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2 時空を超えてららたむを守る
2-4 シュンニャーの道教団について
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三人ーと言っていいのかアブドゥラには未だにわからないのだがー自分とガブリエラとヒカルの「前世」記憶に食い違いはなく、欠けはそれぞれだった。
ららたむが芸能界を去った原因のスキャンダルについて、
「ららたむ本人ではなく家族だか親戚だか? とにかく血縁の人の話」
とはガブリエラの言。
「ちょっと昔からのファンなら嘘だって知ってた。上手く反論できなかったのは他の人のプライベートを晒すことになるから」
ヒカルはそう覚えていた。
「それって、ガブリエラが言う身内の人のこと?」
「わからない。そこまで細かい記憶はない」
ヒカルは悔しげだ。
そしてアブドゥラの記憶はー
「ららたむのスキャンダルは『シュンニャーの道』絡みだった」
白いもやの向こうでふたりがきゅっと緊張するのを感じた。
20世紀末、事件は「俺」が生まれる前に起こったがそれでも知っている。反社会的なカルト教団で、最も大きな事件は「新幹線連続放火炎上事件」だ。
爆発物の威力は小さかったが火災による煙と共に有毒ガスも流れるよう細工されたそれで東海道・東北新幹線内に多くの死傷者を出した。被害を東京駅に集中し首都を混乱させる計画が実際には神奈川と埼玉が悲劇の舞台となった。
「じゃあ、ららたむのお母さんとかお父さんがシュンニャーの信者だったとかかな?」
ガブリエラが問いかける。
ららたむ本人は何も悪くなくても凶悪カルトが身内なら、表に出るな! と攻撃される気はするがー
「僕、調べてみようか」
ヒカルが口火を切った。
「今そっちではシュンニャーは盛んなの?」
ガブリエラが問う。
「……盛んってほどじゃないな。ただ、本とか雑誌とかたくさん出して派手に宣伝してる。有名ではあるよ」
前世のニュースで教団の雑誌を並べた写真を見たことがある。スマホもSNSもない時代、宗教団体も本で布教していたのだろう。
インターネットはもうあったんだろうか?
アブドゥラ回りでは聞いたこともないがパソコンがテレビのニュースに映っているのは見た。
控えめなヒカルも日本のこととなれば積極的に話を続ける。
「雑誌、僕見たことあるんだ。本屋さんに目立つように並べてあってね。体験記とかで信者の地域と名前がたくさん出てた。
『足立区 勝坂』
って感じで。だからー」
集められるだけ雑誌を取り寄せ「纒向」という名を探す。
纒向は珍しい姓だ。
あればららたむの血縁という可能性は高いだろう。
ちなみに勝坂は今のヒカルの姓だそうだ。
「もし名前があったら?」
「何とか教団の実態を伝えて脱会してもらおう」
新幹線事件前に辞めていれば大きな騒ぎにはならない、とヒカルは主張した。
「そうかな」
疑問を提する。
スキャンダル自体「嘘」なのだから、その程度芸能記者野郎はゴシップの味付けにしかしないのでは?
「雑誌って信者じゃなくても手に入るんでしょ? だったらとりあえずヒカルにはやってもらおうよ」
ガブリエラが提案した直後、いきなりヒカルの気配が消えた。
「え!?」
「目が覚めたんだよ、向こうで」
そういえばアブドゥラこれ初めてか、とガブリエラは呟く。
「昨日の夜はあなたもこんな感じで消えたよ」
「そう……」
目が覚めた時、新兵の後輩はまだ生きていたー
ガブリエラは何が問題なのかと詰めてきた。
「今、1995年の12月だよな」
「うん」
「新幹線連続放火事件は1996年だったとおれは記憶してるんだけど」
はっと気づいた気配。
「大学入試で上京した人が多く巻き込まれたのも覚えている。ならこの冬、せいぜい3月までだ。ららたむのご身内が教団にいるなら抜けてもらった方がいいのはもちろんだけど、事件そのものも今なら阻止出来る」
静かな緊張が扇形に水紋を描き自分の元へ届く。
「できるのかな。……凄く大きな陰謀だったと思うけど」
「あの事件で命を奪われたり、後遺症で家族共々人生が狂った人たちがいっぱいいたって話だったよな。事件が起こるまで最短でもひと月ほどある」
今は1995年12月の半ば。
「共通テストが早くて来月半ばだ」
「共通テストって感じじゃなかった気がする」
「なら2月か3月」
互いに短く返す。
「あの事件が起こらなければシュンニャーの道も少し反社会的な事件を起こした悪いカルト、で済んだんじゃないかな。マスコミがららたむでスキャンダルをでっち上げる甲斐もないくらいに。正直、ららたむの親御さんが信者だったかと決めつけは良くないと思う。おじさんとか従兄弟とかかもしれないし、お母さんの旧姓までは知らないから、」
アイドルのそこまで知っていたらキモい。
「限られた偶然を探しているだけだ。それより事件そのものを阻止した方がららたむのためにも、日本の人たちのためにも絶対いい」
戸惑いの空気を断ち切るように畳み掛ける。
「あんなテロリスト、許しておけないだろ? 時代が何でも生まれ変わりがどうだろうと!」
正義をかざし強く詰め寄る。
(ははははは)
腹の下、笑いながら。
(世間から見たら同じだよ。おれも「宗教テロリスト」だ)
渦巻く感情を抑えるのはどの程度成功したのだろう。
取り巻く空気にやりきれなさがあふれている。石鹸の泡のように自分にすがり這い上がりぷちぷちと消える。
なぜ三人のうち自分だけこんなー
「あたしにメール送ってくれない?」
沈黙していたガブリエラが唐突に指示した。
ららたむが芸能界を去った原因のスキャンダルについて、
「ららたむ本人ではなく家族だか親戚だか? とにかく血縁の人の話」
とはガブリエラの言。
「ちょっと昔からのファンなら嘘だって知ってた。上手く反論できなかったのは他の人のプライベートを晒すことになるから」
ヒカルはそう覚えていた。
「それって、ガブリエラが言う身内の人のこと?」
「わからない。そこまで細かい記憶はない」
ヒカルは悔しげだ。
そしてアブドゥラの記憶はー
「ららたむのスキャンダルは『シュンニャーの道』絡みだった」
白いもやの向こうでふたりがきゅっと緊張するのを感じた。
20世紀末、事件は「俺」が生まれる前に起こったがそれでも知っている。反社会的なカルト教団で、最も大きな事件は「新幹線連続放火炎上事件」だ。
爆発物の威力は小さかったが火災による煙と共に有毒ガスも流れるよう細工されたそれで東海道・東北新幹線内に多くの死傷者を出した。被害を東京駅に集中し首都を混乱させる計画が実際には神奈川と埼玉が悲劇の舞台となった。
「じゃあ、ららたむのお母さんとかお父さんがシュンニャーの信者だったとかかな?」
ガブリエラが問いかける。
ららたむ本人は何も悪くなくても凶悪カルトが身内なら、表に出るな! と攻撃される気はするがー
「僕、調べてみようか」
ヒカルが口火を切った。
「今そっちではシュンニャーは盛んなの?」
ガブリエラが問う。
「……盛んってほどじゃないな。ただ、本とか雑誌とかたくさん出して派手に宣伝してる。有名ではあるよ」
前世のニュースで教団の雑誌を並べた写真を見たことがある。スマホもSNSもない時代、宗教団体も本で布教していたのだろう。
インターネットはもうあったんだろうか?
アブドゥラ回りでは聞いたこともないがパソコンがテレビのニュースに映っているのは見た。
控えめなヒカルも日本のこととなれば積極的に話を続ける。
「雑誌、僕見たことあるんだ。本屋さんに目立つように並べてあってね。体験記とかで信者の地域と名前がたくさん出てた。
『足立区 勝坂』
って感じで。だからー」
集められるだけ雑誌を取り寄せ「纒向」という名を探す。
纒向は珍しい姓だ。
あればららたむの血縁という可能性は高いだろう。
ちなみに勝坂は今のヒカルの姓だそうだ。
「もし名前があったら?」
「何とか教団の実態を伝えて脱会してもらおう」
新幹線事件前に辞めていれば大きな騒ぎにはならない、とヒカルは主張した。
「そうかな」
疑問を提する。
スキャンダル自体「嘘」なのだから、その程度芸能記者野郎はゴシップの味付けにしかしないのでは?
「雑誌って信者じゃなくても手に入るんでしょ? だったらとりあえずヒカルにはやってもらおうよ」
ガブリエラが提案した直後、いきなりヒカルの気配が消えた。
「え!?」
「目が覚めたんだよ、向こうで」
そういえばアブドゥラこれ初めてか、とガブリエラは呟く。
「昨日の夜はあなたもこんな感じで消えたよ」
「そう……」
目が覚めた時、新兵の後輩はまだ生きていたー
ガブリエラは何が問題なのかと詰めてきた。
「今、1995年の12月だよな」
「うん」
「新幹線連続放火事件は1996年だったとおれは記憶してるんだけど」
はっと気づいた気配。
「大学入試で上京した人が多く巻き込まれたのも覚えている。ならこの冬、せいぜい3月までだ。ららたむのご身内が教団にいるなら抜けてもらった方がいいのはもちろんだけど、事件そのものも今なら阻止出来る」
静かな緊張が扇形に水紋を描き自分の元へ届く。
「できるのかな。……凄く大きな陰謀だったと思うけど」
「あの事件で命を奪われたり、後遺症で家族共々人生が狂った人たちがいっぱいいたって話だったよな。事件が起こるまで最短でもひと月ほどある」
今は1995年12月の半ば。
「共通テストが早くて来月半ばだ」
「共通テストって感じじゃなかった気がする」
「なら2月か3月」
互いに短く返す。
「あの事件が起こらなければシュンニャーの道も少し反社会的な事件を起こした悪いカルト、で済んだんじゃないかな。マスコミがららたむでスキャンダルをでっち上げる甲斐もないくらいに。正直、ららたむの親御さんが信者だったかと決めつけは良くないと思う。おじさんとか従兄弟とかかもしれないし、お母さんの旧姓までは知らないから、」
アイドルのそこまで知っていたらキモい。
「限られた偶然を探しているだけだ。それより事件そのものを阻止した方がららたむのためにも、日本の人たちのためにも絶対いい」
戸惑いの空気を断ち切るように畳み掛ける。
「あんなテロリスト、許しておけないだろ? 時代が何でも生まれ変わりがどうだろうと!」
正義をかざし強く詰め寄る。
(ははははは)
腹の下、笑いながら。
(世間から見たら同じだよ。おれも「宗教テロリスト」だ)
渦巻く感情を抑えるのはどの程度成功したのだろう。
取り巻く空気にやりきれなさがあふれている。石鹸の泡のように自分にすがり這い上がりぷちぷちと消える。
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