空中転生

蜂蜜

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第3章 少年期 デュシス大陸編

第四十六話 「失踪の真実」

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「戻ってきていませんね」

 シャルロッテとエリーゼは、ランスロットの部屋を見て眉をひそめる。
 エリーゼは、この数時間、全く眠っていない。
 というより、眠れていないと言った方が正しい。
 その理由は、言わずともわかるであろう。
 シャルロッテに自分のせいではないと言われたものの、やはり自分のとった態度が原因だと考えてしまうのである。
 ベルが訳もなくエリーゼ達のもとを離れるとは考えにくいし、エリーゼと別れたきり、ベルは戻ってこない。
 辻褄は、合っている。

 無論、ランスロットの言った通り、何らかのトラブルに巻き込まれた可能性も考えられる。
 だが、それはそれで自分に腹が立つのだ。
 結局のところ、あの時にベルに対して冷たく当たることがなければ、ベルは外出をしていなかったかもしれない。
 一言、「あたし達も寝ましょう」と言うだけで良かったのだ。
 そんな簡単なこともできずに、自分の気持ちを晴らすためだけにきつく当たった自分が、どうしようもなく憎い。

「どうする?
 とりあえず、シャルロッテの言う通り、捜索願を出してみるか?」
「日中捜して、それでも見つからなかったら、そうしましょうか」
「何で? すぐに出せばいいじゃない」
「まだ焦るには早いでしょう。
 私達の手で全く捜索をしないまま依頼をしても……」
「ミリアがどれだけ広いと思ってんのよ。
 三人だけでどうこうできるものじゃないでしょ?」
「そっ、それは確かに……」

 エリーゼの怒り交じりの助言に、シャルロッテはハッとする。
 ミリアは、ブルタ王国で最大の都市国家である。
 面積でいえば、グレイス王国第一都市のアヴァンよりも広大だ。
 そんな場所をたった三人で探して回るなど、不可能である。
 都市を全て回るのに、何日もかかるだろう。

 当然、大人数で探したり、捜索のプロに任せたからと言って、すぐに見つかるとは限らない。
 しかし、無闇に、しらみつぶしに探すのは効率的とはいえない。

「俺も、エリーゼの意見に賛成だ。
 俺達だけで探すというのは、得策とは言い難いだろう」
「分かりました。
 では、ギルドへ向かいましょう」



 ベルが見たものと同じ地図を、三人は凝視する。
 それを見て、一行は冒険者ギルドに向かった。

 依然として、雰囲気は悪い。
 誰が誰のせいにしているとか、そういうわけではない。
 それぞれが、自分に責任を感じているのだ。

「ここか」
「綺麗な所ね」

 ミリアの冒険者ギルドは、エリーゼ達が今までに見たどのギルドよりも綺麗だった。
 新築のような木の香り、整っていて綺麗な内装。
 この綺麗なギルドも相まって、ミリアの冒険者活動はデュシス大陸でも盛んな方である。
 ギルドの綺麗さで左右されることはないが、それでもミリアが人気であるのは確かだ。

 それでいうならば、ベル達が天大陸に転移してから初めて訪れたアルベーの町のギルドは、外観だけでいうとかなり年季の入った建物だった。
 そのせいか、中に入った時の外観との違いが大きかった。

「こんにちは。
 依頼のご希望ですか?」
「少し、聞きたいことがありまして」
「聞きたいこと、ですか?」

 黒髪ボブの受付嬢は、首を傾げる。
 シャルロッテは紙を取り出し、カウンターに置いた。
 そしてペンを握り、絵を描き始めた。

「何よこれ」
「似顔絵です」
「だ、誰のだ……?」
「ベルですよ! 見て分かりませんか?!」
「分からないわよ!」

 特徴こそ捉えているものの、一目でベルとわかるものではなかった。
 受付嬢には、金色の毛をした犬と間違えられたほどだった。

「人探しをしている。
 この似顔絵は、一旦忘れてくれ」
「酷いです」
「金髪に、ローブをまとった男の子ですね。
 確認してきます」

 受付嬢は、カウンターの裏へ引っ込んでいった。

「ベル、どこにいるのかしら……」
「きっとどこかで無事でいますよ」
「ベルが簡単に死ぬとは思えん」
「死ぬとか縁起でもないこと言わないでちょうだい。
 何事もなく、元気で……いるわよ」

 エリーゼの声が僅かに震える。
 シャルロッテはエリーゼの肩にポンと手を置き、優しく撫でる。
 ランスロットも、エリーゼの背中に手を当てた。

 昨日まで一緒にいた仲間が、一夜にして消息を絶ってしまった。
 まして、エリーゼはまだ12歳だ。
 精神的にもまだまだ子供であり、感情の起伏が激しい。
 中々気持ちを前面に押し出せない反面、ベルのことはこれでもかというほどに気に入っている。
 これが仲間としての、友達としての気持ちなのか、はたまた別のものなのか。
 エリーゼ自身も、よくわかっていない。

「お待たせしました。
 皆さまがおっしゃっている男の子ですが、『ベル・パノヴァ』というお名前でお間違いないでしょうか?」
「はい、そうです」
「何かわかったの?!」
「それが……」

 受付嬢は口を噤んだ。
 エリーゼも、シャルロッテも、ランスロットも、息をのんでその答えを待つ。
 そして、口を開いて事実が告げられた。

「――昨日の夕方ごろ、衛兵によって捕らえられたそうです」
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