転生したら宗教テロリストだった。だけどオレ、推しのために闘うわ!

大友有無那

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序 記憶が戻る前のちょっとしたこと

0-4 水も流れる

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 清々しい朝だった。
 白い雲は薄く広がるが重くなっていかない。雪はまだだ。山々の嶺も白い冠を被っていない。
 山に囲まれた穏やかな丘陵地に村は広がる。
 水色の空の下アブドゥラは悠然と故郷の道を歩いた。


 三日間家に隠っていたが駐屯地での通常任務に合流してよいと長兄から電話が入った。早い時間の電話に母は何事かと怯えたが長兄の説明で安心してくれた。
 家族にも任務の内容は知らされないがそれなりの仕事をこなしたとは想像していただろう。

 電話を替わってアブドゥラが聞いたところでは、警察は爆発が組織のテロであること、現地に協力者がいただろうことは推測しているが具体的人物像は掴んでいない。
 地元紙の記事は警官の遺族や死んだ少年について虚実膨らませているものの捜査の進捗はないようなものとのことだった。

 万一捜査の手が延びた時に組織とは関係ない、単独犯だとしらを切るために駐屯地を離れていたがもういいとの判断だ。

 また神様の敵殺しに邁進できることに感謝の祈りを捧げる。
 村境手前の岩場まで来た時、耳が小さなすすり泣きを拾った。
(?)
 道には瓶の断片らしきものが二三落ちている。
 見上げて、
「 瓶割っちゃったの?」
 岩場の上には井戸へ向かう道がある。水汲みの帰りだろうと泣く少女に声をかける。
 少女はぎょっと退いた。アブドゥラは慌てて顔に巻いたスカーフを外す。
 軍装では顔を隠すのが基本だが人通りの少ない所で誰とも知れない男が現れれば恐いだろう。この道は小学校や市場、街へのバス街道とは方向が違いあまり人が通らない。
 駐屯地へ以外で使うのは中学校の生徒くらいだが村から中学へ通うのは弟を含め3人で、通るのはもう少し後だ。

「ズワーだよね? アブドゥラだよ。丘側の、ハシムの兄貴だ」
 弟のハシムとは小学校で一緒だったはず。幼い頃は弟と一緒にこの少女とも遊んだが覚えているかどうか?
「アブドゥラお兄ちゃん?」
 涙まみれの丸い顔を岩場からのそっと出し、下にこちらを認めるやいなやズワーはつっと涙を流した。
(あああ、もうっ!)
 女の子に泣かれてはたまらない。
「おれが代わりに汲んできてやるから! 待ってろ!」



 幼い頃母について行って以来の水汲みだが久しぶりだと新鮮でこれも気分がいい。
 一緒にとって返したズワーを母に任せ、早足で丘を登りかっさらってきた予備の瓶に井戸の水を注いだ。鼻歌が出そうになって慌てて口をつぐむ。
 組織の軍歌や神を讃える昔ながらの宗教歌を除けば音楽は人の心を惑わせる悪魔だ。子どもの頃はまだ組織がなく教えが浸透していなかったからくだらない歌もみんなで歌った。それが今も身から離れていない。
 内に浸みる悪魔の影響は想像以上だと神に助けを求める。

 頭上に瓶を担ぎ、心に神の名を唱えながらアブドゥラは巻いた道をゆっくりと下った。
 大きめの石に混じって先ほど落としたらしい瓶のかけらが落ちている。

『男の人に石を投げられたの』

 ズワーが言っていたのを思い出し右手側を見て、
「‼︎」
 下の道を挟んだ向こうは乾いた丘だ。そこから銃口がこちらをー
(言い訳だと思ってた。ズワーの家、女の子には冷たいから)
 石が届く距離ではないが長銃ならばわかる。
 怒られるのが恐くて嘘を言ったなんて思って悪かった、など悠長に考えている場合ではない!
 兵士の身の習い、即座に道に突っ伏す。
 舞い上がり飛び散る砂の匂い。
 大きな音は瓶が割れて落ちたため。
(ああまただ)
 水が岩を流れ砂に浸み込むのが勿体ない。いやそれより少しでも遠くへと体を回転させる間にカッと腕が熱くなった。
 勢いのまま半回転すれば肩に激痛が走る。

 ドン! 
 ドン!

 繰り返しの銃声。
「うっっ!」
 このあたりの男の普段着にこれまたよくあるスカーフを口元に巻いた襲撃者の顔は見えない。
 逃げなくては!
「ぐわっっ!」
 体の中心に衝撃が響いたのを最後にアブドゥラは意識を手放した。
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