び込むとかは駄目だから! ほんと、命に関わる」
 今度はガブリエラが口調を改めて警告する。
(そりゃ心配もするよな)
 日本にいるのがヒカルだけだからとひとりに危ないことを押し付けてしまうのがやりきれない。
(って全部アキラなんだけどさ)

 結論は「とにかく証拠が大事」ということになり、今年中に警察が動けるような証拠をーどこにありそうだレベルでもいいからー見つけるにはどうすればいいか考えよう、と問題先送りまがいで終わった。
(そうじゃない。今は考える時間だってだけだ)
 アキラはそれがとっても苦手だったが。



「ねえ。ららたむは誕生するよね」
 またもガブリエラは唐突だ。
(アキラはやることが唐突だって友達にも親にも言われてたっけ)
「違う宇宙に移動しても。あたしたちが生きていても」
 疑問ではなかった。確かなこととして確認している。

「ああ。ららたむってアイドルが存在しないなんてありえない」
 力強く同意した。
「アキラが生まれなくたってーそれは残念だけど、ららたむだけは必ず世界に生まれ出るよ。アイドルって運命があの人を離さない」
 ヒカルのー三人の中ではー落ち着いた声が白い世界を貫く。
「そしたらおれたち『おじさんファン』になるんだな」
 寂しさを隠すように声を明るく作った。切なさは白い波になって彼らへ打ち寄せてしまうから無駄だけれど。
 アキラとららたむーファンと推しの関係が世界から消えてしまうのはたまらない。
 けれどもこのままヒカルたちが生きていったなら、ららたむがアイドルになる頃には四十前、その年代のファンはたくさんいた。
 ヲタ活には何の問題もない!

 ららたむは日本のトップアイドルではなかった。
 炎上で引退しなかったらなったかもしれないし、そのままだったかもしれない。
 アイドルの申し子だの才能だのオーラだのと主張する気はない。

 世界には「纏向ららん」というアイドルが不可欠だ、というのはららたむ強火ヲタの信念かつ真実で、外への「証拠」は何も持ち合わせていない。
 その上で言う!

「『君がいなければ 世界は意味がない』」

 口ずさむと白い空気が踊るように揺れた。
 細い腕が空を撫でたように。
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