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2 時空を超えてららたむを守る
2-5 兄弟たちのお茶会
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「コンピューターなんて見たこともないよ」
次兄のイサーンは長兄バシルに代る家の後継だ。長い髪を緩く結び、ふわっとした伝統的な服でのんびり歩く姿は自分たち兵隊とは違う。
昔から出来がよかったバシルはアブドゥラには仰ぎ見る存在だった。一方イサーンは構ってくれ甘えまくった相手で今も話しやすい。
そのイサーンは驚きでシーシャを吸う手をを止めた。
駐屯地から遠くない組織支配下の町のカフェで兄は目を白黒させる。
四角い木のテーブルの上、それぞれ小さなガラスコップに入った甘い紅茶からほのかな香りが漂う。
「どうしたんだお前?」
イサーンの隣でバシルはただ指先でシーシャのパイプを擦った。
精悍な体躯、座っていても自然に放つ貫禄はさすがだ。
店内の少し離れた席で彼の副官ふたりがこちらも茶を飲みつつ控えている。自分よりずっと偉い人なので居心地は悪い。
「ん、テレビのニュースで見かけて、イサーン兄さんは町によく出るからショーウインドウとかで見たことあるかなって」
引きつってごまかした。
白い夢の中でメールしろと言ったガブリエラはすぐメールアドレスを口にした。
『わかりやすいでしょ?』
その国老舗プロバイダーのアドレスで@の前はgab+生年月日。
見事に覚えやすい。
『あたしたちはまだあなたが同じ世界にいるか確かめていない』
彼女はきびきびと説き、アブドゥラは感嘆の声を上げた。
『平行宇宙の可能性があるってことか!』
昔その手の漫画をいくつか読んだ。この白いもやの世界は、
『時空を超えた場所だけどー』
『時は超えてないと思うよ』
迎えに来た神か仏の光には本当に時がなかったけれど。
『細かいなあ! そこはどうでもよくって!』
アブドゥラが本当に同じ大地の上にいるか確認するために連絡をー彼女は主張した。
(凄ぇ頭いい! 君ほんとに俺か?)
成績と名の付くものは全て下から数えた方が早かった前世を思い出す。
社会人として苦労に直面した後ららたむに出会ったこともー
『わたしと同じですね、アキッティさん♪』
涼やかな目、揺れるツインテールー
ヒカルとガブリエラは既にメールを一往復させ同じ世界に存在する確認が取れている。アブドゥラもと言われ首を横に振った。
『パソコンなんて見たことないよ』
今世では。
絶句の気配の次に、
『電器屋さんに行って! この時代まだセキュリティ甘いからいじれる……』
(訂正! やっぱバカだわ)
妙に安心した。
『まず、おれは仕事柄駐屯地から簡単には離れられない。次に、大きな町に電器屋はあるけど日本の個人商店レベル、小っちゃな所だ』
パソコンはないだろうし万一あっても高価な商品は奥にしまい込まれる。
日本の大手チェーン店あたりを想定したらしいが国情が違う。
この間抜けぶりはいかにも俺だ。
『君やヒカルはパソコン持ってるのか』
先進国はこの時期でも凄い。
それでもガブリエラは進学しないそうだし、ヒカルはもう工場で働いている。勉強向きでないのは転生しても変わらないらしい。
アブドゥラも学校の勉強は駄目だったがこの辺では真面目に勉強に取り組む方が珍しいので目立たなかった。
(前世バカだったから今世は頭良くなるとかいうサービス、してくれなかったんだな、神様)
『コンピューター、あたしは持ってない。うちの入ってる農事組合の』
ガブリエラの家はとうもろこしやトマトなど野菜を作る農家だ。少し前に組合でパソコンを購入した。
『新しい物好きのおじさんがいるのよ。で、若い者の方が得意そうだからってデータの入力を頼まれてる。アルバイトというか家の手伝いの延長っていうか』
組合の仕事ではメールはろくに使われない。なのでガブリエラは好き勝手に使えた。
一方ヒカルは職場にパソコンがあり、上司に時々取引先とのメールの確認を頼まれる。その上司がいない隙にガブリエラへメールをし互いに確認してから削除したとのことだ。
(……21世紀の職場じゃ事故だな)
会社のPCから私用メールなど情報管理上も職場の倫理としても論外だ。
『何か別の方法を考えてみる。あなたもね!』
ガブリエラは引いてくれたが駄目元で兄に尋ねてみたのだ。結果は予想通りだった。
イサーンはチーズや皮製品を電器屋もある町の市場に卸しに行く。取引の関係でもっと大きな街へ行くこともあり、移動のついでに組織の中継地を通して自分を呼び出すのも珍しくはない。
何ということもないお茶はいい息抜きだった。
だが今日はどういう訳かバシルも同席だ。
(まさか何か疑われてる? 前世の記憶が戻ったからってそこまで行動変えてないと思うんだけどー)
訓練成績も今では無理やり上げている。
また人を殺せるか自信はない。嫌で嫌で仕方がない。
しかし今は弛みが許される状況ではない。
降り積もった雪で凍った白い支配は大地へ日に日に広がる。
同じように駐屯地はひりついた空気に覆われ息苦しい。
先の監視塔襲撃の計画は漏れていて待ちぶせされたらしい。
スパイが潜入しているのではないか。
公式の通達はないがあちらこちらで噂され皆疑心暗疑になっている。
今回町にバシルがついてきたのも、外に出た自分が怪しい奴と接触しないかの監視と、良い方にとるなら疑われた時の証明役だろう。
「コンピューターなんて機械があるのは大学くらいじゃないかな。それより兄さん?」
「ん」
様子を窺ったイサーンにバシルが鷹揚に頷く。
とイサーンはアブドゥラに顔を戻した。
「お前、結婚しないか?」
(えええええええ~~~~~っっっっっっっ!!)
次兄のイサーンは長兄バシルに代る家の後継だ。長い髪を緩く結び、ふわっとした伝統的な服でのんびり歩く姿は自分たち兵隊とは違う。
昔から出来がよかったバシルはアブドゥラには仰ぎ見る存在だった。一方イサーンは構ってくれ甘えまくった相手で今も話しやすい。
そのイサーンは驚きでシーシャを吸う手をを止めた。
駐屯地から遠くない組織支配下の町のカフェで兄は目を白黒させる。
四角い木のテーブルの上、それぞれ小さなガラスコップに入った甘い紅茶からほのかな香りが漂う。
「どうしたんだお前?」
イサーンの隣でバシルはただ指先でシーシャのパイプを擦った。
精悍な体躯、座っていても自然に放つ貫禄はさすがだ。
店内の少し離れた席で彼の副官ふたりがこちらも茶を飲みつつ控えている。自分よりずっと偉い人なので居心地は悪い。
「ん、テレビのニュースで見かけて、イサーン兄さんは町によく出るからショーウインドウとかで見たことあるかなって」
引きつってごまかした。
白い夢の中でメールしろと言ったガブリエラはすぐメールアドレスを口にした。
『わかりやすいでしょ?』
その国老舗プロバイダーのアドレスで@の前はgab+生年月日。
見事に覚えやすい。
『あたしたちはまだあなたが同じ世界にいるか確かめていない』
彼女はきびきびと説き、アブドゥラは感嘆の声を上げた。
『平行宇宙の可能性があるってことか!』
昔その手の漫画をいくつか読んだ。この白いもやの世界は、
『時空を超えた場所だけどー』
『時は超えてないと思うよ』
迎えに来た神か仏の光には本当に時がなかったけれど。
『細かいなあ! そこはどうでもよくって!』
アブドゥラが本当に同じ大地の上にいるか確認するために連絡をー彼女は主張した。
(凄ぇ頭いい! 君ほんとに俺か?)
成績と名の付くものは全て下から数えた方が早かった前世を思い出す。
社会人として苦労に直面した後ららたむに出会ったこともー
『わたしと同じですね、アキッティさん♪』
涼やかな目、揺れるツインテールー
ヒカルとガブリエラは既にメールを一往復させ同じ世界に存在する確認が取れている。アブドゥラもと言われ首を横に振った。
『パソコンなんて見たことないよ』
今世では。
絶句の気配の次に、
『電器屋さんに行って! この時代まだセキュリティ甘いからいじれる……』
(訂正! やっぱバカだわ)
妙に安心した。
『まず、おれは仕事柄駐屯地から簡単には離れられない。次に、大きな町に電器屋はあるけど日本の個人商店レベル、小っちゃな所だ』
パソコンはないだろうし万一あっても高価な商品は奥にしまい込まれる。
日本の大手チェーン店あたりを想定したらしいが国情が違う。
この間抜けぶりはいかにも俺だ。
『君やヒカルはパソコン持ってるのか』
先進国はこの時期でも凄い。
それでもガブリエラは進学しないそうだし、ヒカルはもう工場で働いている。勉強向きでないのは転生しても変わらないらしい。
アブドゥラも学校の勉強は駄目だったがこの辺では真面目に勉強に取り組む方が珍しいので目立たなかった。
(前世バカだったから今世は頭良くなるとかいうサービス、してくれなかったんだな、神様)
『コンピューター、あたしは持ってない。うちの入ってる農事組合の』
ガブリエラの家はとうもろこしやトマトなど野菜を作る農家だ。少し前に組合でパソコンを購入した。
『新しい物好きのおじさんがいるのよ。で、若い者の方が得意そうだからってデータの入力を頼まれてる。アルバイトというか家の手伝いの延長っていうか』
組合の仕事ではメールはろくに使われない。なのでガブリエラは好き勝手に使えた。
一方ヒカルは職場にパソコンがあり、上司に時々取引先とのメールの確認を頼まれる。その上司がいない隙にガブリエラへメールをし互いに確認してから削除したとのことだ。
(……21世紀の職場じゃ事故だな)
会社のPCから私用メールなど情報管理上も職場の倫理としても論外だ。
『何か別の方法を考えてみる。あなたもね!』
ガブリエラは引いてくれたが駄目元で兄に尋ねてみたのだ。結果は予想通りだった。
イサーンはチーズや皮製品を電器屋もある町の市場に卸しに行く。取引の関係でもっと大きな街へ行くこともあり、移動のついでに組織の中継地を通して自分を呼び出すのも珍しくはない。
何ということもないお茶はいい息抜きだった。
だが今日はどういう訳かバシルも同席だ。
(まさか何か疑われてる? 前世の記憶が戻ったからってそこまで行動変えてないと思うんだけどー)
訓練成績も今では無理やり上げている。
また人を殺せるか自信はない。嫌で嫌で仕方がない。
しかし今は弛みが許される状況ではない。
降り積もった雪で凍った白い支配は大地へ日に日に広がる。
同じように駐屯地はひりついた空気に覆われ息苦しい。
先の監視塔襲撃の計画は漏れていて待ちぶせされたらしい。
スパイが潜入しているのではないか。
公式の通達はないがあちらこちらで噂され皆疑心暗疑になっている。
今回町にバシルがついてきたのも、外に出た自分が怪しい奴と接触しないかの監視と、良い方にとるなら疑われた時の証明役だろう。
「コンピューターなんて機械があるのは大学くらいじゃないかな。それより兄さん?」
「ん」
様子を窺ったイサーンにバシルが鷹揚に頷く。
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「お前、結婚しないか?」
(えええええええ~~~~~っっっっっっっ!!)
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